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エリーニュス討伐戦2

 


「何をするのか分からないけど、そろそろ覚悟を決めてくれ」


 <ブラック・ドレインシールド>は闇の刃を吸収しすぎたせいであちこちに亀裂が入っていてもうもちそうにない。


「俺は何とかしてあの化け物に近づく。何とか道を作ってくれないか?」


「14歳の少年に無茶言うね」


 皮肉がつい口から零れてしまうが、この時点で僕の心は決まっている。アスタの鎧は動きやすさを重視したタイプのもので、最低限の防御力しか無いように見える。


 もちろんAランク冒険者の鎧なので、見た目程度の性能しかない…という事は無いだろうが、あの闇の刃の嵐に突っ込んでいくにはかなり頼りない。


「年齢は関係ないさ。お前に頼んでいるんだ」


 <ブラック・ドレインシールド>の壁がついに崩壊し、崩れ落ちる。


 障害となる壁が消えたことで闇の刃が僕たちに迫るが左右に分散する事でそれを躱す。


「分かったよ。…死んでも化けて出てくるなよ!」


「安心しろ、俺はさっぱりした性分だから恨んだりしねぇよ!」


 十数秒ぶりに見るエリーニュスの手元を睨み、分析する。


 分析するのはもちろん魔法の構成だ。アスタの言う通りに「道」を創るには闇の刃を相殺するしかない。ならば目には目を刃には刃を、だ。


 戦闘の途中で相手の魔法をコピーするなんて狂気の沙汰だがやるしかない。膨大な情報を無理やり頭に流しこみ、理解する。


「くらえ!」


 そして発動された魔法はエリーニュスと同じ闇の刃。空中でぶつかり、相殺することで相手の魔法から身を守る。


 よし、なんとかいけた。


 無理をしたせいで少し頭がズキズキするがそんな事も言っていられない。


 エリーニュスは自分の魔法を相手も使ってきたことに一瞬驚いた様子を見せるが、すぐに先ほどの倍以上の量の闇の刃を放ってきた。


 僕も負けじと次々と闇の刃を生成していき、エリーニュスのものを相殺していく。


「アアアアア!」


 自分の魔法が当たらないことにイラついたのか、エリーニュスの放つ魔法はどんどん激しさを増しているが、精度はどんどん悪くなっているようで半分以上はあらぬ方向に飛んでいきダンジョンの壁を切り刻む。


 おかげでこちらは落ち着いて対処し、少しずつ道を創っていく。あと少し、あと少しだ。


 焦る心を押さえつけ、冷静さを見失いように自らを律する。


 そして──


「アスタ!」


「おう!」


 僕の掛け声にすぐさま反応し、アスタが今も闇の刃が飛び交う危険地帯に突っ込む。


 エリーニュスはすぐに飛び出してきたアスタに標的を変え、そちらに魔法を放つが僕の魔法に相殺される。


 思えば物理攻撃が殆ど効かないのに僕よりアスタを警戒するのは変な感じだが、モンスターの行動原理など探るだけ無駄だろう。


 アスタは僕の事を信用しきっているのかノーガードで突っ込んでいく。その期待を裏切らないために自分の魔力を更に昂らせ、連射速度をあげた。


 ついにはアスタがエリーニュスの目の前まで到達し背中から魔剣を引き抜く。


 そしてカラドボルグを優しくエリーニュスに触れさせた。


 その行為に一体どんな意味があるのか。そんな事を思うが、次の瞬間にその疑問は氷解する。


「くたばれ、エリーニュス!」


 アスタが叫ぶと同時に魔剣カラドボルグはまばゆい程の雷光を(ほとばし)らせながらエリーニュスを焼いた。


 なるほど、確かにこれなら有効だ。


 エリーニュスは物理ダメージに対して特殊能力を持っているが、雷に対してはその能力は使えない。思いもよらない柔軟な思考に舌を巻く。


 しかしその一撃では苦しませるだけで倒すまでには至らない。


「キエエエエェェェェェ!!!」


 エリーニュスが狂ったように腕を振り回し、闇の魔力を纏わせた鋭い爪を振り回す。


 アスタは追撃は難しいと判断し、カラドボルグでガードしながら退いて来た。


「とんでもない魔剣の使い方だね」


「飾って愛でているだけのお貴族様よりはましだ」


「まあ、そうだけどね」


「これならどうだ、メリル?」


「もうちょっと威力が欲しいね。もっと魔力込められる?」


「悪いな、さっきのが全力だ」


 やっぱ獣人は…というかアスタは魔力の扱いがあまりうまくないらしい。…さてどうしたものか。


 エリーニュスがこちらに顔を向け、魔力を揺らめかせているが攻撃してくる様子がない。


 魔力を使いすぎたのか、ダメージが蓄積した結果なのだろう。それでもこちらが行動を起こすとまた先ほどの闇の刃の嵐が飛んできそうだ。


 対してこちらは特に負傷はしていない。


 アスタは魔力の消費が激しく、所々掠り傷をつくっているが平気そうだ。


 こちらの攻撃手段はあと一つ残っている魔法爆弾とアスタの魔剣である。エリーニュスとの相性が悪いのはいただけないが、二人ならなんとかなりそうだ。


 


