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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私と婚約者と死せる妹

作者: どんC

『死せる孔明生ける仲達を走らす』と言う故事がある。これは死者に振り回された人達のお話。

 

 妹が死にました。

 私の婚約者を奪った妹が死にました。

 父からも愛され。

 母からも愛され。

 私の婚約者からも愛され。

 誰からも愛された妹が死にました。



 ~~~~*~~~~~*~~~~~*~~~



「エレクトラ様お手紙が届いております」


 演奏旅行から帰ったら、メイドが差出人の無い手紙を差し出した。

 見覚えのない筆跡で、妹が亡くなったと書かれていた。


「どうしたんだい? エレクトラ?」


 手紙を読んで青ざめる私を訝しんでハモンドが尋ねました。

 私は彼と組んで各地に演奏旅行に出かけている。

 私はピアノ、彼はバイオリンを演奏している。

 王族や貴族に乞われ各国を回っていたのだが……


「妹が……亡くなったの……」


「……この手紙宛名がないね。それに……この日付は演奏旅行に出かけた時に届いたんだな。3ヵ月前だ」


 ハモンドは私から手紙を取り上げると読んでそう言った。


「3ヵ月前……お葬式は……もう……終わっているわね……」


 眩暈がして倒れそうになった私をハモンドは長椅子に座らせてくれた。

 涙は当然出てこなかった。

 虚無感……只々虚ろだった。

 肩ひじ張って生きてきた。

 婚約者を奪った妹。

 濡れ衣を着せ婚約を解消した婚約者。

 私が不貞を働いたと陥れた幼馴染。

 家から私を追い出した両親。

 見返してやる!! とがむしゃらに生きてきた。


「大丈夫とは言えないな……前に話してくれたね……今でも憎んでる?」


 彼の瞳に嫉妬の炎がちらつく。


「そうね……今は感謝しているわ。だってあの鳥籠の様な世界から出なければ貴方に会えなかったから」


 ハモンドは嬉しそうに私の手にキスをする。

 手の甲のキスは【敬愛】や【尊敬】の意味がある。

 でも伯母が言っていた。


「男の人が女性の手の甲にキスをするのは本気でその人を愛しているのよ」


 婚約者だったヒース様には手の甲どころか。

 一度もキスをされたことがない。


 ハモンドは私を大切に思ってくれる。

 私もハモンドを信頼し愛している。


「俺も君の愚かな婚約者に感謝しているよ。演奏旅行も終わったし1ヵ月ほど休みを入れている。君の故郷に帰ってお墓参りに行くかい?」


「そうね。お願いがあるの。一緒に来てくれる?」


 とろける様な笑みを浮かべてハモンドは頷く。


「もちろんさ。俺の婚約者殿」


 私はハモンドと一緒に祖国に帰る事となった。




 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~


 10年前と違い魔石文明の発達は著しく、

数か月もかかった旅が1週間で済む。

 飛行船や魔石鉄道や魔石船を使い、私達はユリシアン国に帰る。


 妹の亡骸はフォーレン侯爵家の霊廟の中にある。

 立派な霊廟だ。

 私の婚約者だったヒース・フォーレンは

王家の盾と云われた建国以来の大貴族の血をひく男だ。

 私達は中に入れないから霊廟の前に花を置く。

 ハモンドも私も喪服を着ていて。

 私は小さな黒い帽子に付いたベールで顔を半分隠している。

 墓地の入り口で少女と少年に出会う。

 百合の花を携えている。誰の墓参りかしら?

 後ろに控えているのはメイドだろうか?

 子供達は地味な色の服を着ている、だがララニ産の絹を使用している。

 上等な布地だ。

 貴族の子息なんだろうな。

 二人とメイドは私を見ると硬直した。

 幽霊でも見た感じだ。

 男の子は姉のスカートを握り締めている。

 このレース付きの帽子が怖いのだろうか?

 グレハーズ国では羽根飾りのついた小さな帽子が流行っているのだが。

 黒いレースで顔が半分隠れているし、この国では珍しいのだろう。

 それとも子供達には私が魔女に見えているのだろうか?

 地味にショックだわ。

 私とハモンドは三人の横を通り過ぎて、墓地の入り口に待たせている馬車に乗り込んだ。


 リーンゴーン リーンゴーン


「お母様……」


 少女が零した言葉は教会が夕暮れを告げる鐘の音に搔き消えて、私の耳に届くことは無かった。



 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~




「君の実家を訪ねるかい?」


「そうね。一応両親には貴方の事を紹介するわ。尤も歓迎されないでしょうけれどね」


 くすりと私は笑う。

 家を追い出された娘が10年ぶりに帰って来ても迷惑なだけだろう。

 王都の高級ホテルのスイートルームに帰り着替えて、両親の館を訪ねる。

 ハモンドの名で今日訪問する許可を得ている。

 私は自分で稼いだお金で買ったドレスを纏う。

 パステルカラーのドレスは妹が好んで着ていた為、私は地味な色のドレスばかりを着せられていた。

 でも今は水色のドレスだ。ハモンドの瞳の色と同じ。

 ハモンドも私にはパステルカラーのドレスが良く似合うと褒めてくれる。

 淡い色のドレスもくださった。

 元婚約者のヒース様は妹にドレスを贈ったことがあったが……

 私は花以外貰ったことは無い。

 今身に着けている高価な真珠のイヤリングにネックレスはハモンドのお母様が贈ってくださった物だ。

 家を追い出された時は質素な紺色のワンピ-スだった。

 ホテルで豪華な馬車を借り、彼と共に訪ねた館は寂れていた。

 私が家を追い出され、妹が侯爵家に嫁いでぺスター家は父の弟が継ぐことになっていたが。

 領地の経営が上手く行ってないのか?

 私達を迎え入れた執事は知らない顔だった。

 応接室に案内されてメイドが菓子と紅茶を運んでくる。

 このメイドの顔も知らない。


「やあ。こんにちは。高名なバイオリニストのハモンド殿が貧乏貴族に何の御用ですかの?」


 おどけた口調で叔父がやって来た。叔父は小太りで陽気だ。

 喋り方が父より年寄り臭い、でもチャーミングだ。

 カイゼル髭を可愛らしいと思うのは叔父様だからだろう。

 痩せていて気難しい父とは正反対で、私は叔父が大好きだった。

 叔父様も叔母様も私を可愛がってくれた。

 叔父夫婦には男の子しか生まれなかったから。



「ご無沙汰しております。叔父様」


 私は叔父に挨拶をした。

 叔父は私の顔を見て息を吞む。

 それもそうだろう。叔父が知る10年前の私は地味で冴えない芋娘だった。

 だが今は洗練され何処からどう見ても高位の貴族令嬢だ。


「エレクトラ……お前……」


 叔父の体がブルブル震える。


「この!! 親不孝者が!!」


 いきなり叔父に怒鳴りつけられた。


「兄さんも義姉さんもお前の事を心配していたのじゃぞ!! 家出なんかしおって!! 家名にどれだけ泥を塗れば気が済むんじゃ!!」


「叔父様!! 私家出なんかしていませんよ。両親に追い出されたのですが」


 こくりと首を傾げる。


「何か行き違いがあるようですね」


 ハモンドが私を庇う様に叔父の前に立つ。


「追い出された? 兄さんが言っていた事と違うぞ」


「一体父はなんと叔父様に言っていたんですか?」


「『エレクトラは不貞を働き婚約を解消された挙句家出した』とそう言ったのじゃ……」


「真実は妹と結婚したいヒース様が不貞をでっち上げ婚約を解消したのです。そして私は邪魔になった両親に館を追い出されたのです」


「なん……じゃと……」


「お父様とお母様はリズを溺愛していました。叔父様も知っていたでしょう。リズが欲しがれば何でも与えた。それこそ私の婚約者でも……」


 叔父はしばし無言で私を見た。


「お父様とお母様はどちらにいらっしゃるの? 二人に問いただせばハッキリしますわ」


「二人はいない……」


「領地にいらっしゃるの? それともご旅行に行かれたの?」


「二人はもうこの世に居ないのじゃ」


「えっ?」


「2年前に盗賊に襲われて。知らなかったんじゃの」


「お父様とお母様は亡くなられたの? リズも死んで……もう……誰もいない……」


 ぐらりと世界が歪む。


「エレクトラ」


 ハモンドが優しく私を抱きしめる。

 貧血をおこしたようだ。

 私は只々喪失感に苛まれていた。

 両親も妹も憎んでいた……はずだ……

 彼らの死を悲しむはずがない……

 でも……何だろう……この虚無感は……

 まるでぽっかりと胸に穴が開いてそこから冷たい風が吹き抜ける。

 ブルブルと私は震える。

 寒い……

 ポタポタと雫が零れる。

 止めどもなく零れる涙。

 両親の葬儀にも妹の葬儀にも出られなかった。

 ちゃんとお別れ出来なかった。

 寒い……


 でも……


 私を包み込むように両腕を回すハモンドの体が温かい。

 ほうっと息を吐く。

 いつだって彼の側は温かい。

 野垂れ死にしそうだった時もこうやって助けてくれた。

 叔父様が痛ましげに私を見る。


「兎に角話をしよう。座りなさい。今まで何処にいたんじゃ?」


「グレハーズ国にいました。ハモンドの祖国です。私はピアニストになってハモンドと一緒に演奏活動をしていたの。差出人の無い手紙が来てリズが死んだと書かれていたわ……」


 グレハーズ国は海を挟んだ隣の国だ。

 このユリシアンとは国交を結んでないから余り知られていない。

 只々商人は行き来していて小麦や海産物などを運んでいる。

 グレハーズ国は魔石が豊富に取れる国で魔石文明が発達している。


「差出人の無い手紙か? 見せてくれないかの?」


 私はバックから手紙を取り出して、叔父に見せる。


「代筆屋に頼んだようじゃ。この筆跡はよく見かける。代筆屋に尋ねても差出人の名を明かさないじゃろう」


「お父様とお母様が亡くなられた時は知らせなかったのに、何故リズが亡くなった時に知らせてきたのかしら?」


「最近になって居場所が分かったのか。それとも妹が亡くなったから呼び戻したのか?」


 叔父が考え込む。


「嫌な感じじゃな」


「好意は感じませんね」


 叔父様とハモンドは頭を悩ませている。


「そうじゃ♪ いい考えがあるぞ♪」


 ポンと叔父が手を打つ。


「何ですの?」


「ワシの孫がやっと生まれての~。男の子じゃ。お祝いのパーティーがあるんじゃが、そこで二人が演奏してはどうじゃ? もしかしたら手紙を寄越した者が来るかもしれぬぞ」


「まあ叔父様おめでとうございます。ヨハンソンが結婚したんですね」


「そうじゃ。男爵家の次女でな。よく気が利く娘じゃ。孫はワシに似てハンサムでの。可愛くてたまらないんじゃ」


 爺馬鹿炸裂である。


「そうじゃ。ヒース・フォーレン侯爵にも招待の手紙を送ろう。あ奴にはリズの事で聞きたい事があるんじゃ」


「そういえばリズは何で亡くなったんですか? 手紙には只々亡くなったとしか書かれていなくて……」


「病死となっているが……自殺の疑いがある」


「リズが自殺ですか? どうして……」


「兄さんと義姉さんが亡くなってワシが後を継いで財政状況を色々調べたのじゃが、ターピア家の会計に使途不明金がかなりあっての……」


「使途不明金? ですか?」


「恐らく義姉さんがリズに貸していたのだろう」


「リズがお金を借りていた? フォーレン家の財政状態が悪かったのですか?」


「いや。フォーレン家とは関係ないようじゃ」


「噂では男に貢いでいたとか、浮気相手の子供を身ごもったとかそう言う話が流れているのじゃ」


「信じられません。あの子はヒース様と結婚して幸せだったのでは?」


「姉の婚約者を奪うような女を社交界が容認するかの~? お茶会に呼ぶかの~? まして完璧だった姉と比べられると……噂をねじ伏せられるほどの才能もなく努力もせず、美貌だけでは男を引き留められぬのじゃ。社交界では針の筵みたいじゃったらしいぞ。若くて綺麗な令嬢は次々と社交界デビューするからの。側室や愛人でもいいと言う女は山ほどいるからの~」


「ヒース様が浮気をなさったのですか?」


「いや……多分浮気はしていないが……人から奪った男は誰かに奪われると考えても不思議じゃない。ましてお前が言う様に不貞をでっち上げた男なら、いつ自分も不貞をでっち上げられ追い出されるか分かったもんじゃない……そういう事じゃ」


「因果応報。身から出た錆。そんな言葉が東の国にあります」


 ハモンドがポツリと呟く。

 私からすべてを奪い幸せに暮らしていると思っていた。

 ハモンドがぎゅっと私の手を握ってくれる。

 ああ……私にはハモンドが側にいてくれる。

 それだけで幸せだ。


「今となってはあの子の胸の内は分からぬ」


 叔父様は深いため息をついた。




