仲良く
「で、仲良くするってどうするんだ?」
また肉でもあげればいいのだろうか?まるできび団子を配って部下を集めた桃太郎の気分だ。
あのきび団子は相当やばい代物だと思う、食えば家畜の類でも鬼と戦えるようになるから。
この干し肉はあのきび団子程の洗脳効果や肉体強化をする効果も無いが、子供たちにとって十分魅力的に映るだろう。
「なんだ、肉が欲しいのか?」
「院長がみだりに他の人から物を貰ってはいけないって言っていたから、いいや」
その言葉はラスに言い聞かせてやれよ。
「じゃあどうするんだ?」
「う~ん…そうだ、夢を語り合おう!」
「…夢?」
「そうだよ!大きな夢を持つことは良い事って院長がいつも言っている!」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、まずは俺からね!」
「おう」
「僕の夢は騎士になるんだ!騎士になってアスタおじちゃんみたいに、力ない人を助けるんだ!」
おお、立派な夢だな。身近にいる大人に憧れるって言うのも子供らしい。
「騎士ってどういう騎士だ?王国騎士や貴族の私兵とか色々あるぞ?」
「しへいってなんだ?」
ああ、知らないのか。
「国じゃなくて貴族に個人的に仕えている騎士…の様なものだよ」
「そうなんだ。給料はどんな感じ?」
「…急に現実的な事を聞くね?」
「給料が多い方が…その…」
「ん?」
チラチラと揺れる彼の視線の先を追えばラスがいた。
ああ、なるほど。
「なんだ、好きな子のためか」
「そ、そうだよ!お金は大事だろ!…それで私兵っていうのは給料多い?」
「多いと思うぞ。特に大きな貴族に仕えるほど貰える給料は多い」
「おお!」
「でもその分なるのは難しいぞ」
「大丈夫、毎日特訓しているから!」
特訓ね…まあ、それだけではなれないのだが。
貴族の私兵になるのは実力も大事だが、そもそもその貴族に気にいられるかどうかだ。どれだけ優秀でも雇う本人に目を付けてもらえなければ雇ってもらえないものだ。
「たしか一番大きな貴族ってシュティーア家だよな?」
「ああ、そうだが」
うん、この答えで間違っていないはずだ。この国の中で、この大陸の中で、この世界の中で…という問いなら間違ってはいない。
この宇宙の中で、とか異世界とか別次元とか含まれてくると正解だという自信は無いが、そもそもそんな概念すら知らないだろう。
「じゃあ、僕シュティーア家の私兵になる!」
「シュティーア家の騎士試験は難しいって聞くぞ?」
貴族の格としても大きいし、国の武の頂点たる家だ。色々な野望を持ったものが毎年シュティーア家の騎士になろうと集まってくる。
シュティーア家の騎士試験に落ちても、好成績を残せば他の貴族家でも雇ってもらえる可能性が大きいので、ダメもとで受けに来る人も多いのだ。
「大丈夫、夢は大きい方がいい!」
まあ、まだ純粋な子供にそんな現実を教えてやる必要もないか。
「そうだな、夢は大きいほうがいいよな。」
「それじゃあ、夢を教えてよ!誘拐犯みたいなお兄さん!」
……こ、こいつ。
少し感心したらすぐこれだ。
こいつが将来シュティーア家の騎士試験を受けに来た時、僕の一存でこいつの評価を半分にしてやろうか。
…いや、落ち着け。相手は子供だ。
いつもカレルに翻弄されているせいか、自分は煽り耐性が低いのかもしれない。
「誘拐犯はやめてくれ、僕はメリルだ」
「それじゃあメリルの夢は何?」
改めて聞かれると困るな。自分の将来は生まれた時点で大体固まっているからな。夢というような目標は無いな。
悩んでいる僕を見ると、デミグはこんな事を言ってきた。
「もしかして…メリルって夢の無い人?」
なんか引っかかる表現だな。
何も言わずにこのままなめられるのも面白くない。
そうだな、ここは何になりたいかというよりも、何をしたいかを考えたほうがいいのかもしれない。
「…僕の夢は世界中を冒険する事だよ。まだ誰も知らない様な所をね」
そこで思い至ったのはやっぱり僕は冒険が好きな事だ。
いつか自分の機甲を顕現させて、自由な冒険を楽しみたいものだ。
「おお、立派な夢だね。…俺の夢よりは小さいだろうけど。」
一言多いぞクソガキ。
「話題を変えよう」
「…いいけど」
夢について語り合うんじゃなかったのか、と思ったがもう飽きたのだろうか?
