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カレルに相談

 父は修練場に置いてきた。


 今は自分の部屋にある最高級らしいソファに寝転がり、頭を悩ませている。


「まわりのものをとるに足らない存在か、すぐに踏み越える壁としか見ていない」


 ──は流石に言葉の綾だろう、つい言い過ぎたみたいな。


 そもそも僕は少なくともカレルを信用も信頼もしているし、つながりが無いとは思えない。


 その時点でまわりのもの全て見下していることにはならない。ただ信じられる人が少なすぎたことを心配した結果、父はああ言ったのだろう。


 自分が優秀ゆえに周りを見下していることは否定できない。本当に人並以上に何でもできたし、<記憶>という特別なカードももっている。


 ……そのカードのせいで、知りたくもないことを知ったけれど。




 得意分野に関してはとても優秀だ。例えば魔法も講師が様々な言葉で誉めそやしてくるほどだ。お世辞ではないことは断言できる。魔法を放った瞬間は、驚きすぎて語彙力を失っていたし。あれが演技なら彼は転職したほうがいい。


 まあ、ともかく僕は優秀だったのだ。周りのものを無意識に下に見るほどには。


 その証拠は軽い自己分析でわかった。


 自分は会話するとき「父上、母上」と言うのに心の中では父や母と呼んでいる。


 父が浮気する前からである。


 これを発見したときはすこし自分に引いた。無意識でこのレベルとは思ったより重症である。そういえばどの講師も特に敬意は払っていなかったな。……言葉にしてみるとなんと教えがいの無い子供だったのだろうか。


 人が何かするたびに本当に驚愕したりする講師が多かったものだから、つい見下してしまった。それを察せられるような態度はとっていなかったつもりだが。


 父はそれを見抜いたのだろう。さすがは人を見る目を持っている。それとも家族の「つながり」というやつなのだろうか。そもそも「つながりをもつ」とは何だろう?


 人と人の関係をもつ事を指すのか。


 他人と自分の違いを受け入れる事なのか。


 信頼できる仲間を見つける事なのか。


 まだ、わからないな。


 わからなければ、人の意見を聞いてみるのもいいだろう。机に置いたあったベルを鳴らす。これでカレルは来るはずだ。





「カレルって婚約者とかいるの?」


 ドアから入ってきたカレルに尋ねる。


「何ですか、いきなり」


「ちょっと人の意見を聞いてみようと思ってね」


「残念ながら婚約者はいませんよ」


「だよね、知っていた」


 こうやって煽ってもカレルの笑顔は崩れない。普通は多少顔をしかめると思うのだが。本当に魔法の仮面をかぶっているのではないだろうか。


「ちょっと人の「つながり」というやつを考えていてね」


「それはまた突然ですね。メリル様がそんなものを考えるとは」


「父上に説教をいただいたのさ。人と肩を並べることを覚えろってさ」


「なるほど、それで全く協調性のないメリル様が」


 思わず顔をしかめる。こいつそんな風に思っていたのか。


「他人と協力するぐらいできるぞ」


「でもやる気はありませよね?出来るだけならそれは「協調性がある」とは言いません」


 言われてみれば納得する。なるほど、僕には協調性がないのか。全然うれしくない発見だ。


「カレルって友達いるの?」


 いるの?と聞きながら暗にいないだろと告げる。


「普通にいますよ、メリル様と違って」


「僕にも友達くらいいるわ」


「では挙げてみてください。5人を超えるといいですね」


 そういいながらカレルは手を突き出す。


「ほら、まずは第1皇子のアドル・ヴァルダースだろ」


 カレルは指を1本挙げる。


「まずは一人目ですね。ちなみに第1皇子はアデル様だったはずです」


 中々会わないからちょっと間違えただけだ。


「……二人目は第2皇子のハイト・ヴァルダースだ」


 カレルが指を2本挙げる。


「二人目ですね。ところで今の御二人からはメリル様への友情を感じますが、その逆は感じておりませんでした」


「なんで今それを言うんだよ…」


 わりと付き合いもある……気がするし、友達なはずだ。たぶん。


「では3人目をお願いします」


「ちょっと待て」


 考えろ、あと誰がいたと。


 このままじゃカレルに笑われるだけだ。


 シオンは…弟だ。友達じゃない。


 一緒に森に行った護衛…名前すら出てこない。


 執事やメイドを挙げるのもおかしいし…


 最近見た顔を思い出す、自分の交友関係はそんなに狭くないはずだ。いるはずだ、切磋琢磨しあった友と呼べる存在が。


 思い出す。


 思考の海に沈む。


 必死に考えた先に思い出したのは


 



 ニヤニヤしたマンティコアの顔だった。



 モンスターじゃん…。




「どうやら3人目はいないようですね。5本の指の半分にすら届かないとは、想像通りです」


 そういってカレルは僕の目の前に2本の指を突き付ける。


 たった二人しかいないとは(笑)、といっているみたいだ。




「指をおろすんだ、カレル」


「かしこまりました」


「カレル、「つながり」って何だろうな」


「説明するのは難しいかと」


「カレルにも分からないのか」


「心ではわかっていても、言葉に表現できないという意味です」


「ふむ、「つながり」とは心で理解するものなのか。よくわからないな」


「曖昧なものではありますが、大切なものですよ」


 父も同じことを言っていたな。やはりそういうものなのだろうか。


「考えても答えは出なさそうだな」


「そうですね、やはり実際に自分で体験して、心で理解するのが一番かと」


 これがカレルの意見か。


 なるほど。


「悪いな、こんな夜更けに呼び出して」


「メイドですから」


 そう言ったカレルは最後まで笑顔の仮面を顔に張り付けていた。




 ……そういえば昔は全く表情が変わらないカレルを夜に見ると恐ろしくて寝れなくなったような。


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