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学院入学への不安



 「これだけ狩れば足りるだろう」

 

 繁殖という名の豪勢な猥褻パーティーで集まっていたペトスコス達のリア充空間を破壊するという偉業を成し遂げ、手に入れた素材を魔法袋に突っ込んでアスタの所へ向かう。同じ形状で赤かったら性欲の対象になるというのだから、知性が低いモンスターの対処は楽だな。


 冒険者ギルドの資料で見た限り、あれだけの数のペトスコスが集まるのは異常だったので、どのみち数を減らせという依頼を出されていただろう。僕は誰かがやっていたであろう仕事を早めのうちに片づけておいたのだ。


……なんていう大義名分があったとはいえ、こう気持ちが昂るものがある。


 僕だって男だ、女性に興味がない訳では無い……のだが、パーティーとかに行くと妙に避けられているのだ。まあ、避けてきているのは男も女も関係なく同じだが。


 皇子達はあんなに側仕えだと、配下だのといった友達ハーレムを築いているのになんだろうこの差は。向こうは皇子だからだろうか?


……でもこっちも皇子の様な立場なんだけど。


 何が足りないというのだろう。イケメン度か?カリスマか?家の格……はもう十分すぎるほどあるのだが。普通は相手の権力目的で友人になろうとしてくる輩がいそうなものだが、それすらもない。



「おお、帰ってきたか!収穫はどう……また暗い顔してどうしたんだ?」


「昔のこと思い出してね」


「…今度は何だ?」


「パーティーで令嬢が手鏡を落としたから、拾ってあげたら目の前で卒倒されたんだ」


「……卒倒?なんでだ?」


「僕が知りたいくらいだよ。周りに人の目もあったし、それで騒ぎがどんどん大きくなってすぐに彼女の父親が飛んできたんだ」


「それでその父親と一悶着でもあったのか?…娘に何をした!とか」


「いや、飛んできて娘の命乞いをされたよ」


「は?」


「自分はどうなってもいいから娘だけは勘弁してくれってさ。泣ける親子愛だね」


「…大変だったんだな」

 

「ここから更に大変になるぞ。その娘の友達とその親まで出てきて、大人数で色々言われたよ」


「何て言われたんだ?」


「私の友達はこれからの貴族社会に必要だとか、彼女の代わりに自分が身代わりになるとか、決闘を挑むからもしあなたが認める実力を私が見せたら彼女を解放してくれとかね。今度は泣ける友情だ。……愛情もあるかな?」


 ちなみにこの時点で僕も少し泣きそうになった、意味分からなさ過ぎて。唯一分かったことといえば手鏡を拾ってあげたこの令嬢は僕と違って人気者だってことくらいだ。


「…まあ、元気出せよ。その後はなんとかなったのか?」


「主催者の家の介入があってね、なんとか落ち着いて話し合いの場を持ったんだ。そこで手鏡を拾ってあげただけと言ったら皆ビックリしていたよ」


「だろうな。そんな事で大騒ぎしたとは思わなかっただろう。誤解が解けて良かったじゃないか」


 自分がすべてを諦めたような遠い目をしていくのが分かる。


「そうだね、本人たちの誤解は解けて良かったよ、本人たちはね」

 

「…周囲は?」


「…どうなんだろね」


 どんな噂になって駆け回っているのやら…。


 誰かが話しているのを盗み聞きして聞いた話なのだが、かなりひどい噂も流れている。なんでも僕が手鏡を闇の魔道具に改造して令嬢に渡したとか、気紛れで目に付いた令嬢を闇魔法で卒倒させたという噂もあったらしい。


 触っただけで魔道具に改造できるとか気まぐれで魔法を人に使うだとか僕はどんな存在だと思われているのか。


 ……ああ、切実に同年代の友達が欲しい。普通は派閥や家の友好関係で学院に入る前から仲のいい相手はいるのだが、僕はこの様だ。このままでは学院でボッチ街道まっしぐらではなかろうか。


 だからこそニコルに深く踏み込めなかったのは痛手だったな。もしかして身分差とか気にしているのか?たしかに大貴族と平民じゃ全然釣り合っていないし、色々言ってくる連中もいるだろうが、気にしなくてもいいのに。もし万が一のことがあれば、僕はちゃんと友達を守るつもりだぞ。