 ~~~~*~~~~*~~~~~*~~~~




「皆さんターピア伯爵家嫡男誕生パーテイにようこそ」


 ターピア家の館に招待された客はかなり多かった。

 私が10年ぶりに帰国したと聞きつけてやって来た者達もかなりいる。

 学生時代コーラス部のピアノを演奏していたこともあり、その関係者も集まっていた。

 今年25歳になる私の従弟は嬉しそうにワインを掲げた。

 10年前15歳だった少年はすっかり大人になって、鼻のあたりにあるソバカスが昔の面影を残している。

 白いレースのおくるみに包まれた赤ちゃんは従弟にそっくりですやすやと眠っている。

 ああ……私もハモンドの子供が欲しいわ。

 赤ちゃんを抱いた従弟の奥方をちょっぴり羨ましく思う。

 ターピア家を継いで帳簿やなんやかんやで従弟の結婚はかなり遅れて。

 婚約者との結婚もずるずると遅れてしまい、婚約破棄されそうになってやっと去年結婚出来たそうだ。


「そしてグレハーズ国でピアニストになった私の従姉が帰って来ました。私の息子の為に演奏してくれます」


 私とハモンドは皆に挨拶をして演奏を始めた。

 しんと静かな会場に私のピアノと彼のバイオリンの妙なる調べが流れた。

 曲が終わると割れんばかりの拍手が響き渡る。


「それと皆さん僕の息子の誕生に続きおめでたいニュースがもう一つあります。従姉のエレクトラとバイオリニストのハモンド・ベクター氏が来年の5月に結婚する事が決まりました」


