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エリーニュス討伐戦1

 


「物理攻撃は避けるべきだよな」


「ああ、同じダメージが飛んでくるからね」


 少しややこしいがエリーニュスには物理攻撃が通用しないわけではない。


 ただ与えた傷と同じ傷がこちらにつくだけであり、極端に言えば物理攻撃だけで討伐も不可能では無い。


 だがこちらも同じだけダメージを負う以上、モンスターと生命力比べなんて狂気の沙汰だからやめたほうがいい。


 しかもエリーニュスにはあの回復能力もある。物理攻撃は可能な限り避けるべきだ。


「アスタはどんな魔法が使えるの?」


 この世界は誰もが一つの属性を持っている。魔法が苦手な獣人と言えど、魔法が使えないという事は無いのだ。


「ああ、見ていろ」


 アスタはエリーニュスに目を向けながら、そちらに向けて手を突き出す。


「<ストーン・バレット>‼」


 アスタの魔力が手に集中し、魔法が発動する。<ストーン・バレット>は石の礫を飛ばす基本的な土魔法だが…。




 アスタの手から砂がパラパラ落ちる。……それだけだ。


 僕は起こったことに対して頭が反応できなかった。


「…え?…はぁ?」


 落ち着いて整理してみよう。アスタが発動した魔法はストーン・バレット。それが正しく発動されたという事を考えると──アスタの手の下にある小さな山を見る。


 これが石の礫?……砂だろ、これ。


 しかも手から落ちていっただけだし、なにがバレットだよ。


 当然だが威力もへったくれもない。


「……アスタ?」


「悪いな、メリル。獣人は魔法が苦手なんだ」


「いや、他の獣人だってこんなにひどくないだろ」


 誰しも苦手分野はある。しかしこれは酷過ぎるのではないか。


 エリーニュスも本来口がある部分に手を当て、体を小刻みに動かす。その姿はアスタの魔法を笑っているようにも見て取れる。ただし笑い声の代わりに甲高い悲鳴だというのが何とも不気味だ。


 正面のエリーニュスに笑われ、隣の僕に白い目で見られているアスタは頭を掻きむしった。


「なにが「見ていろ」だよ。出来ないなら出来ないって言えばいいのに」


「こんな状況ならばいけると思ったんだよ」


 どんな理論だ、それ。物語の勇者じゃあるまいし、いきなり覚醒するわけないだろうに。


「ああ、もう!メリルは純人族だろ?魔法は結構上手いはずだよな!」


「アスタよりはね」


「もう言うな…」


「<エクリプス・カルチェレム>!」


 僕はアスタと同じ様にエリーニュスに手を向け、自分の愛用している闇魔法<エクリプス・カルチェレム>発動する。


 まともな魔法能力がある人物から発動された力を奪う効果がある闇の檻がエリーニュスを捕える。


「どうだいアスタ?」


 これが本物の魔法ってやつだ。


「いや、メリル。闇属性のモンスターに闇属性の魔法を放ってどうする」


「ん?」


「高ランクのモンスターにそのモンスター自身の属性攻撃は効果は薄いぞ」


 まじかよ。


 言われてみれば<エクリプス・カルチェレム>の力を奪う効果は効いていないようだ。もう一つのその場に拘束する効果も、そもそもエリーニュスは一歩も動かないのだから意味があるのか怪しい。


「早く言ってくれよ…」


「悪い悪い、そんなこと知らないだなんて思わなくてさ。よくそんな貴重な属性を持っているな」


 お互いにできる事、知っていることのすり合わせが出来ていなかったことを後悔する。

 

 途中までが余裕過ぎたことで少し油断しすぎたようだ。



 というか本当にどうするんだ?


