成り上がり
周りの取り巻きやらも青い顔して最前線で睨み合っている令嬢たちを見ているが、止めに入る者はいなかった。
たしかにあんな修羅場に突撃するにはかなりの覚悟がいるだろう。あの二人は「四家」、気を悪くさせれば自分たちが潰されるのだから。
四家に真正面から対応できる王家の皇子達もこの様だし…この状況は収拾つくのだろうか?
「メリル、どうにかできないのですか?」
「そうだぜ、お前だけが頼りだ!」
「…無理だろ」
完全にヒートアップしている暴走令嬢の止め方なんて聞いた事ねぇぞ。
「…ああ、急に用事思い出したから」
こんな所にいるくらいなら庭でボッチ道を究めていた方がマシだ。そんな考えで逃げようとするが皇子達は逃してくれなかった。
「一人だけ逃げる気ですか!」
「シュティーア家の名が泣くぞ!」
「僕初めから関係ないじゃん。あと王家の名はもう泣いているぞ、アデル皇子。」
「だって!なんか圧力がすごいし!」
チラリと皇子の婚約者たち見るとお互い口を開いて睨みあっている。十中八九まだ聞くに堪えない罵倒でも飛ばしあっているのだろう。
「北に住むと頭の中も寒い」とか「南だと人間性も枯れる」とか聞こえてくる。
アデル皇子の婚約者は国の南を任されているメルキオール公爵家だ。
真っすぐなアデル皇子と性質が似通っている令嬢で、考えるよりもまず行動をするというポリシーを持っているらしい。
ハイト皇子の婚約者はヘルノア家の公爵令嬢で、メルキオール家とは逆に北を任されている大貴族だ。これまたハイト皇子と似通う性質で思慮深いとか考えてから動くと聞いたことがある。
互いに真逆な性格のせいで昔から仲は良くなかったらしいが、社交界で堂々とぶつかる程とは思わなかった。
どう考えても癖が強すぎる、個性が濃い人たちの相手など僕はしたくない。
「さて、逃げるか…」
「させるかぁ!」
「メリルだけ助かろうって言うのですか!?」
だが皇子達に両腕をがっしり掴まれては逃げる事も出来ない。
「お前らの取り巻きはどうしたんだよ?」
皇子の取り巻きなら皇子のために未だに喧嘩しているあの二人を止めそうなものだが。
「ほら、あそこですよ」
ハイト皇子の指す方向を見ると、皇子達の婚約者の後ろで睨みあっていた。
なるほど、婚約者同士では無く皇子達の取り巻きも巻き込んだ睨み合いだったらしい。──皇子達本人は蚊帳の外で。
「全く皆頭に血が上って困ったもんだ」
「そうか、大変だな。それじゃあ」
「おい!」
「どうせ用事ないですよね!」
「あるよ。とも…」
そこまで言って気付く。
「友達作り作戦」を実行していると言えるだろうか?
この国の「武」の頂点、大陸最大最強の貴族であるこの僕が。
なんでも出来るという羨望を一身に受けるこの僕が。
こんな大勢の前でそんなこと言えるだろうか。
……無理だな。
「「とも?」」
だが既に途中まで言ってしまっている。
皇子達に訝しまれる前に何か他の事を言わないと!
