海鮮丼
久しぶりに栄治は実家に帰ることになったので、
お土産に市場で海鮮丼の材料を買って帰った。
海鮮丼は祖母の好物で、食が細くなってもこれだけは完食する。
うに、いくら、まぐろ、ほたて、と少しずつ買って帰る。
家はいつも通りそこにあって、入ると実家のにおいがする。台所と古い木の匂いに線香の匂い。そう、こういう匂いだったと確かめながら、祖父の仏壇に手を合わせる。
母と姉が出てきて、わいわい言っていたが、聞き流して
「海鮮丼の材料買ってきたから、あとは汁ものと付け合わせは適当につくってね。」
といって、冷蔵庫に材料をつめた。
「おばあちゃん元気?」
栄治が軽く聞いてみると
「向こうで寝てるよ。最近足が痛い、腰が痛いって、病院ばっかり。まぁ構ってほしいのもあるんだろうけど。」
母はぼやき気味に言った。
「そうか。もう歳だもんな。」
栄治は納得したように言って、
「ばーちゃん。今日は海鮮丼作るから楽しみにね。」
と祖母に呼びかけた。
寝ていた祖母も、むっくり起き上がり、
「栄治帰ったんか、そうか。海鮮丼にはウニがはいっとるかの?」
と元気よく答えた。
栄治がもちろん買ってきたよ。と言うと、嬉しそうな顔をして、
「そりゃ食べんといかん。」
といって、ベットからおりてきた。
「ああ、まだ寝てていいよ。あと30分したらできるから。」
と栄治は止めて、台所に向かった。
いくらとまぐろをづけだれにつけて、
薄味の酢飯をつくる。
紫蘇と海苔を刻んで、白身の魚とウニに塩をふれば下ごしらえ終了。
お椀に酢飯をもって、大葉と海苔を敷き詰めて、彩りよく刺身を並べる。
さっと醤油をぬって、最後に塩をもうひとふり、ワサビをもったら完成。
ハマグリのお吸い物と一緒にいただく。
「ばーちゃんできたよ。」
栄治はやさしく祖母に声をかけた。
「おーおー、やっぱり栄治のつくるのはきれいじゃな。つやつやしとる。」
「お母さんは下ごしらえあんまりしないからだよ。」
さらっと栄治が言うと、
「主婦は忙しいんだよ。」
とちょっとむきになって母は答えた。
「まぁまぁ、栄治がせっかく作ったのが冷めちまうよ。いただきます。」
祖母はゆっくりと美味しそうに海鮮丼をほおばった。
「で、栄治。お前いつ結婚するんだい。お前が結婚しないとおちおちあの世へも行けないよ。」
「そりゃ、結婚するわけにはいかないなぁ。もうちょっと長生きしないとね。」
「お前は相変わらず、屁理屈ばっかりだねぇ。」
祖母はやれやれという表情をしてため息をついた。
栄治は温かさを感じながらも、押しつけがましいように圧迫されるような空気を感じながら、そうかこれが家族だ。と感じていた。




