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相変わらずの釣果


 倒れてすっかり動けなくなったドゥルアの頭を魔剣で切り落としたアスタが騒ぎ出した。込めた魔力を使い切らなかったのか、カラドボルグからは雷が少しだけ漏れている。


「こんな簡単にBランクモンスター狩れていいのかよ」


「ダメな理由なんて無いだろう?優れた狩人が易く獲物を狩る、何もおかしくないね」


「やっぱ魔法は便利だなぁ。俺も使っていかねぇと」


「砂こすりつけるぐらいしか出来ない魔法なんて便利もクソも無いだろ。」


「今に見ていろ!お前に吠え面かかせてやる」


 僕に吠え面かかせるレベルって学院の魔法教師すらも遥かに超越したレベルなのだが。


「遊んでないでさっさと解体しようぜ」

 

 以前モンスターを解体したときに見た魔石がきれいだったのでこいつの者も早く見てみたい。


「じゃあ解体はメリルに頼む。俺は入り口の岩どかしてくるからよ」

 

「おう」

 

 役割分担か。アスタは岩を動かすだけだし、早く終わりそうだ。こっちも手早く済ませないと。魔法袋から解体用の道具を取り出し、部位ごとに切り分けていく。


 たぶんこの肉は明日か明後日辺りに孤児院の子供のお腹に入るのだろうな。たしかこいつは食えたはずだし。これ以上解体しなくていい部位は魔法袋に突っ込んでいき、ドゥルアの腹を掻っ捌いて目的の魔石を取り出す。


 ドゥルアの魔石は力強い魔力が流れている黄色い魔石だった。せわしなく流動する魔力はまるでドゥルア性質を良く表している。

 

 夜に見たらドゥルアの性質通り大人しくなるかもしれない。


「おーい、メリルー!。もう入れるぞー!」


「今行くよー」


 アスタの方の作業が終わったらしい。僕は洞窟の入り口の方へ駆けて行った。




「また魔石を見ていたのか?」


「ああ。つい目を奪われてしまうよ」


「俺には黄色い石にしか見えないんだがなぁ。魔力を見れる奴が見ると全然違うのか」


「そうだな。見ていて飽きないぞ」


「魔力が見れる奴って中々いないから羨ましいぜ」


「確かに全然いないな。ああ、たしか教国の新教皇も見れるらしいな」


「教国か…」

 

 苦々しくアスタが呟く。相変わらずカスドラク教国は嫌いなようだ。まあ、純人族以外を差別していると公言している国を獣人が好むはずがない。


 純人族とて多種族国家であるこの国でその教義に賛同する奴はいない。


「この国ではどっかの侯爵家の息子が見れるって聞いたことあるぞ」


「ほう、どこの侯爵家だ?」


「忘れた」


「……同じ能力を持つ仲間ぐらい覚えておけよ」


「僕は見れること隠しているしね。いらない騒ぎを呼びそうだし」


 これ以上能力が増えてますます近づき難いと思われるのは非常によろしくない。友達作りにも支障が出てきそうだ。


 だったら隠していた方がマシだ。


 他に誇れるポイントなんて僕にはいくらでもあるし。


「仲間と言えば学院の入学パーティーに出たんだろ?友達は作れたのか?」


「……早く釣りしようぜ。釣りがしたいって手が震えだしたよ」


「釣りで中毒症状が出るって変だぞ。……まさかメリル」


「おい、余計な心配はするもんじゃないぞ」


「友達がいな──」


「はいストップ。友達くらい余裕で作れたから」


 うん、ニコルという友達(仮)(予定)(候補)(願望)をつくることに成功している。


「おお、杞憂だったか。せっかく作った友達は大切にしろよ!」


「…分かっているさ」


 ──本当はちゃんと理解している。まだニコルとは友達どころか知り合い未満のレベルだ。


「早く釣りにいこーぜ…」

 

「何だ急に暗くなって。もっと元気出せよ!」


 誰のせいだ!…………半分は自業自得か。




 

 餌を付け、池に糸を垂らす。この糸はかなり強度があるようで、以前使った時も一度も切れなかった優秀な糸だ。何かのモンスターの素材なのだろうか。

 

「今日は食えるもん釣れるといいな」

 

「そうだな。だからなるべくアスタは離れろよ。」

 

 前回、隣で釣った時はアスタに獲物が吸われていったのはよく覚えている。アスタの隣で釣り糸垂らしても暇なだけだ。

 

