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機甲使いの模擬戦

 


 今、修練場には5人の機甲持ちが集まっていた。父と父の部下たちだ。全員一流の機甲の使い手らしく、騎士団でもかなり優遇されているそうだ。機甲使いはレアだし、国も大切にするだろう。


 それじゃあ、ともかく挨拶でも。


「メリル・シュティーアだ。よろしく」


 よし、午前の練習を忘れてない。ちゃんとできた。


 それにしても自分はいい御身分だと思う。いくら騎士団長といえども、その息子に機甲を見せるためだけに精鋭の機甲使いを4人も集めるなんて職権乱用ではないだろうか。



「うむ、メリル。こいつらは騎士団でも有数の期待の新人でな、今日はお前のために集まってもらったのだ」


 そんな説明は前から聞いているが、改めて彼らの前でいう事で士気をあげたのだろうか。


 父に精鋭といわれた彼らが少し嬉しそうにしたのが見えた。もしかして…父って部下には尊敬されているのか。いや、騎士団長だし当たり前か。



「では全員自己紹介を」


「私はボルド。機甲はハナシスという名でバランス型です」


「私はカメル。機甲はグラッタという名で攻撃型です」


「私はデメリア。機甲はフルレイダという防御型です」


「私はヌエダ。機甲はトゥルネアという速度型です」




 おいおいまじかよ。


 こいつら自己紹介するときのセリフがほぼ同じだ…。機甲のも合わせて8個も名前を一気に覚えるのが難しい。


 一人称まで同じとか個性殺しすぎじゃないか?個性を出せ個性を。 



「よしお互いのことも知れたし、まずは機甲同士の戦闘というものを見てもらおうか」


 全然知れてない……が、そんな事はいえる雰囲気じゃないな。


 それよりも──いきなり見どころのありそうなイベントだ!


 自分が期待している雰囲気を感じた父は少し安心したようだ。まあ、どんな物を与えてもうれしそうにしない子供だったからな、僕は。


 物貰ってはしゃぐのは恥ずかしかったし、玩具などはそもそも本当にうれしくなかったからな。


「では、自己紹介した順番で戦ってもらう。まずはボルドとカメル!」



 

 修練場の真ん中で、二人が向かい合い、お互いの機甲を顕現させた。


「ハナシス!」


「グラッタ!」


 バランス型のハナシスと攻撃型のグラッタが同時に顕現する。ハナルスはバランス型というだけあって、小型の盾と直剣とバランスのいい装備だ。グラッタは人よりも巨大な斧が武器だ。確かにあれは攻撃型だろう。


「お互い準備は良いな?それでは…はじめっ!」


 

 修練場の床を蹴り、お互いに駆け寄る。人なんかよりもはるかに巨大な質量も持つ機甲が駆ける姿は非常に迫力があるな。


 まずはグラッタがその巨大な斧を振り下ろすが、それはハナシスに盾で受け流されてしまう。しかし、その破壊力は受け止めきれなかったようで、今の一撃で盾が半壊する。いきなり迫力あるぶつかり合いで心が躍った。


 今度はハナシスが素早く剣を振るい、グラッタに傷をつけていく。グラッタは盾を装備していないだけに頑丈そうだったが、このままでは装甲がもたないだろう。


 これ以上やらせてたまるかとばかりに今度は横から斧を振るうグラッタ。


 それを後退することで回避するハナシス。こう見るとハナシスが優勢に見えるが、グタッタの攻撃を一撃でも貰うと、ハナシスは致命傷を負うだろう。


 そのため、ハナシスはかなり慎重に戦っているように見える。ハナシスが攻めてこないのがわかると、グラッタが斧を担いで再度突撃する。その機甲と同じ様に、使い手は豪快な性格のようだ。


 ハナシスは半壊した盾を投げ、それはグラッタに直撃する。そのせいで右肩の装甲が歪むが、それにかまわずグラッタは突撃し続けた。


 そしてグラッタはハナシスの前に到達し、勢いよく斧を振るう。ハナシスは回避が間に合わず、右肩から右足まで一気に切り飛ばされる。


 それでハナシスは限界を迎えたようで、顕現が解除されて使い手が地面に倒れる。


 勝負はついた。グラッタの勝ちだ。どうやらこの勝負は気迫の強かったグラッタがハナシスをおしたようだ。




「どうだメリル?これが機甲同士の戦いだ」


「最高ですよ。僕はこれがずっと見たかった」 


 本気で思う、最高だと。


 早く自分も機甲が欲しいと願った。


 こんなにも何かを欲しいと思ったのは初めてだ。きっと今僕は、今までにないくらい純粋な気持ちで笑っているのだろう。そんな僕を見て、父も嬉しそうだった。




「よし、次はデメリアとヌエダだな」


「フルレイダ!」


「トゥルネア!」


 先ほどと同じく、お互いの機甲を顕現させ、向かい合う。フルレイダはバランス型と言っていたが、同じバランス型のハナシスと違い、武器は大きな盾とランスだった。大盾の取り回しは悪いだろうが、カバーできる範囲が広く防御性能は高い。

