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年老いた竜

 氷竜の背中に乗り、氷河といわれる川へ降りたのは飛び立ってから数時間後だった。

 飛び立った最初は、竜へ乗れたこと、高い場所を飛べること、念願の創成の竜に会えること、そんなことで頭が一杯になっていたが、飛びだしてからは寒さを堪えることで必死になっていた。

 降りた時には人には見せられないような顔をしていただろう。あと一時間も乗っていたら寒さで死んでいたかもしれない。

「そこに見える洞窟が創成の竜の住処だ。拒否されても俺はどうすることも出来ないが交渉しだいではなんとかなるかもしれない。まあ、がんばってくれ」

 そう云うとすぐさま上空へ飛び立って、すぐに見えなくなってしまった。

「なんだか厄介払いされた気分だわ……」

 実際、厄介だったのだろうが、ここまで乗せてくれただけでも有り難く思うべきだろう。

「お礼を云う暇もなかったわね……」

 洞窟の中に入ると風が無く、氷の壁がキラキラと光りを乱反射させている。

「こんな壁、作れないかな……。それどころじゃないわね」

 すぐに創成の竜に会うことになるのだろう。白竜の時のように恐怖で足が竦んでしまうようなことにならなければ良いのだが。

 少し奥へ行くとかなり広い場所へと出た。少し暗いが奥まで見ることはできる。そしてその広間の右手には巨大な岩壁かと思うような竜が横たわっていた。

 こちらに気付いているのだろうか? こっそりと近づき、その顔があるはずの場所へ行くと、さっと顔を除き込んでみた。

 目が合った。

 その竜は驚く訳でもなく、威嚇する訳でもなく、ただそこに横たわりこちらを見ている。

「えっと、こんにちは」

「……」

 返事はない。目を開けたまま眠っているのだろうか?

 再度呼びかけてみる。今度は少し大きめの声で呼び掛けてみよう。年寄りなのであれば耳が遠いのかもしれない。

「こんにちは」

「聞こえている。なんのようだ」

 返事があった。

「よかった。話を訊きにきました」

 取り敢えず、創成の竜に会うことができた。それだけでもこの旅は成功だ。


 ここへ来た経緯を話し終え答えを訊いてみる。

「という訳でお話をお訊きしたいのですが?」

「面倒だね。帰ってくれ」

 これまでの竜とあまり変わらない。身体は白竜の二回りくらい大きいように見えるが、創成の竜といっても白竜やここまで乗せてくれた竜との違いは無さそうだ。それならこの竜も優しいに違いない。ちょっと冒険してみよう。

「話を訊くまではここを離れません。これまで二体の竜と会いましたが、どの竜も優しい竜でした。きっとあなたも優しいに違いありません。それにこの洞窟は居心地も良さそうですし長期戦でも問題なさそうです。私を追い出したければさっさと話をしてもらった方が良いですよ」

 なんとも卑怯な人間だ。これでは脅迫だ。自分で言っておきながらもそう思う。この竜が初めて会った竜であれば恐ろしくてこんな事は言えない。しかしここまで来て帰っていては笑い話にもならないのだ。

 創成の竜からの返事は無かった。ただ、こちらを眺めているだけだった。本当に長期戦になるかもしれない。そうなればここで数日は寝泊まりすることになるだろう。

「話をしたくなったら声を掛けてくださいね」

 なんだか自分が酷く悪いことをしているような気分になるが、話を訊くだけだから問題はないはずだ。自分自信に対して言い訳しているのは判っているがもう引き返せない。

 ただそこに立っているのは手持ち無沙汰なので、洞窟の中をあちこちと見て回った。

 創成の竜の頭の先へ行くと、入口から隠れて見えなかった、細い通路があることを見つけ行ってみることにした。

「こっちはなにがあるのですか?」

 返事は無いので勝手に行かせてもらう。

 通路はこの洞窟の真上にある森へと続いていた。これは素晴らしい発見だ。あの洞窟に寝泊まりすることになるのであれば薪拾いや狩りもしなければならないが、氷河側からこの森へ来るには高い凍った壁を登る必要があった。この近道はここでの生活を楽にしてくれる。

 外へ出たついでに薪も拾って帰ることにしよう。

 洞窟へ戻り、焚き火を竜の目の前に作り、そこへ座って見せた。話を聞くまでは動かないという意思表示だ。しかし、その日はいくら話し掛けても創成の竜からの返事を聞くことはできなかった。


「おじいさん。おはよう」

 長期戦となれば慣れない丁寧な言葉遣いは面倒だ。素直に親しげに話すことにした。

「今日もお話してくれないの?」

 返事はない。目は開けているので起きてはいるのだろう。

「ちょっと薪とか拾ってくるね」

 外は晴れていて寒いという点を除けばこの辺りは素晴らしい場所だ。ここへ来るまでにもほとんど天候は晴れていて吹雪にあったのはほんの数日しかない。

 ここへ来て初めての狩りは幸先良く大型の鹿を狩ることが出きた。ここへの旅で弓の腕前はかなり上ったと感じる。オトイの指導もあって狩りには自信が付いてきていた。

 移動するときは試せなかったがオトイから教えてもらった罠を仕掛けて今日の狩りはおしまいにしよう。

 洞窟へ戻り、今度は薪と木材の調達に森へ出た。長期戦ならテーブルや椅子も欲しくなる。幸い鋸に鑿も鉋も持ってきているのだ。大抵のものは作ってみせる。

 そうはいってもここに何ヶ月も住み着くわけにもいかない。

 早く話を聞かせてくれないだろうか。


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