教団との会談1
「お待たせしました、カティアス卿。」
「おお、来てくれたか!」
権力闘争のせいで一時的に教皇から国を追いだされ、はるばる他国まで飛ばされたときはどうなるかと思ったが、私は運がいい。
ここまでの旅路はトラブル続きで、もう自分は枢機卿として教国で君臨できないと考えてしまったが、やっと私にも運が回ってきた。
街についた当初、疲れた体を癒そうと1番いい宿をとろうと思った時にもう空いてないと聞かされた時は頭に血が上った。
しかし街長に怒鳴り込んだところ、とろうとした宿にはあのシュティーア家の人間がいるらしいではないか。
シュティーア家の力と在り方は異常だ。
王国の王位を奪い取ることも不可能では無いほどの力を持ちながらも代々従順にヴォルダゾース王家に忠誠を誓っている。たしか貴族でありながら、その子供には冒険者をさせるという変な風習もあったはずだ。
権力、武力、財力――あらゆる力を持ちながら今の地位から動かず、これだけ大きな国の秩序を守り続けているあの家の力は非常に素晴らしく魅力的だ。
シュティーア家は大貴族だが、ただの大貴族ではない。大陸最大にして最強の国で最も大きな貴族なのだ。
あらゆる勢力を上から見下ろすその巨大な力に後ろ盾になって貰えれば、その一族とつながりをもてれば――自分は教国に返り咲くどころか教皇にすらなれるだろう。
あの一族は「武」にこだわる分、権力争いに興味ないのも素晴らしい。
教国は今まで何度もシュティーア家に後ろ盾になって貰おうと交渉を試みたが、シュティーア家の領地と我が国が遠すぎるせいか、中々首を縦に振ってくれない。
だか、ここで儂がチャンスを掴めば、自分を追いだした小娘に仕返しができる。
この国に来たのは左遷では無く私の栄光の第一歩だったのだ。扉が開かれ、中からぞろぞろ人が部屋に入ってくる。
流石シュティーア家、どれも粒ぞろいの人材をそろえているな。そして最後に一番威厳がある服をきた人物が入ってきた。間違いない、彼こそシュティーア家の人間だろう。
絶対に失敗してはいけない、一世一代の大勝負だ。好印象を与えるために笑顔をつくる。最初になんと声をかければいいかと考えながら顔を上げると──そこには数時間前に見た顔があった。
はぁ、やっぱりコイツか…。最初に思ったのはそんな事だった。
何かの間違いでさっき会ったこいつらが他の街に行ってしまい、今この場にいるのは他のカスドラク教団だったらいいのなどと考えたが、流石に無理か。
今後ろに並んでいる護衛連中にも気が滅入るのだ。普段、家族やカレル以外の目がある時は優秀な貴族を演じているのでボロを出せないのだ。
後ろの目を気にしてつい自分の姿勢にも意識してしまう。そういえば後ろの連中のせいで困ったことがあったな。
2日ほど前、僕がオルトロスの群れを討滅させる作戦に勝手についていったとき、隠密のローブを使ったせいで、護衛する人が僕を見失ったらしい。
その後カレルにローブを没収されてしまったのだ。気づいた時から手持ちの魔法袋から消えていた。取り返そうと散歩するふりをして借りている宿を隈なく探し回ったが見つけられなかった。
魔力を視ることのできるこの目で探しても見つからなかったのでお手上げだ。とりあえず目の前の厄介事を片付けたら、カレルに直談判して返してもらおう。
目の前にいる人物は固まっているが無理もない。
ここで会談する前から彼は相手に悪印象を植え付けてしまっているのだから。シュティーア家とつながりをもとうとしているのだろうが、こちらとしては願い下げである。
どうせ向こうは動かないのだから、こっちから話を始めて主導権を握ってしまおう。
「初めまして…ではないよね?一応自己紹介をしておこうか。僕はメリル・シュティーア、シュティーアの長男だ。親しみを込めて──」
そこで1拍おく。
次にいう事が最も重要だからだ。
「クソガキと呼んでくれていいよ。せっかく君が付けてくれた愛称なのだから。」
そこまで言うとカテ…なんとか卿とか呼ばれていた枢機卿は卒倒した。効果が大きすぎたらしい。主が倒れたのに、その周りのものが助けに入らない。
