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慕われたい


「アスタは冒険者だろ?対人戦の経験はあるのか?」


「人」が主な相手の騎士と違い、冒険者が人と対峙することは殆ど無い。


人型のモンスターはいくらでもいるが、人と戦うのとはわけが違う。それに、アスタが躊躇なく「人」を斬る姿が僕には想像できなかった。


「無くは無いぞ。お前こそどうなんだ?」


「もちろんあるさ」


自らの身を守る術はかなり詰め込まれている。盗賊、暗殺者といつ人に襲われてもおかしくない立場だ、当然のことである。


父もこれくらいの頃は暗殺者に襲われた経験があるらしい。シオンもたしか数年前に襲われたっけな、そのときは彼の護衛隊長が撃退したとか。


 高い立場になると嫉妬や殺意を向けられることも珍しくないのだ。


 ……のはずなのに僕は今まで暗殺者に襲われたことが無い。暗殺者にすら関わりたくないとか思われているのだろうか。


 だとしたらプロ根性に欠けているやつらだ、どのような奴であれ暗殺して見せるという気概を持つのが一流だ。

 

 僕が暗殺者に襲われたら言ってみたい台詞集を頭の中でひそかに準備していたのに、これでは使う機会がない。





「メ、メリル!」


 最近気になっている幼馴染が遠くへ行った可哀そうな少年、デミグが近づいてきた。


「ああ、デミグか。久しぶりだね」


「久しぶり…ってそうじゃない!話はどうなったんだ!」


「なんだお前。外で何話していたか知っているのか?」


 院長やアスタはこんな子供にああいう事に巻き込まないと思っていたが。


「いや、何にも知らない。でもアスタおじちゃんがメリルは孤児院のために戦ってくれているって言っていた」


 おおナイスプレーだ、アスタ!これで以前の様に遠巻きに見られなくなるぞ。子供達から僕の株も爆上がりだろう。


 もう誰であっても慕ってくれるなら構わない気がしてきた。


「戦うって大げさだな。大したことない奴だったぞ」


「そ、そうなんだ。やっぱメリルはすごい人だな!大人だし!」


「なんだ急に持ち上げて。なにか教えてほしいのか?」


「……やっぱ騎士になるには口も上手くないといけないのか?」


「なんだ、そんな事か。あったらいいなって程度だぞ」


 デミグが目指す様な騎士は…だけど。お世辞や人に取り入って立場を得ようとするのではなく、自らの実力で成り上がるのがデミグの理想だったはずだ。


 だったら口よりも体を鍛えたほうがいい。


「…そっか、良かった。俺、ラスみたいに口が強くないから…」


 ラスね、たしかもうシュティーア家の屋敷の方にいるんだっけ。敷地が広大なおかげでラスに出会わなくてすんでいるのでどこで働いているかまでは知らない。


 カレルに聞いたら教えてくれるのだろうけど…またロリコンとなじられるのはごめんだ。


「ラスはすごいんだ!あの役人が来るといつもラスが撃退してくれるんだよ!」


「へぇ、意外だな」


 てっきり周りを気にもしない性格だと思ったが。


「何かあの人の「やっすいプライド?」とかいうのを刺激したらすぐ帰るって言っていたよ。将来のいい練習台になるって」


 ……何の練習?


 寄ってくる男をあしらうとかだろうか?それともSMプレイ?




「ラスが前に立っている間、お前はどうしていたんだ?」


 口が回らないらしいデミグが何かできたとは思えないが。


「横で黙ってラスを守っていたぞ!」


「……どうせ横に立っていただけなんだろ?」


「守っていたんだ!」


 ラスの事だ、あの役人が小心者で手を出さないと分かっているから前に出ているのだろう。つまりデミグは意味もなく横で棒立ちしていただけと想像に難くない。


「頼りないなぁ」


 まあ何の力も持っていない孤児にいってもしょうがない事だ。


「今に見ていろ!……また今度なんか教えてくれよ!」


「はいはい」


「将来偉くなってラスと──」


 そういえばこんなにデミグと長々と話しているのに誰一人寄ってこないな。そろそろ子供達から尊敬と畏敬の眼差しを浴びても……おっと間違えた、打ち解けてもいい頃なのだが。


 ラスとどうたらこうたら言っているデミグの周りを見るが、依然と変わらず僕は子供達から遠巻きに見られていた。


 あれ、おかしいな。僕の株は爆上げされたはずなのに…。


「おいデミグ」


「そのときラスが……」


 自分だけの世界に入り浸っているデミグ。興奮しているこいつがきもいから周りが近寄って来ないとかじゃないだろうな?