「おめでとう!!」


「おめでとう!!」


「不幸なニュースが多かったターピア家に、やっと明るいニュースがきたね」


 招かれた客が祝福してくれるが。

 口さがないおしゃべり雀が噂する。


「ハモンド・ベクター? 聞いた事無い名前ね。でも彼凄くハンサムね。品があるから貴族の次男か三男ね。まあまあいい男を捕まえたわ」


「海を隔てた国のバイオリニストだからこの国では有名では無いのね。聞かない名前だわ」


「彼女学園でもコーラス部のピアノを弾いていたわね。昔からピアノが上手だったけど。ピアニストになっていたのね」


「いきなり学園を辞めて領地に引っ込んでご病気だと噂が流れたわ」


「隣のグレハーズって言っても海を隔てていて国交が無いから。彼女の噂を聞かなかったのね」


「何故隣の国に行ったのかしら? この国でもピアニストになれたでしょうに」


「貴女知らないの? 彼女エレクトラは妹に婚約者を取られたからよ」


「しかも家から追い出されたって、病気療養中ってことになってたけど」


「何でもヒース様のご友人と浮気していたって聞いたけど……」


「ああ……カリストが言っていたわね。信じられる?」


「カリストはエレクトラに懸想していたわね。アイツの噓でしょう」


「でもフォーレン侯爵は信じたのよね~?」


「リズと結婚したいためにエレクトラを嵌めたって噂があったわよ」


「だってリズにドレスを贈っていたわよ。あの緑のドレスを見せびらかして自慢していたし」


「不貞を働いていたのはフォーレン侯爵とリズだったの?」


「子供が出来たから結婚したんじゃなかったかしら?」


「あら? それはおかしいわ。子供は8歳と6歳よね。計算が合わないわ。それに……」


「ああ……あの噂」


「リズの死にまつわる噂……」


「彼女病死したんでしょ?」


「リズは自殺したって噂があるの」


「ええ!! なんで?」


「不貞を働いて愛人の子供を産んだって、すぐその子は死産したってその後首を括ったって……」


「しっ。フォーレン侯爵も来ているのよ。めったなことを言うものではないわ」


 お喋り雀の後ろで咳払いをする男がいた。

 女達は彼を見ると、


「あらごきげんようケニング様おほほほほ。皆さん喉が渇きましたわ。あちらでワインをいただきましょう。何でもターピア家の領地で造られたロゼですって今年は良い出来だそうよ」


 そう言いながらそそくさと散って行った。

 カリスト・ケニングは舌打ちをし、ちらりと皆に祝福されているエレクトラとハモンドを睨み付けた。

 本当なら彼女の隣にいるのは自分だったはずなのに。




 ~~~*~~~~~*~~~~~~*~~~




 あの日学園の中庭でエレクトラは婚約者と妹と幼馴染に責められていた。


「エレクトラ!! 君がケニングに言い寄ったというのは本当か!!」


「エレクトラ悪いけれど僕は親友のヒースを裏切ることは出来ない。君が僕に言い寄った事をヒースに話した」


「お姉様!! 酷い!! ヒース様を裏切るなんて!!」


「? えっ? 違います。私はそんな事をしていません……」


 エレクトラはおどおどと答える。

 両親にないがしろにされてエレクトラはいつも自信が無かった。

 居てもいなくてもいい存在だと思い込んでいる。

 リズがヒースに恋をして益々家の中に居場所が無くなり、

 婚約者はエレクトラを思いやるどころかリズにドレスを贈り、エレクトラの顔に泥を塗る。

 孤独なエレクトラはますます孤立していく。


「他にも何人もの友人が君の不義を私に教えてくれた」


「噓です!! 私は……」


「もういい!! 君は噓ばかりだ!! 君との婚約は破棄させてもらう!! これは父上も君の御両親も了承済みだ!!」


 三人はエレクトラを置き去りにして中庭を去った。

 エレクトラは暫く呆然としていたが、

やがてふらふらと家に帰っていった。

 婚約を破棄されたことについて両親に真意を尋ねるために。

 その後、学園でエレクトラを見る事は無かった。

 カリストが3日後にターピア家を訪ねた時、既にエレクトラは居なかった。

 両親に追い出されていたのだ。

 リズ(学生)は寮生活だった為にエレクトラが追い出された事を知らなかった。

 方々探したけれどエレクトラは見つからない。

 5年後森で若い娘の遺体が見つかった。

 遺体は古く。

 獣に食い荒らされ破損が酷く色褪せた紺色のワンピースを着た若い娘としか分からなかった。

 それから全てが狂っていった。

 寂れた共同墓地にその遺体は葬られ。

 エレクトラの両親はその遺体を娘ではないと拒否した。

 小さな墓の前で花を捧げるリズ。


「これは……お姉様の復讐だわ……お姉様は私達を許さない」


 リズがポツリと呟いたのをカリストは隣で聞いていた。




 ~~~~*~~~~~*~~~~~*~~~




「素晴らしい演奏だったわね」


「彼ハンサムね。羨ましいわ」


「結婚式はグレハーズ国でするのかい?」


「式には是非とも呼んで欲しいですな」


「こっちでも結婚披露宴を開かせてくれ。もちろん演奏して欲しい。あなたのピアノは昔に比べて音に深みがある。曲の理解も深い。学生の時から一気に花開いたようだ」


 劇場を経営している男から演奏の依頼が来た。

 彼は昔学園祭でコーラス部のピアノを務めるエレクトラのピアノを聴いたことがある人物だった。

 にこやかに頷く二人。

 皆に囲まれて祝福されているエレクトラをヒースは忌々し気に見つめた。

 強い酒をグイっと飲む。

 昔の彼女は地味でおどおどと落ち着かず、陰気臭い芋娘で。

 だから……明るく華やかな彼女の妹に惹かれた。

 今全てが逆転して。

 明るく華やかだった妻は陰気に想い悩み、目の下にうっすらと隈ができた。

 5年前友人の葬儀だと言ってカリストと出かけてから。

 妻は変わった。

 そして……

 舞い散る羽毛。破れた枕。窒息した赤毛の赤ん坊。

 シーツを裂き。首を括った妻の死体。

 産後の出血による死亡と届けた。

 混乱と疑惑。

 妻に殺された赤子は赤毛に赤い瞳。

 妻の血筋にも私の血筋にもいない色。

 幼馴染の纏う色。

 妻の遺品を整理して気が付く。

 高価な装飾品がいくつも無くなっていることに。

 男がいたのか?