「よし、今度は僕にいい考えがある」


 記憶の中ではフラグとされていたこの言葉だが、今はなぜか失敗する気がしない。


「なんだ?」


 いい考えと聞いて即座に反応したアスタに作戦を伝える。


「…でどう?」


「それでいこう」


 もう信頼されていたらしい。わずかな逡巡もせず、アスタはすぐに頷いてくれた。




 僕は再びドーム状の闇をつくり、エリーニュスから僕たちを隠す。視界が塞がれ始めたと分かった瞬間、エリーニュスが中で暴れ始め、ドームが少しずつ削れていく。


 だがそのわずかな時間があれば十分だ。


 僕はすぐにエリーニュスの後ろに回り込み、アスタと挟み撃ちする陣形を取る。


 エリーニュスは標的をどちらにするか一瞬迷いを見せたが、先ほどの魔剣の攻撃を思ってかアスタの方に向き闇の刃を飛ばしていく。


 アスタは必死に躱しながらエリーニュスに近づこうとするが、攻撃のせいで難しい。


 だが、これでいい。


 エリーニュスに意識は完全にアスタに向いている。魔法爆弾が後一発残っているかどうかなんてエリーニュスには分からないだろうし、当然の判断だ。


 だが、ここで僕はエリーニュスに魔法爆弾を使うつもりはない。魔法爆弾もう一発当てたところで、エリーニュスはまだ倒れないだろう。


足に力を込め、エリーニュスの頭上に飛び上がる。


「アスタ!」


「おう!」


 アスタは僕の掛け声に即座に反応し、カラドボルグを投げる構えをとる。


 エリーニュスはその姿を見て、その物理攻撃を受け入れるように両手を広げるが、アスタの狙いはエリーニュスではない。


「ちゃんと受け取れよ!」


 そういってアスタは空中にいる僕に向かってカラドボルグを投擲する。


 魔剣は空中で回転しながら弧を描いていき——無事に僕の手に収まった。


 エリーニュスはカラドボルグの行く先を追っていたが、遅い。僕はエリーニュスの顔のない頭にカラドボルグを触れさせる。


 一泊遅れて頭上に硬い金属片が置かれたような感触がするが、気にせず魔力を流し込んだ。


 するとアスタが放ったものよりも大きな雷鳴を響かせながらエリーニュスを雷が焼き、身を焦がす。


「キャアアァァァァァ!」


 けたたましい悲鳴を上げながらエリーニュスは身をよじらせ、腕を振るう。


 鋭い爪による斬撃をカラドボルグでガードするが僕にはアスタの様な膂力がないのであっさり吹っ飛ばされた。


 エリーニュスは存在しない目でこちらを睨みつけているようにこちらを警戒している。


 ……作戦通りだな。




 僕の立てた作戦はこうだ。


 純人族は獣人族よりも魔力量も多く、扱いも上手い。ならば僕がカラドボルグの雷を使えばいい。より強力な雷を生み出せるだろうから。


 先の一撃のせいでエリーニュスはアスタを警戒しているだろうし、不意打ちにもなる。カラドボルグはアスタの持ち物だが、アスタにしか扱えないわけではない。


 そして()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()


 だから──



「アスタ!」


 僕が呼びかけるまでもなく、アスタの手中には魔法爆弾が握られている。


 エリーニュスの視界を塞いだ瞬間に渡したものだ。そのエリーニュスは僕を…というよりもカラドボルグを警戒している。またも背中には意識を向けていない。


 アスタが再び物を投げるために構えをとり、その手から魔法爆弾が放たれる。


 それは真っすぐ飛んでいき、エリーニュスの背中に直撃する。跳ねるようにエリーニュスが後ろを振り向くが、もう遅い。


「俺たちの勝ちだ!」


 エリーニュスに当たった魔法爆弾は紅く燃えあがり、一瞬遅れて巨大な爆炎であたりを焼いた。僕はアスタと自分の前に<ブラック・ドレインシールド>をはり、被害から守る。


 相当いい魔法爆弾だったようで、炎が止まるどころかさらに二十も三十も爆発を続けている。てっきり最初の一発と変わらない威力かと思いきや、もっと質のいいものだったようだ。


 ……作戦が無くとも初めからこれを投げていれば終わっていたかもしれない。


 どうせ使わないだろうと高をくくって、説明を聞かなかったのを反省する。今度から渡されたものの説明は真面目に聞くか、と思いながら爆発が止むのを待つ。


魔法爆弾は数十秒ほど効果を発揮し続け、ようやく爆発が止まる。



 爆発の中心点から離れていたとはいえ、相当な威力だったらしく<ブラック・ドレインシールド>を二つも維持していた僕の魔力は残り少ない。


 怠い体を起こしながら魔法を解除する。


 <ブラック・ドレインシールド>の黒い壁が消え、視界が晴れた。



 爆発していたと思われる地点ではエリーニュスの姿は無く、無事に倒れてくれたらしい。さらに奥に視線を向けると、そこには親指をたてたアスタがいた。


 自分の口角が吊り上がっていくのか分かる。




 まったく、こんな状況になるなんて思いもしなかった。徒競走なのにいきなり巨大な障害物がでてきた感じだ。


 いつも余裕綽々に何でもこなせた自分とこんなにも相性が悪い敵がいるなんて。だからこそこんなことを思うのは、そして口に出すのはいつぶりだろうか──


「いい経験になったよ」



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