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護衛達の戦い


 さて、護衛連中からハイネケンの対戦相手を選ばないとな。そう思って護衛連中に近づくと各々謎のアピールが始まる。

 

 腕で力こぶをつくる者。

──まだマシだ。腕の力こぶと機甲のスペックは一ミリも関係ないが。


 コサックダンスの様な謎の踊りを披露する者。

──身軽だとアピールしたいのか?それとも自分はアホだと言っているのか?


 地面に座り込んでこちらにドヤ顔を向けるもの。

──何お前?出たいの?出たくないの?


 なぜか服を脱いで上半身裸になる者。

──裸になる意味ある?生身で突撃させてやろうか?


 その場で飛び跳ね始める者。

──トランポリンで遊んでいる子供の真似か?無表情で跳ねている男なんてシュールすぎるわ。


 その場に突っ立て微塵も動かない者。…でも表情だけは百面の様に変えている。

──こいつが一番謎だ。もはや何がしたいかさっぱり分からん。


 ……何より不気味なのが誰も言葉を発さない事だ。


 一言「私が出ます!」でいいのに。




「全員止まれ」


 その一言で全員騎士らしい敬礼状態に戻る。こうきっちり並んでいるのを見ると先ほどまでのこいつらとはまるで別人である。


 統率がとれているのは結構な事だが、かわりに常識を捨てたのだろうか。


「副隊長」


「はっ」


「今のはなんだ」


「隊長より全力でメリル様を笑わせろとのお達しがあったもので」


 良かった、素であの奇妙な行動を始めた訳じゃないのか。いや、笑わせるためとはいえあれらの選択肢を取るのもどうかと思う。


「…もしかして僕の護衛って全員変態なのか?」


「誤解しないでいただきたい。我々はあの隊長とは違います」


「じゃあさっきの惨状は何だ?」


「全て隊長の指示です。メリル様はああいうのが好きと言っていました」


 いや、ぜんぜん好きじゃねーよ、意味分からなさ過ぎて頭抱えたわ。


 ……あれらはハイネケンなりに僕を思っての指示なのだろうか?


 そう思って視線を向けるとハイネケンがなんかぶつぶつ言っていた。



「ふふ…これで相対的に私の評価が上がり、クビの心配がなくなる。…やりましたよぉ、カレルさん」



 最低だなあいつ。本人は小声のつもりだろうが、こちらまではっきり聞こえていた。流石は隊長、良く通る声を持っている。


 おかげで騙されたと気づいた護衛連中の顔が怒りで染まった。いい試合が見れそうだ。


「…私たちはメリル様が落ち込んでいるからと聞いていたのですが」

 

「あの様子じゃ自分の事しか考えていないな」


「メリル様、どうか私に。今日こそ下克上を果たして見せます!」

 

 「いえ、私に!」「今日こそ隊長の席から引きずり落とします!」「殴って蹴ってボコる!」

「隠してあったプリンの恨み!」「いつもいつもビールばっかり飲ませやがって!」

「顔がムカつく!」「髪毟ってハゲにしてやる!」


 やる気満々の副隊長に続くように後ろの隊員たちも身を乗り出してくる。


 さて、どうしたものか。


 どいつもこいつも隊長をボコボコにしようとしているが、誰を選べば良いのだろう。


 やっぱ副隊長かな?


 いや、たしかハイネケンは護衛連中から選べと言っていたはずだ。——人数は指定せずに。良い事思い付いた。


 そういえばまだ笑われた報復していないしなぁ。存分にやってやる。


 今日は思い出の日にしてやろう。忘れられない思い出の日に、な。


 ハイネケンには聞こえないように護衛連中を全員集め、僕が指定する人を伝える。そうすると護衛連中は騎士らしくも無いあくどい笑顔で笑い出した。


「いやぁ、いい考えですねぇ」「ええ、全くです」「今日こそは隊長が泣く顔が見れそうですな」「全力でやっていいのですよね?」


 最後の問いへ僕もあくどい笑顔で返す。


 「もちろんだ、諸君。全力を見せてくれ」


 下々の意見を聞くのが上に立つ者の役目。最上位の存在として僕は全員の意見をも受け止めることにした。





「お、決まりましたか?」


「ああ。ちなみにお前が負けたら半年間アルコールはビールのみだ」


「…もうビールは飽きてきたのですが。ちなみに勝ったらどうなんです?」


「半年間ビールを無料で飲ませてやる」


「……メリル様はなんで私をビール漬けにするのですか?」


「お前がビール野郎だからだ」


「……意味が分かりませんよ。まあ、どうせ勝ちますし、強制にならないだけマシですね」

 

「勝ったら更に機甲技を伝授してやるよ」


「えっ?メリル様まだ機甲を顕現出来ませんよね?」


「機甲が無くても使える技なんだ。その名も──」


「その名も?」


「機甲技<ビールモア・モアビール>だ。」


「……ちなみにどんな技なんですか?」


「ビールのおかわりをする技だ」


「……なんか意味あります?」


「無い」


「…もうお腹いっぱいですよ。それじゃあ勝ってきますね」


「すごい自信だな」


「そりゃあ護衛の中で私が最強ですから」


「対戦相手を知った時にも同じセリフがはけるかな?」


「余裕ですよ。それで相手は誰です、副隊長ですか?」


「目の前にいるだろう?」


 僕が指し示す方向には副隊長以下護衛連中が一列に整列している。


「誰か進み出てくださいよ。相手が分かりませんよ?」


「全員だ」


「……えっ?」


「ハイネケンと戦いたいやつは手を上げろと言ったら全員手を挙げた。おかげで僕が審判をやるしかないな」


「…えっ?…ちょっと待ってくださいよ!」


 もう遅い。ハイネケンが戸惑っている間に護衛連中はすでに機甲を顕現し終えている。


 つまり両者とも準備万端だという事だ。(僕調べ)


