オニオングラタンスープ
静かな部屋の中でザクザクとパイを砕く音が響く。
琥珀色のスープが顔をのぞかせる。
栄治は熱いのでゆっくりと掬って飲んだ。
・・・・・・あなたはいつも私に無関心なのよ。
・・・・・・あなたが好きなのはあなただけ。
・・・・・・さびしくないの?
・・・・・・もういいわ。
オニオンスープが大好きで、シャブリとチーズが大好きだったカホはいつも頑張っていた。
そんな頑張っているカホを見るのが栄治は好きだったのだが、
いつもカホは栄治に聞いてきた。
『さみしくないの?』
そう聞かれて、栄治はいつも同じ調子で答えていた
『さみしさも、孤独も僕の一部だよ。』
栄治が今、思い出すのは、元気いっぱいで頑張るカホではなく、泣き疲れて表情のなくなったカホの顔。
記憶ははっきりと冷たい味がした。
これが孤独の味だと、栄治は熱いオニオングラタンスープを流し込んだ。
今朝、ひさしぶりにカホからメールが届いた。
彼氏ができたのでチョコレートケーキとオニオングラタンスープのレシピを教えろ。
と、相変わらず上から目線の手紙だった。
カホがいなくなってからオニオングラタンスープを作っていなかったので、久しぶりに作ることにした。
薄切りにした玉ねぎをバターでゆっくりと飴色になるまで炒め、さらに小麦粉を入れて炒める。時間がかかるがこれをカホに任せて、小麦粉入れて真っ黒に焦がしたときのことを思い出していた。
飴色になった玉ねぎに市販の缶コンソメスープを入れてのばし、塩コショウで味付けする。アクが出るので丁寧にとっていくと綺麗な琥珀色のスープができる。
小さなカップにスープを注いで、細切りにしたグリュイエールチーズをたっぷりかけて、冷凍のパイシートを半解凍して、卵黄を塗ってぴったりかぶせる。
それをオーブンで焦げ目がつくくらいに焼いたら出来上がり。
焼いている間にチキンソテーとサラダを作って食べようとすると、亮平から電話があった。
いま飲んでるから来いということだった。
丁重にお断りすると、今日のメニューはなんだよ。とお決まりの質問が来た。
「オニオングラタンスープとチキンソテーだよ。」
と言うと、長い付き合いの亮平はさも分かった風に
「ほぉ、お前でも感傷にひたれるんだな。」
と素直に感心したように言ってくるので、栄治も思わず
「まぁな。」
と笑ってしまった。




