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お茶漬け

「お前いいかげん飲んだ後にウチ来てお茶づけ頼むのやめない?」

英次は軽く握ったおにぎりのうえに亮平の持ってきたカツオのたたきをスライスしてヅケにしたものをのせ、昆布茶とほうじ茶を半々に混ぜたものをかけた。後は軽く片面をあぶった海苔を刻み、白ごまを少々添えれば出来上がる。英次はぶつぶついいながらもさっさとお茶づけをつくっていた。


「イイダロー、ちゃんとくる前には電話してるし。」

亮平は悪びれることなく言った。


「いや、そういう問題ではないんだけどね。」

「やっぱシメはこれだな。」

そう言って亮平は軽くお茶づけを平らげた。カツカツとかきこむ姿は清清しく、最後にズズーっと茶を飲み干して満足している様子を見ると、英次はいつも通りに考えることがバカらしくなってきた。


「そういや、お前坂本さんとは最近どうなのよ。」

亮平の話はいつも唐突だ。


「別に。」

英次は表情をまったく変えず返答した。


「なに、別にって。」

「特に報告するほどのことは何もないってことだよ。」

英次は久しぶりにその名前を思い出したかのように考えていった。


「お前って、ほんっと煮え切らないのな。」

「よく言われる。」


「結局、お前逃げてるだけなんだよ。信じると裏切られるかもしれない。自分が傷つくのが怖い。」

「そうかもね。」


「傷つくのが怖くて恋愛は出来ません。」

亮平は子どものように宣言した。


「そうだなぁ。最近しのぶさんとはうまくいってる?」

英次は話を変えようと、亮平の彼女の話を振った。


「そうそう、あいつなんか最近怒りっぽくてさ、ちょっと困り気味なんだ

よな。」

亮平は両手を挙げて手をひらひらさせながら言った。


「またお前、約束したことでも忘れてるんじゃないの。」

亮平は忘れっぽい上に、鈍感な所がある。


「えー、最近なんか約束したかな。」

亮平は斜め上を見ながら腕を組んで。必死に思い出そうとしている。


「ほら、誕生日とか、記念日とか、髪を切ったのに気付かなかったとか

さ……」

「うーん。思い出せん。」

腕組みをして考えている亮平はとても28には見えない。


「そういうときは贈り物なんかすると、効果大だと僕は思うね。」

「贈り物?そういえばなんか買っておくっていったような。なんだっけ・・・。」


亮平は空中に何かあるかのようにじっと見ながら考えていた。


「つまり、恋は思い込みなんだよ。相手となにかを共有したい。独りじゃないと思いたい。でもそれは無理な相談なんだ。それはお互いが共有してると思い込む事で成立しているだけで、それが一方でも消えてしまうと恋はすぐに破綻してしまうんだ。」

英次はレンアイを論理的に構築しようとしていた。


「お前、疑り深いからなぁ。その点、俺様は忘れっぽいけど疑わないぞ。それにお前みたいに物知りじゃないから目の前に箱があればとりあえず開けるし。」


「なにが入っているかなんて僕も知らないよ。けど、あんまり興味もないかなぁ。」


「そこだよ。お前はそこから一歩も出てこない。扉が見えてても叩こうとしない。お前本当はゆりちゃんのことが好きなんだろ。」

亮平はいいにくいことでもはっきりと言う。そこは英次にとって苦々しくも心地よいと感じていた。


「そういえば、ゆりちゃんが買ってきたわらびもちあるけど、食べる?ちょっと変わっててもちが黒っぽいんだけど美味しいよ。」


「わらびもち!たべるたべる。それって黒蜜?きなこ?」


「少し待てよ、煎茶いれてくるから。こないだ京都に行ってきたときに買ったお茶がなかなか美味しくてね、伊勢茶なんだけど、浅蒸しなのかさっぱりしてて飲みやすいと思うよ。」

亮平は忘れっぽい。そこが彼のいい所だと英次は思った。

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