友達作り大作戦
「災難だったな、立てるか?」
指し伸ばした手を取り、彼が立ち上がる。不幸中の幸いで彼はあまり目立った怪我が無いようだった。
「ありがとうございます」
敬語なのはこちらが貴族だと判断しての事だろう。
「大したけがはないようだが一応医者に診てもらえ、城内にも滞在しているはずだ」
「ええ、そうします。僕はニコルです、あなたは?」
「僕はメリル──」
ここまで言って本名を述べようかと考える。さすがに嘘っぱち扱いされることは無いだろうが変にかしこまられても困る。
……いや、やはり本当の事を言うべきだろう。なにせ彼は僕の「友達作ろう大作戦~王城の庭で~」の最初のターゲットなのだ。
一人でいじめられているところを見るにボッチだろうし、仲良くしやすいだろう。
「メリル・シュティーアさ」
「ええっ!?メリル・シュティーアってあのメリル・シュティーア様!?」
他にどんなメリル・シュティーアがいるんだよ、メリル・シュティーアは一人です。
「パーティーは初めてかい、ニコル?」
「ええ。平民生まれなので機会が無くて。それで知り合いを増やそうと参加しました」
「それであいつらに絡まれた、と。運が悪かったな」
「いえ、そのおかげでメリル様にお会いできましたし」
「はは。ニコルは闇属性のおかげで学院に入れたのかな?」
「ええ、そうみたいです。昔から疎んでいたこの力のおかげで学園に入れました。」
疎んでいた…と聞くに今さっきの様な経験は一度や二度では無いのだろう。
しっかり魔法教育がされている貴族ならともかく、平民にはまだまだ誤解している者も多い。
アスタもどこで聞いたのか変な噂を信じていたしな。
「学院はしっかり魔法教育しているし、ああいう輩は減るさ。気にするな」
「…そうですね。まだ諦めません!友達作ってきます!」
良かった、なんと立ち直ったみたいだ。
よし、ここが攻め時だな。
巧みな話術で堕としてやる。
「まだパーティーを周るのだろう?良かったら一緒に──」
「ありがとうございます、元気が出ました!」
「そうか、それは良かったな。なら一緒に──」
「僕もメリル様みたいにすごい闇魔法使いになります!」
「ああ、いい決意だ。同じ闇属性のよしみで──」
「もし機会があれば魔法を教えてくださいね!…ちょっと図々しかったですか?」
「いや、全然そんなことないぞ。仲良くしよ──」
「ありがとうございます!僕はメリル様の勧め通りに医者に見せてきますね!」
そう言ってニコルは走り去っていった。
僕はその場で頭を抱えて間の悪さを呪った。
「友達作ろう作戦~王城の庭で~」……失敗!
ニコルは逃してしまったが、僕はまだ諦めていない。
──のだが最初に来た時より人の気配が消えていた。
相手がいなければ友達のつくりようなどあるはずもない。
もしや他のボッチたちはすでに友人をつくったという事か!?
