森の探索
しばらく歩いてみてもやはりこの森で動く生き物が見つかる事は無かった。あれから色々推測してみたが、やはり仮説が建てられない。
実はこの森の植物たちが食肉性だからモンスター達は近づかない…とか考えたが、それらしい植物も見当たらない。まあ、そもそもそんな危険な場所に冒険者たちが巡回するはずもないか。
普通に立ち入り禁止の措置をとるはずだ。しかしこういう森では目を凝らせば小さな虫ぐらいはすぐに見つかるのだが、それらしき影もないのはおかしい。
本当にモンスターに避けられている森なのだな。ここで気になる点と言えば、「なぜ人間は避けないのか」だろう。純人族である僕も、獣人族であるアスタもこの森に忌避感は無い。
アスタに聞いてみれば、エルフやドワーフなどの他の人間も同じらしい。人間は避けないが、モンスターは避ける……この差が生まれる理由があるはずだ。
「やっぱ変じゃないか、鳥すらも避ける森って」
「まあ、言われてみればそうなんだが…」
「何かこの森のおかしいと思う所は無いのか?」
「…いや、特にねぇな。」
……やはり思いつかないか。
長年こういう森だと思い込んでいたのだ、急に思いつくのは難しいだろう。だが原因を探すとなると、やはりアスタに頼りたいところである。
だが何も思い至らないのであれば仕方ない。頭で思いつかないのなら、フィールドワークして探すとしよう。
一般的に人間の中でも獣人族が一番モンスターと似ている感覚をもっていると言われている。獣人族の中には人間よりもモンスターに近い生活をしている種族もあるぐらいだ。
優秀な冒険者らしくアスタは特に五感が優れている(本人談)ので、その感覚を頼りたいところである。
しばらく周辺を歩き回ったが、とくに変わらぬ景色しか無かった。一応、追われている身となっているので周りを警戒しながらゆっくりと、だが。もし捕まったら即座に街へとんぼ返りコースだろう。
機甲をまだ持っていない僕では機甲使いである護衛達には流石に敵わない。 アスタも囲まれれば打つ手無しとなるだろう。家の外を歩ける機会は滅多にないのだから、こういう時にこそ歩き回りたい。
方針も無くフィールドワークするのは無謀だと勉強になった。どれだけ歩いても何かしらの成果が得られなかったのだ。具体的な目的もなく、ただ彷徨っただけである。研究者になるとこんな空振りとばかり戦い続けるのだから、すごいとは思う。
「はぁ、やっぱり分かんねぇな」
ため息をつきながらアスタが岩に腰掛ける。それでもやめようとしないのは彼の信念なのだろう。
もしモンスターが寄ってこない秘密が判明したら、救われる人々は多くいる。街ならいざ知らず、村や集落程度の防衛力などたかが知れたものだ。
基本的にはなるべく街の近くに住居を移したり、危険なモンスターが居なさそうな所に村は出来るのだが、気まぐれを起こしたモンスターが出てくるだけで壊滅の危機にさらされる。
アスタはそういう人々も助けたいのだろう。ただ、いくら立派な信念を持っていようが、先行きの見えない事柄には人はやる気を失うものである。
アスタは気を紛らわせるつもりなのか、先ほどからカラドボルグの先を地面にぐりぐりと押し付けている。魔剣の名が泣きそうな扱いだ。
かくいう僕も少し飽きてきた…というか不毛な気がしてきた。もし秘密を見つけたら世紀の大発見なのだが、見つかる気がしない。もしかしたら本当は秘密なんて無いのかもしれないな。
ただ偶然にもどんなモンスターもこの地に根付かず、鳥でさえも視界に入らず、虫でさえも生息しなかった可能性が…とまで思ったが、すぐに自分の考えを鼻で笑う。
そんな偶然が起きる確率はいったいどんなんだ、と。
両手の指以上の桁でも全然足りないだろう。
ふと横を見てみると、アスタが掘った穴は僕の腕ぐらいまでの深さになっていた。魔剣カラドボルグの鋭さのおかげか、アスタのパワーがすごいのか。
「やめなよアスタ、せっかくの魔剣が汚れるだけだぞ」
「土の中に虫でもいないかなと思ってよ」
「いるとは思えないけど…」
アスタの掘った穴をのぞき込むが、ただの土や石しか見当たらない。色も匂いも特におかしなところのない土だ。
「ただの土しか見当たらんな」
「そうだね、もうそれほっといて行こうよ」
「いや、もう少し掘ればなんか出てくる気がする」
…パチンコで沼にはまった人みたいなことを言っている。
