バケットサンド
仕事を休んで、朝から買い物に出かけた栄治は涼しいデパートに入ってほっとしていた。
人はまばらで不況という二文字が浮かんでくる。
なじみのメンズ店にいくと、やっぱりお客は誰もいなくて、ふらふらと服を見ていたら、店長に見つかった。
「栄治さん。今日は仕事休みかい?」
アパレル店特有の細身で派手な服装の店長は陽気な声で話しかけてきた。
「今日初のお客かい?」
栄治は意地悪く聞いてみた。
「やなこというなぁ。ちょうどよかったじゃん。新しい服が入荷したから着て着て。」
悪びれることなくテンションを上げて接客する店長だったが、栄治もいつものことなのであまり気にすることなく試着に向かった。
服の話よりも、合コンの話や飲み会の話に終始し、
結局ポロシャツとパンツを買って店をでた。
気付いたら1時間ほど話していたらしく、ちょっと疲れたのと昼まで時間がなくなったので、
サンドイッチの材料とスープの材料を買って帰る。
家に着くともう12時になっていたので、サクサクと片づけて、料理を始めた。
バケットを霧吹きでしとらせてトースターで焼いて、ザクザク切る。
そのバケットにクリームチーズとトマトとレタス、生ハムを挟んで、オリーブオイルと塩をふってハムサンド。
ガーキンのピクルスとゆで卵を刻んでマヨネーズとバルサミコ酢であえたものを挟んでタマゴサンドをつくる。
鍋にはたまねぎ、ベーコン、しめじとマイタケをバターでいためて、コンソメキューブと豆乳と生米を少々いれて圧力鍋で煮込んだスープをつくる。
バケットを並べ終えて、粗熱の取れた圧力鍋の蓋をパカって開けるとほわんと豆のにおいがただよってくる。
紅茶とグレープフルーツジュースを用意して、お手軽ランチ。
つくりたてのバケットサンドは何でこんなに美味しいんだろうかとぼんやり考えていると、
寝ていたゆりが起きてきて
「なんか、また私をのけものにして食べてる。」
と、睨みつけてきた。
栄治はすっとぼけた表情で
「あんまりよく寝ているから、ためしにキスして起こしてみようと思ったのだけど、起きなかったからしょうがないよね。」
と嘘をついてみた。
ゆりの顔がちょっと赤くなったが、すぐに栄治の笑う顔を見てからかわれていることに気付いて口を曲げた。
まだ、寝起きでぼんやりした顔でへそを曲げるゆりがあんまりにかわいいので栄治が笑い転げているとゆりが近づいてきて、栄治の食べかけてたサンドイッチを奪ってガツガツと食べた。
「そんなに急に食べるとのどにつまるよ。」
と、必死に笑いを抑えてグレープフルーツジュースを渡した。
サラダサンドのトマトのジューシーな甘さとクリームチーズの酸味とそれをまとめるオイルの相性が抜群によくて、ゆりは不機嫌になったことを忘れそうになったが、思いだして栄治を睨みながら、ジュースをごくごく飲んだ。
「美味しいでしょ。」
と屈託なく聞く栄治を見ると、ゆりはこくんと頷くしかなかった。
午後から見に行くトリッキーな監督の映画を凄さを栄治が珍しく熱く語っているのを聞きながら、おかゆのような豆乳スープを飲んでいると、おなかがいっぱいになってきたゆりはそういえばこの前久しぶりに買ったCDがよかったと唐突に話し始めて、栄治がちょっとむっとするのを感じてよしよしと思うのだった。




