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天ぷら

外は初夏の陽気で気温は32度を超えた。

6月だというのに夏を思わせる日差しはなんだか小学校の夏休みを思い起こさせる懐かしい感じだった。

栄治は今年初めて半そでを出して着た。


いつもの日曜は静かだ。

しかし、今日の日曜はいつもと勝手が違った。

近所に住むおばに頂いた採れたてのアスパラとスナックエンドウが机の上に鮮やかな緑を落としている。ふっくらと太ったエンドウを見ていると久しぶりに天ぷらを食べたくなったので、栄治はビールを買ってくることにした。意外にもおばの言葉が気持ちを重くさせていることに栄治は気付いていた。


栄治はゆりに電話をかけた。あいにく繋がらず、「今日はてんぷらだけど、来る?」とだけメールを打っておいた。


豆腐サラダと塩昆布のお吸い物と天ぷらという簡単メニューだったので、栄治は野菜の下ごしらえをてきぱきとこなすと、揚げ物用のなべをだして、ごしごし洗った。小さなこげつきなどを一つ一つ確かめ、丁寧に落とした。細かな出っ張りを手で確かめ、磨いていく。特に意味はなかったが、なぜか栄治は飽きることなく続けた。何かが落ちていくのを実感する。どのくらい経ったか解らなかったが、ゆりが来た後もしばらく磨き続けていた。


「おなかすいたー。」

なんとなく声をかけにくかったが、ゆりは無理に明るく言った。

「ん、もうこんな時間。……じゃあ食べよっか。」

栄治が顔を上げると、もう外はすっかり暗くなっていた。


天ぷらの基本は新しい油を使うことと、きれいな鍋で作ることの2つ。

後は、冷たくした天ぷら粉の温度が上がり過ぎないことに気をつけて、少しづつ鍋の半分以下を使って揚げることを守れば、からりと揚がる。

栄治はサラダ油と香り付けにごま油を混ぜて鍋を火にかけた。


「はい、スナックエンドウあがり。」


栄治は揚げたてをつまみながらゆりに渡した。


「このスナックエンドウ肉厚だねー。ビールに合う!」


塩でエンドウを食べながら、ゆりはビールを傾けた。


「そう、それ今日おばさんにもらったんだ。」


栄治はアスパラを揚げながら答えた。


ゆりは栄治の暗いトーンを耳ざとく拾って

「また、なんか言われたんでしょ。」

と返した。


「まぁ、いつもの感じでね。相変わらず元気よくて、親戚の噂話や栄治は結婚しないのかいといつもの調子で延々と喋って帰っていったよ。」


「で、ちょっと落ち込んでるのね。」


「いや、おばさん髪の毛染めててさ、昔はそれこそ黒々していたからね。年取ったなぁと感じて、まぁ俺もそれなりの歳になっているから仕方ないんだけど。」


「ふーん。」


さみしいならさみしいって言えばいいのにとゆりは心の中で呟いた。


「最後はかきあげ丼にする?それともかきあげ茶づけにする?」


栄治はかきあげを器用にまとめながら楽しそうに聞いてきた。


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