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訓練

 実力のない冒険者は外に行くのが怖いので、街の中で出来る依頼をやっていたのだろう。

 

「ああ、それね」


「何か知っているのか?」


 おや、彼らは知らないようだ。まあ新聞とか情報媒体を読む年齢じゃないか。


「街の外に危険なモンスターの群れが来ていたんだ。」


「ええっ!?」


「でももう大丈夫だよ。アスタをはじめとする冒険者たちが討伐したからね」

 

「そ、そうか…。やっぱアスタおじちゃんはすげーや!」


「お、危険のモンスターと聞いてビビったか?」


「ビビってない!」


「まあ、それでもう騒ぎは収まったはずだよ」


「それがまだダメらしいって聞いたんだ。街の周りが不安定とかギルドのにーちゃんが言っていた」


 ああ、街の周りというと——エリーニュスの出てきたダンジョンと忌命の森の件か。この街も十分な戦力がそろっているが、ダンジョンに古代遺跡がまとめて発見されるという珍事にに忙しくなっているのか。


 この小さな街では処理するのは大変な事なのだろう。日常的な些細な依頼にすら構っていられないほどに。


 しかし、街の周りが不安定…ね。


 一般人にはまだまだ情報が伏せられているのだろう。良い事だ。ダンジョンの方はどうでもいいが、忌命の森の情報が流れていた日にはこの街をどうにかしなくてはならなくなる。


 出来ればそんな事はしたくないものだ。


 まあ、そんな大人の事情ってやつでデミグは仕事にありつけないってわけか。


「でも肉買えないことは無いだろう?」


 そういやこの街長のドウルプダはモンスターテイマーだったはずだ。


 そのノウハウを生かしてこの街は畜産業にも力を入れている。しかも街の外に出れば多様他種の肉が歩いている。


 もちろんそのモンスター達を容易に狩れる者から見た話だが。そういう訳でこの街で肉の価格はそれほど高くないっていう訳だ。


「それが…貯めに貯めたお金を最近使い切っちゃって」


「何に使ったんだ?」


「…剣」


 ああ、武器を買ったのか。


 騎士になるという立派な志があっても、彼に剣を買ってくれる親や稽古をつけてくれる師匠はいないのである。


 夢への第一歩として自分で貯めた金で剣を買ったのか。


 良く買えたな、と思う。


 まっとうな鍛冶屋や武器屋なら子供に売りつけたりしないと思うのだが。しかも子供である彼には安く無い出費だっただろうに。


 おそらくギルドの簡単な依頼を数えきれないくらい受けたのだろう。


 彼がそんな事をしている間にも、同じ夢を持つ子供が騎士になるべく修練を積んでいるかと思うと、生まれた時点で人の今後はある程度決まっているのかもしれないと思う。


 彼の進む道はきっと茨の道だ。


「な、なんだよ急に可哀そうな顔して…」


 おや、顔に出てしまったのだろうか?


「いや、お前モテなさそうだと思ってな」


「なんだよ急に!将来偉い騎士になってモテまくってやる!」


 偉い騎士だからってモテるわけではないが。肩書だけに集ってくる人と関係を築いても、きっとそれは本物の関係ではない。


「な、なんだよ!そんな顔してさ!…そうだ、メリル!」


 憐れまれるのが我慢ならないのか、デミグが何か言いだした。

 

