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おはぎ

遠く海の向こうにはぼんやりと島が並び、雨上がりの雲の切れ目から光が海へと降り注ぎ、反射してキラキラしている。

小高い山の上から眺める風景は変わらない。

いや、当時はあの橋がなかったな。

と、英治はお墓に向かう山道で過去の記憶を正確に思い出そうとしていた。


見下ろすと、きれいに整備されたお墓が整然と並ぶなか、祖父のお墓には枯葉が舞っていた。夏の終わりにしては日差しが強く、汗をかきながら栄治は家族とお墓を掃き清め、年に何度かのお参りを済ませて、実家に戻った。


台所では親戚から貰った小豆がふかふかに煮上がっている。英治はふむふむとしっかり水切りした小豆に芯がないかを確認した。鍋に小豆を移して、砂糖を足して、ゆっくり煮て潰して粒あんをつくる。小豆粉がふわふわと台所を漂って、甘い匂いが充満する。

明日余ったやつ持って帰ってぜんざい作ろと英治は考えた。

粒あんを味見していると、もち米が炊き上がったとアラームがなる。もち米を軽くつぶして米が半分くらい残ったおもちをつくる。

粒あんをもちでくるんで、きな粉をまぶす。

祖父の大好きだったおはぎをつくって、仏壇に供える。


うちではたまごと豆腐のお吸い物がおはぎの定番スープ。 昆布出汁の汁にしっかりといた卵液を細くながしながら一煮立ち。卵が固まって、小さく切った豆腐と小口切りにした青ネギを入れて完成。


少し塩みを利かせたきな粉をかけながらみんなでおはぎを食べる。


毎年の行事。


祖母は昨年お墓には行けなかったが、今年はぶつぶつと文句を言いながら山道を登ってお参りできた。

疲れたのか、帰ってくるとベットに横になって、起きてこない。


おはぎ出来たよ。

と声をかけると、はーいとか細い声で返事が返ってきた。元気な頃は、祖母の指示通りしないと、大きな声で怒られたものだが、今ではその影もない。


美味しそうにおはぎを食べている祖母を見ながら、栄治は毎年の行事も毎年同じではないことに気づいていた。

変化しているのは自分なのか周りなのか、変わらない気持ちはどこへ行くのだろうか。

ほくほくとした豆の味がするおはぎを食べながら、栄治は申し訳ない気持ちになっていた。


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