「はいそれじゃあ始め!」


 開始の合図と同時にハイネケンに獰猛に飛び書かかる護衛連中。あの様子じゃ隊長の席から平の隊員まで引きずり落とされそうだな。


 「「「「「「くたばれ隊長っ‼‼‼‼」」」」」」


 「ちょっ!?」


 訂正、平の隊員どころか冥府の底まで落とされそうだ。


 





 結論から言うと勝負はハイネケンの勝利で終わった。とても残念なことに。最初は混乱と戸惑いのせいで機甲の顕現が遅れたハイネケンを多勢に無勢で押していた。


 護衛連中も一人一人の実力は高く、機甲のスペックも非常に優秀だ。彼らの猛攻を前にヴァイスリッターはみるみる傷ついていき、一度膝をつかせることに成功する。


 しかしある隊員の「いつも自分だけカレルさんの傍にいやがってぇぇぇぇ!」の言葉で急に立ち上がった。


 そしてハイネケンの「カレルさぁぁぁぁん!」の叫びとともに輝きが増し、動きが格段に良くなったヴァイスリッターが護衛連中を蹂躙する。


 あれは一部の機甲が持つ「奥の手」というやつだろう。短い間だけだが、通常の状態よりもさらにスペックを引き出すという奥の手。


 美しい純白の騎士らしいヴァイスリッターが、敵を蹴散らす姿はまるで物語の勇者の様で非常にかっこよかった。


 だからこそ思う──なんで使い手がビール野郎なんだと。


 恵まれたスペックと見た目、そして奥の手までもっている完璧な機甲なのだ、使い手が戦闘中にも「カレルさぁぁぁぁん!」と叫ぶ変態でさえなければ…

 

 不遇で不幸な機甲だな。


 しかし奥の手を使った覚醒時のヴァイスリッターのスペックは目を見張るものがある。


 特にスピードなんかは今まで見たどんな機甲よりも素早い。ハイネケンの剣術と合わさって、敵を次々と切り裂いていくのは心が躍った。


 以前彼から下克上してくる連中は全員倒したと聞いたが、嘘ではないようだな。なればこそ実力と護衛隊長という地位に相応しい振舞いをしてほしいものだが。


「どうですかメリル様!カレルさんに私を薦める気になりましたか?」


 ……無理か。


 さすがに魔力と体力を使い切ったのか、這いつくばったままハイネケンが聞いてくる。


 内容は相変わらずのカレル節だった。


「なんで急にそんな話を?」


「以前、馬車の中でメリル様がカレルさんにシオン様の護衛隊長を薦めていたじゃないですか!」


「ああ、うん」


 あったな、そんな事。


「それでどうですか、私を薦める気になりましたか?」


「…興が乗ればね」


 便利な言葉だ、絶対やるとは言っていないから。


「頼みますよ!」


「はいはい。……お前とシオンの護衛隊長ってどっちが強いんだ?」


 あっちも中々の使い手だと聞くが。


「これまで30戦して全て私が勝利です。」


「…へー」


「なんですかその顔!信じていませんね!」

 

「信じている信じている、めっちゃ信じている」


「本当ですか?」


「さっきの戦いを見ればかろうじて信じてもあげなくもないかなと思ったよ」


「…なんか引っかかりますね」


「気のせいだ」


「だいだい私のどこがシオン様の護衛隊長に劣るって言うんですか!」


「全部」


「ひどっ!?」


「まあ、今はそうでもないと分かったけど。最初のころは割と本気で下位互換だと思っていた」


「泣きそうなんですが。…今はどうなんです?」


「主への忠誠心とか、風格とか、戦った相手への態度とか色々下だな」


「戦った相手への態度?」


「お前シオンの護衛隊長と30戦もしたんだろ?」


「ええ」


「じゃあ名前言える?」


「…………ちくわ大明神とかじゃないですか?」


「そんな訳ないだろ」


「……すっかり忘れました。名乗られた覚えはあるのですが…」


「やっぱり」

 

 30戦もしているのにこいつはずっと「シオン様の護衛隊長」と言っていたのが気になったのだ。忘れているか、そもそも知らないかと思ったが案の定だった。


 僕がシオンの護衛隊長から良く思われていないのはコイツのせいじゃね?


「いまここにシオンの護衛隊長呼んだら面白そうだな?」


「今動けないのを分かっていてわざと言っていますよね!?」


「ヴァイスリッターの奥の手はそんなに負荷がかかるのか」


「普通ならここまで消耗しませんよ。シュティーア家の精鋭騎士に囲まれたからですよ!」


「災難だったな」


「何を他人事の様に!メリル様のせいでしょ!」

 

「お前の日頃の行いのせいじゃない?」


「……まあ、少しは反省しま」


「人を煽るの楽しかったなぁ」


「…シオン様の護衛に配属替えしたくなりました」


「あっちにはカレルいないぞ」


「じゃあやめときます」


「ブレないな、本当に。……そもそも向こうはお前の様なイロモノは募集してないだろ」


「そうですね、イロモノはメリル様の所に来ますもんね」


「…今動けないんだっけ?」


「メリル様、何ですかその黒い触手!?」


「少し遊んでやる」


「ヒエッ…分かりました、撤回します!イロモノすらメリル様の前では裸足で逃げだしますよね!」


 闇を纏った触手がハイネケンに全方位から襲い掛かった。



 

「アッー!」


「その声やめろ!」



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