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初めての釣り1

 


 洞窟の中は意外に明るかった。あちこちに散りばめられている青く輝く水晶のおかげだ。綺羅星のごとく輝いている水晶はまるで夜空の様で幻想的である。


「この水晶は採ったら高く売れそうじゃない?」


「まあ、そうだけどよ。そんなことしたらこの洞窟の良さが無くなるだろ?」


「そうだね。この水晶はなんていうものなんだ?」


「知らん」


 アスタもこの水晶の事は良く知らないらしい。帰ったら調べてみようかな。しばらく道なりに進んで行くと、洞窟の出口が見えてくる。


「あそこを抜ければ釣り場だ」


「やっとか」


 出口を抜けると広々とした空間にでた。周りは岩壁に囲まれているので、まるで世界には二人しかいない様な孤立感を感じる。


 天井は尖った岩が重なっていて塞がれているが、隙間から差し込まれる日光のおかげで十分に明るい。空間の真ん中には透き通った池があり、魚が泳いでいるのが見えた。


「まさに理想な釣り場って感じのところだね」


「ああ、これ以上の場所は無いだろう」


 周りも天井も岩で隠れているおかげでモンスターの危険にさらされることは無く、加えてとても静かで落ち着ける。


「この池はディ―タニアン湖に繋がっているんだよね?」


「ああ、距離的に考えればそうだな」


 池の中で泳いでいる魚の影を見ながら、考える。外敵の少ないこの環境なら魚も集まるだろうし、きっとたくさん釣れるだろう。釣りをするのは初めてだが、結構楽しみだ。



「メリル、ちょっと来てくれ」


「うん」


「それじゃあ道具を出すぞ」


 アスタは魔法袋から釣り竿や針、重りと餌らしき「練り餌」をとりだす。どうやら餌はよくある虫とかでは無いらしい。初心者である僕への配慮だろうか?


 アスタはそのまま糸に針を付け、その針に餌を取り付けるので僕もそれに続く。


 竿の糸はちょっと絡まっていたが、すぐに解けた。釣り竿に触れたことは無いが、そう難しい構造のものでは無い。どこがどういうものなのか分かれば組み立てるのは簡単だ。


「よし、こっちは終わったぞ」


 アスタの方も終わったらしい。


「じゃあ始めようか」


「待て待て、まだ一人分しか出来てないぞ。お前の釣り竿も準備してやる」


 ……え?


「ほら、お前の竿を貸せ、餌を…ってもう出来ているのか!?」


「…ああ、うん」


 アスタから見て僕は貴族のお坊ちゃんだから、釣り竿の準備なんて出来ないと思っていたのだろうな。


「アスタがやっていた事を見ていたからね」


「おお、そうか。呑み込みが早いな。よし、じゃんじゃん釣るぞ」


 アスタは魔法袋から簡易型の椅子を2つとりだし、池の前に置く。


「今日は焼くための魔道具も持ってきているから釣ったらすぐに食べよう」


「お、いいね」


 まるで本格的なキャンプをやっているみたいだ。釣ってすぐ食べる新鮮な魚はどれほど旨いのかも楽しみだ。本当はすこし時間を置いた方がおいしくなるってのは知っているけどそんな無粋な事は言わない。


 アスタが取り出した椅子に腰かけ、釣り竿から糸を垂らす。波に合わせるように釣り竿を動かし、まるで餌が生きているようにみせる。これも<記憶>の世界での釣れるためコツだ。







