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王城でパーティー4

 



 明るい音楽が王城の外まで響いてくる。どうやらダンスパーティーが始まったらしい。


 婚約者のいない身としてはこの時間は非常につらいものだ。


 ダンスパーティーは気になる異性を誘うことのできる数少ないチャンスであり、貴族の少年少女たちには欠かせないイベントだ。


 <記憶>でいうところの文化祭後の後夜祭……という様なものだ。今頃、場内では色めき立った雰囲気が流れていることだろう。


 


 

 僕には全然関係ないが。


 確かに僕はシュティーア家の次期当主らしく、今は色恋沙汰よりも冒険したいという気持ちが勝っている。


 でもシオンがキャッキャッウフフしながら去っていくのを見た後に、今の自分の状況を思い直すと少しやるせない気分にもなるのは止められない。


 ……いやいや、弟に婚約者ができたのは喜ばしいことだ。こんな事を考えていないで、少し散歩でもして気を紛らわせよう。



 

 専属の超一流庭師が整えたとされるこの庭は非常に美しい。人の手で作られているのにまるで大自然の中にいるようだ。木々が並んでいるところに入り、緑を楽しむ。


 森にいる冒険者もこんな気分なのだろうか。少しだけ自分が森で冒険している所を想像して楽しんでいると花壇の前で蹲っている女性が見えた。


 もうダンスは始まっているのにまだ人がいるなんて思わなかった。もしかして相手が急用でお茶会に来られなくなったのだろうか。それとも同性愛者だから、異性と踊るのが嫌なのだろうか。


 まあ、何かの縁だ。声をかけるとしよう。体調が悪いなら医務室に運んだほうがいいし。




「蹲っているようだが、体の調子でも悪いのか?」


 人が見ているとは思わなかったのか、令嬢はびっくりしながらこちらに振り返る。


「いえ、大丈夫です。少し花を眺めていただけなので」


「それなら良かった。花に詳しいのか?」


「ええ、そうなんです。ところで──」


 と会話していると誰かが駆けよってくる。




 お、シオンにも負けないぐらいイケメンだな。


 この娘のボーイフレンドかな?


「はぁはぁはぁ…。すまない、遅れたっ!」


「遅いじゃないですか!女性を待たせるなんて!」


「ごめんごめん、ちょっと他の娘に捕まちゃってね。でも大丈夫、ちゃんと振り払ってきたから」 


「もう、そこは心配してないですよ。あなたの愛は私にだけ向けられていることを知っていますから」


 ……あっ(察し)


 顔を合わせた瞬間、二人だけの世界に入った二人を見て、僕は確信した。


 間違いない。バカップルだな、と。バカップルを見送って散歩していたら、今度は別のバカップルに捕まるとは運がない。




「君たちはダンスに行かなくてもいいのかい?」


「ああ、僕は人混みが苦手なんだ」


「私を庇わなくていいのですよ。私がダンスを長時間踊れるほど体が強くないのが原因なのです」


 返事するのにもいちいち見せつけてくれるな。でも、良かった。一応認識はしてくれているらしい。


「君こそこんな所で何をしているんだい?っと、僕としたことが自己紹介を忘れるとは。僕はカルロ・エリレーンだ。エリレーン伯爵家の次男さ。こっちが──」


「ナデラ・ミルネンです。ミルネン子爵家の三女で、カルロの婚約者です」


 シオンのところほどでは無いが、こっちも身分差のあるカップルのようだな。自分のセリフにうっとりしているナデラの横でカルロが手を差し出してくる。


 僕は笑顔でそれを握り返す。


「よろしく」


 同じ伯爵家でもエイベル家の兄妹と違ってとても好感の持てる人物だ。次は僕の自己紹介だ。


「僕は──」


「それ以上は続けなくていい。」




 えっ?


「ダンスパーティーの相手が見つからないからこんな所に来たんだね」


 それは違…いや1割ぐらい合っているか。相手もいないのに会場に入りたくない。


「でも悲観することはない。諦めなければきっと運命の相手に巡り合えるはずだ!」


 え?何の話?