 私は裏切られていたのか?


「おや? もうお帰りですか? フォーレン侯爵」


 エレクトラの従弟はにこやかにヒース・フォーレン侯爵に話しかける。


「ああ……急用を思い出して、悪いが帰らせてもらう」


「そうですか……従姉リズの事で色々お聞きしたいこともありましたが……」


 疑惑の眼差しを向ける。


「失礼する」


 ヒースが出て行くのを見送ると再び客に愛想を振りまいた。





 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~




「お帰りなさいパパ。赤ちゃんは可愛かった?」


 玄関ホールに可愛い娘が走ってくる。


「ああ……お前の可愛さには負けるがな」


 ヒースは自分に似た黒髪で緑の瞳の娘を抱き上げる。


「まあ。パパったら……」


「うん? どうした?」


 娘が何か言いたげだ。


「この間ね。ママのお墓参りに行ったの、その時にママにそっくりな人に会ったの。もしかしてママのお姉さんなのかな?」


「会ったのか!!」


 思わず大声を出してしまった。

 娘の体がびくりと震える。


「すれちがっただけだけど。明るい所で見たらそんなに似ていないかも知れないけど」


「……」


「どうしたのパパ?」


「ああ……いや何でもない……」


 娘の言ったことが引っかかる。

 エレクトラとリズが似ている?

 今日のパーティでエレクトラは淡いドレスを纏っていた。

 美しく洗練されて、まるで月の女神の様だった。

 かつてのリズより自信に溢れてあのパーティの主役だった。


 いつも辛気臭い服を着ていたエレクトラと華やかなリズが似ている?

 疑惑が浮かぶ。

 では……リズがエレクトラの服を着て薄暗い所に居れば誰に見えるのだろう?