 物理攻撃はそのまま自分にも返ってくる。頼みの綱の魔法も片方は碌に使えず、もう片方は効果が薄いという困った状況だ。



「メリル、なんかいいもん持ってないか?」


 ポーションなど魔法袋から色々取り出しているので、アスタは何か使えるものはないかと聞いてきた。言われてみれば使えそうなものは入っていた気がする。


「ああ、ほら。魔法爆弾があるよ」


「おお、使えそうなものがあるな!」


 魔法爆弾とは簡単に言うと手榴弾みたいなものである。敵に炸裂するのは中に込められた魔法であるが。


「でも2個しかないぞ」


 もっと持ってくるべきだったな。魔法には自信があったので、あまり持ってこなかったのが仇になった。


「無いよりマシだ。少しでもダメージを稼ぎたい」


「まあ、そうだね。それじゃあまずは――」


 風属性の魔法がこめられた魔法爆弾を<エクリプス・カルチェレム>の檻の内側に投げ込み、檻の網目にも闇を纏わせ、空いた空間を塞いでドーム状にする。


 こうすることで込められた魔法は拡散されずに威力が上がるのだ。


 一拍遅れて全てを切り裂くような甲高い音が響き渡る。


 闇のドームは中に魔法を閉じ込めることができるが、音までは消してくれないようだ。そのあまりのうるささに僕とアスタは耳を塞ぐ。


「「くっっ!」」


 闇のせいで見えないが、中では風の刃がエリーニュスを切り裂いているはずである。



 音が止み、手を耳の横からおろす。するとなぜか横にいるアスタから抗議があがった。


「何なんだよ今のは!お前が投げたのは魔法爆弾だよな!?」


「…?投げている所見ていただろう?」


「なんだあの威力は!あんなの俺の知っている魔法爆弾じゃないぞ!」


 僕も使うのは初めてなのだが、あんなに威力が出るとは思わなかった。


「いざという時のお守りにと渡されていたやつだから、特別な奴だったんだろう」


「にしてもおかしいだろ…」


 




「魔法を解除するよ。倒せているといいんだけど」


「まあ、流石にあんなに威力あったならもう終わったかもな。帰ったら──」


 フラグ立てるのやめろ。


 ドームが消え、僕たちの目の前には見るも無残な姿にもなって崩れ落ちているエリーニュスがいた夜の様に黒いドレスはほとんど切り裂かれ、そこから覗く白い肌と美しい四肢から赤い血の代わりに黒い液体が零れ落ちている。


 なんとも痛々しい姿になったが、エリーニュスの回復能力を考えるとまだ油断できない。


「…まだ油断するなよ、メリル」


 アスタは先ほどの一撃で討伐できたと予想していたみたいだが、エリーニュスの纏う雰囲気がより一層重くなったので苦々しい顔になっている。


「分かっている「キャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ‼‼」


 僕の言葉が終わらないうちに急にエリーニュスが立ち上がり、これまでに聞いた悲鳴よりも一層激しいものを上げる。


 両手を広げ、天井を仰いでいる姿はまるで神に祈る敬虔な修道女の様だが、周りで激しく蠢く闇の塊のせいで禍々しく見えた。次第に闇は収束していき、エリーニュスを包み込む。


 そして闇が晴れた先で立っていたのは──


「おいおいありえないだろ!」


 横にいるアスタは叫んでいたが、僕も同じ気持ちだ。


 闇が晴れた先に立っていたのは――最初に目撃した時と変わらないエリーニュスが立っていた。


「……今思い出したよ。エリーニュスはAランクモンスターだけど、戦闘力はSランク一歩手前っていう評価だった」


「何、Sランクだと!」


 Sランク。


 それは最上級の化け物につけられる評価にして、近づいてはならないという警告でもある。討伐は極めて困難であり、文字通り災害として人々を蹂躙するようなやつもいる。


 このエリーニュスはダンジョンにしか出現しないことから人類に対する危険性が低く、Aランクという評価だが今この場に限ってはその事は忘れたほうがいいだろう。




「どうする?お前の魔法爆弾も決め手にはならない様だぞ」


「エリーニュスは回復能力を使うたびに魔力を消耗しているみたいだ。なんとかして回復できないまで地道に削っていくしかないだろう」


「そうか、なら俺に良い考えがある」


「何だ?」


 何か打開策を思い付いたのだろうか?


「ああ、それは…」


「アアアアァァァァ」


 突如ずっと静観していたエリーニュスが動き出す。


 両手を僕たちに向けて多数の闇の刃を飛ばしてきた。


「メリルっ!」


 エリーニュスの魔法を危険視したアスタが僕の壁になろうと立ちはだかろうとする。


 それを横目で理解しながら、僕もエリーニュスに手を向けた。三者がほぼ同時に動きだし、一番動き出しの早かったエリーニュスの闇の刃がアスタに届こうとする寸前で黒い壁が闇の刃を吸収する。


「なんだこれは?」


「僕の魔法だよ。<ブラック・ドレインシールド>さ」


 壁の反対側で闇の刃が次々と放たれている音が聞こえるが、黒い壁が守りとなっていることを確認したアスタが僕に話しかける。


「お前、こんな事も出来たのか」


「魔法の腕には自信があるよ。」


 属性相性のせいでエリーニュスに効果は全然ないけど。


「今はその腕が頼りだな」


「それでどんな事を思い付いたの?」


「ああ、カラドボルグを使う」


 どういう事だろう?魔剣で斬りかかってもダメージが自分にも返ってくることぐらいアスタも身をもって理解したはずだ。


 カラドボルグには雷を纏う能力はあっても、それを飛ばす能力は無いはずだ。あるならば最初の能力を調べるときに使っていたであろうから。


 アスタは何を思い付いたのだろうか?




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