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教団との会談2

 


「もっと話を聞いてやってもいいが、条件がある。」


「…それはどんな条件ですか?」


「そこで卒倒している枢機卿の座を君が──奪う事だ。」


「奪う!…私に……枢機卿になれという事ですか?」


 彼の後ろにいる枢機卿派であろう何人かが殺気立つが、何もできない。下手に動いたら3倍以上の戦力差で叩き潰されるだけと分かっているのだろう。


「そこにいるカテ…なんとか卿の話を聞く価値は無いが、君の話なら聞こうじゃないか。」


 目の前の彼は固まったままだ。今まで国を正すために腐心していた彼は権力の座を掴むなど考えつかなかったのだろうか。


 だが彼にとっても悪くない話だ。結局権力が無ければ国を変えることが不可能だ。どれほどの清らかで正しい願いを持っていても実行する力が無ければそれは妄想と変わらない。


 それに彼が権力を握れば、こちらとしても都合がいい。彼はきっと僕を恩人ないしそれに近いものと認識するだろうから。


「君は先ほど教皇の助けになりたいと言ったね?」


「……ええ。」


「なら枢機卿の座に座るべきじゃないか?枢機卿になればもっと教皇のために働けると分かるだろう?」


 今度は返事がない。だが顔を見ればわかる。自分が枢機卿になり、教皇の隣で国を正している姿を想像しているのだろう。


「…だが、私などでは…。」


 その後に何が続くのかは僕は知らない。家柄か、財力か、コネか、彼が枢機卿になるには何かしら足りないのだろう。


 もう一押しだな。


 改革後の教国がどれほどのものになるが分からないが、今の教国よりは取引相手としては魅力的だろう。なのでここで僕が助けてやることで最後の一押しとしよう。


「まだ名前を聞いていなかったね。」


「…私の名はモーデルです。」


「よし、なにか書くものと紙を持ってこい。」


 後ろにいる護衛に命令すると、すぐにちゃんとした高級な紙が差し出される。これから書くのは正式なものなので、こういう紙ではないダメなのだが、流石に準備がいいな。


 渡されたペンを紙の上に走らせる。


 文面は主に今の枢機卿が無礼だったことと、今目の前にいるモーデルの推薦状だ。


 モーデルの位がシュティーア家の人間と話せるぐらい高くなったら教国の話を聞いてやろうと思っていることも書き連ねてある。彼ならば優れた枢機卿になって教国を導いていけるだろうと。


 貴国との関係をよりよくしたいとも付け足して、内容はこれで終わりだ。枢機卿の名前が良く分からないので枢機卿とだけ書いたが、状況的に誤解されることは無いだろう。


 そして最後にメリル・シュティーアと書き、シュティーア家の押印をする。


 ここまですれば枢機卿の首がすげ変わることは間違いないだろう。今の教国も隣の大国に睨まれるぐらいなら枢機卿の首を入れ替えるぐらい何ともないだろう。しかも挿げ替えたら大国に話を聞いてもらえるというメリット付きだ。



 書き終わった紙を目の前のモーデルに見せる。


 彼の視線は紙に固定され、震えながらも手はしっかり紙を握っていた。


「……こ、これは!?」


「後日、これを正式に教国に送るよ。それで君は枢機卿になるだろう。」


「……私が。」


「今日の話はこれで終わりだ。そこの枢機卿を連れて帰ると良い。」


「……分かりました。本日は時間を割いていただき、ありがとうございます。」


「次には代表が変わっていることを期待するよ。」


 彼の眼にはもう迷いがない。帰ったら愛しの教皇のため、出世する算段をつけたのだろう。ぞろぞろと扉から出て行く教団を見送り、最後の一人が出るのを確認し、姿勢を崩そうとするが――途中でやめた。