「まあ、あと少しなら」
「よし、ちょっと離れていろ」
「何をする気だ?」
「こうするんだよ!」
僕の問いには答えず、アスタはカラドボルグを高々と持ち上げる。魔力を注がれた魔剣は雷のうなりをあげ、いかにも破壊力抜群といった感じだ。
「ふん!」
アスタの気合を込めた一撃は地面を割り、罅を入れさせる。深さはさっきの穴よりも遥かに深い。
しかし、今の一撃は相当なものだったな。
父のラータウロの機甲技<ブレイク・スマイト>の半分程度の威力はある。魔剣を持っているとはいえ、この国最高クラスの機甲、ラータウロの半分の威力を生身で出せるのはとんでもない話だ。
4種族いる人間のなかでも獣人は素の身体能力に優れる傾向はあるが、その中でもアスタは抜きんでているように感じる。シュティーア家にいる獣人でもアスタ並みの力を持っているのは片手の指にも満たないだろう。
そんな事を思いながら感心しているとアスタがこちらにどうだすごいだろうと言わんばかりのドヤ顔を向けてくる。
「こんな威力の攻撃見たことないだろう?」
「……ああ、うん」
見たことある…なんて鼻高々なアスタの顔見ながらは言うのは僕には無理だった。
「でもちょっと乱暴すぎやしないか」
「なんでだ」
モンスターが近づかない原因はまだ判明していないが、いくつか推測できる。例えば魔道具や魔法陣、そして未知の特殊なモンスターだ。
そういうものが今の一撃で破壊されたり絶命してしまったりしたら台無しである。あと未だ僕らは追われている身である。
もし追手…というか僕の護衛がまだ森の中にいるのなら、今の音でこちらに向かってくるだろう。アスタにこの事を話すと、申し訳なさそうにとんでもない事を言い出した。
「どうしても掘らないといけない気がしたのでな」
「…なんでさ?」
「勘だ」
勘頼りでこういう行動であまり褒められたものでは無いな。
「…それで、何か見つけたか?」
「おお、今から見てみ…いや、暗くてよく見えんな」
あまり光が差し込まない森にいるうえに、目の前の穴は結構深い。光源が無いと中まで見通せないだろう。
「なんか光るもの持ってない?」
「ちゃんと持っているぞ、冒険者必需品だ」
アスタに渡されたランプで穴の中を照らすが、やはり何もない。
「メリル、もっと奥の方も照らせないか?」
「手が届かないよ」
穴の深さが深すぎるせいで、一番奥までは上手く照らせなかった。ランプの明かりがあまり強くないせいでもあるが。
アスタもこれしか無いと言っている以上、贅沢は言えない。
「メリルの魔法で照らせないか?」
「僕の属性は闇だけど?」
火属性や光属性ならともかく。
「なら俺の魔法で…」
「……」
アスタの魔法ネタはいつも滑っている気がする。自虐ネタも連続するとだんだん笑えなくなるというものだ。
「まあ、僕の魔法を使うってのはありだね」
そういって手から闇をあふれ出し、触手をかたどっていく。
「お、釣りでヒトデを捕まえたのはその魔法か」
「そうだよ。これにランプを持たせて奥を照らす」
「でも大丈夫か?」
「何が?」
「闇魔法って明るいものに近づけたら消えるって聞いたことあるぞ」
「そんなのデマだよ。そんなので消えたら昼間は殆ど使えないじゃないか」
「おお、そういうものなのか」
闇魔法を使う人はレアだし、変に情報が交錯していった結果、おかしな噂になったのかもな。希少な魔法属性程そういう噂は多いのだが、特に闇魔法は多岐にわたる。
感情が浮き沈み激しくなるとか、サイコパスになるとか、人生が呪われるとか…眉唾なものばかりだ。
もちろん全て事実ではない。
闇属性だって魔法の中のただの一属性だ。伝説の勇者がもったとされる雷属性だって、他の奴が雷属性をもったからって勇者になる訳ではない。
「よし、それじゃあやるか」
ランプを持たせた闇の触手を伸ばし、奥まで照らす。
「うん、やっぱり何もないようだ…ん?」
アスタは地面に向かって攻撃をしたのだからか、穴は地面からほぼ垂直に出来ている。なのに今照らしている所には不思議な横穴が広がっていた。
「やったなメリル。なにか見つけたかもしれないぞ」
「…どうしてここが分かったんだ?」
「勘だ」
僕は<記憶>の世界の童話、「はな〇かじいさん」に出てくる犬のセリフ「ここ掘れワンワン」を思い出した。
…いや、アスタは牛だし「ここ掘れモーモー」の方が似合っているかもしれない。




