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voice  作者: 立花葵
府中
2/5

テンペスト古書堂

奥へとすすめられたところには、2つのチェアがあった。


春菜「どうぞ、おかけになって」


春と雪は促されるまま、座る。と、同時に頭の中に浮かんでくる映像。灰色と化した街。泣き叫ぶ人。業火、煙ー。


春菜「そのイスに少し細工がしてあって、誰もが見れるわけじゃあないのよ。それを必要とする人にしか見えないのだけれど、お若い2人には必要な情報だったのね。」


春「春菜さん、これは・・・厄災の日の・・・」


春菜「そうです。わたしの脳裏に焼き付いた映像をチェアに少し映したもの。厄災・・・voiceと世間では言うかしらね。voiceの日は、突然やってきたの。地震や津波と同じく突然と。教科書に乗ってるとおり、地球上の半分の人々は死に、街は灰色になり、わたしは命からがら逃げ延びた人間よ。」


雪「詳しく教えてください」


春菜「あの日のことは、一生忘れられないわ。泣き叫ぶ人々の声も、家屋が崩れていく音も、街から色がなくなったことも。」


そう言いながら、春菜は紅茶を一口飲んだ。


春菜「現時点で、何が発生源なのかあれが何だったのか何一つ解明されてないと言われてる。だけどね、私の記憶が間違いではなかったとしたら、発生源はあの人たちだと思うの」


春「あの人たち・・・?」


春菜「あの日は風もすごくて煙も上がってて、あたり中が真っ白だったわ。でもね、その真っ白の中で、2人の人を見たのよ。1人は助けてほしそうに手を出し、もう1人は助けようと手を出していた。後から聞いたら、わたしが見たその2人がどうやら中心地だったみたいなの。だから、もしかしたらその2人がvoiceの発生源だったんじゃないかなと老いぼれは思っててね」


春と雪は、それを黙って聞いていた。この情報を待っていたのだ。詳細な話を。生き証人を。ずっと探し各所にある古書堂を歩き回っていたのだ。


春「どうして、僕達にその話をしてくださったんですか?というか、情報を必要としていることがどうして・・・」


春菜「老いぼれの堪かしらね・・・。風の噂でね、古書堂を探して回ってる若い2人がいるって聞いていたのよ。翼の生えた猫を2匹連れて、voiceに関連する本を欲しがる熱心な若い旅人。」


雪「旅人ではなく支部からの司令だったのですが・・・でもここに来て正解でした」


春「僕達が欲しいのは、本ではなく情報です。古書堂を探し、生き証人或いは本に乗ってない情報を持ってる人から話を聞くことが本来の僕達の仕事でした。今日、春菜さんにお会いできてよかった」


春菜「老いぼれの老いた記憶を信じてくれるの?」


雪「人間は年を取り老いていくが、記憶は鮮明である。特にあの厄災の日のことはいくつになったって忘れることのできないことです。」


春菜は、恥ずかしそうにでも嬉しそうな表情を浮かべながら涙を流した。


春菜「わたしの話を信じてくれたのは、あなた達がはじめてよ。ありがとう。ありがとう。」


春「むしろ信じないほうがどうかしてる。生き証人はとても重要なことを世間はわかってないと思います。」


雪「春の言う通りです。今までいくつかの古書堂を回ってきましたがここまで詳細な話をしてくださったのは、春菜さんおひとりだけです。こちらこそ、ありがとうございます。支部には、この話をされましたか?」


春菜「支部宛てに手紙を送ったわ。何十通も。だけれど、年齢が年齢なもんで返事1つこなかったわ。そのうち、私の見たものは見間違いだったのかしらと思い始めてた頃だったのよ」


春菜は、いつの間にかシロとロクを抱きかかえていた。どちらも満足そうな顔で、こちらをみている。


春「支部に情報送っているのに、それはひどいですね・・・。なのに俺らには、情報集めて来いっておかしい」


不満げに話す春に諭すように春菜は言った。


春菜「まあまあ、こうしてお若い2人にお話できたのも何かの巡り合わせよ。今夜はどちらにお泊まりになるのかしら?」


雪「まだ決めてなかったんです。ここに長居する予定ではなく、別の街の古書堂に行こうと考えていたので」


既に時計は、0時を回っていた。


春菜「そしたら、今から帰るにしても間に合うかわからないならどうかしら、泊まっていっては。わたし1人でこの店をやってるもんだから、いつもは寂しく1人で寝てるのよ。猫ちゃん達は帰る気なさそうだけど」


春菜の膝の上ですっかり寝入っている猫2匹。翼はとっくにしまわれてる。


春「そしたら、お言葉に甘えてもいいですか?」


春菜「もちろんよ。そうなったら、3人と猫ちゃん達とみんなで一緒に寝ましょう。2階で着替えてらっしゃい」


そう言うと、春菜は2人用のパジャマを手渡した。


春菜「これくらいの魔術は、できるのよ」


ふふっと笑って見せた春菜は、どこか楽しげだった。そして、春も雪もこの妙な暖かさが心地よかった。なにせ、2人には家族がいないのだからー。


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