あたりを見回し、つい先ほどまで話していた少年を見つける。
丁度いい、彼にこの場を託すとしよう。
治療を受け終わったのか、トイレにでも行っていたのかちょうど扉から会場に入ってくるニコルだ。
「ともあれ、あそこにいるニコルに任せようじゃないか」
「「え?」」
「え?」
会場に入ってきた瞬間に、ものすごい数の視線に晒されたニコルが困惑していた。
「許せニコル。僕をスルーした件はチャラにしてやる。」
周りに誰もいない庭でそんな事を呟く。
なんかパーティーに出ると庭ばっかりにいる気がしないでもないが、今回ばかりは不可抗力だ。
王位継承を決めるのは国王だが、その国王とて貴族の意見を無視するわけにはいかない。
だが両王子を応援している貴族勢力は半々であり、あとはシュティーア家の判断で決まるという状況だ。
そんな時に僕があの中に飛び込んでみろ、ものすごい勢いで詰められるに違いない。
…ニコルへの罪悪感は無くは無いが、しょうがなかったのだ、うん。
あの場に平民が自分からでしゃばると他の貴族の怒りを買うが、僕がわざわざ指名しているのでその心配は無いだろう。
それに去り際に「あのメリル様に名前を憶えられている!?」「へ、平民なのに!?」「馬鹿な、そんなの事ありえるのか!?」という声があったからむしろ一目置かれている可能性もある。
僕はニコルの交友関係を広げる助けをしただけだ。そう考えると罪悪感は軽くなった。どうも貴族慣れしていなかったし、これもいい経験になるだろう。
社交界で名を挙げたくばより多くの人と関係を築くのが一番だ。そう考えると更に罪悪感は軽くなった。
ニコル初めての社交界であの数の貴族の注目を集めてしまった可哀そうな平民ではない。
初めての社交界で大貴族に「何か」を見いだされた奇跡の少年なのだ。
そう考えると自分はニコルに感謝されてもいい気がしてきた。
大貴族に見いだされた「何か」って何だって? ……なんだろうな。
会場での騒ぎのせいか、庭には人影が見受けられなかった。
両陣営とも味方を増やしたいだろうし、人材発掘するには良い時期だ。
そんな考えもあってか、庭でイチャイチャしていたカップル達でさえ自分を売り込みに会場に行っている。だから庭には人の気配はない。
今回の睨み合いに参加していない数人以外は。
「会場が騒がしいようだな」
「皇子達の婚約者が言い争っているようですよ、陛下」
振り返ると予想通り何人かの供回りを付けたこの国の王がこちらを見て微笑んでいた。
「我が息子の婚約者が発端のようだな」
「ええ、そうらしいですね。止めないのですか?」
「あれも青春だ、微笑ましく見守ろう」
「本心はどうです?」
「余が行くとややこしくなって面倒になりそうだ」
僕の苦笑につられるように陛下も笑う。
「お前がさっさとどっちにつくか決めればすぐにでも終わる争いだぞ。」
「おや、ではさっさと決めるとしましょう。サイコロでも振ろうかな」
「そんなものでこの国の王が決まるのか。滑稽だな」
「冗談ですよ」
「ははは、分かっておる。ギャンブルでは決めてほしくないものだ。」
「ではしばしお待ちを。ちゃんと決めますので」
「まあ、余はお前が振るサイコロならば託してもいいのではないかと思うぞ」
「…ご冗談を」
「半分くらいは本気だ」
……この人はどうも僕を買い被りすぎる気がする。
僕は確かに才能豊かだが、しょせんは人間だ。振ったサイコロの結果に身を委ねれば幸せになれる異能とかは持ってない。
「買い被りすぎですよ」
「はは、どうだろうか。そんなお前に聞きたいことがある」
「なんなりと」
「お前があの場を託した少年…何かあるのか?」
あかん、陛下がニコルに「何か」あると勘違いしだした。
「陛下もあの少年について知っておられるのですか?」
国王がわざわざ一人の平民について言及するのはほぼありえない事だ。
「何も知らんよ。さっきまで学院に入学するただの平民だと思っていた。だがあのお前が目を付けたと聞いて急いで調べさせたのだ。答え合わせをしたいのだが」
陛下の目配せで供回りの一人が進み出て僕に羊皮紙を渡す。
さらりと読み上げるとニコルについての詳細な記録がされていた。
「そこに書いてある通り、ニコルという少年は優秀なようだな」
平民にしては珍しい類まれなる魔力量、そして希少な闇属性。もしかしたら機甲を顕現できる可能性もあり…か。
「ええ、こう見ると将来の見込みはありそうですね。」
「ああ、もしかした貴族になるかもしれん。…だが、その程度だ。お前が注目するほどではな」
「同じ闇属性だから…というのはどうです?」
「ふむ、無くは無いが。理由としては弱いな」
「今はそれで納得していただけないでしょうか?」
「なるほど、秘密か。お前のそれはいつも余を楽しませてくれる。あの少年に行く末に期待するとしよう」
本人のあずかり知らぬところで国王に注目されることになるとは。
平民から一気に成り上がる可能性も出てきたな。まるでラノベの成り上がり主人公のようだ。
……何か、すまん。
今度ニコルにおいしいものでも奢ってやろう。




