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オルトロスの群れ


 

「それではこれから緊急会議に入る…ります。メリル様、申し訳ないのですが冒険者を駆り出させなければならないので、冒険者の話を聞くのは難しいのですが……」


「それくらい分かっている。それとギルドマスター、いつもの話し方で構わない」


 緊急時だしな。


「ご配慮感謝します。……それではまず──」



 もちろんこの会議に出席している以上、僕も案を出していく。こういう場に座っていたい「ただのお飾り」の様なバカ貴族とは違うのだ。


 まあ、僕が案を出したときに信じられない様な顔をされたが。この街の人間は貴族を「偉ぶりたいだけの無能」だとでも思っているのだろうか。





「よし、これなら何とかなりそうだな」


「ええ、なんとか戦力が足りているようで良かったです」


「策を練ったなら早く行動したほうがいいだろう」


「そうですね、では全員行動を開始してください」


 この街はそんなに大きいものでも無いし、集まっている冒険者の質も王都などよりはもちろん低い。それでもある戦力を駆使して、街を守ろうとするみんなの気概は感じ取れた。

 

上層部がこうも意識が高いと、街もうまく発展していきそうである。伝達に向かった人が会議室を抜け、残った者たちに告げる。


「それではここで退室させてもらう。僕の正体はこの部屋だけに留めておくように」


「「「はっ!!」」」


 残る彼らの忙しいのだろうし、僕がいても緊張して普段通り動けないだろう。僕は会議室を後にする。




 人目が付かないところに移動し、魔法袋から剣や防具を次々に取り出して装備していく。最後に隠密の効果があるローブを纏い、移動を開始する。


 もちろん目標は冒険者たちと同じく、街の北だ。カレルと合流するのは夕方なのでそれまでには帰ればいいだけだ。 


 しかし、オルトロスにケロルベスか。オルトロスはわりと有名なモンスターであり、熟練の冒険者パーティーなら難なく相手どれるはずだ。


 しかしケロルベスは違う。ケロルベスはAランクモンスターであり、かなり上位に位置するモンスターだ。一般的な冒険者が相手どれる存在ではない。


 ゆえに今回は策を弄し、対処できるようにしている。しかし、モンスターとの戦闘に慢心は危険だ。最悪の場合は僕も参戦しよう。まだ到達するまで時間があるし、脳内でオルトロスとケロルベスの情報を思い出す。


 オルトロスはCランクモンスターで、二つの頭をもつ犬の姿をするモンスターだ。常にせわしなく動き、獲物を探し求める習性をもつ。鋭い爪と牙が武器で、高い機動力をもつ典型的な牙獣種である。…だったけな。


 そういえば狩りに行ったときに、シオンが仕留めていたのはこいつだったな。




 ケロルベスはAランクモンスターで、3つの頭を持つ犬の姿をしたモンスター。


 しかしただオルトロスの頭が一つ増えた存在ではない。多くの戦いを経験したオルトロスが進化し、炎と鎖を身に纏うようになった危険なモンスターだ。体も一回り大きくなっていて、機動力とパワーも上がっている。


