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釣りに行こう


「そういえば最近ギルドマスターの調子が悪いらしいな」


「へー、なんか病気にでもかかったの?」

 

「いや、なんか胃痛が頻発するらしい」


「ギルドマスターだし色々ストレスの原因抱えているんだろ」


「それもそうだな。今度胃薬でも差し入れるか。」


「いい考えだね。僕も見舞いに行こうかな」


「絶対にやめてください。私の胃が死にます」

 

「おうギルドマスター!部屋から出てきていたのか!」

 

「私は別にずっと部屋で書類仕事している訳ではないですよ。メリル様…さん、ちょっとこちらに」

 

 ギルドマスターに手を引かれ、誰もいない路地裏に入る。小説だとハートフルでロマンチックな展開だが、あいにく相手は男だ。


「やあ、久しぶりだね」

 

「お久しぶりしたくなかったです」

 

「言う様になったじゃないか」

 

「決死の覚悟でここに立っていますからね」

 

「そこまでしなくても」


「シュティーア家の立場を考慮していただきたい。……それで今回はどのような用事でしょうか?「忌命の森」の件での視察ですか?」


「違うよ」


「なるほど、ではギルドの視察ですかな?」


「いや、それも僕の仕事じゃないね」


「ふむ、では私の采配にシュティーア家が不満を?」


「違うな」


「ま、まさか私を解雇に!?家には3匹の猫が!」


 そこは病気の妻とか大切な娘とかいう場面じゃね……ああ、独身なのか。ペットばかり可愛がる奴は結婚できないってどっかで聞いたな。


「ギルドマスターは全然関係ないね」

 

「ではどういったご用件で?」


「遊びに来ただけ」


「なるほど、胃が痛くなる話ですな」


「何でだよ」


「何やらかす…するか分からないので」


「おい今やらかすって言ったな?」

 

「言葉の綾です。……それで今回私は全然関係ないとおっしゃいましたね?」


「まあそうだな」


 別にギルドに用がある訳でもない。


 ととと、友達のアスタと遊びに来ただけだし……やっべ、なんか恥ずかしいなこれ。

 

「私は関係ない。つまり胃が痛くならない…よっしゃぁぁぁぁ!ふううぅぅぅぅぅぅぅ!ひゃっっっはぁぁぁぁぁ!」


「おい」


 ギルドマスターってこんなキャラだっけ?胃痛とストレスで頭までやられたのかもしれない。


「すいません、少々取り乱しました」


「乱れすぎだわ。……どうしてもって言うのなら関わってやってもいいぜ?」

 

「絶対に嫌…遠慮しておきます。ええ、絶対に」

 

「もう無礼一歩手前だぞ」

 

「それでは自分はこれで!」


 言うだけ言ってギルドマスターが路地裏から走り去っていった。




「おいメリル、ギルドマスターと何話していたんだよ?あんな狂喜乱舞しながら走るから皆の注目集めていたぞ」


「アスタと遊びに来たって言ったらおかしくなったんだ」


「う~ん、それだけであんなに喜ぶのも変だな」


「貴族が来たからビビっていたけど、自分は関わらなくていいと知って喜んでいるんじゃない?」


「いや、あの人は仕事はきちっとする人だし、権力者にビビるような小さな玉じゃねぇ。一応は貴族のメリルをもてなす案を思い付いて喜んでいるのだろう。」


 めっっっっっっっっちゃビビってたがな。


「でもあんな喜び方おかしくない?」


 薬物乱用でもかくやっていう狂いっぷりだぞ。


「……メリル、頭に効く薬とか知らねぇか?なるべく早く差し入れてやろう」


「そのときは僕も付き合うよ。……それで「一応は貴族」っていう件について話し合おうか」

 

「つい口から本音が漏れちまった。なんか貴族っぽくないんだよな」


「……」

 

 シュティーア家は特別な貴族、普通の貴族とは一線を画す存在だからだろう。まさかただ貴族としての風格が足りないわけではない…はず…。


「今日は丁度釣りに行く準備をしていたんだ。メリルも一緒に行くだろ?」


「ああ、付き合うよ」

 

「よしっ、噴水の方で待っていてくれ。もう一人分の釣り道具借りてくる!」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 


 

 昼時からやかましいバカップルであふれている噴水で待っていると、ようやくアスタが馬車を引き連れてきた。

 

 前回と同じBランクモンスターのリノセスが馬車を引いてくれるらしい。

  

「そういえば前は朝から釣りにいったけど、今回はこんなに遅れてもいいのか?」


「あの場所はこの時期ではこの時間帯がいいんだ」


 あの場所──僕とアスタしか知らない洞窟の先にある釣り場の事だろう。天井から指す光の当たり具合と幻想的な泉がある美しい場所だ。

 