「パパお帰りなさい」


 小さな息子が抱きついてくる。


「ただいま。剣の稽古は終わったのかい?」


 息子も抱き上げる。


「うん。今日も素振りばかりでつまんないよ」


 今は基本をしっかり体に叩き込む時期だ。

 汗をかいて額に張り付く髪をかき上げてヒースは微笑む。


「今はつまらなくても後でしっかりやっておいて良かったと思う時が来るよ」


「そうなの? じゃぼくがんばる」


「お嬢様も坊ちゃまも旦那様は着替えなくてはなりません。後ほどお食事の時にまたお話を聞いていただきましょう」


「「はーい」」


 二人はメイドに手を引かれ、夕食の為に着替えに部屋に戻る。

 疑惑を残して……




 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~


 ガラガラと馬車の車輪は回る。

 まるでタロットカードにある【運命の輪】の様だとハモンドは思う。


【運命の輪】まさに運命だった。


 丁度こんな森で行き倒れているエレクトラに出会った。

 10年前、ハモンドは身分を隠してこの国に来ていた。

 この国の高名なバイオリニストに弟子入りしていたのだ。

 彼の身分でバイオリンを弾けるのはある意味幸せな事だった。

 そういう意味でハモンドは兄にとても感謝していたが。

 義理の姉といちゃラブしている兄はとてもウザイ。

 髭面のおっさんがデレデレしているのは本当にキモくて勘弁してほしい。



「ふふ……」


 不意にエレクトラが笑い出す。


「何が可笑しいんだい?」


「私たちが出会ったのは丁度こんな森でしたね」


「北の港町に行くファルマの森だった」


「私は行き倒れて貴方に拾われて……気が付いたら海を隔てた隣の国に居るんですものびっくりしたわ」


「君は熱を出していて放り出す訳にもいかず。僕も帰国の途中で仕方なく連れ帰ってしまったよ」


「よく出国許可が下りたわね」


「侍女が熱を出したと言ったら。割とすんなり通ったよ」


「悪い人」


 クスクス。エレクトラが笑う。


「本当はね。僕は君を知っていたんだよ」


「えっ? あの頃の私達に接点なんてあったかしら?」


「実はね。王立学園の文化祭に師匠のお孫さんがコーラス部で出るから、師匠と観に行ってたんだ」


「あらいやだ。文化祭のピアノを聴いていたの? 恥ずかしいわ。あの時は酷く未熟で人様にとてもお聞かせできる物ではなかったわ」


「いやいや。才能の片鱗を覗かせていたよ」


「本当かしら?」


「それでリリアンヌ(師匠の孫)に君のことをあれこれ聞いて知っていたんだ」


「貴方が高名なバイオリニストのサディ・スティック氏の弟子だと知ったのは、出会ってから1年後よ」


「兄が色々と調べてくれてね。本当兄も義姉も過保護で、困るよ」


「大切な弟に変な虫が付いたら大変ですもの」


 エレクトラが微笑む。


「変な虫は僕の方かもしれないよ」


「王弟殿下を変な虫扱いする人はいないわ」


「すまないね。僕は良い物件じゃない」


「私は貴方と演奏出来れば幸せよ。少々婚期が遅れても気にしないわ」


 あの国のしきたりで王弟は王に後継ぎが出来るまで結婚できないのだ。

 やっと今年王妃に男児が産まれて結婚できる。

 実は内密に二人は婚約していた。

 正式に二人の婚約が新聞に載ったのは去年だ。

 二人の長い婚約期間が終わる。


「ありがとう。本当に僕は果報者だ」


 エレクトラは静かに微笑む。

 二人を乗せた馬車はホテルに着いた。




 ~~~~*~~~~*~~~~~*~~~~




「お手紙が届いております」


 執事が手紙を銀のトレイに載せて持ってきた。


「ありがとう。セバスティアン」


 セバスティアンはハモンドが子供の時から仕えている。

 今年50になる。銀髪のイケメン執事である。

 今回エレクトラの里帰りに付いて来てくれたのだ。


「それとこれが例の報告書です」


「すまない。兄上にも手を煩わせたね」


「頼られて兄君も喜んでおられましたよ」


 ハモンドは苦笑する。


「おやおや」


「誰からなの?」


「君の元婚約者殿からだよ」


「ヒース・フォーレン侯爵から?」


「明日君に尋ねたいそうだ」


「まあ。急ね。私も尋ねたい事があるわ」


「使いの者はまだ居るんだろう?」


「はい」


「それじゃ明日2時頃でいいかい?」


「ええ。いいわ」


 ハモンドはサラサラと手紙を書くとセバスティアンに渡した。

 セバスティアンは使いの者に手紙を渡す為出ていった。


「明日が楽しみだ」


 ハモンドはニヤリと笑った。



 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~



 次の日ヒース・フォーレン侯爵は約束どおり現れた。


「久しぶりだなエレクトラ」


「まあ。ヒース様もう婚約者でもないのですから馴れ馴れしく呼ばないでくださいませ」


「そうです。エレクトラは僕の婚約者で来年には夫婦になるんですから」


 ハモンドはエレクトラの腰に手をまわし引き寄せる。

 侯爵である自分にそんな口をきく二人に少しむっとするがヒースは話題を変えた。


「すまない。懐かしくて思わず昔の様に言ってしまったよ」


「いえ。こちらこそ失礼しました。では正式にご挨拶させて頂きます。エレクトラ・スーと申します。以後宜しくお願い致します」


「スー? スー侯爵?」


「まあ。よくご存じで。私スー侯爵の養女になりましたの。3年前の事です」


 スー侯爵はスー商会を経営しており各国に支店があり。

 手広く魔石を扱っている。


「その金はどうした?」


「えっ?」


「侯爵の養女になるのなら、さぞかし金がかかっただろう」


 ヒースの瞳が怒りに燃える。


「リズに無心したのか?」


「何をおっしゃっているのですか?」


「リズは宝石を売ったり母親に金を借りたりしていた。お前が無心していたんだろう!!」


「とんだ言いがかりだ!!」


 ハモンドが叫ぶ。


「昨日も三重の真珠の首飾りにイヤリングを付けていた。城が買える程の値段だろう。ピアニストとバイオリニストに買える値段じゃない!!」


「あれはハモンドのお母様のグレハーズ国の王妃様から婚約祝いに頂いた物です!!」


「グレハーズ国の王妃?」


「そう私はこう見えても王弟でね。ああ。挨拶が遅れた。私はハモンド・グレハーズ。兄はグレハーズ国の国王だ」


「な……なん……だと……」


「ああ。名前が違うというのだろう。ぺスターというのは母の旧姓でね。この国にお忍びで留学していた時から使っていたんだ。私の国の国民は皆知っている」


「それは御無礼を致しました」


 慌ててヒースは謝罪する。


「ああ。良いよ。気にしないでくれ。国交のない国だからね」


 しかし王家の盾としては情報を持っているべきでは無いのかな?

 ハモンドはヒースに聞こえるようにぼそりと呟く。

 ヒースの顔色が変わる。


「あのヒース様取り敢えずお座りになって」


 エレクトラはヒースに椅子を勧め。

 メイドがお茶の支度をする。


「それで……妹が亡くなったという手紙が私のところに届きました。これに見覚えはございませんでしょうか?」


 エレクトラは手紙を差し出す。


「いや……無い。代筆屋か?」


「多分。そうなんだろう」


「心当たりは無いのですね。それではリズの死についてお聞かせ下さい」



 ~~~*~~~~*~~~*~~~~*~~~


 エレクトラはため息をついた。

 ヒースはここ数年遠征が多く。

 妻の顔色が悪いのは自分の身を心配しているためだと思っていた。

 実際は脅迫され金の無心をされていたらしい。

 そして……浮気相手の子供を産んで発狂し。

 赤子を殺して自殺した。

 真実はいつだって残酷だ。


「私はあの子が幸せに暮らしているとばかり思っておりました。ヒース様に守られて……でもそれは勘違いだったのですね」


「……」


 妻も守れぬ役立たず。

 ヒースにはそう聞こえた。


「お茶会にも呼んで貰えなかったようですね。社交界から爪弾きにされていたらしいですね。気が付いていましたか?」


 ヒースは沈黙するしかなかった。

 自分は何も知らなかった。

 リズはいつも笑っていたから。


「何故? リズがそこまで社交界で嫌われていたんだ?」


「色々ありますが。一番の理由は貴方が妹にドレスを贈った事です。姉の婚約者から贈られたドレスを纏うなんて非常識にもほどがあります。私には一度もドレスを贈って下さらなかったことを皆さんご存じでしたから……」


「リズにドレスは贈っていない。あのドレスは君に贈った物だ。だがリズが『お姉様はこのドレスが気に入らなかった様なので私が頂きました。ありがとうございます。姉に代わってお礼申し上げます』と言ったから……私は……私は君がドレスを気に入らなかったんだと……」


「リズが嘘を吐いていた? 私はてっきり……貴方が全て分かったうえで私を嵌めたのだとばかり……」


「君を嵌めた?」


「カリストや妹と共謀して不義の罪を着せた事です」


「贈られたドレスが合うのならエレクトラの服も着られたのだろう」


 今まで黙って聞いていたハモンドが喋る。


「エレクトラの服を着てその幼馴染に言い寄っているように見せかけてそれを別の友人に見せる。見事不義密通の出来上がりだ」


「そんな……幼馴染のカリストまで私を騙したのか!! なぜだ……」


「幼馴染を裏切ってもエレクトラが欲しかったんだろう」


「そんな……それじゃ……私は……罪のない君を……」


 エレクトラは目を伏せた。


「私……ヒース様に謝らなくてはなりません。てっきり貴方はリズと結婚したいためにみんなと一緒に私を陥れたのだとばかり……ずっと憎んでおりました。私はヒース様の事を責められないですね。私も見たい事だけを見て、聞きたい事だけを聞いていた。真実なんてどうでも良かった」


「私は……」


 ヒース様は俯く。

 妻の死から数ヶ月たった。しかしヒースはカリストを避けて彼に尋ねていない。

 妻の産んだ赤毛の赤子の父親は君なのかと。

 今も昔も真実から目を背けてきた。

 そのつけがリズの自殺。


「確かめなくては……すまない。謝罪は確かめてから、後日改めて行う」


 ヒース様は慌ただしく出ていった。

 エレクトラはそっとため息をつく。

 ハモンドが後ろからそっと抱きしめてくれた。


 ~~~~~*~~~~*~~~~*~~~~


「火事だ!!」


「きゃあぁぁぁ!!」


「煙が!!」


「助けて!! パパ!! ママ!!」


 その夜、私達が泊まっているホテルが火事になった。

 火の回りは早く。

 見る間に炎に包まれる。


「ハモンド!!」


「エレクトラこっちだ!!」


 煙の中私はハモンドに手を引かれ。

 ホテルの裏庭に出た。

 バケツリレーするホテルの従業員。

 泣き喚くホテルの客達。

 怒号の飛び交う中。私達は呆然と炎に包まれるホテルを見上げる。

 鈍い音がして、隣にいたハモンドが倒れた。


「ハモン……」


 口を塞がれ意識が遠のく。

 眠り薬?

 つんと鼻に来る薬品の臭いは嗅いだことがある。

 不眠に悩んでいた時。お医者様が調合してくれた物だ。

 尤も不眠に使われた薬は弱めの物だったが。

 私の意識は刈り取られた。