「寂しいこと言うなよ、会話しようぜ」


「隣じゃなくても会話できるだろ。わざと隣に座って僕に釣らせないっていう魂胆だろ」


「っち、バレたか」


「狙いが分かりやすすぎるんだよ。……おっ!」

 

「何!?もう掛かったのか、あのメリルが!?」

 

「一言余計だ!」

 

 そう叫びながら釣り竿を持ち上げて、かかった獲物を見ると──


  ──青いブヨブヨとしたゼリーの様な物体だった。


 何の変哲もないただのスライム。


 たしか前回も釣れたような……あの時リリースした奴がまた掛ったんじゃないだろうな。


 なんかムカついたので釣れたスライムを池に思いっきり投げようとしたが、衝撃で他の魚が逃げる事を恐れてすんでのところで止める。


 そして池に優しくリリースした。


「もう二度とその面見せるんじゃねぇぞ」


「メリル、スライムに顔は無いぞ」


「そんなことくらい分かっているよ」


「…次はまともなの釣れるといいな」


「マジなトーンで言うなよ。せめて笑い話で済ませてくれ、悲しくなる」




 先ほどは少し調子が悪かっただけだ、次から本番である。再び釣り糸を垂らし、獲物が釣れるのを待つ。

 

 隣のアスタをチラリと見ると、既に一匹釣れたようだ。 この釣り場が穴場とはいえ、釣りすぎでは無いだろうか。


 あんなハイペースで釣れるとさぞかし楽しいのだろう。逆に僕はこの釣り場じゃないとどんな結果になるか考えただけでも恐ろしい。


 運が悪すぎて何も釣れないどころか、水中のモンスターに引きずり込まれるかもしれない。


 釣りに来たのに釣られる──ミイラ取りがミイラになるみたいだな。

 

「おっ!」

 

 しばらくするとまた獲物が掛かった。しかも魚影を見る限り間違いなく魚だ。

 

 水上に少しだけ飛び出している部分だけを見ても、前回アスタと食べた魚──つまりまともに食べられる食材である。

 

「今度こそ!」

 

 万感の思いを込めて釣り上げる──間違いない、あの魚は食える!


 「よしっ」


 しかしそこで悲劇が起こる。釣り上げられた魚が暴れたせいで釣り針から離れ、岩の隙間から落ちていった。

 

 そしてポチャリという音とともに水中へ逃げていく。


「……」

 

「……ドンマイ、気にするなよ。また釣ればいいさ」

 

「アスタ、奇跡は何度も起きないものだよ。」

 

「お前が食えるもの釣れる確率ってそこまで低いのか?」


 

 

 

 アスタが持ってきたクーラーボックスの半分が埋まったが、僕の方はあれから全く獲物がかからなくなった。


 おそらくさっき釣れ掛けた魚が他の仲間に避難勧告でもしているのだろう。じゃないとこんなに無沙汰なのはおかしい、そうに違いない。


 なんという魚だ、次見たときは無慈悲に魔法で打ち抜いてやる。

 

 ……いや、池ごと蒸発させるべきか?

 

「お、おい。なんでそんな怖い顔しているんだ。釣りはのんびりするものだろう?」


「ああ、すまないね。連れがせわしないからさ」


 どんどん釣れるせいで、餌を付け直したり、獲物を針から外したりとアスタは忙しい。あまりにも理不尽な差に泣きそうである。


「……いつか釣れるさ」

 

「どんだけ長期的に見ているんだよ。……おっ、ようやくか」


 やっと竿にまともな抵抗を感じる──のだがなんか少し変だ。

 

「引っかかっている感覚がするのだが、なんか暴れる気配がないな。」

 

「水底にひっかかったのか?」

 

「いや、引き上げている感覚があるんだ」

 

 こんな無抵抗に引き上げられる生物はそうはいないだろう。もしや以前釣り上げたヒトデだろうか?


 いや、あれならもっと重いはずだが……

 

「釣り上げればわかるだろう」


「それもそうだな。よっと」


 釣り竿を持ち上げると、かかった獲物が水中から飛び出す。


 釣れたのは緑色の細長い植物……水中に生えている草だった。


 ……なるほど、暴れないわけだ。

 

「…アスタ、これ食えるの?」

 

「食えなくは無いぞ。不味いが。……よほど食うのに困ったやつでもないとこれは食わんな」

 

 ……一応食えるものを釣ったという事に…なんか納得しがたいな。

 

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