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投獄

 白竜への質問は夜中まで続いたが、質問している間のほんの少しの時間で白竜が眠ってしまい、そこで夜中の会見は終了するしかなかった。さすかに起してまで質問していては機嫌を損なわせてしまう。

 次の朝に白竜が祠を出る気配で目を覚まし、ここが白竜の祠だと思い出すと同時に白竜が飛び立つ「バサッ」という音が聞こえた。

「あ、行っちゃった」

 さすがに今日は帰らなければならない。下りだから朝早くに出れば、今日の夜には麓の村に着けるのではないかと思っていたので、朝の見回り前に白竜へのお礼とあいさつをしたかったのだ。さすがに何も言わずに居なくなるのは失礼すぎるので帰りを待つことにしよう。

 白竜は思ったよりも早く帰って来た。昨日の夕方の見回りは枯れ木を捜すのと運ぶので少しだけ時間が掛かったのかもしれない。

「白竜さん。ありがとうございました」

「おや、帰るのかい?」

「はい。ほんとうはもっと話を訊きたかったのですが、あまり長い間を留守にすると心配されてしまうので」

「そうかい。もう会うことはないだろうが、達者でな」

「え?どうしてですか?また来れば会えますよね?」

「魔法を解除できればね」

「どうやれば解除できるんですか?」

「教える訳にはいかないよ。ぞろぞろと人間達に来られちゃ迷惑だ」

「誰にもいいません」

「あんたも『人間達』に入っているんだがね」

「夜中まで話を訊いたのは、やっぱりやりすぎだったでしょうか?」

「まあ、あんたなら数年に一度くらいならいいがね。あんたが方法を知っているのが皆に知れたら騙してでも、殺してでも、知ろうとする者はいるだろうさ」

 確かにその通りだろう。白竜に会ったと云えば冒険者なら自慢どころの話ではない。それどころか会話までしたとなれば英雄にすらなれるかもしれない。

「わかりました。方法はあきらめます。――でも数年に一度なら挑戦しても良いんですね。必ずまた来ます」

「いや……。まあいいか」

 よし。これで挑戦するなら何度でも来ることができる。魔法の勉強もすることになるかもしれないが。

「本当に訊きたい話はまだまだあったんです。でも今日は帰ることにします。ありがとうございました」

「まあ竜は私だけじゃないんだし他もあたったほうが色々おもしろいんじゃないかね。特に北の『創成の竜』と呼ばれている氷竜なんかは、私なんかの何倍も長く生きてるんだ。そっちの方がもっと面白い話が聞けるはずだよ」

 創成の竜。初めて聞く名前だった。これまでに読んだ本でも見たことはない。

 会ってみたい。でも、会いに行く時間はない。目的は宮殿の設計なのだから。しかし、自分の中には宮殿の設計と同じくらいに竜族への興味も膨れ上がっていることに気が付いてしまった。


 下山は思ったより早く、夕方には麓の村まで着くことができた。

 宿へ帰ると食事を用意してくれた宿の主人に訊かれてしまう。

「白竜には会えましたかい?」

「はい。とっても大きくて、真っ白で、素晴らしい話ができました」

 云った後でしまったと思った。会えたと云ってしまって良かったのだろうか? あまり人を近づけたくはない白竜に会えたと云うのは白竜にとっては迷惑なことだろう。

 それを聞いた主人はおどろいた様子だったが、あまり信用してはいないような返事をしてくれた。まあ、信じてくれない方が良いのかもしれない。

 宿で一泊し、ゆっくりとした朝を過ごし、少しだけ師匠とおかみさんへのお土産を買って村を出た。来た時と同じ早さで歩けば夕方くらいに皇都へ着くだろう。

 皇都の西門へ着いたのは読み通りに夕方になっていた。門を潜ると数人の兵が並んで立っている。なにかの行事でもあるのだろうか?

 その兵達の前を通ろうとすると後ろから声がかかる。

「ヴェセミアさん? ヴェセミア・ヘッテさんですね?」

「はい? ヴェセミアですが」

「あなたを白竜侮辱罪で逮捕します」

 晴天の霹靂という言葉は知っていたが、これまで使ったことはない。誰かにこの話をする時は使うことにしよう。寝耳に水も使えるわね。


 兵が居たのだから皇都軍の兵舎あたりに行くのだと思ったがどうやら違うらしい。後ろ手にされた手には手枷がはめられ、あまり来た記憶のない道を歩き、着いた場所は白竜教の教会だった。教会が警察のようなことをやっているとは知らなかったが、その地下には確かに牢が在りそこへ入れられてしまった。暗く、明かりは蝋燭一本だけで、その蝋燭もどこかからか入ってくる風になびき今にも消えそうだった。なんとも薄気味悪い所だ。

 その中で何が悪かったのかを考えたが判らない。『白竜侮辱罪』といっていたが、そんな罪は聞いたこともない。だいたい警察じゃなくてなぜ兵士が来るのだ。しかも教会の牢だなんて魔女にでもされてしまうのだろうか? 火炙りの刑なんて洒落にならない。

 そうしていると知った顔が来てくれた。師匠だ。

「今、出してやるから、もう少し我慢してくれ」

「はい。すいません」

 どうして謝る必要がある。私がなにをした。

「わたしはどうして捕まったのですか? 知ってます?」

「わしもよくは知らんが、保釈金を出せば直ぐにでも出て良いそうじゃ。金は払ったから手続きが終われば帰れるらしい」

「えっと、いくらくらい払ったのですか?」

 金額を聞いて眩暈がした。まいった。十年くらいはただ働きしないといけない。師匠はそんな金をよく持っていたものだ。

 しばらくすると神父のような身なりをした一団がやってきて私の前に一列に並んだかと思うと、その内の一番派手な格好をした奴がなにやら説教を始めた。

「白竜様は我々皇国の神聖なる神でいらっしゃいます。その神聖な領域を犯すなどあってはならないことなのです。ましてや会って話をしたなどという戯言を言って回るなど言語道断です。あなたは白竜様だけではなく、同時に皇王、皇国およびその国民までも侮辱するという罪を犯したのです。わかりますか?」

 判るわけがない。そんな罪など聞いたこともない。しかも会ったことを戯言などと戯言を言いやがる。白竜をここへ連れてきて私が罪を犯したのかを訊いて欲しいくらいだ。横で聞いていた師匠は「黙ってうなずいていろ」というような顔をしているが、黙っていられるわけがない。

「わかりません。白竜さんには実際に会いました。戯言なんていっていません。白竜さんは私にやさしく色々な話をしてくれました。それをなぜ侮辱などというのですか? わかるように説明してください」

 師匠は怒ったような顔をした後、あきらめたような顔をして上を見上げている。

「その会ったという竜はあなたを歓迎すると云っていましたか?」

 言ってはいなかった。最初は帰れと言われた。これは反論できない。できたとしても抵抗は良い方向には向かないだろう。師匠の悲しそうな顔を見るとこれ以上はここに居させることはできない。

「わかりました。私が悪かったようです。罪を認めます」

 これ以上の屈辱はこれまでも無かったし、多分これからも無いだろう。


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