魔剣の冒険者
前回のあらすじ
犬犬犬 VS 牛人
ギルドマスターもケロルベスを処理したようで、冒険者たちが素材を魔法袋に詰めていく姿を眺める。
モンスターの群れを討伐し、街の危険は去った。素材も入手し、冒険者たちの懐も温まる。負傷したものは多数いるが、後々に支障をきたす程大きな傷を負ったものはいない。作戦は大成功と言えるだろう。
…………僕の出番はなかったな。
まあ参戦したらしたらで、ギルドマスターの胃が更に痛むという危険はあるが。
罠の片づけをして、冒険者たちは帰路につく。街を守れたからか、皆の顔は明るい。
この街と冒険者たちの絆を感じる場面だ。いい街でないと冒険者は根付かず、いざという時も体を張ってくれない。そして今回はこの街のために冒険者たちは命を懸けるつもりで集まった、つまりそういう事なのだろう。
まあ今回は罠と二人の強者のおかげで、命を張るような場面は無かったけれど。
街に帰り、カレルと合流する。
「今日はどうでしたか?」
「楽しい一日だったよ。見たかったものも見られたしね」
機甲。
冒険者。
牛の獣人に雷の魔剣。
今日は本当に楽しい一日だったな。
「カレ…姉さんはどうだったの?」
「今日は半分以上説教に費やしてしまいましたが、久しぶりに友人と会えて楽しかったですよ」
そういえばカレルの友人たちはインパクトの強い方々だったな。
「それでメリル、彼女たちの発言は忘れていただけるといいのですが。メリルの教育的にも非常に良くありませんし」
「それは無理かな」
あれにはビックリしたし、焦るカレルも見られたしね。
カレルは笑顔のまま頭が痛そうに手で押さえている。一つ一つの要素を見るとおかしいものでは無い。
笑顔も、頭が痛そうに手で押さえるのも。しかし二つ合わさるとなんかシュールだな。こういう時位仮面剥がして困った顔すればいいのに。
「ああ、そうだ。姉さん、もう少し付き合ってくれない?」
「いいですよ。でもあんまり遅くなったら駄目ですよ」
そろそろギルドマスターも後処理が一段落終えたことだろう。彼に牛の獣人について聞こうと思っていた所だ。
「じゃあギルドに行こうか」
「わかりました」
朝に見かけた受付のお兄さんの案内でギルドマスターの部屋の前に行く。本来はそう簡単にギルドマスターに会えるものでは無いが、彼は僕が偉い人だと分かっていたようで、難なく通してくれる。
部屋の前についたことで、ノックしようとすると中から声が聞こえてきた。
「全く、いきなりシュティーア家の子息が来るとは今日はどんな厄日だ!ケロルベスも出てくるし、戦場で怪しいやつがいると思えばまたメリル様だ!今日は本当に疲れたよ…」
「儂も胃が痛いよ…。まさかシュティーア家が来ているとは予測できるか!本当に首が飛ぶのを覚悟したわ!」
「ドウルプダ…。今夜は飲もうか」
「おお!今日は秘蔵の酒を開けるぞ!」
なんと街長のドウルプダとギルドマスターたちが話していた。
仲良さそうな所を見るに、実は気楽な友人同士なのかもしれない。一仕事し終えた友人とともに、酒を飲み、一日の疲れを発散する。
これは誰にでもある権利だと思う。
しかし、申し訳ないが彼らにはもう少し胃を痛めてもらおう。
扉をノックする。
「後処理はもう終わったはずだが?入っていいぞ」
「やあ」
元気よく入室すると、二人のおっさんが絶望した顔で胃が痛そうにお腹を押さえる姿が見えた。
その後おっさん達は笑顔で応対してくれたが、胃が痛いのか表情がどこかぎこちない。
「そんな顔をしないでほしいな。それにしても声の良く聞こえる薄いドアだね。もう少し予算を回そうか?」
「い、いえ、それには及びません」
「街長の方もどうだい?このドア薄いと思わない?」
「えっ…。いや~、どうでしょうな?…ははは」
これぐらいでいいだろう。満足したので、本題に入る。
「まあ、茶番はここまでにしよう。用があるのはギルドマスターだけだ」
そういうとドウルプダは安心したような顔をした。
「それでは儂は退散させてもらいますぞ」
そして意気揚々と軽い足取りで友人を見捨てて部屋を去る。残されたギルドマスターは恨みがましそうにしていたが、すぐに表情を消してこちらに向き直る。
「それでは何の御用でしょう?」
「昼間にケロルベスと戦った牛の獣人について聞きたい」
「それを聞いてどうするおつもりですか?」
「前に言ったとおりだ、話が聞きたい。それだけだよ」
「…わかりました、そういうことなら」
「それじゃ頼むよ」
「彼の名前はアスタ。ソロのAランク冒険者で、その体格に見合うパワーで戦います。周りの獣人にも一目置かれているようで、人望も高い男です」
「それじゃあ魔剣に関する情報は?」
「魔剣は雷属性で、名はカラドボルグというらしいです」
まあ、ギルドマスターが一冒険者について知っているのはこんなものか。
魔剣カラドボルグ、ね。
やはり直接話を聞くのが一番だな。
「明日、彼に指名依頼を頼めるかな?」
「かしこまりました。報酬と時間の指定の提示をお願いします」
破格の報酬と集合時間を紙に書き、ギルドマスターに渡す。
「それでは依頼を承りました」
「よろしく頼むな。じゃあ、今日はこれで帰るよ」
と言うと彼は安心したようだ。
「それではギルドマスター。また会おうね」
「……ええ、是非。」
声が震えているね。昼間にあんなに勇猛に戦った男とは思えないぐらいだ。
去り際に、ギルドマスターの後処理が終わるのを待っていた時間に購入したこの街で入手できる最高の胃薬を置いて、僕は部屋を後にした。
明日も楽しくなりそうだな。
この街で一番良い宿をとってあるので、そこに帰るとする。シュティーア家のものが泊まるのに相応しくないという理由で、僕がこの街に来る前に宿を大規模改修したようだ。
そのせいでこの街では高位貴族が来ているのではないかと言う噂になっている。情報管理の詰めが甘いというか、そんな余計なことしなくても良かったのに。
まあ住み心地は良いに越したことないので表立って文句は言わないが。
幸い、家名まではバレていないことだけは運が良かった。回収した一室で紅茶を飲み、一息つく。
「珍しいですね、メリル様が人と話したがるとは」
「ああ、そうだね。でもどうも彼が気になるんだよね」
「メリル様にそこまで言わせる人物がいるのならば一目見てみたいですね」
「明日、遠目から見ればいいと思うよ。それよりもカレルは明日も友人と会うの?」
「そうですね。この機会を逃すと次はいつ会えるかわかりませんからね」
「そういうものなんだね」
「メリル様も友人をおつくりになればいいのに」
そういってカレルは二本の指を立てて僕に見せる。
もちろんピースサインではない、お前の友達二人しかいないと突きつけ来ているのだ。
「つくろうという努力はしているよ」
「結果が出ていませんが」
「過程も大事だろ?」
「過程を誇るようでは本末転倒です。」
友人の少なさを指のだけでなじられるとは思わなかった…。これ以上この話題を続ける気はないので、寝ることにしよう。
「……明日は早いから、今日はもう寝るとするよ」
「そうですか、よい睡眠を」
「カレルもお疲れ様」
僕がそういうとカレルは優雅に頭を下げ、笑顔で退室していった。




