戦いの後で
「やったな!お疲れメリル!」
「ああ、アスタも。傷は大丈夫か?」
「掠り傷ばかりさ」
そういいながらアスタは自分の傷を見せるように腕を上げる。
「相当やばかったね」
「ああ、ありゃぁドラゴンよりも厄介だな」
本当にね。少なくとも僕たち二人では相性が悪すぎた。
物理特化のアスタはもちろん、僕もうまい具合に歯車がかみ合わない感じだ。自慢の剣技は使えず、ならば魔法はどうかと思いきや同じ属性なので効果が薄い。トラウマになりそうなレベルである
僕がそんな事を考えていると、アスタがとんでもない事を言いだした。
「それにしても結構美人だったな」
戦いながらそんなこと考えていたのかよ。
というか──
「美人っておかしくね?エリーニュスには顔ないじゃん」
「雰囲気が美人だろ。まあ、まだ子供のメリルにはまだ分からないか」
そういわれてエリーニュスの姿を思い浮かべるあみる。美人の雰囲気…なのだろうか?
きれいな感じのドレスを着ていたが、あれもエリーニュスの一部だし。狂いながら闇の刃の嵐をまき散らしていた姿を思い出すと、美人うんぬんはともかくヤンデレっぽい感じはする。
アスタはああいうタイプが好きなのだろうか。
まあ、アスタの色恋沙汰など僕に関係ないことだ。エリーニュスが倒されたことで最初にエリーニュスが立っていた所に宝箱が出現する。
「お、出た出た」
ダンジョンに出現するモンスターは倒すと消えるので、素材や魔石は手に入らない。だがそれ以上の価値がある宝箱が出現するので、ダンジョンに挑む価値があるのだ。
「エリーニュスがボスだったんだし、相当な値打ちものでは入ってないと釣り合わないよね」
まあ、その心配はあまりないだろう。
宝箱はボス部屋の前の扉と同等ぐらいには手の込んだ装飾がされており、素人目にも美しいと分かるものだった。
でも赤字になるのは間違いない。あの2つの魔法爆弾の価格を考えると、この宝箱に金貨が一杯詰め込まれていても全然足りない。
「それでどっちが開ける?」
「メリルが開けろよ。ポーションももらったし、魔法爆弾も二つ使わせちまった」
「気にしなくていいよ。使ったぶんだけ家が補充してくれるし」
「まったく…さすがは貴族様だな」
「まあね」
「それじゃあ宝箱を開けるか。使えるものがあればいいんだけど」
できるなら魔剣とか入っているとうれしい。家の宝物庫にも何本かあるはずなのに、父がまだ早いと使わせてくれなかった。
今日アスタのカラドボルグを使って分かったがかなり便利な代物だ。カラドボルグがわりと格の高い魔剣だという事を考えても、魔剣の有用性を覚えてしまった今、一本は持っておきたい。
ロマンあるし。
宝箱に手をかけ、ゆっくりと蓋を持ち上げていく。
「ほう──」
意図したものでは無いだろうが、アスタの口から感嘆の息が漏れる。この世界では稼げる職であるA級冒険者にもこの数の金貨は初めて見たらしい。
「アスタ、金貨もっていく?」
「いや、それは流石に…」
「どうせ街とか孤児院に寄付するんだろ?なら多い方がいいよ」
「半分はお前のものだ。お前から寄付しても一緒だよ」
「一緒じゃないよ。俺が寄付したら貴族から街にってことになるから役人が間に入ってくるんだよ。そして何割か持っていかれる」
「お、おう」
「それに家からの寄付がこれっぽちだと家名に傷がつく…とか言って怒られるのが目に見えているし」
「……そういうことならありがたく持っていくぜ」
「弱い人を助けるのが貴族の役目…だろ?」
こういうのを<記憶>の世界ではなんといっていたのだろう。
ノブレスオブレージュ、だっけ?オブリージュだったかもしれない。<記憶>の主がちゃんと把握しておけばよかったが、彼はよく覚えていないようだ。
読み取るこちら側としてははっきりしてほしい。
「他にどんなものがあるかな?」
金貨を袋に詰めていきながら、宝箱を漁っていく。
「お、なんかある」
金貨の山から丸い球の様なものを取り出し、持ち上げる。薄っすらと発光している球だが、良く分からないものだ。
「アスタ、これなんだか知ってる?」
「おお、知っているぞ。確か「蝋人形の呪い」っていう魔道具だ」
「なにその不吉な名前」
「これをモンスターの死体に当てると、そのモンスターが蝋人形になるっていう効果を持っている。」
倒したモンスターを蝋人形にか…。使い道はあるのだろうか?モンスターの死体を蝋人形にしたところで、魔法袋に詰めるのも大変そうだ。
アスタの口ぶりからすると、死体がそのまま蝋人形になるみたいだし、傷だらけだったり焼け爛れたりしていて飾るに飾れないのではないだろうか。
まあ捨てるのも忍びないので自分の魔法袋に入れる。
金貨は全てアスタが持っていくことになったが、そのかわり魔道具が出てきたら全て僕の取り分となったのだ。
<蝋人形の呪い>以外にもよく分からない魔道具が出てきた。
<暗黒女神の櫛>…命名は僕である。この櫛の黒い色はエリーニュスの髪の色を思いだすので、いい名前だと思う。母にでも渡そうかな。
あとは今使っている物よりも質の悪い魔法袋や、子供のおもちゃにしかならない木剣、エリーニュスのドレスの一部……というか手袋(しかも片方だけ)、黒と紫が入り混じった眼帯など色々入っていた。
……数は多いはずなのに微妙な感じがするのはなぜだろう。使い道がないものばかりだろうか?
