機甲ゴーレム
「行くしかないだろう?」
人間以外の生物が近づかない怪しい森。そこで偶然見つけた怪しい洞窟。いいじゃないか、それでこそ冒険らしい。
「そうだな、ここで立っていても仕方ない。もしかしたら連中も撒けるかもな」
連中とは僕の護衛達の事だろう。そういや彼らとは長い付き合いだったな、と思う。脱走するたびに彼らが僕を追うのだが、もし捕まったらカレルが恐ろしい折檻をすると言っているので何としても捕まりたくない。
未だに捕まったことが無いのでどんな折檻が待っているが知らないが。カレルに聞いても教えてくれないのだ。そして「知らない」ということが余計に不安を煽る。
ちなみに僕を捕まえることが出来なかったら、護衛達の訓練量が跳ね上がるらしい。そう告げられた時の彼らの絶望した顔を思い出すと、普段どれほど訓練しているか分かるものだ。
あれ以上増えたら死ぬというラインでやっているのにさらに増えるとなると誰だって絶望するだろう。まあその大変な仕事は給料に反映されているので、我慢してほしい。
それに僕が護衛達に悪意を持っているわけではない、ただ彼らの成長するチャンスを作っているだけなのだ。
理想的な雇用主である。裏で彼らのリーダーからも不定期的に脱走してくれと言われているし、訓練させる言い訳として使いやすいのだろう。
護衛隊長としてどうかと思う発言だ。話が脱線するところだった。今、考えるべきは目の前だな。明らかな人工物である洞窟…いや、地下通路と表現したほうが正しい。
自然の洞窟には存在しないトラップを警戒しなくてはならないという事だ。僕は魔力そのもの直接を視ることが出来るが、魔力を使わない罠などいくらでもある。
気を付けて進もう。
「先に降りるぞ」
そう宣言ながらアスタが穴に飛び込む。僕もアスタに続き、足に軽い衝撃を感じながら着地する。
「さあ、どっちに進もうか」
アスタの攻撃で地下通路は真っ二つに割れているので、2方向から選べる。
「右か左か、どっちがいい」
「アスタの勘に頼るとするよ」
この隠し通路の存在を見つけたし。
「それじゃあ右だな」
アスタが先に踏み込み、僕が後ろに続く。 魔法を多用する僕と肉弾戦に特化したアスタの事を考えると、妥当なフォーメーションだ。
まあ、特化というかアスタは魔法が使えないのだが。
「やっぱここは大昔の貴族の逃亡用に造られたのかもね」
罠も無ければ、迷路になっているわけでもない。緊急時に安全に逃げられるように最低限整えられた地下通路だ。
「まだ決めつけるには早いんじゃねぇの?」
この地下通路がどれほど長いが知らないが、たしかにまだ大して歩いていない。だがずっと同じ景色が続くというのも精神的につらいものがあるのだ。
「そういえばこっちの方向って街の方?」
「ああ」
よく考えると僕らは街に向かって進んでいる。街と何かつながりがあるかもしれないからアスタは右を選んだのだろう。
危険な何かが無いか調査し、事前に災厄を止めるために。まあ、そんなものは無さそうだが。
「おい、メリル」
「ここまでかな」
あれから曲がり角も無くただまっすぐ進むと僕らを阻む壁にぶち当たる。どうやらここで行き止まりのようだ。残念、特に成果も無く帰還することになりそうだ。
この街に来た最後の冒険としてはあっけない。まあ、冒険というのは当てが外れるときもあるものだ。
「引き返すか」
「ちょっと待て、メリル」
そう言うとアスタは壁を調べだす。
「壁を叩いてみろ」
「何か見つけたの?」
「やればわかる」
「分かったよ」
壁に手を当て、軽くノックするとコンコンと軽快な音が響いた。
「……なるほどね」
こんな風に叩いて音が鳴るという事は、壁の向こう側には空間が広がっていることだ。壁の反対側が土や砂利だけならこんな音はしないだろう。
「よく分かったね」
「行き止まりだからってすぐに引き返すのは素人だ。多少は調べないとな」
「そういうものなのか」
「冒険者ならではの常識…っていう訳じゃねぇが、用心深いやつなら調べるさ」
そういうところがまだ僕には足りない点なのだろう。
「それで壁をどうやって壊すんだ?」
向こうに空間があると分かっているのに進まない…なんてことは無いだろう?