まあ、後ろの連中が僕がクソガキ呼わばりされたと発言した瞬間に威圧したからだ。
向こうの主な戦力は3人の機甲使いだが、こちらには10人の護衛もいる。当然全員機甲を使えるし、シュティーア家の護衛などやっているので個々の戦力も高い。
この場における戦力差を肌で感じたからか向こうの機甲使いは緊張した面持ちだ。
正直僕にとっても心臓が悪い。位置的に僕の護衛が教団の連中を威圧したらその圧は僕にも来るのだ。機甲が顕現できない僕は彼らよりまだ弱いので、威圧の効果を受ける。
護衛の彼らが僕を害することなどないと分かっているのだが。平常を装い、右手を軽く上げる。
すると後ろの連中が威圧をやめた。よかった、間違った意味にはとられなかったようだ。今のを戦闘開始の合図だと判断されたら、どう止めようか悩んだものだ。
じゃあ予定通りうまくいったから帰るとするか。
「さて、そちらの代表が倒れたみたいだから、話は終わりにしようか。」
「お待ちください!」
間髪入れずに、1人の男性が飛び出してくる。彼は確か僕に道を聞いてきた人だったな。
「やあ、お兄さんも来ていたんだね。」
貴族としてではなく、街道で出会ったときの子供のような話し方で話す。
「……もう少し時間を頂けないでしょうか?」
なぜかスルーされてしまった。まあこんな場であの時の様な会話は無理か。
さて、どうしたものかな。このまま街から叩きだすことも不可能では無いだろうが、話だけでも聞いてみるか。
「じゃあそちらの話を聞こうか。」
「今回の目的は、この国にカスドラク教の教会を建てる事です。」
そういやうちの国には建てることが許されなかったんだっけ。だからシュティーア家の後ろ盾が欲しかったのか。
「教会を建てる前に、この国の思想を研究してる?」
「…ええ、この国では受け入れ難いものだと自覚しております。」
この国は他種族とも共存して繁栄している。純人族至上主義では下手をしたら教会を建てても閑古鳥が鳴くだけだろう。
それにこの国にとって何一つ利点がない。そんなものを建てられて、スパイの温床や戦略拠点にでもされたら面倒だ。大きくないとはいえ、一国ごと潰すことになるのではなかなか労力がいる。
「なんでそこまでしてこの国に入り込もうとしているの?」
「今の教皇のためです。」
彼がそれを言うと、彼の後ろの連中が慄く。どうやらそれはあまり表立って口にできる事では無いらしい。なるほど、教義を広めることで教皇の権力を大きくしようとするわけだ。
「君が心酔している教皇はそんなにすごい人物なのかい?」
「はい、幼いながらも身を粉にし、腐敗した教国を変えてくれる方です。僕はその助けになりたい。」
なるほど、彼があんな枢機卿に従っている理由も教皇のためか。しかしやっぱり人選がおかしいのではないだろうか。あの枢機卿では話をこじらせて帰ってくるだけだろうに。
それともあんな枢機卿でも派遣する人材としてはまだマシな部類なのか…?
「…君の話はよく分かったよ。後ろにいる連中も同じ気持ちだろう?」
枢機卿が話をする前に倒れたのを見て、安堵した顔になった面々が多かったのを僕は見逃さなかった。
そしてそうじゃない連中もいるのはちゃんと把握している。この場にいる連中は教皇派と枢機卿派の2枚岩なのだろう。
まあ、話を聞いたがこちらが首を縦に振る事は無いな。
メリット無いし、他所でやってくれとしか思わない。せめて彼が言う教皇が改革した後のまともな国なら話を聞いてもいいのだが、とそこまで考えて良い事を思い付く。
「今の話、悪いがやはり断る。」
「……そうですか。理由をやはり枢機卿ですか?」
「いや、君の話は我が国になんら利益がないからだ。」
そもそも取引相手としても、教国はそんなに魅力的ではない。恩を売ったところで、返ってくるものは期待できないだろう。僕にそう言われた彼は下唇をかんで下を見つめる。
このままでは何の結果も無く帰ったら教皇に申し訳が立たないが、ここで文句も言えないからだろう。
だから手を差し伸べるふりをする。彼が我が国にとって都合御いいように誘導するだけだ。
さあ、仕事の時間だ。