「…ん?お、引いているな」


 糸を垂らしてからまだ大して時間も経っていないのに、魚が掛かったようだ。なかなか強い引きだったが、無事に釣り上げる。


「これは…」


 ロケット型の黒い体に特徴的な耳の様なもの、そしてアイデンティティである十本の触手をもつ生物、イカ(?)を釣り上げた。


 <記憶>の世界のイカは大抵白か赤だったが、黒いものもいるんだな。というか魚釣りに来たのにイカが釣れるとは思わなかった。


 湖にもいるのかイカって。まだ生きているイカが釣り針から逃れようとウネウネ動いているのがなかなか怖い。その体に似合わず巨大な目もどこか不気味だ。


 よく<記憶>の世界の人たちはこれを食べようとしたな。一匹丸ごとのイカを見るのは初めてだが、これを食べてみようという気にはならない。


「おーメリル、早速釣れたみたいだな」


 アスタは僕が何か釣れたのを見て様子を見に来たらしい。


「これなんだか分かる?」


「お、ヤミイカだな」


 黒いから闇イカと名付けられたのだろうか?見た感じ闇の魔力を持っているわけではなさそうだが。


「食えるのか、これ?」


 致死毒でも持っていたらシャレにならない。だから針に引っ掛けたまま触らずにいるのだが。


「ああ、食えるぞ。最初は色が黒いのが気になるが、食ったらそんな事も考えられなくなるくらいうまいぞ」


 …どうやらこの世界にもいたらしい。こんな生物を食べてみようとする酔狂な挑戦者が。


「お、その顔はこんな奴が食えるかなんて疑っているな?」


「まさにその通りだよ」


「以前ギルドマスターにも食わそうとしたら拒否されてよぉ…。やっぱ色が悪いのか?」


 いや絶対見た目だろ。悪魔の眷属だってもうちょっとかわいい気がするぞ。


「毒とかあるかもしれないじゃん」


「俺が食っても大丈夫だったって言ったのになぁ」


「ふーん。……ん?」


 そこまで聞いて嫌な考えを思い浮かべる。


「まさか…アスタ?この生物を情報も無しに食べたのか?」


「ああ、食えるって勘が言っていたんだ。火通せば大丈夫だろって思っていたし」


 なんと無謀な…。


「じゃあこれはアスタにあげるよ」


 <記憶>の主は普通に食べていたが、僕は食べてみたいと思わない。


「おお、悪いな」


 アスタはこれ以上僕にイカを薦めても無駄だと思ったのか、ヤミイカを受け取って自分の席に戻っていった。


 餌を付け直し、糸を垂らす。次こそは魚を釣りたいものだ。




 今度は3分ほど釣り針を揺らしていたら、獲物が掛かった。ここは本当によく釣れるな。釣り竿を引き上げると、今度は先程よりもずっしりとした感触がしたので大物だろう。


「よし、今度こそ」


 竿を持ち上げ、連れた獲物をみる。それは立派な青い甲殻と片側がやたら巨大化した鋏を持ったカニだった。


「また魚じゃないのかよ…」


 このカニの甲殻は主に道中で見た青いクリスタルと同じもののようだ。何らかの手段で水中にも存在しているクリスタルを甲殻に取り込んでいるのかもしれない。


「おお、今度がすげーものが釣れたな!」


 興奮しながらアスタが寄ってくる。僕が釣れる度にこちらに来るつもりなんだろうか?


「そんなにすごいのか?」


「ああ、こいつの甲羅はかなり高く売れるんだ。めったにお目にかかれない獲物だぞ!」


 そこまで言うならさぞかし高く売れるんだろうな。そう思いながら巨大な鋏で釣り針を握りって外そうとしているカニを眺める。まあ、確かにきれいだな。加工したら貴族にだって買われるだろう。


「それでこれは食えるのか?」


 肝心な部分はこれだ。カニを食うのはあのおぞましいイカを食うよりははるかに抵抗が無い。


「ああ、面白いくらいに不味い。鉄の塊を口に入れた味だ」


 ダメじゃねーか。


 ……というかなんでそんな味知っているんだよ。アスタは口に鉄の塊を突っ込んだ事でもあるのか?


 あらかじめ渡されていたクーラーボックスと同じ様な機能を持つ魔道具にカニをいれる。氷属性の魔道具なんて高いはずだが、これも借りたのだろうか?


 アスタの方の魔道具を見てみると、脂ののった旨そうな魚が3,4匹入っていた。


 どういった魚かは知らないが、きっとおいしいのだと直感する。さて、自分の食べる分ぐらいは釣らないとな、と再び池に糸を垂らす。




 今度はすぐに獲物が掛かる事は無かったので、手持ち無沙汰になってしまう。


 獲物がいるか透き通った池をのぞき込むが、だいぶ深いので流石に生き物の影しか見えない。蠢いているたくさんの影を眺めながら、どんな生き物なのか想像してみる。


 少し間を置くと、こちらに泳いでくる影が見える。あの形状からして先ほどのイカの仲間だろうか?僕は竿を持ち上げて針を池からだし、違うところに投げ入れる。


 イカはもういい。




 場所を変えると、また獲物が掛かる。ちょくちょく釣り場を変えるのがコツかもしれない。


 今回はカニよりも軽かったので、スムーズに持ち上げる。針にはブヨブヨとしたゼリーの様な物体がぶら下がっていた。


「おおメリル、今度は何が釣れたんだ?」


 こちらの様子も見ていたらしいアスタがまた席を立ってこちらにくる。こうしてこちらを気にしながら、時にはやってくるのにアスタの方が釣れているのはなぜだろう。


「これが今回の獲物」


「…普通のスライムだな」


 だろうね。色も大きさもなんら変哲ない。ごくごく普通のスライムだ。


 当然食えたりしない…はずだ。


「…食べられないよね?」


「当たり前だろ?」


 僕が知らないだけで、調理次第で食べられるかと思ったが、アスタもそんな方法は知らないようだ。針から外し、池の中にそっと放す。


 投げ入れてやろうかとも思ったが、それで魚が逃げたら目も当てられない。スライムは不定形に揺らめぎながら、ゆっくり沈んでいった。


 


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