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道中の雑談

 


「見えてきたな」


 しばらく緩い上り坂が続き、僕は馬車の中で何をするのでもなくぼーっと過ごしていたが、アスタの声で意識が覚醒する。


「なにが見えてきたの?」


「1つ目の目的地さ」


 馬車から顔を出し外を見るとそこには切り立った崖があった。


「あそこが目的地?」


「ああ、そうだぜ」


 アスタとともに馬車を下り、崖の先のほうに歩いていく。


「こんな所に何があるんだよ?」


「ほら、前を見てみろよ」


 そう言われて顔を上げると、そこに美しい景色が広がっていた。


 切り開かれた山峡が大自然の厳しさを教えてくれるようだが、同時に雄大さも伝わってくる。連なる山々に視線を向けると、鮮やかな緑色で視界が埋まった。


「すごいな。こんな景色があるなんて知らなかった」


 <記憶>の世界からカメラを取り寄せたいぐらいだ。


「こういうのを発見するのも冒険者の醍醐味だ」


 たしかにそうだ。金や名誉、力を求める事だけが冒険者じゃない。自由気ままに冒険してこその冒険者だ。形骸化していた初代冒険王の思想がちゃんと受け継がれているのをうれしく思った。




「目の前に広がるあの湖がディータニアン湖?」


「ああ、そうだぜ」


 澄み切った青い湖は光を反射していてキラキラと輝いている。こう見ると<記憶>の世界の住人達はもったいないことをしているなと感じる。どれほど科学と技術が発展しようとも、この景色を犠牲にするのは悲しいことだ。この景色を一度でも自分の目で直接見ていれば、自然を犠牲にする気も無くすだろうに。


「おい、メリル。あそこら辺を見てみろ」


 アスタが指さしている方を見ると、先ほどまで自分たちがいた街が見えた。街は違和感なく景色に溶け込んでいた。


「もうこんな遠くまで来たんだ。街が小さく見える」


「今頃ドウルプダは忙しく働いているんだろうな」


 それはどうだろう。胃薬を飲んでベッドで転がっているだけかもしれない。




 しばらく目で景色を堪能し、その場を離れた。名残惜しいが、今日の目的は釣りだ。機会があればまた来よう。


「忘れ物は無いか?」


「なにも持って降りてないし大丈夫」


 先生に引率されている遠足に来た園児みたいなやり取りみたいだと思い、微妙な気分になるが気にしないことにする。


 アスタに他意は無い、僕の考えすぎだ。アスタから見て僕は子供だろうし、実際の精神年齢も分からないだろう。せいぜい大人びているぐらいしか思われていないはずだ。まあ僕自身も自分の精神年齢をはっきり定められるわけではないが。


「それじゃあ行こうぜ」


「ああ」




 道中はゴブリンなどとも遭遇したが、リノセスを見るとすぐに逃げていく。流石はBランクモンスター。一睨みでゴブリン達を追い払うとは。


「楽な旅だね」


「釣りに行くだけだし、休暇の様なもんだからな」


「そういえば街長からリノセス借りる条件とかあったの?」


「今度一杯奢るだけですませてくれたぜ。ああみえて結構懐が広いんだ」


「へー」


 腹の大きさには見合わず、器が小さい人間などいくらでも見てきたが、街長はそういう人ではないらしい。


「孤児院や街の公共事業にも自分の大切なモンスターを貸し出しているから人望が厚いんだ」


 めっちゃ良い人やん。


「そういやアスタはかなり孤児院を気にかけているよね。その孤児院で育ったの?」


「いや、そうではないが。ただ子供たちを見ていると心が落ち着くんだ」


 ……子供が好きなのかな?