どうやらこの宝箱は金貨がメインらしく、それを丸ごと受け取ったアスタ喜んでいる。寄付するために使ってしまうのになぜそんなに嬉しそうなのだ。
まあ人助けが好きなんだろうと深くは突っ込まない。帰還の転送陣にのり、ダンジョンの入り口までワープする。
「ああ、やっぱり暗くなっている…。」
カレルとの約束の時間に遅れてしまいそうだ。ダンジョンの攻略に思いのほか時間が掛かってしまったらしい。
「多少遅れたぐらいでそんなに怒られるのか?」
自分の時間を自由に使える冒険者のアスタと違って、貴族の僕は時間に遅れると面倒なことになる。
「怒られはしないよ、ただネチネチと笑顔で責めてくるメイドがいるんだ。割と不気味なんだよな」
笑顔の仮面を張り付けたカレルを思い出しながら言う。怒る時ぐらい仮面とればいいのに。
「そのメイドはどれくらい怖いんだ?」
そうだなぁ、なんと表そうか。お、良い例えが思い浮かんだ。
「──エリーニュスより怖いよ」
「それは恐ろしい。モンスターと並べるとかとんでもないメイドだな」
アスタはエリーニュスの強さを思い出したのか、笑っている。一緒に苦難を乗り越えたからだろうが、僕はアスタとの心の距離が縮まった気がした。
「なんか親しみやすくなったな、アスタ」
「どういうことだ?」
「最初は寡黙な方で言うべきことぐらいしか言わないと思っていたよ」
「あーそれか。よく言われるんだよなぁ。実は俺、人と話すのは得意じゃないから初対面の相手だとちょっと引いてしまうんだよな……」
引っ込み思案属性に当てはめるには可愛さが足りなさすぎと思うが。
「筋骨隆々の男が言うとシュールのセリフだな。」
「子供相手には素を出せるんだけど…」
「街に帰ったら早速騎士団に連絡しないと」
「何を言う気だ!?お前が考えているような事じゃないぞ!」
「分かっているさ、冗談だ。僕も子供に分類して素で付き合ってくれていいんだよ?なんて――」
「ああ、背中を預け合ったお前にはもう遠慮は無いよメリル。これからもよろしくな!」
「……えっ?」
「なに驚いているんだ?お前が素で付き合えって──」
「目から汗が……」
「おいっ何で泣いているんだ!?」
「……こんなに心が温まる言葉を言われたのは初めてだよ。」
「普通の言葉じゃねぇか?」
「社交界に出ても基本ボッチだしね……」
「仲のいい相手はいないのか?」
皇子達の顔を思い出す。
「いないことは無いけど…あの二人は知り合いとか客とかが多くてな」
──僕と違って。
「学院に入るまでに仲のいい相手を作ろうとしたけど……過去の行いのせいか変な噂や勘違いのせいでうまくいかないんだ。」
「一体何をやらかしたんだ?」
「格の違いを見せつけて大人を平伏させた?」
「……よくわからんが碌な事やっていなさそうだな。」
「まあ、なんやかんやで社交界サボり気味だった時期に変な噂が出来たらしくてさ。「病弱で人と付き合えない」とか」「残虐な心の持ち主」とか「下手に近づけば身を亡ぼすとか」とか、ね。」
「……お、おう」
「勘違いで僕に決闘を挑んできた奴もいたな。俺が勝てば彼女を闇の呪縛から解放しろとかって言っていたっけ。」
「闇の呪縛?なんかしたのか?」
「いや、そもそもそいつが誰だか知らないし。全く心当たり無かったよ」
「大変だったんだな」
「本当に運が悪いのこの後からさ。なんかよく分からないまま相手していたら彼女の方が駆けつけてきたんだ。それでなんか話の流れが僕がそいつを認めたから解放したみたいになった」
「いいことじゃないのか?」
「たしかに挑んできた奴は婚約者のために命を張った勇敢な人物と称えられるようになったよ。でも僕は目を付けた人物に試練を課す変わったやつって言われるようになったね、何もしていないのに」
「大変だったんだな」
「社交界が流れている自分の噂を集めたらどんな人物になるかやってみたいものだよ。……あと普通の友達欲しい」
「……今夜は飲もうぜ、もちろん俺の奢りだ!」
「じゃあ僕はワインかな」
「子供だからジュースな!」
「……」
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