 あっぶね、後ろの連中の目を忘れるところだった。


「よろしかったのですか?」


 後ろから護衛の一人が近づいて僕に問いかける。こいつは確かこの護衛連中の副隊長だったやつだな。カレルの狂信者である護衛隊長と比べて比較的まともに話せる奴だ。


……いや、護衛隊長が変人なので比べるのはコイツに失礼か。



「シュティーア家の名前を貸すことかい?」


「ええ。教国に対しては関知せずという姿勢を貫くつもりかと。」


「まあ、あんな微妙な教義のせいで自分の首を絞めている国だが、わりかし国土も人材もある。正しい方向に改革したら少しは見所のある国になるだろうし、今のうちに首根っこ掴んどくのも悪くないよ。」


「なるほど、投資ですか。」


「勝算はあるほうだと思うよ。」


「家の者を教国に送りますか?」


「そこまでしなくていいよ。自力で正せないならそこまでの国って事さ。」


「かしこまりました。」


 さて、今蒔いた種が実るのは何年後か何十年後か。どうかこれ以上腐らないでほしいものだ。







 会談が終わったので大部屋から出る。ここは街の業務を管理する役場で、先ほどの部屋の隣には街長の部屋もある。


 とりあえず話は終わった報告でもするか、もしかしたらどうなるか心配しているかもしれないし。そんな事を考えながら扉にドアを開けようとすると中から声が聞こえてきた。


「はっはっは、どうだギルドマスター!儂のひらめきは!」


「いや、まったく見事だね!僕らの胃痛の原因を吹き飛ばす妙案だ!」


 どうやら真っ昼間から酒盛りをしているようだ。きっとなにか良い事でもあったのだろう。


「いやぁ、高位貴族につづきカスドラク教までやってきたと知った時は、世界で自分が一番不幸だと思ったものなのだが、まさか自分からあんな案が出てくるとはな。」


 案とはおそらく僕と枢機卿をぶつける事だろう。そして彼の思い通り、片方がこの街からいなくなった。


「いやぁ、そのくだりはもう3回目だが、何度聞いても爽快だな!」


「そうだ、ギルドマスター!賭けでもしないか!」


「お、なんだなんだ?」


 だいぶ酔っているな、こいつら。会談を終えたら、街に残った方がこの部屋に訪問するとは思わなかったのか?


「賭けの内容はあの貴族の坊ちゃんと枢機卿、どちらが勝つかじゃ!」


「それは賭けになるのか?シュティーア家の力が強すぎる。」


「分からんぞ。あの枢機卿はねちっこいし、メリル様が嫌になって帰るかもしれん。」


 一言で卒倒させたけど。


「それもそうだな、よし僕はメリル様に賭けるぞ!」


「ずるいぞ、儂もメリル様じゃ!」


「お前は枢機卿と同じ腹にしているから枢機卿にしとけっ!」


「お前こそ枢機卿みたいな腹黒さがあるから枢機卿にしとけっ!」


「てめーに言われたくないねぇ!」


 その後二人は賭けが成立しねー、いみねーと笑いながら酒の入ったジョッキをぶつけあっていた所まで聞き終えると、護衛の副隊長が近づいてくる。


「滅ぼしますか?お望みなら一族郎党、いえ、この街ごと…」


「やらんでいい。」


 考え方怖いなこいつ。……まともだと思ったのにこいつも狂人の類じゃないだろうな。


 人に働かせて自分は隣の部屋で酒盛りか。度胸あるなこいつら。


 ……色々と思うところはあるのだが、見てみぬふりをしてやろう。


 ギルドマスターもドウルプダもきっと普段は街のために身を粉にして働いているのに、想定外のトラブル続きで胃を痛くしたのだろうから。


 ストレスをため続けると過労死する恐れがあるし、シュティーア領の人材なので無駄に減らしたくない。とくに街長は一応貴族位貰って位だし。


 まあ、見逃してやるのは今だけだ。


 もし教国がこの国に教会を建てることになったら──この街を候補地にしてやろう。




見てみぬふりをしてやろうと言いながら、めっちゃ気にしているメリル様でした。

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