 

 トゥルネアは両手に短剣を装備し、装甲も薄い軽そうな機甲だった。あれならば確かに他の機甲よりも素早く動けるだろう。


「それでは、はじめっ!」


 まずは速度特化型らしく、トゥルネアが先手を取る。僕はその跳ねるような動きに驚いた。

 

 軽そうとは言ったが、それはあくまで機甲の中での話。人なんかよりも大きな質量をもつのに、まるでそれを感じさせないほど自然な動きだ。あの跳ねるような動きで敵を翻弄するのだろうか。


 隙をついてトゥルネアがフルレイダの後ろに回り込み、武器を突き立てようとする。しかし、それは予想されていたように、あっさり盾ではじかれたのだった。そのまま流れを掴むようにフルレイダが攻勢をかける。


 息のつく間もないほど激しい槍さばきでトゥルネアはどんどん傷ついていく。


 間違いない、このフルレイダの使い手は4人の中でも最も強い。たしか使い手の名前はえっと…思い出せない、あとで聞いておこう。


 トゥルネアはなんとかその激しい攻撃から抜け出し、後退するが、損傷が激しいようで膝をついてしまう。


 これはもう勝負は決まったかな。トゥルネアの使い手もそのことが分かったように最後の攻勢をかける。その速度は先程よりも速く、捕らえるのがより困難になる。


 これは後のことを捨てて、今にすべてをかけているような気迫を感じるな。


 たしかに逆転するには長引かせるべきではないだろう。


 トゥルネアの渾身の攪乱速度についていけず、ついにフルレイダから盾で阻む前にそれをもった腕ごと斬り落とされる。


 すごいな、と素直に思う。


 フルレイダの槍さばきも、トゥルネアの捕らえられないような動きも使い手の努力の結晶だろう。彼らはここまで至るのにどれほど時間をかけたのだろう。


そんな事を思っていると、模擬戦はいよいよ終わりに近づいた。


 速度に対応しだしたフルレイダが槍を持ったまま手でトゥルネアの左手を殴り、半壊させる。確かに槍よりも手で殴ったほうが小回りはきくが、まさか本当に殴りつけるとは。


 お互い片手しか残らない惨状になったことで、トゥルネアが本当に最後の突貫をかける。


 トルゥネアが今まで見たよりも速い速度を出し、真正面からフルレイダを刺そうとする。


 しかし、それを予想していたフルレイダはトルゥネアを下から蹴り上げた。そのまま空中に浮かんだトルゥネアを槍で突き刺し、地面にたたきつける。


 許容できる以上のダメージを受けたことでトゥルネアの顕現が解除され、使い手が地面に転がる。


 勝負はついた。勝者はフルレイダだ。


 フルレイダの動きはなにか他の三人と違うような、それこそより対人戦に長けていたように感じる。この機甲の使い手達と話してみたくなったな。


 

 その後も、休憩をはさみながら組み合わせを変えて、模擬戦は続いた。どの試合も見所はあったが、特に最初の模擬戦の勝者であるフルレイダとハナシスの戦いは見ていて面白かった。


 実力で優っていると思われたフルレイダは連戦で疲れていたためか、戦いは拮抗していて、終盤にはお互い武器を失い、素手で殴り合いになっていた。


 結局、最後に金属同士がぶつかった様な重厚な音を響かせながらの殴り合いを制したのはフルレイダだった。






「うむ。思ったよりも長引いてしまったな、今日はここまでにしよう。明日は4人対私だ」


 とだけ言い残して父は屋敷の方に立ち去って行った。


 確かにもう遅い時間の様だし、4人とも疲弊している。今から、彼らに父と戦えと言うのは酷な話だろう。父が離れるのを見届けると、彼らは僕を招き反省会を始めた。


「どうでした?メリル様?」


「実に面白かったよ。機甲同士の戦いをずっと見たいと思っていたが、想像以上に面白かった」


「それは良かったです。メリル様もそろそろ顕現できると聞いていますが、メリル様はどのような機甲が欲しいのですか?」


「興味深い話だな。願えば願い通りの機甲が顕現できるのか?」


「そうですね、ある程度自分の意志通りの機甲が出ると言われています。速さを願えば素早い機甲に、頑丈さを求めれば防御の堅い機甲にといった具合で」


「ほう、欲張ればどうなるのだ?」


「バランス型になります。願えるのはどんなタイプかというだけで、機甲の強さは本人の資質によりますね」


「資質か……」


 自分にはあるだろうか。今まで何でもこなせたつもりだが、機甲の資質だけはありませんでしたではがっかりだ。


「うん、興味深い話を聞いたな。少し自分でも考えてみよう」


「メリル様ならきっと強い機甲を顕現出来ますよ!」


 そうだといいなぁ。




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