 …進化したといえど、炎と鎖はどこから持ってきたか疑問に思う。


 まあCランクから一段階飛ばしてAランクへの進化を果たすモンスターだ、謎は多いのだろう。



 ようやく会議で戦場に決まったところに到着する。戦闘はまだ開始しておらず、先に到着していた冒険者たちが罠を仕掛けているようだ。


 さらっと周囲を見回し、冒険者たちを確認していく。思ったよりは腕が立ちそうものは多い。


 これなら勝てそうだ。




「おい、そこのお前。なぜ隠れている」


 と声を掛けられ、振り返ると機甲がいた。この声は…ギルドマスターか。フードを脱ぎ、隠蔽効果を解除する。


 そしてギルドマスターが声を発するよりも早く、人差し指を口に持っていき、黙れとジェスチャーする。


「えっ!?……えっ?…あ……」


 とりあえずは落ち着いたようだ。周りの視線も感じるしそこで演技を開始する。


「このローブには隠蔽効果があるのですが脱ぐのを忘れていました」


「そ、そうか。それなら仕方がないでs…仕方ないな!」


 おいおい、声が震えているぞ。しっかりしてくれ。


「まだこの街に来たばかりなんです。あなたが機甲持ちのギルドマスターさんなんですか?ぜひ話を聞きたいです」


 嘘は言っていない。彼の機甲は知らないし、この街に来たばかりなのも本当だ。


 ギルドマスターが僕を誘導するように見せかけて、話が聞こえにくい隅にまで行く。




「やあ、また会ったね」


「なんでいるんですか…」


「見学」


「勘弁してくださいよ」


 そういえば口調がすこし軽くなったな。これは彼が僕に慣れてきたと思ってもいいのだろうか。


「とりあえず、すぐに護衛をよんできます」


「要らん、今戦力を裂くのはよろしくない」


 というか貴族の坊ちゃんが戦場へ遊びに行って周囲に迷惑をかけるだけと思われたくない。


「しかし、そういうわけには」


「僕はマンティコアぐらいなら一太刀で殺せるぞ」


「えっ…」


「ということで護衛は要らん。いない者として扱え」


「それがご命令なら」


 と言いながら頭を抱えて彼は去っていく。今日は精神的に過労死しそうだな、ギルドマスター。




 ローブを再び着て、隠密効果を発生させる。しかし意外だったな。機甲持ちが冒険者をやっているなんて。普通は国に身分が保証される騎士団に入るものだが、彼はなにを思って冒険者になったのだろう。


 冒険者だけでなく、ギルドマスターに話を聞いてみるのも面白いかもしれない。もっとも、彼としてはもう僕の顔を見るのが嫌かもしれないが。


 作戦に貢献しているのだし、これぐらいは貴族特権ということで勘弁してもらおう。




 機甲持ちであるギルドマスター以外にも、戦力の中心となりうる人物はいないか探してみる。


 あの集団は…駄目だな。


 あれもダメ。


 あれは態度がでかいだけだな。


 と周囲を見回していくと、冒険者が集まっている所の隅に一際目立つ人物を発見する。


 あれは…牛の獣人だな。しかも魔剣らしき大剣を背負っている。牛はシュティーア家の家紋だし、魔剣を所持している所を考え見るになんとも興味がわく人だな。


 もし、強いのならあとでぜひ話を聞いてみたい。


 彼の周りでは多数の獣人が彼に話しかけている所を見るに、獣人の間では中々有名な人物らしい。しかし、どこか周りの獣人と壁を感じる。もしかして彼はソロの冒険者かもしれない。


 冒険者は基本的にパーティーになる。外の世界を歩き回るのに、一人では不都合が多いし、戦闘や食事、探索を一人でこなさなければならないところを考えると、ソロで冒険者をやるのは不合理だ。しかし、それでもあえてソロでやっているのならば──


 ますます彼に興味がわいたな。その1人であろうというやり方に少し共感を抱いたのかもしれない。





 罠を仕掛け終え、冒険者たちは少し離れたところに隠れている。


 今回仕掛けたのは起動式の落とし穴だ。穴の底には毒針が仕込まれており、これで数を減らし、混乱している所を強襲する作戦だ。


 街にあった備品からではこれくらいの罠しか作れなかったが、オルトロス相手には十分だろう。


 落とし穴の上にある餌は匂いの強いオークの肉だ。ただでさえ臭みが強いのに、より広範囲に匂いが広がるように加工してある。


 これによって冒険者の匂いなどを感知させずにする事ができるという利点がある。


 でも範囲内で待機しているのはかなり苦痛だ。特に嗅覚の鋭い獣人たちは思いっきり顔をしかめているが、耐えてもらうしかない。



 しばらく待っていると、匂いにつられたのかオルトロスが一匹近づいてくる。


 オルトロスはあたりを見回し、警戒している。冒険者たちはギルドマスターの指示がないので待機している。


 とはいってもあれが斥候だと分からないやつはこの集団の中にはいない。少しだけ肉をつまみ食いした後、オルトロスは踵を返し、元来た方向へ走っていく。


 起動式の落とし穴にしといて良かったと思える一面だ。普通の落とし穴なら今ので台無しになっていただろうから。




 しばらくするとケロルベス率いるオルトロスの群れがやってくる。ケロルベスの数はなんと2匹もいる。普通は群れのボスは主導権を争わないために、一匹しかいない。


 しかし、あの二匹は並走していることから同格の立場だと感じる。もしかしたら番いなのかもしれないな。



 斥候に確認させたからか、ケロルベスたちは碌に確認することなく、一目散に肉に飛びついていく。これだけの群れを維持するのは大変なのか、やせ細っているオルトロスもいた。