「さあ、一緒に城内へ行こう。君の自己紹介は君が相手を見つけたら聞くとしよう」


「それはいい考えですね。私たちも一緒に相手を探してあげますよ」


「あのシオン様も今日ついに運命の相手を見つけたらしいからな。君もこれは何かの機会だと思って思い切って人を誘うべきだよ!」


「まあ、シオン様が!お相手はいったい誰なのですか?」


「ああ、それは…」


 シオンの情報の拡散速度すごいな。流石に高位貴族の話は広まるのが早い。


 …彼らはきっと善意で僕に言っているのだろう。相手が見つからずにここまで逃げてきた――とでも思われているらしい。


 恋と愛に生きる彼らにとって、知り合いには恋愛を諦めてほしくないのかもしれない。 


 ……でも放っておいてくれないかな。




「幸い君はルックスも悪くないし、服も見ている限り裕福だろう。それに話している感じでは貴族の子息にありがちな増長したいけすかない態度はとらないみたいだしね」


「ええ、あなたならきっといい相手がすぐに見つかりますよ!」


 この悪意のない親切が痛い。


 両手を上げ、彼らの注意をひく。これで少しは話を聞いてくれるだろう。



「いや、やっぱり自己紹介させてもらおう。お互いのためにもね」


「…お互いのため?どういう意味なん「僕はメリル・シュティーア。シュティーア公爵家の長男だ。」


「「え?」」


 仲いいね、この二人。思わず微笑んでしまいそうだ。そして自分の知名度の無さに絶望している。


 何回かサボっただけど高位貴族といえど顔を忘れ去られていくのか…彼らがたまたま知らなかっただけかもしれないが、エイベル家の兄妹も言われるまで気づかなかったことを考えると自分の出席率が主な原因だろう。



 もう少し出席率を上げるか。少なくとも顔は覚えられるぐらいには。 


 


 先ほどとは逆に今度は向こうが固まっている。


 そしてなぜか次第に同情するような視線でこちらを見てくるのだった。




 え?


 なんでそんな目で僕を見る…


「シュティーア家の長男と言えば才能が溢れているのに体が病弱の?闇に身を蝕まれているせいで太陽の下を歩けないという…?」


 病弱?


「普段は体が弱っているから、満足にお茶会にも出席できないあのメリル様ですか?」


 何の話?





 どうやら普段お茶会をサボりがちだったのを病弱だと思っているらしい。


「ああ、失礼しました。シュティーア家の長男だとは思わず。お体は大丈夫なんですか?」


「きっと今日も無理して来られたのですね」


 心配そうな目で見てくるカルロとナデラ。


 思えば他人にここまで同情されたのは生まれた初めてかもしれない。状況が状況だけに全然うれしくない。


 まあ、身から出た錆なのだが。さあ、どう弁解しようか困ったものだ。


 


 




 あの後なんとかうまく弁解した。お茶会に来ないのはサボりだという事もうまく隠した。


 あの二人にはサボっていた事実を知られたくないな、と思ったからだ。そういえば家族と皇子達以外にあんなに他の貴族と話したのは初めてだな。何やら新鮮な気分だ。


 あんなに他人に同情的な視線を向けられたのも初めてだが。


 






 今回のお茶会は色々と楽しめた気がする。カルロとナデラという新しい知り合いに巡り合い、シオンも婚約者を得た。


 来てよかったと思えなくはない。もちろん愉快なことばかりだった訳ではないが、何よりも教訓を得られたことが大きい。




 あんまりお茶会をサボっていると碌な事にならない、と。


 皇子達が言っていた心配とはこれの事だったのだ。自分は少し自惚れていたのかもしれない。皆が自分を知っていて当然とばかりに。


 思い返すと恥ずかしい。 


 


 僕は決心した。


 パーティーの出席率を上げねば、と。 



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