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二度目の旅立ち

「その魔王という奴と話し合えばいいのよ」

「いや、無理だろう」

 氷竜の住処へ出向き、この交戦状態を解決するべきだと話を持ち掛けた。

 私はここへ来てから行動力がかなり増しているようだ。皇都に居たときならこんな厄介事は他人任せにするだろう。

 しかも、まるで大人の世界を知らない子供が、理想だけで事が収まるようなことを言っているのだ。馬鹿にされてもおかしくない。

 それでもこの状態は我慢できなかった。なんとかしたかった。

 会うことが出来る可能性は低いと言われても、この地に竜と会うために来た自分にはその可能性を信じることはさほどおかしなことに感じない。

「それに魔王に会うといっても、何処にいるのかも判らないよ」

「だいたい西なのでしょ?」

 私は創成の竜は北にいるとだけ聞いて、そして会うことができたのだ。そこには幸運に多々助けてもらったのも事実だけれど、行動しなければなにも始まらないというのも事実なのだ。

「魔王に会う前に魔族に殺されちゃうよ」

「あなたは強いのでしょ?」

「強いといっても……」

 おじいさんは弱いといっていたが、これまでの魔族達との戦いで負けてはいないのだから十分強いはずだ。

「あなたが行かないのであれば、私一人でも行きます」

 云ってしまった。この言葉はこの氷竜が私一人を行かせる訳はないと確信しての言葉だ。なんて嫌な女なのだろう。私自身が嫌いな女の性格ではないだろうか?

「……」

 なにも返事がない。まさか一人で行くことになるのだろうか。云ったからにはやってやる。

「まあ、落ち着きなよ。今は魔族も少しおとなしくなっている。また明日来てくれないか。あ、いや、明日はこちらから創成の竜の洞窟へ行くよ」

「判りました。洞窟で待っています」

 どうして私はここまで魔族問題に頭を突っ込んでいるのだろう。ここまで来たのだからその魔王とやらにも話を訊きたくなっていた。


 次の日の朝、氷竜がやってきた。

 だが、その姿は竜の姿ではなく人の姿をしている。

 髪は銀髪で中性的な美形だ。そしてその顔はオトイやロヒさんを連想させた。背は高いものの、とてもあの巨大で猛々しい竜が変身しているようには見えない。

「どうして人の姿をしているの?」

 着ている服は獣の皮をそのまま纏っただけの、服と呼ぶにはあまりにも簡素な毛皮だ。どこか南にある未開の地にでも居そうな格好だった。魔族ですらもう少し真面な服を着ている。まあ、五十歩百歩だが。

「ここは創成の竜の縄張りだから。竜の姿でこの洞窟に入るのであれば入る前に許可を貰う必要があるんだ」

「本来は人の姿であっても縄張りに入れば攻撃するぞ」

 おじいさんは不機嫌そうだ。

「創成の竜よ、お許しください。私はそう教わりました。青竜の里で育った事は言い訳でしかありませんが、竜の古い仕来りは私の知識の中には無かったのです」

 竜の姿の時には堂々としているように見えたこの竜が、人の姿になった途端におどおどとして少し狼狽したように答えているのは、なんだか不思議だ。このおじいさんはおじいさんなんて呼んでしまってはいけない竜なのだろうか?

「誰に教えられたのか知らんが……。近頃の若い竜は……」

 やはり竜もあまり人とは違わないようだ。人と同じような老人特有の反応をしている。ちょっと面白い。それよりも青竜の里で育ったというのはどういうことだろう? 機会があれば訊いてみよう。


「それに竜の姿で魔族の巣を歩くのはあまりに目立ちすぎるからね。行くのであればこの姿が良いと思ったのさ」

「それじゃ行ってくれるのね?」

「なにもせずに放っておくのは問題を先延ばしにするだけだ。会えるのであれば会って話した方が手っ取り早い」

 よかった。この旅の目的は目的地に着くだけではないのだ。魔王と会ってこの戦いを終わらせなければ意味がない。一人でなんて成功させる自信はまったくなかった。

「それじゃ出発ね。直ぐに用意するわ」

 用意といってもここへ来た時に持ってきた背嚢をそのまま背負うだけだ。

「食料とか、現地調達できるわよね?」

「それは正直判らない。ただ、魔族の地では変質した魔素が動物の身体を異物に変えてしまうらしい。移動はぎりぎりまで魔族と竜の住処の境界あたりを進むことにしよう」

 食料が現地調達できないのであればここから持って行けるだけの食料を持っていくことにした。とはいえ干した肉くらいしかないのだけれど。


「おじいさんは来てくれないの?」

 今の竜達は弱いと言い切るくらい強いのであれば来て欲しい。

 動けといっても動かないこの竜が来てくれる可能性はなさそうではあるが、聞いてみるだけは聞いてみた。

「わしは行かんよ」

 まぁ、当たり前か。

「そう。それは残念ね。――それじゃ行ってくるね」

「まて」

「はい? 一緒に来る気になったの? 一人じゃ寂しいもんね」

「ちがう。おまえは魔族の領域にそのまま行ってなんの問題もないと思っているのか?」

 問題は山積みだろう。でもそういう意味ではなさそうだ。

「今言っていただろう。変質した魔素のことを。おまえも魔獣になるぞ」

「ですから、ぎりぎりまでは魔族の領域には入らないようにと思って……」

 おじいさんは氷竜の言葉を遮った。

「それじゃ辿り着けんよ」

「どういうこと? 魔王の場所を知っているの?」

「さあな。人の姿で歩くのであれば数日は歩くことになる。二日くらいなら平気かもしれんが、それ以上は人であっても魔獣になる危険性が高くなる」

 おじいさんは魔王の場所を知っているようだ。でも、来てくれないのであれば道案内は期待できそうにない。

 それよりおじいさんの云うように魔獣になるのは大問題だろう。さすがに魔獣は嫌だ。

「それで、おじいさんはその解決策を教えてくれるのでしょ?」

「うむ。だが今の言葉で教えるのが嫌になった」

「うあ。ごめんなさい。ごめんなさい。――ちゃんとおみやげ持って帰ってくるから。ね?」

 おじいさんの顔の側へいって顔をなでながら、おねだりしてみる。竜に色仕掛けが利くかは疑問だがこれくらいしか方法は思い付かない。

「わかったから、じっとしてろ」

「はい」

 色仕掛けが利いたのかは判らないがどうやら方法を教えてくれるらしい。


 じっとしていると私の身体を淡い光が覆い、すっと身体に吸収されるように消えていった。

「今のはなに? 魔法?」

「ああ、おまじない程度のものだ。あまり強い魔素には触れないことだな」

「強いといわれてもよく判らないのだけど……」

「それは、そいつがなんとかするじゃろ」

 それから氷竜を呼び念話で話をしているらしく、氷竜は目を瞑って黙っていた。

「それじゃ、いこう」

 念話の内容は魔王の住処らしい。あまり明確な場所ではないらしいが、ある程度の助けにはなるらしかった。

 皇都を出た時には思ってもみなかった大冒険だ。この先は危険が多く待っているのだろう。でも魔王に会ったなんてことになったら私は冒険者と名乗っても良いはずだわ。


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