「…デミグ」


「でさーその時には俺が…」


 反応がない。イラっとしたのでデミグの頭にチョップを落とした。


「いたっ、何だよ!」


「ようやく帰ってきたか。妄想に入り浸るのも程ほどにしておけ。…アスタから僕が孤児院のために戦っているって聞いたんだよな?」


「うん?そうだよ。それがどうしたんだ?」


「なんかまだ子供たちと距離があるような気がするんだが」


「そんなの前からだろ?」


「……さっきの話ってお前しか聞いてないとか?」


「ああ、そうだぜ!」


 うわっ、意味ねぇ。僕は目から光を失った。


「なんだよ、急に元気無くしてさ。飴でも食べるか?…ラスが食べてくれなかった奴だけど」


「いらん」


 大勢に感謝されるという経験をしてみたかっただけだ。べつに感謝されるために動いたわけじゃないが…少しくらい…距離を縮めてほしかったな。


 そう思って子供たちに視線を向けると、彼らはびくっと震えてアスタの後ろに隠れだした。


 ……どうしよう、このやり場のない虚しさは。いや、やり場が無い訳ではないか。後から来るだろう役人のバックとやらにぶつけてやろう。


 そう思って──やり場のない虚しさをやり場のある怒りに変えた。






 

「おい出てこい!この街の役人ブリダとディータニアン騎士団の騎士団長補佐のイコン様が来てやったぞ!」


 どうやらやっとバックとやらを連れてきたらしい。偉い人は腰が重いというが、遅すぎるわどれだけ待たせるんだ。


 孤児院に一泊する羽目になったぞ。


 ディータニアン騎士団とはディータニアン湖から名前をとった騎士団だ。もちろん担当する領域はディータニアン湖とその周辺の街々である。


「メリル、ディータニアン騎士団の騎士団長補佐ってどれくらい偉いんだ?」


 騎士団にお世話になるような事をするはずもないアスタは相手がどれほどの立場の奴か想像できないようだ。


「大体──」


 …そこまで言って僕は言葉に詰まった。果たして僕が思った通りにアスタに教えてもいいのだろうか?


 騎士団長補佐──シュティーア家から見れば下っ端の下っ端の下っ端の下っ端である。だがそんな僕の感覚は間違いなく世間から乖離している。ここは適当にお茶を濁すか。


「…メリル?大体なんだ?」


「…例を挙げるとすればハンバーガーに対するポテトの様なものだ」


「ちょっと意味が分からん」


「つまり無いといけない訳じゃないけど…あったらうれしいねって言う感じ」


「…お、おう」


 アスタの反応が微妙だ。間違いなくお茶を濁そうとしたせいで変な方向に跳躍した僕の解説のせいだな。


「やっぱよく分からん。もっと違う例えは無いか?」


「言いたいのはやまやまだけど──」


「早く出てこい!」


 外では待ちきれなくなったらしいブリダが騒ぎ出した。こっちは一晩待ったのだから少しくらい待ってくれてもいいのに。


「だからね?まあ、アスタは来なくてもいいよ。一人で大丈夫さ」


 最初から負けるわけない戦いだったし。


 シュティーア領にて権力で僕に勝ちたかったら父か国王でも引っ張ってこないと無理である。まあ、あの二人がこんな些末事に手を貸すわけも無いが。


 しかもよりにもよって騎士団だ。


 騎士団は<記憶>世界の軍隊と同じく完全なる縦社会ともいえる。これが王城勤務の役人とかでてきたら少し面倒だったが、騎士団ならちょっと脅せばすぐにこんな茶番劇は終わるだろう。


 騎士団長補佐としてもこんな小遣い稼ぎでトップに睨まれると知れば、少しは痛い目を見てくれるかもしれない。



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