「俺の魔剣で」
だろうね。
カラドボルグを適当に振るい、目の前の壁を叩き壊す。瓦礫が崩れ去り、土煙が晴れた先には荘厳な空間が広がっていた。多少ボロボロだが、金の刺繍を施された幕が垂れ下がり、明るいシャンデリアが優しい光で空間を照らす。
床は大理石が並べられていて、壁も白く塗装されている。ちょっとした貴族のパーティー会場みたいだな。
「メリル、あの垂れ幕の紋章に心当たりは?」
「無いね」
所々にある垂れ幕にはどれも同じ「ドラゴンに剣が刺さっている」紋章が掲げられている。この質問をするということはアスタも心当たりがないのだろう。
そしてアスタの視線はこの質問にも関わらず、全然違うところに集中している。
僕もそうだ。
この広い空間の奥には巨大な卵型の宝石らしきもの…そして一体の歪な像。
いや、ただの像ではない。僕らが一歩踏み入れた瞬間にこちらに剣を向けてきたのだ。
「あれは…ゴーレムか?」
ゴーレムとは物質種の中で最も数が多く、有名なモンスターだ。偽物の生命を与えられ主の命令を忠実にこなす被造者であり、恐怖などといった感情を一切持たない。
土や石、金属など様々な材質でつくられ、また、その材質によって強さが変わる。当然、硬い材料を使うゴーレムほど強力で厄介だ。通常ゴーレムはなにかしらのモンスターや人間を模して造られる。
巨大な竜を象ったものや、申し訳程度に石をくっつけて人型にするものもある。だが、目の前の象のようなゴーレムは聞いたことが無い。
重鎧を纏い、巨大な大剣をこちらに向けているゴーレムはどう見ても──
「──機甲」
アスタは小さくつぶやく。あれと戦う事を考えているのだろう、表情が苦々しい。だが僕は他の事が気になっていた。機甲は人間の中でも純人族のみもつ特殊能力だ。
そのポテンシャルは大きく、生身にはありえない防御力とパワーを実現する。純人族を頂点たらしめる最強の能力だ。だがゴーレムを機甲に似せて作る意味なんてない。
ゴーレムは生物特有の身体的リミッターも無ければ、堅固な防御力を持っている。大剣だけ持たせても十分強い。わざわざ機甲の形にする意味はなにかあるのだろうか?
しかも複雑な色で装飾も施されている。 普通のゴーレムなんて材料の色そのままで、良くても2,3色なのだが。
このゴーレムはアニメの主人公機みたいな配色だ。
しばらく睨みあうが機甲ゴーレムは動かない。試しに少し中に足を踏み入れても微動だにしない。
そこで僕らは少しだけ警戒を解く。おそらくあのゴーレムが守っているのはあの卵型の宝石だけなのだろう。
ゴーレムの方に注目しながらこの大広間に足を踏み入れる。軽く周りを確認しても、調べるべきなのはあのゴーレムと宝石だけだ。ゴーレムのもっている魔力はかなり薄い。
まだ戦闘状態に突入していないからだろうか?反面、宝石から漏れ出ている魔力はかなり濃密だ。
もしかしたらあれが忌命の森にモンスターが近づかない秘密かもしれない。
だが、あのゴーレムもモンスターという部類なのだが、命ある生物ではないので対象外なのだろう。さて、どうしたものか。
あの宝石を調べたいのだが、おそらくゴーレムはそれを許さないだろう。今も少しずつ位置を調整し、万全の体勢で僕らを迎え撃てるようにしている。
ここまで人に合わせて細かい動きができるゴーレムは中々存在しない。まるで本物の人が操る機甲のようだ。
「どうするアスタ?」
「二手に分かれて責めよう」
「分かった」
頭が一つだけの機甲だ。ケルベロスみたいな多方向への警戒には限度がある。先手をとるにはいい案だな。




