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戦い

 魔族と竜達の戦いは続いていた。

 何度となくその戦いを見たが、どの戦いでも竜達の方が優勢で、魔族が勝利するような場面を見ることはなかった。

 どちらかといえば竜族側である私だけれど、別段、魔族に恨みがある訳でもなく、その戦いで消えていく魔族達を見る度に心のもやもやが増していく。

「魔族はなぜ、こちらへ侵攻してくるの?」

「魔族が増えてきたのだろうな。前にも同じようなことがあったよ」

「おじいさんは、その時は戦ったの?」

「ああ、今のように竜の数が多くはなかったからな」

 今はこの辺りに氷竜が十体くらいはいるらしい。おじいさんの出る幕はないそうだ。

「その時はどうやって戦いを終わらせたの?」

「魔族を撃退しただけだよ」

「どれくらいの数を?」

「さあな。半年くらいだったかな? 毎日、十体以上の魔族どもを倒したんじゃないかな」

 単純に計算してもおじいさんだけで二千体くらいを倒したということか。

「その時の氷竜が三体だから、その三倍くらいということになるかの」

 魔族の死者が六千体くらいということだろうか。

「竜族に被害はなかったの?」

「怪我くらいはしたさ。死んだ者はおらんよ」

 死者がでないということではないのだろう。怪我だけでもあまり見たくはない。


「前の三倍の竜がいるのなら、二ヶ月もすれば収まるのかしら?」

「どうだろうな。魔族の数も判らんし、今の竜どもは弱いからな」

 この年老いた竜の身体は、確かにこれまでに見たことがある白竜や氷竜に比べると二回り程大きいように見える。それでも寝てばかりで動いている所を見たことがない私にとっては、あまり強さは実感できなかった。

「おじいさんって、本当は強い竜なのね。まったく実感できないのだけど」

「……。わしが強いというより、卵から生まれた竜が弱いんだ」

「弱いの?」

「ああ、ここに居ても判るよ。一体の魔族を倒すのに、あれだけの時間を掛けてたんじゃ……。また半年くらいはかかるんじゃなかろうか」

 まだ半年も続くなんて、本当に撃退できるのだろうか?

「みんな大丈夫なの? 半年も戦い続けるなんて、辛すぎるわ」

「先の事なんて判るものじゃないさ」

「それじゃ、もしかしたら、怪我じゃ済まない竜も出るかもしれないということ?」

「あたりまえだよ。戦いなんだ。どれだけ竜が強かろうとも、いつ死んでもおかしくはないさ」

 もう見たくはない。竜も魔族でさえも、死んだり怪我をしたりという場面は見たくはない。


 夕方、薪を拾いに森へ出ると、また戦闘に出喰わした。

 今度は空の上での戦いだった。

 竜一体に魔族が二体いる。

 見たくはないが、心配で見ないということもできない。

 今の竜は強くないと言う、おじいさんの言葉が頭を過る。大丈夫だろうか?

 戦いのことをあまり知らない私は、近くで見たとしてもどちらが優勢かは判らないかもしれないが、なんとなく竜が苦戦しているように見えてしまった。

 一体の魔族が動きを止めた瞬間、竜の吐く炎がその魔族を包み、炎が止むと電撃での追撃が魔族を消し飛ばす。

 仲間が殺され、もう一体の魔族が逃げだす。

「うそ。こっちこないで」

 そう思った一瞬で、その魔族は私の目の前まで迫っていた。

 目が合った。

 最初に見た魔族と同じような、戦士ではない、怯えた子供のような目だ。まるで私に助けを求めているようだった。

 なにが起ったのかは判らなかったが、その魔族はこちらへ飛んで来ながらも、炎に包まれている。私のほんの数メートル程手前で燃え尽きるように消えていった。

 悲しそうな目だけが記憶に焼き付き、幻覚でも見ているようにまざまざと思いだされ、まだそこに居るかのような気すらしてしまう。

 消えた魔族の後ろから飛んできた竜が目の前まで来ると「こんな所でなにをしている。死にたくなければどこかへ消えろ」と念話で伝え、すぐに飛び去ってしまった。

 その竜は体中が傷だらけで、左腕には抉れたような傷まであった。初めて会った竜だったが元から在る傷ではないだろう。

「こんな状態、間違ってる……」

 助けを求められたのに動くことすら出来ない私はただの傍観者でしかなかった。この戦いを止めることが、助けることができなかった、あの消えていった魔族へのお詫びになるのであれば当事者になってしまっても良いのではないだろうか? 正直、もうあの目を見ることに我慢の限界を感じていた。


「止めることができるとすれば、魔王くらいなもんだろうな」

 洞窟に戻り、再度おじいさんにこの戦いを止める方法を訊いてみた。当てにしてはいなかったので一応の解決方法を出して来るのは予想外だ。

「その魔王はどこにいるの?」

「さあな……。西の方だろ」

 北ではないということは、この地以上に厳しい寒さにはならないということだろうか。もし行くことになったとしてもなんとかなるかもしれない。

「遠いの?」

「遠いな」

 人が居ないこの辺りでは地図なんてものはない。場所を訊いても判らないだろう。

「魔族の親玉かぁ……。なんとか会えないものですかね?」

「あきらめろ。人ごときがどうにかできることじゃないよ」

「そう言われると逆に燃えてくるわね。人ごときの力を見せてあげます」

 考えはなかった。明日にでも氷竜の所へ相談しに行こう。


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