全く、抜け駆けをするなんてとんだボッチどもだ。
そんな風に空気読めないのだからボッチと呼ばれ…いや、友達いるならもうボッチではないか。
自分だけが世界に取り残される感覚に身震いする。
やばい、このままでは。
視線を駆け巡らせ、誰かいないかと探す。
もちろんカップルが視線に入ろうものならすぐさま逸らすが。
辺りを見回すと二人の女子グループが目に入る。
この際女子でも…いや、それはきついか。会話がもつとは思えないし。瞬時に判断を下し、視線を他の方に向ける。
「オーホッホッホッホッホ!」
姦しい高笑い声が聞こえたので視線を向けると先ほどの女子二人組がいた。
一人は高そうだが奇抜なデザインだと感じるドレスを着た高飛車そうな娘だった。
もう一人はオドオドしている陰気そうな娘だ。来ているドレスを判断するに、格が高いとは思えない。
貴族にしては珍しく、格が釣り合っていない友達同士らしい。むしろ格なんか乗り越えるからこそ深い友情が築けるのかもな。
耳をすませば彼女たちの会話が聞こえた。
「な、何やっているの!」
「何って高笑いの練習ですわ。貴族令嬢には必須の技術でしてよ」
本当にあんなふうに高笑いする奴なんて早々いねぇわ。
「み、みんなこっち見ているよ!」
「気にしなくていいですわよ。それに大声出すとリア充の雰囲気ぶち壊せますもの」
ああ、カレルの友人達と似たタイプの娘だな。あそこまで男に飢えていないだろうし、闇も深くないだろうが。
「そんなことしているから目立つんだよ!」
「あなたは他人の視線を気にしすぎですわ」
「あなたは気にしなさすぎなの!」
うん、陰気そうな娘の言う通りだな。
リア充雰囲気破壊作戦は応援するが、周りの視線を気にするべきだろう。
「我が道を行くのが家訓ですわ!」
そんな叫びを背に僕はこの場を後にした。
見ている分には面白いが、友人関係を築こうと思うタイプでも無いな。どう見ても変人だし。
城内に帰って皇子達を探す。まだ友達作りを諦めた訳ではないが、ちょっとした休憩も必要だ。
決して諦めたとかじゃない、うん。
会場に戻り、皇子達を探すが見つからない。あんなに目立っているし、取り巻きもそれなりのを揃えているからすぐ見つかると思ったのだが。
まさか会場にいないなんてことは無いだろう。
と、いうことは──
大勢の人数で構成された一団を見る。
「…たぶんあの中心だな」
流石は皇子達、臣民に大人気で羨ましい事だ。
「全く」
僕は人が寄ってこない自分と、下心満載の輩に詰め寄られる皇子達とどっちがマシか考えながら皇子達の方に歩きよった。
「お、おい!」「あれ!」「道を開けろ!」
僕が近づくのを気付いたらしい集団は僕が通れるように道を開ける。
集団の外からちらりと中の様子を確認しようとするだけで人が僕を避けていく。
かのモーセだってこんな風に人の海を割ったことがあるだろうか。
確かに道を開けてもらえることはありがたいが、いつもこんな過剰反応されから気やすく話せる相手がいないのだ。
開けられた道を通り、中を進むと困った顔の皇子達を見つけた。
だが集団の中心にいるのは彼らでは無く微笑みながら笑っていない目で睨みあっている二人の貴族令嬢だった。
片方は見覚えがある。
たしか「四家」の一つ、そしてアデル皇子の婚約者であるメルキオール公爵令嬢だ。
四家とは国の四方を固める大貴族であり、ありていに言えば貴族の四天王である。
格で言えば上から3番目、王家とシュティーア家の次に偉い。
そんな高貴なメルキオール公爵令嬢と青筋立てて睨みあっているのはおそらくハイト皇子の婚約者で同じく「四家」のヘルノア家公爵令嬢なのだろう。
……ひょっとしなくとも修羅場だな。来る時間を間違えた。
絶対に面倒なことになると思って踵を返そうとすると皇子達が僕に気付いた。
ああ、あの輝かしい笑顔を見るに、絶対僕に解決させようとするのだろう。
「「メリル!」」
皇子達が駆けより、まずは身体能力が高い方のアデル皇子が、次にハイト皇子がこちらに来る。
「「何とかして!」」
「やだ」
「何でだよ!」
「友達でしょう!」
「お前らの婚約者だろ?お前らが止めろよ」
仲のいい皇子達の婚約者同士が仲悪いってどういうことだよ。。
「それが止められなくて…」
「なんかお互いに意識が相手に向いているっていうか…。」
「これがこの国の皇子か、なんと情けない。そんなんじゃ人を治めることなど「あーら、領地が寒すぎて脳まで凍ったのかしら?心も頭も凍っているなんてかわいそうね冷血女さん?」
「ふふ、そちらこそ暑すぎて脳が干からびているか心配でしてよ?良い医者を紹介しましょうか?もちろん頭のね!」
おおよそ華やかな社交界に相応しくない罵倒が聞こえて僕は口をつぐんだ。
……止めろって?僕にどうしろって言うんだよ。