「メリルって年上だから、色々経験あるんだよな?」
「そりゃあ、うん」
彼は何を聞きたいのだろう?
騎士になりたいって言っていたし、強くなる方法とかか?
そう聞かれたら強い武器を手に入れるか、訓練しまくるとでも答えてやろう。
「その…女の子と仲良くする方法教えてくれない?」
……は?
「…そんな方法知らん」
「そんなこと言わないでさ、どうやってラスの気を引いたんだよ?」
「ラスの事が好きなのか?」
知っていてあえて聞くのは少し意地悪だっただろうか。
「べ、別に違うし!そんな事どうでもいいじゃん!」
うんうん、分かりやすい。
「なんか食べ物とか渡せばいいんじゃない?」
「それが…飴とか渡してもダメなんだ。」
ああ、そういえばラスは甘いもの嫌いって言っていたな。
それにしても──
「飴なんか手に入るのか?」
嗜好品を手に入れる金なんて孤児院の子供には無いと思うが。
「街長が3か月に1回くらいみんなに配ってくれるんだよ。」
ドウルプダはそんな事をしていたのか。
どっぷり膨らんだ腹といい、横柄そうな雰囲気といい、悪徳貴族とかに見えるのにそんな善行積んでいたのか。
「ラスは甘いもの嫌いって言っていたぞ」
「ええ!?」
ああ、こいつも僕と同じ様に女の子には甘いものというイメージがあったのか。
「知らなかったのか?」
どれくらいラスといるか知らないが、今日初めて会った僕よりは長いだろう。
「…うん、ラスは全然自分の事を教えてくれないんだ」
「…そうなんだ」
悲壮な表情でそんな事を呟くデミグに僕はそんな事しか言えなかった。
「ラスと仲良くなりたいんだよね?」
「…うん。でもどうしたらいいか分からないんだ」
僕も知らないがな。
「アスタおじちゃんには聞いたの?」
おじちゃんという言葉に反応したのかアスタがこちらに振り返った。
子供たちの雑音の中でよく聞き分けられたな。
本当におじちゃん呼ばわりを気にしているのだろう。
「うん。…でもアスタおじちゃんはそんな経験ないから分からないだって」
ああ、そういえばアスタもそういう経験は無いって言っていたな。
「…院長は?」
デミグにとっての身近の大人と言えばもう一人いるだろう。孤児院の院長なら僕やアスタよりも長く生きている分、そう言う事に詳しいかもしれない。
「それが何を聞いても笑って教えてくれないんだ。」
「そう」
院長は院長でなにか考えでもあるのだろうか。
「それでどうやってラスの気を引いたの?」
なんかうまい具合に別の話題に持っていこうかと思ったが、恋する少年の思考を別の方向にそらすのは難しいようだ。
「…干し肉をあげたんだ」
「……肉?」
もちろんただの干し肉ではない。
舌が肥えた貴族でもおいしく食べられるように加工した特別なものだ。
「…肉か。肉って買うと高いんだよな?」
「まあ野菜とかよりは高いけど。…ていうか金なんか持っているの?」
「ああ。冒険者ギルドに行って簡単な依頼を受けているんだ。」
ああ、そういえば冒険者ギルドはそんな事も出来るんだったな。
誰にでもできる労働の依頼──日雇いバイトみたいなものだ。特に専門技術の必要が無い本当に些細なものは、冒険者という肩書を持っていなくとも受けることもできる。
こういう身寄りのない孤児院の子供が依頼を受けることもできるのだ。
そうやって金を得らせることで、彼らが社会に反逆する存在にならないようにする機能があるとかなんとか。
まあ、泥棒や強盗になられるくらいなら簡単な仕事を割り振ってやろうという訳である。
「金あるなら買えるんじゃないの?」
「それが最近、簡単な依頼が他の冒険者に持っていかれるんだ。外が危険だからって。」
ああ、そういえばモンスターの動きが活発していたな。だからこそケロルベスとオルトロスの群れが街の近くまで現れていたし。




