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旅の始まり

「とりあえず『創成の竜』を目指します」

「創成の竜……」

「知っているのですか?」

「――いえ、知りません。その居場所は知っているのですか?」

「いえ。北の方だとしか……」

「北であれば、青竜も居ますね」

「それはいい情報を聞きました。機会があればそちらも会ってみます」

「竜はそれほど簡単には……。――いや、ヴェセミアさんなら会えるかもしれませんね」

 その根拠はどこから出てきたのだろう? しかし自分でも白竜に会えたことが自信になっているのか会える気がしてくる。

「帰ってこられたら近くの町か村からお師匠さん宛へ連絡してください。数ヶ月後には必ず安心して暮らせるようにしておきます」

 そういうとロヒさんはお金らしきものが入った袋を渡してきた。

「これは頂けません」

 返そうとするが受け取らない。

「これから先、どれだけのお金が必要になるか判りません。もしもお金で解決するのであれば使ってください。それは私の悪戯への償いです。――必ず帰ってきてください」

 そう云うと木戸の上に飛び乗ってあっという間に飛び去ってしまった。

 受け取ってしまった袋の中身を見ると、金貨ばかりが一年は遊んでくらせるだろうと思われる程入っている。

「遊んで暮らせということだろうか……」

 実際にはその一枚だって使う気はない。そのまま返すつもりだ。白竜に会いたがったのも自分なら実際に会うことを決めたのも自分でしかないのだから、この事態を招いたのは自分自身でしかない。

 事態の収集はさすがに自分の手に余ることなので、それはロヒさんにお願いするしか手立てはないだろう。白竜へ会えたことへのお礼と事態の収集に対するお礼とで、この金貨は倍にして返しても良いくらいだ。


 出発前に調べることもできなかったこの旅の行く先は、とりあえずこの街道を北上してどこかの町に辿り着いた時にでも調べるしかなさそうだ。創成の竜と青竜の生息している場所なんて北とだけしか知らない。創成の竜はロヒさんですら知らなかったのだ。調べても無駄かもしれない。

 そうなるとまずは青竜を目標にした方が良さそうだ。創成の竜は青竜にでも尋ねよう。そういえば創成の竜は氷竜らしいから氷竜にも会えるのかもしれない。

 先刻までの追われる身としての恐怖や不安は、いつのまにか竜達と会うことができるかもしれないという期待と希望に変わっていた。

 よくよく考えてみると数ヶ月を皇都から離れなければならない時点で宮殿の設計は諦めることになるのだ。宮殿の設計どころか、これから先の仕事も前科持ちには回ってこないだろう。せっかくだからこの時間は竜の研究に全力を注ぐことにしよう。もしかしたら竜の研究家として再出発ができるかもしれない。なんだか楽しくなってきた。

 でも、どうして私はこんなにも竜の事を知りたがっているのだろう……。

 初めは仕事の為だったが白竜と会い、他者の知らない竜の事を知った。その竜とは念話という普通に暮らしていては経験することの無い方法で会話までした。人間という種族の中では竜に対しての理解が一番多いのではないだろうか、とすら思ってしまう。それを確かめる術はないが、これまで読んだ本には書かれていないようなことまで私は知っているのだ。これはもう他者への優越感にひたらないわけにはいかない。

 理由はもちろん調べる内にもっと知りたくなったという知的欲求もあるだろうが、優越感を高めたいが為というものも大きな部分を占めているようだ。

 会えたら本でも書こうかしら?


 午後になってから着いた最初の町で今日は泊まることにした。追手が少し心配ではあるが、そこはロヒさんが上手くやってくれているはずだ。強盗や追剥、山賊まで出るらしいこの辺りでは、夜の女の一人歩きは怖すぎる。先を急いで夜になる前に次の町へ着くかどうかは地図も持たない私には見当もつかないのだ。

 次の日は旅に必要となりそうなものを揃えるために町の店を見て回った。

 これから先はまったく知らない土地だ。どこで野宿をすることになるか判らない。白竜の祠で斧が無くて鋸を使おうとしたことを思い出し、小さな斧を買った。これは、もしかしたら山賊達に襲われた時に武器にもなるかもしれない。

 他にもナイフや小さい鍋、カップにスプーン等も買った。これから先は干し肉だけの生活なんて耐えられない。食材の調達ができるか判らないが野宿をするなら有った方が良いはずだ。

 古道具を扱う店の前に弓が置いてある。ナイフは買ったがこれだけで剣を持った強盗や山賊に対抗できるとは思えない。買った方が良いだろうか……。

 どうせ買うならと専門の武器屋へ行くことにした。中へ入ると暇そうにしている店主らしき人がいる。

「女でも使えそうな弓はありますか?」

「獲物は?」

「獲物……」

 護身用だが、よく考えてみると竜に会う為には人里離れた場所に行くことになるだろう。鍋だけあっても食材が無ければ腹は膨れない。狩りも必要になるかもしれないと思った。

「一応は護身用なのですが、狩りなんかにも使えたら良いですね」

「狩っていっても、大型の獲物だとそれなりの威力が必要だよ。小さなやつなら護身用と併用ってのも出きるだろうが……」

 そういいながら弓が置いてある一角へ歩いて行き、少し大きめの弓を取りだして渡してきた。

「それなら大型の獲物でなければ、なんとか一発で仕留められるかもしれないな」

「大型っていうと、どんなのですか?」

「熊とか野生の牛とか、あと、もっと北に行くとでかい猪なんかも居るらしいな。そんなものかね」

 熊に利かないのなら護身用にならないかもしれない。何発か当てられたら倒せるかもしれないが、その間にこちらが殺されるだろう。

 しかし、これ以上大きい弓は引ける自信がない。この一回り小さいのだって動いている獲物に当てることが出来るのかは判らない。

「これを下さい、あ、それと矢もいくつか欲しいのですが……」

「まいど」

「――安くしてくださいね」

 師匠から借りているお金は、あと数日もすればなくなるかもしれない。ロヒさんのお金には手を付けないという決心は早くも揺らいでいた。


 次の日は朝早くに出発した。通る町々にある竜の情報を捜しながら北上したかったので、なるべく早くに出て着いた町で多くの情報を得たかったのだ。

「お早いですね」

 宿の人から迷惑そうに眠そうな声で云われたが、客商売なのだから愛想くらい良くして欲しいと思いながら宿を後にした。

 空は気持ちが良いほど晴れている。これは幸先が良い。

 追われる身なのになぜだろう。すごくわくわくしている。


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