 ~~~~~*~~~~~*~~~~*~~~



「狡いよね……エレクトラは森の中で一人寂しく死んだのに……」


 俺の声にびくりとリズは震える。


「君は姉の婚約者を手に入れて子供を二人も産んで幸せで……でも……その幸せは姉の死の上に……いや……偽りの上に建てられている」


 リズの髪を撫でる。


「不思議だね。明るい所で見ると全く似ていないのに、暗い所で見るとそっくりだ」


 寝室のカーテンが風に揺れて、スイカズラの香りを運ぶ。

 エレクトラを陥れようと持ち掛けたのはリズだった。


「貴方はお姉様に昔から恋をしていたわね。でも……幼馴染の婚約者だからとずっと恋心に蓋をしてきた。お姉様を手に入れるのに協力してあげましょうか?」


 無邪気に姉を陥れた。

 声も似ていたから暗い所で彼女の服を着て俺に恋心を切実に訴える姿はエレクトラかと錯覚を覚える。

 ヒースのお節介な友人が間違えたのも無理はない。

 ヒースの友人に悪意はない。ただヒースと同じで馬鹿なだけ。

 そう自分の見たいものだけを見て生きている。

 俺も同じか……

 中庭の婚約破棄の後。彼女の家に行き婚約の申し込みをすれば彼女が手に入るはずだった。

 男爵家の俺にターピア伯爵は目もくれなかった。

 婚約破棄されて傷物となった彼女なら、家格の低い俺でも婚約できるはずだった。

 ところがエレクトラは家を追い出され、行方不明だ。

 何年も探したがエレクトラは見つからなかった。

 徐々にリズに暗い感情がわく。

 リズは姉の婚約者を手に入れて子供を産んで幸せに暮らしている。


 なのに俺はどうだ?


 あの女の口車に乗せられて大切な人を失くした……


 5年後エレクトラの遺体が見付かった。

 森の中遺体は動物達に食い荒らされそれは酷い物だった。


 俺の中で何かが壊れた。


 俺はリズに金をせびった。

 金をせびる必要は何処にも無かったが。

 幸せそうに笑っているリズとヒースが許せなかった。

 子供のような我儘な行いだ。

 だがリズに常に思い出させたかった。

 お前の幸せは嘘の上に成り立っていると。

 俺が一言本当のことを言えばお前の幸せはもろくも崩れ去るのだと。

 リズはヒースに金の無心をする事が出来ず。

 母親や祖父母に譲られた、宝石を売って金を作っていたが。

 やがて母親に泣きついた。


「お姉様がお金に困っているの」


 あの女は嘘に嘘を重ねた。

 母親は可愛い娘の為に金を出した。

 勿論疑っていた。

 森で姉の亡骸が発見されて葬儀を済ませていなかったか?

 娘は誰かに強請られているのではないか?

 そして俺に辿り着き。

 俺を諫めた。

 思わず俺は彼女の両親を殺し強盗に見せかけて森の中に放置した。

 奇しくもエレクトラが見つかった森だった。

 リズの叔父が伯爵家を継ぎ。

 リズは金の無心が出来なくなり。


 そしてとうとう思いつめて。

 金の受け渡しに使っている連れ込み宿で俺にナイフを向けた。


「もう無理……いつまでも死んだ人間に振り回されるのは……」


 憎悪に歪む顔。ナイフを握る手は震えている。

 昔はあんなに可愛かったのに、今は見る影もない。

 酔っ払いになら勝てると思ったのか。

 何処までも愚かな女だ。

 取り押さえた俺はジッとリズを見た。

 俺の腕の中で暴れて助けを求める。

 連れ込み宿では女の悲鳴など日常茶飯事だ。

 誰も助けに来ない。

 エレクトラはあの森の中で誰に助けを求めたのだろう?

 両親か? 婚約者のヒースか? 神か?

 嫉妬で胸が苦しい。

 結局最後まで振り向いては貰えなかった。

 薄暗い所で見ると本当に二人はよく似ている。


「エレクトラ……」


 俺はリズと関係を持った。

 嫌悪感から半年ほど王都を離れて商売に精を出した。

 外国を巡り商品の買い付けをしていた。

 風の噂で、リズが妊娠したことを知る。

 その時外国のホテルで新聞を見た。

 そこにはピアニストになって、婚約者のバイオリニストと共に活躍するエレクトラの姿があった。


 彼女は生きていた!!


 嬉しさと共にぎりりと歯を食いしばる。

 婚約者?

 演奏旅行?

 写真の中の二人は幸せそうに微笑んでいる。

 俺は探偵にエレクトラの事を調べるように依頼していったんユリシアン国に帰国した。

 王都の外れに庭の美しい屋敷を買った。

 彼女を迎えるに相応しい屋敷だ。

 窓には鉄格子の代わりの飾り窓を嵌めた。

 窓ガラスもすりガラスに入れ替えた。

 パッと目には分からないだろうがドアの鍵も三重になっている。

 綺麗な檻だ。

 美しい彼女に相応しい。

 豪華なピアノも購入した。

 後はエレクトラが来てくれるだけだ。


 さあ……おいで俺の愛しいエレクトラ。




 ~~*~~~*~~~~*~~~~*~~~~


 ここは……何処なの?