「何?」


「メリルって冒険者だよな?」


「まあ、うん」


「じゃあさ、俺に稽古つけてくれよ!」


「騎士になりたいんじゃなかったのか?」


 冒険者の技はモンスターを相手にするもの。基本的には対人に重きが置かれる騎士とは違うのだが。


「それでも少しは知っているだろう?なぁ、ちょっとでいいから教えてくれよ」


「アスタもいるじゃないか。よく来るんだろう?」


「おじちゃんは皆の人気者なんだ。俺一人で独占するわけにはいかない」


 ついに「アスタおじちゃん」から「アスタ」の部分が消えた。


 おじちゃん呼ばわりされたくないアスタはどう思うだろうか。


 それにしても頼み込んでくるデミグの姿勢は必死だ。まあ、滅多に他人から教えてもらえる機会は無いからだろう。


 孤児院の子供にはそんな当てなど殆ど無いだろうし。


「…少しならいいぞ」


「本当?」


「今から嘘にしてもいいぞ」


「よっしゃ!じゃあ剣を持ってくるね!」


「いらんぞ」


「えっ!?剣も無いのに何を訓練するんだよ?」


 むしろ剣術しか出来ない騎士なんて間抜けなのだが。


 いや、これは彼に言わないほうがいいな。


 デミグは何も知らなくてもしょうがない立場だし。


「例えばお前が騎士になったとしよう」


「…え?うん」


「そんなお前の前にスリが現れたどうする?」


「華麗な剣術で倒す!」


「例えばそれがやせ細った老人や子供でもか?」


「えっ!?…いや」


「分かっただろう?スリ程度に武器を持ち出す騎士はいない。そもそもよほどの事態が無い限り、騎士でも街中で人に剣を向けるのは禁止だ。」


 きっと彼の思う騎士は悪者をやっつけて弱い人々を救う者だろう。


 だが悪者にも、罪もそれを犯した理由も様々だ。


 明日生きているかも分からない上に苦しむ人や、身寄りのない子供、どうしようもない理由で悪事を働くもの。


 そういう者達をも騎士は相手にしなくてはいけないのだ。


「メリルの剣ってなんか迫力あるし、剣に自信ありそうだから教えてくれると思った」


「自信はあるぞ。だがお前には早い」


 体が未熟な子供にどう教えればいいかもよく分からないし。


「…じゃあ、メリルは何を教えてくれるの?」


「いったん外に出るぞ」


「ま、待ってよ!」




 

「…それで何を教えてくれるか早く言えよ!」


「そんなにせっかちだとモテないぞ?」


「えっ!?本当?」


「知らん。今から教えるのは剣より役に立つものだぞ」


「そんなものあるのか?」


「見せたほうが早いな」


そういって彼を体術で投げる。


「え!?うわぁぁぁぁ。…あれ、痛くない?」


「これが人をうまく捕まえる方法だ。姿勢を崩し、地面に固める」


「これが剣より役に立つの?」


「さっき言ったように剣を向けられない状況とかあるだろ」


「うん」


 地面に押さえつけられたままデミグが答える。


「あとは剣を盗まれたり、壊されたりした時だな。剣が無いから降参しますなんてカッコ悪い騎士になりたくないだろ?」


「それは嫌だ!」


「じゃあ体術が使えるっていうのは分かっただろう?」


「ああ、これを教えてくれ!」


 押さえつけていた手を離すと彼はすぐに立ち上がる。

 

「じゃあ、はいっと」


 起き上がった彼をまだすぐに投げ飛ばし、地面に腰をつかせる。


「ちょっ!?…何するんだよメリル!」


そう言いながら立ち上がる彼をまた投げ飛ばす。


デミグはまだ幼い。体は軽いし、全然対応できていないし楽に投げ飛ばせた。


「いやぁ、誰かに教えるなんて僕も経験ないからなぁ。体で覚えてもらうしかないなぁ」


「なんだそのいやみったらしい言い方!」


 決して誘拐犯扱いされたのを根に持っているわけではない、うん。


 それからデミグは何回か地面に投げ飛ばされることになる。






「もういいかな」


 デミグが起き上がるのが遅くってきた。体力がなくなってきたのだろう。


 だが体に痛みは無いはずだ、傷をつけないように留意したし。


 心の傷までは知らんが。


「もういいってことは俺も体術を覚えたって事か!?」


「地面転がっただけで体術上手くなる訳ないだろ。こういうものがあるって紹介しただけだよ」


 強いて言うなら受け身ぐらいは覚えたかもしれない。


「えー。なんだよ…」


「一日特訓しただけで急に強くなる訳ないし」


 ラノベの主人公じゃあるまいし──という言葉は呑み込む。


「でも何をすればいいかは分かっただろ?」


「うん、俺には足りないものが多くあるって分かった。剣を買ってちょっと満足しちゃったんだと思う」


「まあ騎士にとって一番大事なのはこんな技術でも剣でも無いけどな」


「一番大事なもの?」


「剣を向ける相手を間違えず、弱き民の盾になり、秩序を守る者。…知っている?」


「知らない」


「シュティーア家の騎士の心得らしい。」


「へー、試験に出るのか?」


「さあ、どうかな。まあ、騎士にとって一番大事なのは心だ、ということさ」


「…う、うん」


 なにかいまいち煮え切らない表情だな。良い事を言ったつもりなのだが。





「…秩序ってなんだ?」


「…大人になったらわかるよ」


 良いこと言ったはずなのに、うまく締まらなかった。



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