 なるべく多くのオルトロスたちが範囲に入ってのを見計らってからギルドマスターが落とし穴を起動させる。


 それで多数のオルトロス達が罠に落ちていき、悲鳴を上げる。


 毒針はオルトロスにもちゃんと効いたようだ。落とし穴を起動したせいで、煙が立っている場所に魔法使いたちが次々と魔法を打ち込んでいく。


 これでさらに数を減らせるはずだが…。



「「ギャオオオオオオオ‼」」



 煙が晴れ、おおよそ犬らしくない声で鳴きながら2匹のケロルベスが飛び出してくる。


 その周りに群れの先頭付近を走っていたオルトロス達も次々と飛び出してくる。ケロルベスとオルトロスの目は怒りで血走っていた。 


 ケロルベスはともかく、こういう元気なオルトロスは毒針で仕留めたかったのだが。



「戦闘開始‼」


 冒険者たちもギルドマスターの掛け声で突っ込んでいく。僕が気になっていた牛の獣人とギルドマスターはケロルベスの担当になったらしく、そちらに向かっていった。


 冒険者たちは健闘しているようだ。


 平均的な質は王都に劣るとは言ったが、Cランクモンスターに圧倒されるようなものは今回来ていないはずだ。


 この戦闘で一際目立つのがケロルベスとギルドマスターの戦闘である。機甲らしい頑丈な装甲でケロルベスの炎や鎖攻撃を無効するギルドマスター。


 それに対し、ケロルベスはその脚力でギルドマスターの攻撃を避けている。


 機甲のパワーで振るわれる剣と鎖や炎が飛び交う戦場は見ていて飽きないものだ。それに気を取られた冒険者の一人がケロルベスの鎖に吹っ飛ばされ、地面を転がる。


 3つも頭があるのだから、ギルドマスターと戦いながらも周りの冒険者たちの隙を伺っていたのだろう。流石はAランクモンスターだ。


 仲間が一人吹っ飛ばされたことで、そいつを回収して周りの冒険者がギルドマスターとケロルベスの戦場から離れていく。


 これにより気を配らなくて済むようになったからか、ギルドマスターの機甲の振るう剣の速度が上がった。


 対するケロルベスは避け続けるのは難しいようで、次々とその体に傷ができていった。これでギルドマスターの勝ちはほぼ確実になったな。


 そもそもケロルベスはギルドマスターの機甲に対し、有効な攻撃を持っていないのだから。




 この結果は予測していたので、次は牛の獣人の方を見る。彼は機甲の様な装甲もなければ、所持している武器が大剣なので、ケロルベスはやりにくい相手ではないだろうか。


 機甲が好きだから先にギルドマスターの戦闘を眺めていたが、もしかしたら彼を見ていた方がいいかもしれない。


 彼が倒れたら真正面からケロルベスを止められる人物は冒険者の中にはいないのだから。




 しかし、そんな心配は無用だったようだ。彼は機甲にも劣らないパワーで大剣をケルベロスに叩きつけるが、あっさり躱される。


 だが、ケロルベスは大剣が纏っている雷までは避けられず、少しずつ体を焼かれて苦しんでいた。あの魔剣はどうやら雷を纏う事ができるらしい。


 雷属性は強力なうえに大変希少だ。あの魔剣はもしかしたらとんでもない代物かもしれないな。


 体をどんどん焼かれていき、次第に速度が遅くなるケロルベスについに大剣が直撃する。それでケロルベスの体は断たれ、血を噴き上げる。


 魔剣を持っているとはいえ、Aランクモンスターを断てるとは、彼のパワーは本当に凄まじいな。生身とは思えないぐらいだ。



メリル(貴族の坊ちゃんが戦場へ遊びに行って周囲に迷惑をかけるだけと思われたくない。)           

 ↑迷惑かけている 

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