 エレクトラは見慣れぬ部屋で目覚めた。

 どこかのホテルではないようだ。

 ベッドから起き上がる。

 白い夜着を着ている。

 辺りを見渡す。

 豪華だが落ち着いた部屋だ。

 趣味が良い。広くてピアノまで置いている。

 ドアノブに手をかけガチャガチャと回す。

 開かない。閉じ込められている。

 窓の所に行く。

 美しい庭だ。エレクトラの好きな花ばかり植えられている。

 見事な飾り窓だ。

 しかし窓から出られない。

 エレクトラはため息をつく。

 胸に手をやる。

 ハモンドがくれた赤い首飾りがない。

 取り上げられたのか、火事の時失くしたのか。

 エレクトラはピアノの前に座り曲を奏でる。

 二人で良く弾いた曲だ。


 ガチャリ


 ドアが開き。一人の老婆が食事を運んでくる。

 ドアには屈強な男が一人。

 見張り役だろう。


「ここは何処ですか?」


 しかし老婆も男も答えない。

 二人共奴隷の首輪をしている。

 この国において奴隷は違法だ。

 罪を犯した犯罪奴隷ならいるが。

 犯罪奴隷は鉱山送りで普通は見かけない。

 老婆はテーブルに食事を置くと出ていった。

 再びドアは閉ざされた。


 ____ ハモンド助けて ___



 ~~~~~*~~~~~*~~~~*~~~


 ガチャリ ガチャリ ガチャリ


 三回鍵を開ける音がした。

 一人の男が現れる。


「カリスト……」


 ドアを開けて入って来たのはカリストだった。

 10年前は線の細い美少年だったが。

 今は背も伸び体格もがっしりとした美丈夫になっている。

 赤い髪が風に揺れる。


「エレクトラ待たせてしまってすまないね。急な来客が商会に来ていて、手間取ってしまった。お腹が空いただろう。直ぐに食事の支度をさせる」


 カラカラ。カートの上には美味しそうな御馳走が湯気を立てている。

 老女が食事をテーブルに並べると出ていった。

 カリストはニッコリ笑い。椅子を引く。

 紳士的な態度だ。

 しかしエレクトラは違和感を感じた。

 最後に会ってから10年たっている。

 人は変わる。しかし……

 カリストの目は熱に浮かされた様に何処かぼんやりとして。

 それでいてギラギラと輝き。

 エレクトラを見ているようで見ていない。

 まるで別人だ。


「さあ。座って」


 紳士的に椅子を引く。

 素直に座る。

 テーブルの上にサラダにスープにハーブで魚を焼いた料理が並んでいる。

 食後のタンポポコーヒーはカートに置いてある。

 魚が好きなのを覚えていてくれたようだ。

 カリストは精霊に感謝の祈りを捧げる。

 10年前から精霊に祈りを捧げていない。

 あの国は女神信仰だから女神に感謝するのだ。

 久しぶりに精霊に感謝を捧げる。


「私貴方に聞きたい事があるの」


 ナフキンを広げ、私はさりげなくカリストに尋ねる。


「私に妹が亡くなったと手紙を送ってくれたのは貴方?」


「ああそうだよ。外国に買い付けに行っている時に新聞で君たちの婚約の事を知ったんだ。帰国してみるとリズが亡くなっていて。それで君に知らせたんだ。代筆屋に頼んだのは、僕からの手紙だと、君が手紙を読まずに破くかもしれないと思ったからだ」


 カリストはワインを揺らして色を見る。


「君の両親が亡くなった時はまだ君の行方は分からなくって。5年前に森で紺色のワンピースを着た遺体が見つかって。僕らは君だと勘違いしてしまったんだ」


 カリストはことりとワインを置いた。


「君が生きていてくれて。本当に良かった」


 カリストは本当に嬉しそうに微笑む。


「……もう一つ聞きたい事があるの」


「なんだい?」


「リズが産んだ赤ちゃんの父親はあなたなの?」


「……彼女と関係を持ったのは一度きりだ」


 笑いながら答える。

 妹を死に追いやった罪悪感は微塵も感じられない。

 フォークとナイフを持つ手が震えるのを必死でこらえ何気なく尋ねる。


「リズを愛していた?」


「肉体は魂の入れ物にしかすぎない」


「?」


「外見が似ていても魂が違うと雲泥の差がある。リズはリズで。君にはなれないし。リズが愛していたのは間抜けなヒースだ」


「リズは貴方のせいで死んだのよ」


 怒りのあまり私はバンとテーブルを叩く。


「違うよ。リズが死んだのは君を死に追いやったという罪悪感だよ」


 カリストはくくくっと嗤った。


「今にして思えば、リズも俺も別人の死体に振り回されていたんだな。ヒースを間抜けと笑えないな」


 私はぞっとした。

 この人は誰?

 昔の彼はこんな目をしていなかった。

 彼からは何かが抜け落ちていた。

 魂が大事だと言いながら、彼の魂はいびつに歪んでいる。


「私をどうするつもりなの?」


「ここで静かに暮らせばいいい。僕と一緒にいつまでも……」


 夢見る瞳で彼は言う。


「私婚約しているのよ?」


「彼は君がどこに居るのか知らない」


「ハモンドはここに来るわ。きっとすぐに私を見つけるわ」


「彼は殴られて病院のベッドの上でおねんねだよ」


「……」


 私はふと窓の外を見る。誰かに見られている?

 カリストは立ち上がる。


 ガッシャアァァァァン


 テーブルの上に置かれた食器が床に散らばる。

 カリストは私の腕をつかむと椅子から立たせドアに向かう。


「カリスト痛い!! 放して!!」


 私の声を無視してカリストはドアを乱暴に開けると、私を館から連れ出す。

 引きずられるように馬小屋に向かう。

 その途中老婆と男が床に倒れているのが目に入った。

 カリストは私を乱暴に馬車の中に放り込む。

 外から鍵をかけられて出られない!!

  カリストは馬に鞭をいれた。

 馬は凄い勢いで走り出す。

 後ろから男達の声がした。


「エレクトラ!!」


 聞き覚えのある声がする。

 馬車の窓から覗くと。

 ハモンドと衛兵の姿が見える。


「ハモンド!!」


 近くに隠していたのか、ハモンドは馬に飛び乗り追いかけてくれた。

 遅れて衛兵も馬に乗り追いかけてくる。

 ガラガラガラガラ……

 馬車は月夜の崖路を走る。

 どうやらあの館は小高い崖の上に立っていたらしい。

 ハモンドは馬車に追いつくとガンガンと馬車のドアを蹴り飛ばしドアを壊す。


「くそ!!」


 カリストは長い鞭をハモンドに向けて振り落とす。


 ビシイィィ!!


 鞭がハモンドの背中を打つ。

 が、ハモンドは怯まず私に手を伸ばす。


「エレクトラ!! 飛べ!!」


 私はハモンドの胸に飛びつく。

 ハモンドは私を抱きしめた。


「エレクトラ~~~~~!!」


 カリストの悲痛な叫びが辺りに響き渡る。

 ガラリ……

 カリストがよそ見をした瞬間。

 馬車の車輪が外れた。


 ガガガガガガガガガガガガ……!!


 馬車はバランスを崩して崖下に落ちた。

 カリストと一緒に。


「カリスト……」


 ハモンドに抱きしめられながら呆然と崖下を見る。

 まるで奈落に飲み込まれたようにカリストも馬車も見えない。





 ~~~*~~~*~~~*~~~~



「あの日カリストに尋ねたんだ」


 病室のベッドに横たわったヒース様は答えた。


「赤ん坊の父親は君かと尋ねた。本当はもっと早く尋ねるべきだった。私は真実を知る勇気がなかったんだ。君の事もそうだ。君は領地に帰ったとばかり思っていた」


 ヒース様はため息をついた。


「彼の商会を訪ね、刺されたんだね」


 ハモンドが私の肩を抱く。無意識のうちに彼の手を握る。

 ヒース様は頷く。


「彼はもう狂っていた」


 ヒース様は俯き。


「あの事があって私はカリストと余り会わなくなった。恐らく5年前に森で君だと思い込んでいた遺体が発見された時に狂いだしたんだと思う」


「私が兄の部下に調べさせた調査結果によるとその遺体は病気になった娼婦の物だった。確かに髪はエレクトラと同じだが瞳の色は菫色だったらしいが遺体の損傷が酷くて眼球は無かったようだ」


「それにしても直ぐにエレクトラが攫われた場所が分かったね」


「兄の部下がカリストの行動を調べてくれた。その中に最近買った館があってね。大きさのわりに人の出入りが少なくて。ピンときたんだ。エレクトラの為に買った館だと。高価なピアノも購入してたしね」


「カリストは……」


「崖から落ちたんだ……即死だったよ……」


「なんでこんなことになってしまったんだろう? 何処で私達は間違えたんだろう……」


 ヒース様はポツリと呟く。


「何処で間違えたにしろ選んだのは君であり、君の妻であり、カリストだ」


 ハモンドはバッサリと切り捨てた。


「子供じゃないんだ。やらかした責任は自分で取らなければならない」


「エレクトラ……」


「はい?」


 俯いていたヒース様は真っ直ぐ私を見つめる。


「今更だがすまなかった。許してくれとは言えないが……」


 私は微笑み。


「謝罪は受け取りました。最初は怨みましたが。今では感謝しています。だってヒース様との婚約破棄が無ければ私はハモンドと出会えませんでしたもの。本当に人の縁は不思議な物ですね」