──それに相手が平民だの貴族だの言っている余裕は僕にはない。もう後が無いんだ。


 ボッチを回避できるなら誰とでも仲良くなってやろう。ギャルゲーに例えると難しそうに見えて攻略難易度は最低レベルだぞ僕は。超絶ヌルく攻略できるうえに大貴族とつながりが持てるのだからかなりお買い得、おすすめだ。


 学院は基本的に貴族の権力に干渉されないために大貴族が睨みを利かせているのだ。知識を与えてくれる教員に対して貴族の子息が横柄すぎる態度をとり続けいたら、学習する場として成立しないという判断だからだ。


 そのため「四家」であろうとも必要以上に学院に口をはさめないし、教師と生徒の立場が逆転することも無い。


 学院について初めて知った時は喜んだものだ。入りさえすれば僕も普通みたいに友達や先生と語らうことが出来るのではないかと。立場が高すぎるゆえに無駄に気を使われたり、恐れられているこの環境が少しくらいは変わるのではないかと。


 ……のだがすぐに気付いた。数多ある貴族家を派閥関係なく、大貴族の「四家」すらにも関係なく睨みを利かせられる大貴族といえばシュティーア家である。しかも学院長もシュティーア家の分家から代々輩出しているし、学院が中央にあるせいでその教員たちもシュティーア家に連なるものが多い。


 僕は悟ってしまった。望んだ未来は来ず、教員や同級生に畏敬と恐怖の視線を向けられることは変わらないという事が。


 今一番心配なのが扱いに困った学院が特別クラスとかいって僕一人だけのクラスを作ってしまわない事だ。一人なのにクラス(笑)とか陰で笑われていると知った日には枕を濡らす自信がある。


 しかもこれは十分にあり得る未来なのだ。頼みの綱である皇子達はそれぞれの皇子につくと決めた貴族たちと──つまり自分たちの派閥でクラスを作るらしい。


 どちらかに肩入れするわけには出来ない以上、彼らのクラスの加入することはできず、かといって他のクラスと言えば平民クラスである。


 平民クラスなんかに放り込まれたら流石にうまくやっていける自信は無いし、大貴族が謎に一人だけいるクラスなんて平民生まれの生徒たちも嫌だろう。


 僕としてはメリル派閥みたいなものを作ってそこを一つのクラスにしたいと思っている。だからこそ友達作り作戦を様々な形で色々やってみてはいるのだが、芳しい成果は得られていない。…というか悉く失敗している気がするぞ。


 現在メリル派閥は参加者募集中メンバー一人だ、誰か来てくれ。


 ……もうすぐ入学だというのになんという状況だ、もう本当に後は無い。




「……アスタ、学院に入学しない?ボッチになりそうなんだ」


「憂鬱そうな表情から復活したと思ったらいきなり何言いだすんだ。歳考えてくれ、流石に無理だろ」


「…化粧で何とか誤魔化せない?」


「そんな技術はもっていないし、やる気も無いぞ」


「大丈夫、我が家のメイドに任せれば女装からどんな怪物にだって化けられるぞ」


「やる気が無いって言ったのは学院に行く気が無いって言う事だ。…俺がこの街を守らないとな」

 

 そういえばそんなことは前にも言っていたな。


「大体わざわざ俺なんか誘わなくても、友達位いるだろ?学院ではそいつと仲良くすればいいじゃねーか。」


「やれやれこれだから陽キャは…」

 

 誰もが友達がいると思わない事だね。


「俺が陽キャ?陽キャ…ってなんだ?」


「コミュニケーション能力が高くてノリが良くて社交的な奴だ」


「なんだ急に褒めてきて」


「褒めてないよ」


「どっからどう聞いても褒めているようにしか聞こえないぞ?」


「褒めてない」


「…お、おう。まあ、素材は十分に集まったみたいだし街に帰るとするか。あんまりデミグを待たせても可哀そうだしな」


「それもそうだな。帰るか」


 帰ったら恥を忍んでカレルにどうやって友達作るかレクチャーしてもらうか。いや、払う代償が大きすぎる気がする。いつまでたってもそのネタでいじられるかもしれない。

 

 シオン……弟に聞くにしては論題が少し…。それに兄も面目もあるしシオンの中の兄上像を壊すのも忍びない。


 ハイネケンは…ビール野郎だし頭がちくわ大明神だ。頼りにならない。


 こういうとき他の奴はどうするのだろう?やっぱ身近な奴に相談するのだろうか。立場が近くて悩みが共有出来そうな相手に相談するよな、普通。





 あ、それが友達か。


 僕にはいないじゃん(震え声)



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