「今回はカスドラク教団の連中と出会わないといいね」


「全くだ、あんな獣人嫌いとは顔を合わせたくねぇな」


 まあその点は安心していいだろう。あれだけ脅しておいたし、しばらくはこの周辺をうろつかないはずだ。


 ……たぶん。……なんかフラグ立てたみたいだけど大丈夫だ、うん。

 

 

 

 

 


 前回とは違い遠回りせずに直接目的地に向かったおかげか、思ったよりも早く着いた。


 ──目的地手前には。


 釣り場まで行くには洞窟を通らなければならず、その洞窟に入るには入り口にある大岩をどかさなければならない。だがその大岩の前でモンスターがたむろっているので僕らは洞窟に入れないのだ。


 大人しいモンスターや人に怯える臆病な奴だと良かったのだが、目の前の奴はこちらを発見するとすぐさま飛び掛かってきそうな凶暴なモンスターである。


「あのモンスターを知っているか?俺は見たことも聞いたこともねぇ。…竜種っていうのは分かるが。」


 アスタがさすモンスターは退化したやたら小さな翼が特徴的なドラゴンだった。


 だが飛行能力を失った代わりに、地面で能力が進化したのか四肢の筋肉が異常に発達している。


「あれはドゥルアっていうモンスターだよ。空も飛べず、ブレスも吐けないドラゴンだ」

 

「ランクは?」


「Bだ。でもドラゴンよりは厄介じゃないっていうだけで破壊力はドラゴン以上だ」


「それならなんでドラゴンと同じAランクじゃないんだ?」

 

「ドゥルアは太陽が昇っている間は活発だけど、夜になると以上に臆病になるんだ。だから対処のやるようがあるからってB」


「だが今は…」


「ああ、奴にとっては動き回るに絶好な時間だろうね」


「それにしてもメリルはモンスターに詳しいな。エリーニュスも知っていたし」


「勉強しているからね」


「なるほど、あの話は本当だったのか」


「疑っていたのかよ」


「勉強嫌いの言い訳って思っていた。……それでどう攻める?」


「ドゥルアは別に魔法耐性が無いだろうし、僕が魔法で縛るからアスタが首を切り落としてよ。さすがにあんな脳筋タイプが相手だと魔法に集中しないといけないし」


「あんな筋肉が発達したドラゴン相手に魔法で何とかなるのか?」


「エリーニュスみたいに闇に抵抗があったりしないだろう。デルヴィアみたいな例外でも無ければ縛れるさ」


「いや、お前の魔法が通じない場面ばっかり見てきたからいまいち信用が…」


「相手が悪かっただけだ!あんなに立て続けで相性が悪い相手が現れるとかおかしいよ!」


「お、おう。まあ、仮に縛れなくても俺たちなら問題ないか。デルヴィアよりは強くねぇだろうしな。」


 あんな例外と比べられるなんてドゥルアも可哀そうだな。極まったパワーに異常に頑強な装甲、恐ろしい魔剣に強力な機甲技とどこにも欠点がない最強な機甲…いや、ロボットだったし。


「まあ、見てなよ。エクリプス・カルチェレム!」


 愛用している闇魔法を発動し、闇で構成された檻の中にドゥルアを閉じ込める。


「ガァァァ!?」


 ドゥルアは突如閉じ込められたことに驚いのが、強靭な四肢をしたらめっちゃかに振り回し、闇の檻を攻撃し始めた。その衝撃波すさまじいもので、檻の隙間から飛んでくる風が少し離れたこちらにも届くくらいだ。


 生身であんなやつに近づきたくねぇなと思わせるパワーである。


「お、おいメリル。もう飛び出ていいのか?」


「まだだよ。まだ縛って無いじゃん」


「これ以上何かするのか?」 


「あの檻の中に閉じ込められると魔力と体力が吸われていくんだよ。」


「なんだそのえげつない魔法!……魔法ってもっとこう──玉とか槍状に飛ばすものだろう?」


「そんな玉遊びと棒飛ばししているのは魔法使い見習いだよ。熟練した魔法使いは応用を利かせるものだ」


「…おお、なんかメリルがベテランっぽく見える」


「まあ僕は熟練者の域を天才だけどね」


「おーそうかー。そいつはすげーな」


「なんだその棒読み!本当だぞ!」


 魔法に疎いアスタはよく分かっていないだけで、僕はトップクラスの実力者だぞ。


「信じていないなら体験させてあげてもいいぞ?」


「落ち着けよメリル、本当に信じているから…」


「じゃあその呆れた顔やめろ!」




 「グウウゥゥゥ……」

 

 アスタに抗議する僕をしり目に、魔力と体力を奪われて抵抗する力を失ったドゥルアが倒れこんだ。


 


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