 私は肩に置かれたハモンドの手に自分の手を重ねる。

 看護婦が来て面会時間が終わったことを告げる。

 私達は病室を出た。


「こら!! アダムス!! 病院で走らないの!!」


「ごめんなさい。お姉様」


 姉に叱られて男の子はしゅんとする。

 姉は弟の頭を撫でてヒース様の病室に入った。

 メイドと護衛騎士も二人の後に続く。


「あの子達は妹の産んだ子供達なのね」


「そうだね。もしかしたら君の子供になって居たかも知れないな」


「私はあなたと同じ髪と目をした子供が欲しいわ」


「それなら早く国に帰って結婚式の準備を急がせなくてはならないな」


「ふふ……お義母様が私より張り切ってウエディングドレスを仕立てて下さった」


「母上は君のことを実の娘のように可愛がっているからね」


「ありがたい事ね。実の親とは縁が薄くて。グレハーズ国の親とは仲が良い。結婚式には叔父様と従弟とあの子達も招きましょう」


「いいね。この国の親族にも祝福してもらおう」



 翌年私達は皆に祝福されて結婚式を挙げた。

 1年後彼に似た双子の赤ちゃんが産まれ。

 私は我が子を抱いて幸せを嚙み締める。




     ~ Fin ~



 ~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~~

 2019/7/22 『小説家になろう』 どんC

 ~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~~




 ~ 登場人物紹介 ~


 ★ エレクトラ・スー (27歳)

 ライトブラウンの髪で琥珀の瞳。

 17歳の時婚約を破棄され、家からも追い出される。

 野垂れ死に寸前でハモンドに拾われる。

 ピアニストになりハモンドと演奏活動している。

 スー侯爵の養女になり、来年ハモンドと結婚する。

 因みにエレクトラの方が胸はでかい。


 ★ ハモンド・ぺスター (32歳)

 バイオリニスト。行き倒れていたエレクトラを助けた。

 エレクトラと組んで4ヶ国を演奏旅行している。

 グレハーズ国の王弟。国王に息子が出来たので、やっと結婚の許可が下りた。

 婚約期間が長かったのはそのせい。


 ★ リズ・ターピア (享年26歳)

 エレクトラの妹。ストロベリーブロンドで緑の瞳。

 8歳と6歳の子供がいる。

 暗い所で見るとエレクトラとリズはそっくりで声も似ている。

 それを利用してエレクトラの服を着てエレクトラが不義を働いているように見せかけた。

 それを見てヒースに忠告した友人に悪意はない。

 姉とヒースの婚約が破棄されれば後釜に自分が座れると思っていた。

 裏切られたと傷心のヒースに擦り寄りまんまと婚約者になる。

 でもまさか姉が追い出されるとは思ってもいなかった。

 ヒースと結婚して二人の子供を儲ける。

 5年後姉らしき死体が発見されてそこから地獄が始まる。

 カリストに脅迫され金をせびられ、宝石を売ったり親に「姉がお金に困っている」と嘘をつき

 お金を借りたりしていた。成り行きでカリストと男女の関係を結ぶ。

 カリストの子を産みその子を殺して自殺する。

 因みに姉に贈られたドレスは胸に詰め物をしていた。


 ★ ヒース・フォーレン侯爵 (30歳)

 エレクトラの元婚約者。

 リズとカリストに嵌められ、エレクトラを婚約破棄する。

 その後傷心をリズに慰められ結婚する。

 その後1女1男をもうける。

 はた目には幸せそうな家庭だったが、エレクトラと思しき遺体が発見されてから壊れる。

 仕事が忙しく遠征で家を空けていたら妻が友人の子供を産んで自殺した。

 おまけに死んだはずのエレクトラがピアニストになって王弟の婚約者まで連れて来た。

 友人と婚約者の妹を信じたら裏切られた。選択を間違え続けた人。

 仕事は有能だが、家庭はグダグダ。


 ★ カリスト・ケニング (29歳)

 エレクトラとヒースの幼馴染み。

 昔からエレクトラが好きで友人を裏切っても手に入れたかった。

 リズと共謀してエレクトラを陥れ婚約破棄させる。

 結婚を申し込みに行ったらエレクトラは家を追い出された後だった。

 方々探したが見つからなかった。森でエレクトラらしき死体が見つかりそれから狂っていく。

 幼馴染を陥れて手に入れるつもりが死に(別人だったのだが)幼馴染エレクトラを失う。

 ヒースと結婚して上手いことやっていたリズを恨む。

 共犯者は脅迫者になる。

 ヒースを騙したことをばらされたくなければ金を出せと集る様になった。

 元々商売繫盛で金には困っていないが、嫌がらせに金をせびる。

 挙句酔っぱらってリズと関係を持ってしまう。

 人を呪わば穴二つのろくでなし。


 ★ トーマス・ターピアとナオミ・ターピア

 エレクトラとリズの両親。リズを溺愛。

 カリストにリズが脅されていることに気が付き。諫めたら殺された。


 ★ クリスティーナ・フォーレン(8歳)

 リズの娘。父親と同じ黒髪で緑の瞳。

 良い子。


 ★ アダムス・フォーレン(6歳)

 リズの息子。父親と同じ黒髪で緑の瞳。

 良い子。


 ★ 森の死体

 森の中で発見された死体。

 エレクトラと同じライトブラウンの髪。でも瞳は菫色。発見当時は腐っていたのでわからない。

 帝都の娼婦。病気になったため森に捨てられた。

 エレクトラと勘違いされて悲劇は起こった。


 ★ この世界の魔法と魔石

 しょぼい魔法しかなく。年々人々は魔法が使えなくなっている。

 鉱山から取れる魔石を使った魔道具は発達している。

 魔石は汽車や船や飛行船の動力として使われているが、まだまだ初期段階。

 例えるなら第一次世界大戦と第二次世界大戦の中間ぐらいの文明。

 グレハーズ国はそれなりに魔石文明が発達している。

 ユリシアン国はいまいち魔石文明が遅れている。





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[良い点] 主人公がザマァした訳でもないのに、勝手に自滅しているところがとても良かったです。 エレクトラにとっては、あの裏切りは音楽でさらに高みを目指す為の音楽の神様からの試練だったのかな。と言うぐ…
[良い点] ありがちな婚約破棄モノかと思ったらミステリーでござった [一言] 何だかんだでヒース(元婚約者)は性格の好い子供にも恵まれてるし、 嫁に嵌められて元婚約者を放り出した過去が、どれだけ心を…
[良い点] 起承転結がきちんとなされている点も良いですし、読み応えがあり、どんどんストーリーに引き込まれていきました。 読み終わった後、ほっとため息の出る作品に出会ったのは久しぶりです。 素晴らしいお…
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