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穏やかな日々

 冒険者や竜の研究家としての再出発はしなくてもよさそうだった。

 白竜のおかげで前科持ちという汚名は消してもらえたらしく、師匠が支払った保釈金もちゃんと返してもらえたらしい。壊された塔の事も、これまでのところは、咎められることもなく過ぎている。

 お陰で元の建築家としての職業も問題なく続けられそうだ。暇ができたら白竜に御礼に行かなければならない。

 魔力を持ち、魔法も使えるようになった今ならば、冒険者という職業も少し面白そうだと思い始めていただけに少し残念な気はする。

 ちなみに魔導士としての保有魔力も人としてはかなりのもののようだ。文献を漁っただけではあるが、かなり高位の魔導士としてもやれそうだった。こちらは師匠に話すと、あまり人に話さないほうが良いと言われてしまった。皇都出身の魔導士はかなりの確率で軍に徴用されてしまい、帰っては来られなくなるらしい。怖いものだ。

 白竜研究家としても、この皇都であれば私以上に竜の事を知っている者はいないだろう。ましてや話をしたり背中に乗ったりなんてやれた事がある人が居るとは思えない。これも少し残念な気がする。まぁ、公表できないことが多くありすぎて成功できない気もするが。

 建築家として食べていけなくなってしまったら、またどれかの道を目指すのも悪くはないかもしれない。とは言っても、余程の事が無い限りはこの職業を辞めるつもりも無いのだけれど。


 白竜騒動の後の一ヶ月は色々な人から白竜の事を聞かれ辟易していたが、二ヶ月もするとほとんど話題に登らなくなってしまった。人の興味というものは直ぐに別の物へと向くらしい。

 待っていろと言ったロヒさんは、あれ以来、姿を見せない。この、魔王にも命令ができる私の命令に背くとは、今度会ったら金貨を倍にして返してやる。三倍でも良いかもしれない。

 もう一人、あの旅を語るには欠かせない者が居たはずだが、こちらもどの辺りを彷徨っているのか判らない。きっと寂しい道をゆっくり歩いているのだろう。それともまだ里に居るのだろうか? 目の前で正体を暴いて驚いた顔を見てやりたいのだが、いつになることやら。


 さらに一月が過ぎ、宮殿から招集があった。

 白竜が壊してしまった宮殿を再度建てるために設計競争をやり直すらしい。

 前回と同じ顔ぶれで同じようなことを言われ、同じように半年後が締め切りだと言われた。壊された宮殿を設計したイイケは出席していなかったが、さすがに少し可哀そうだと思う。白竜さんも少しやりすぎだろう。

 そして、これまた前回と同じように招集の帰り道は師匠と並んで歩く。あの三年間が遠くに感じてしまう程、この日常というのはあまりに平和だ。早く仕事に没頭しないと、ふらふらとおじいさんの住処まで遊びに行ってしまうかもしれない。

「今回もやらないんですか?」

「まさか壊されるなんて思いもしないことだからな。別の仕事で手一杯だよ。おまえはやるのだろ?」

「やっちゃっていいものなんでしょうかね?」

「どうしてだ? なにか問題でもあるのか」

「だって、ほら、私、白竜から、なんというか、後ろ盾? みたいな感じになっちゃってますよね? 戦わずして勝つみたいなことになっちゃうと、なんかいやだなって」

「うぬぼれるな。下手なものを出せば当然採用などされんわ」

「でも、それなりになっちゃうと『ここはヴェセミアさんですかね』とかになっちゃうでしょ?」

「それはそれでいいのではないか? 人脈というのも立派な個性だぞ」

「白竜は人ではないですがね」

「馬鹿者」

 この町で人脈は無いが竜族と魔族とは繋がりができてしまった。人の世界ではそれ程役には立たないし、誰にも言えるものではないが、それは自慢であり、自信にも繋がっている。

 その自信は宮殿設計の競争ですら勝ててしまうような気にさせるのだ。


 ふとヴオリ山に目をやるとその山頂付近に、黒い点のような影が飛んでいるのが見えた。

 そういえば、そろそろ白竜が夕方の見回りに出る時間だ。

 まるで見計らったように現れた白竜から、「挑戦しなさい」と背中を押されているような気がしてしまう。

「きっと今日は良いことがあるわね」

 今が夕方なのが少し残念だった。


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