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鯛の潮汁

寒い日が続いた後の暑い日はなんだか調子狂うよな。と栄治は思いながらも、桜の花びらがひらひらと舞う陽気にちょっと浮かれ気味だった。

栄治は久しぶりに市場で魚を選びながら今年の春ももう少しだなと感じていた。花を惜しむ気持ちは日本独自のものだと誰かが言っていたのを思い出していた。


家に帰ると市場で見つけた鯛のアラをうしお汁にしようと丁寧にあらった。

しっかりとあらって、塩をふってキッチンペーパーで水気を取る。

熱湯で霜降りにしたら、また冷水であらって綺麗にする。

「まだ、あらうんだ。」

とユリがつぶやいたのが聞こえてくるが、気にせず栄治はあらった。

あらった鯛を昆布を引いた出汁で煮る。

強火で煮過ぎないように鯛のうまみを出し、塩で味付けする。

醤油を入れてもいいが、ストレートに鯛のうまみを味わうために

塩のみの味付け。コクを出すのに藻塩をつかう。

よそって、木の芽をあしらえば出来上がり。

つくり置きのかぼちゃの煮物と、頂き物の鰆の西京焼きを焼いて、筍ごはんをよそっていただく。


「おお、筍ごはん?春だねぇ。日本酒ないの?」

ゆりは並ぶお皿に目をキラキラさせていった。

「おやじかよ。晴耕雨読があるけど飲む?」

栄治はすばやくつっこむと、冷蔵庫から日本酒を取り出した。

「のむのむ。いただきまーす。」

お腹を空かせた、ユリはさっそくもぐもぐ食べ始めた。

栄治はいつものことなので気にせず、おちょこを出してトクトクと備前焼きの徳利に日本酒を注いぎ、ユリの分とおちょこに注いで飲んだ。

春を惜しみながら、のんきに酒を飲んでいる。去年だったらあんまり考えられなかったな。

と栄治は思いながら、人が変わることについて考えていた。


「栄治~おかわり~。」

栄治の物思いとは裏腹にユリはキューっと日本酒をあけながらと陽気にご飯を食べている。

「はいはい。あんまり調子に乗って日本酒飲むとまた悪酔いするよ。」

と英治がたしなめる。

「また、そんな飲まないってー。そういえば、聞いてよ昨日うちの新人がまた怒られてて、何したと思う?」

「いや、わかんない。」

「電話に出られなくて、3回も同じこと言われてるの。またか、と思ったけど、可愛そうだし、ちょっと丁寧に教えてたら泣き出しちゃって。最近の若い子の涙腺どうなってるのかな?」

英治はユリも新人の頃、まあまあ情緒不安定だったよなと思いながらも、黙って話を聞いていた。

楽しい春の終わり。これが幸せなのかなと栄治はやはり浮かれていた。


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