 A級冒険者で子供好きで、気前もいいとなるとアスタはモテそうだな。


「孤児院はかなり切り詰めて生活しているし、なんとかしてやりたいと思っているんだがな…。年々子供が増えているらしいし」


 いい孤児院があると聞くと、子供を捨てる親たちも最後の良心としてそこまで連れていくって聞くし、大変なのだろう。この辺は他の孤児院が無いってのもあるな。


「メリル、こんな事を頼むのは悪いがなんとか孤児院への助成金を上げられないか?」


 おや、そんなに厳しいのか。わざわざ僕に頼んでくるとは。


 しかしアスタが支援しているのに、生活が切り詰めているなんて不思議だな。街の大きさ的にそれほどの規模の孤児院ではないはずだ。


 Aランク冒険者が多少の支援をすれば元々ある予算と合わさって十分以上にやっていけるはずだし。


「悪いけど、ダメだね。その孤児院だけ優遇するわけにはいかない」


 というか僕の管轄外だ。まあ権力はあるので、言えば何とかなるかもしれないが。


「そうか、すまんな。こんな事を持ち出してしまって」


「いいさ、アスタも子供たちのために言ったんだろうし。でも孤児院の助成金は5人あたり3金貨って決まっているからね」


「…ん?ちょっと待てメリル」


 そういってアスタは指で何かを数えだす。


「なんだ急に厳しい顔して」


「うちの孤児院は45人だ」


「ああ、それなら助成金は27金貨貰えるね」


「…ああ、そうだな。計算早いなお前」


「貴族だからね。それでそれがどうかしたの?」


「孤児院の院長が10金貨しか貰ってないって言っていたぞ…。半分以下じゃねぇか!」


 マジかよ。


「横領でもされているね。アスタがいなかったらとっくに孤児院が潰れているな」


「やっぱりなんかおかしいと思ったんだよ!子供達の金を盗るなんて許せねぇ!」


「というかなんで今の今まで判明しなかったんだ?街長に相談でもすればすぐに分かっただろう?」


 街長は役人なのでそこら辺の事情も詳しいはずだが。


「色々助けてもらっている手前、相談しにくいらしい。それに院長は俺にしか言っていないはずだ」


「……もしかして街長と院長って仲悪い?」


「街長が院長を敬遠している感じはするが…。それは関係あるのか?」


「街長は金回りが良くない孤児院を見て、院長が浪費家だと思っているんじゃない?」


「そう言う事か!これも盗人のせいだな!」


 かなり怒っていらっしゃるな。まあ無理もない。


「くそっ、本来の金があれば孤児院も修繕出来るはずなのにっ!」


「そんなにぼろいの?」


「ああ、崩れかかっている部分があって危険だ」


「そんなにひどいなら申請したら修繕費出るだろ」


「申請が通らなかったらしい。まだ大丈夫だって判断されてさ」


「たぶんその分の金も横領されているね」


「…ああ、そうだな」


 …怒り過ぎて逆に冷静になっている。






「どうするつもり、アスタ?」


「もちろん怒鳴り込むつもりだ」


 どこにだよ。


「犯人の目星は?」


「ついていないが、俺が必ず…」


 そう言ってアスタが拳を握り締める。


「…やめときなって、冒険者がつっかかっても難しいだろう」


 あんな大金を堂々と横領するぐらいだ、見つからないような対策はしているだろう。


「じゃあどうすればいって言うんだ」


「僕がやっとくよ。貴族が口を挟む方が問題も解決しやすいだろう?なんならうちのものに調べさせるから」


「…いいのか?」


「冒険者が口をはさむより早く解決すると思うよ」


「じゃあ、頼む」


「うん」


 ひとまずこれでこの問題については終わりだ。しかし悪い意味でうまく噛み合っているな、この事件は。アスタが支援しているからこそ、盗人は長く孤児院から金を搾り取れたし。


 街長が自分のモンスターで支援をするので院長は街長に弱音を吐けず、法に詳しくないアスタにだけ泣きつくし。自分もアスタも支援しているのに、いつもぼろい孤児院を見て、街長は院長を誤解するし。


 なるべく早く解決してやろう。







「見えてきたぞ、メリル」


「今度こそ釣り場か?」


「ああ」


 馬車から顔を出し、外を見る。そこには巨大に岩山がそびえたっていた。


「…えーと、ここで釣りをするのか?」


 周りを見渡しても川や池は見えない。


「ついてこい、おもしろいものを見せてやるぞ」


「ああ、うん」


 馬車から降り、岩山の右側に周っていく。


「岩しか見えないけど?」


「まあ、見ていろ」


 そう言ってアスタは手前の岩を持ち上げ、脇に置いた。


「よっと…結構重いな」


 アスタは次々と岩を横にどかしながら進むので、ついていく。


「よし、これでラストだ」


 最後にアスタは一際巨大な岩を押して転がした。巨大な岩は退いたことで、岩山の中に洞窟があることを発見する。洞窟の前に岩が重なっていて見えなかったのだ。


「へぇ、こんなところがあるんだね」


「俺が見つけたのは偶然だ。ここには人もモンスターもいないからゆっくりできるぞ」


 こんな隠し洞窟を見つけるなんてどんな偶然があったのだろう。


「さあ、いこうぜ」


「ああ」



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