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空飛ぶ船

 魔王の説明は理解できなかった。考えても良くは判らない。この大地を飛び立ち、約一年を掛けて目指す星へ辿り着き、そしてその星はこの大地と同じように土や岩でできていて魔族であれば暮らしていけるらしい。

 理解も納得もできないが、それが本当だとすれば取り敢えず解決策としてはまともだろう。

 しかし危険はないのだろうか?

「もちろん危険はある。しかし私は一度あの星まで行ったことがあり、帰ってこれた。不可能ではない」

 それを信じろと言われても信じられる訳がない。

「信じられないか?」

「はい……」

「これが、私が旅をした時の記憶だ」

 それは念話だった。これまでも念話は竜とも魔族とも交している。しかしそれは言葉だけでの念話とは異なり、現実なのではと感じてしまう程の映像や音を私に伝えてきた。恐ろしいまでの臨場感がある念話だった。

 この大地を飛び立ち、空を高く登って行く。その高さは竜の背中に乗って飛ぶ高さを遥かに越え、暗い空間へと向っている。進行方向とは逆方向に深い青色をした丸いものが見えた。これが私達の大地が在る星ということらしい。

 その記憶はさらに飛び立った星を離れ、暗い空間を飛び続けた。

「この状態が一年程続く。途中は省くぞ」

 そう云うと進行方向に在った星がだんだんと大きく見えてきて、それが丸い形をした、旅立った時に見た大地に似たものだということが判るようになってきた。

 形は確かに似ているが、その色は茶色く青ではない。この大地の色が様々な色で、海があの深い青色だったことを考えるとこの星には海は無いように思えた。

「この星には海がないということですか?」

「そうだ。海はない」

 その星の大地に降りると、見渡す限りの茶色い土しか見えない。遠くに見える山も同じ茶色だ。確かに私達の住む大地に似てはいるが森どころか木も川も無い場所ではないか。

「森や川はあるのですよね?」

「いや、この星には森も川も無い。水は大気中と土の中に少しだけ含まれてはいるが、海も川もない。草木や動物もいない星だ」

 なんて寂しい星だろう。私なら行けと言われても拒否するだろう。

「この星に行って暮らせるのですか?」

「ああ。人間や竜は無理だろうが我々であればなんとかできる」

 その「なんとか」は引っかかるが、私の想像していた「光る星」とは違って、燃えてはいなかった。魔王の説明では太陽のように燃えているのが普通に見える星だが、近くにあるいくつかの星は私達が住むこの大地のように燃えている訳ではないらしい。

 その後、その大地を飛び回る映像も見せてくれたが、殆どの場所は降り立った場所と同じく、茶色い土があるだけの大地だった。

 本当に「なんとか」できるのだろうか?

 映像を見せていた念話が終わると魔王は信じるかと訊いてくる。信じ難いが、その映像のあまりの現実感に嘘とも思えなくなっていた。

「本当にあの場所で生きて行けるのですね?」

 魔王は深く頷き「必ず成功させて見せる」と約束してくれた。


 行く場所は判った。今度は行く方法だ。

 五千体の魔族をどうやって連れて行くのだろう? 魔族だから飛んで行くのだろうか?

「魔族はあの星まで飛んで行けるのですか? 一年もの間、飛び続けるのでしょ?」

「我々個々が飛ぶ訳ではない。複数の大きな、空を飛ぶことが出来る船を作ることになる」

「空を飛ぶ船?」

 また奇想天外なことを云う魔王だ。船が空を飛ぶなんて聞いたこともない。しかし魔王自ら云っているのだし魔法を使えば可能なのかもしれない。

「魔法で飛ぶのですか?」

「そうだ」

 それまで発言していなかったターゲが口を開いた。もっと助言してくれても良いのに。

「魔素はどうするんだ? 高い空には魔素は無いはずだぞ」

「その通りだ。高い場所どころか、星と星の間にも、行く先の星にも魔素は無かった」

 魔族は魔素が無くても平気なのだろうか?

「それじゃ飛ぶことも住むことも出来ないじゃないか」

「魔素は作ることができる」

 ターゲが驚いた顔で魔王を見ながら口を半開きにしている。笑いそうになったが、それは堪えて質問を続けた。

「それじゃ、問題はなにも無いと思って良いのでしょうか?」

「先刻も云ったがやはり多少の危険はある」

「どれくらいですか?」

「約百隻の船を飛ばすことになるが、その内の何隻かは沈むかもしれない」

 先刻の念話の中に水は出てこなかった。どこへ沈むのだろう?

「空の上には水があるのですか?」

「え? ああ、すまんな。沈むというのは比喩だ。船が航行不能になる。もしくは壊れて魔素も供給できなくなるかもしれない。そういう危険はあるという話だ」

「どれくらい危険なのですか? 具体的に判るように教えてください」

 空の上など行ったことも無い私には、それがどれくらい危険なことなのかまったく判らない。全員死んでしまうのであればそれは許せないことだ。

「実際にはやってみなければ判らない。それが本音だ。百隻の内の全てが無事に辿り着くかもしれないし、全ての船が沈む可能性だって無いとは言い切れない」

「そんな危険なこと、やはり許せません」

「可能性の話だ。私は百隻、全ての船を無事に辿り着かせるつもりだ。信じてはもらえないだろうか?」

 人が何万人いるのか知らないが、魔王に信じてくれと頼まれた人間は私一人ではないだろうか。それに気を良くした訳ではないが、魔王の真剣な顔を見ていると、なんとなく信じてみても良いのかもしれないと思うようになっていた。


 もう夜もかなり更けている。今日はそろそろ終わりにしたほうが良いだろう。

「最後に一つだけ訊かせてください」

「そうだな。そろそろ終わりにしよう」

「行った魔族達は帰ってこられるのでしょうか?」

「それは無理だな。それに帰ってくるのであればおまえが望む、この地から魔族を減らすことにはならないだろ」

 魔族を減らせなどと云ったつもりはないが、確かに戻ってくるのであれば数が減るということにはならないだろう。それを知った上で、それでも行く事を承諾してくれる魔族が五千体もいるのだろうか?


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