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えびとまめのスープ

英次は帰宅中に午前中の仕事を振り返り、明日の予定を組み立てようとしていた。


同僚のうんざりするような愚痴が頭の中を繰り返す。

『何で私が……』『私はこう思うんだけど……』『あの子なんて私と比べて……』『私が』『私が』『私が』


英次は消化をしなければと思った。思考を変え、現有の食材を思い起こしながら、今日のメニューを組み立ては解体するということを繰り返した。


駅の近くのスーパーで、新鮮なえびを見つけた時点でメニューが決まった。

英次はゆりに電話をした。


「おつかれ、もうご飯食べた?」


ゆりは、待ってましたとばかりに


「メニューは?」


と聞いた。


「えびと豆のスープに鶏のオーブン焼き。」


ゆりは英次のいつもより少しだけ高いトーンを聞き分けた。

英次は疲れていると、それを隠すために少し無理をする癖がある。


「いくいく。じゃあ、白ワイン持って行くよ。」


ゆり調子を合わせるように話した。


「大体、1時間後にできてると思う。」


英次はだんとりを計算していった。


「OK。」


ゆりは電話を切ると、すこしだけ泣きそうになった。


英次は大きめのえびと香草、鶏肉を買って帰宅した。


帰宅するとすぐに、ローストチキン用のたれを用意して、塩コショウをすり込んだ鶏の鶏皮にフォークで穴を開け、ジップロックにたれとともに放り込んで軽くもみ、放置した。

それからえびの殻を剥いた。たまねぎと香草をみじん切りにして、フライパンでえびの殻と一緒に炒めて、しっかりと火を通し、圧力なべに移し変えて、トマトとスープを足し圧力をかけて5分待った。圧力を下げている間に塩を振って卵白で洗ったえびに焼き色をつけ、とったスープをざるでこして、焼いたえびを半分と赤レンズ豆を加えてまた圧力なべで煮た。

その後で、オーブンに鶏とじゃがいもとアスパラを入れて焼いた。

後は美味しく仕上がるのをじっと待つだけだ。付け合せのサラダ用ドレッシングに塩、ワインビネガー、卵黄を混ぜ、オリーブオイルを分離しないようにゆっくりと混ぜ合わせる。泡だて器で、混ぜ合わせることに集中し、だんだんマヨっぽくなるこのドレッシング作りが英次は好きだった。

サラダをちぎっている最中にゆりが到着した。


「お疲れ様ー。んー、えびの匂いがすごいねー。これ白ワイン。冷やしとく?」


ゆりはえびの香りを吸い込みながらも、英次の顔色を伺っていた。


「ありがとう。えーと、シャルドネか。冷蔵庫入れておこうね。」


英次はたんたんと冷蔵庫にワインを入れながら、どこかでゆりの顔を見てほっとしている自分に気がついていた。


「ゆりちゃん、パンとご飯どっちがいい?」


ゆりは目ざとくサラダの横にあるピクルスとマヨネーズを見つけて、


「エージの作ったマヨネーズとピクルスをはさんだパンがあれば白ワイン何杯もいけるよね。」


「パンだね。」


「YES。」


ゆりは元気よく答えた。


先にサラダとスープを食べ、余熱で火を通していた鶏肉を切り分けて食べた。あまり会話がないまま、美味しいねと言い合いながら、一通り食べ終わった。白ワインも一本空いた。


ゆりはしみじみと美味しい料理を食べ終わり、今日食べたあまりにも美味しくない新商品のお菓子の話をした。


英次は笑いながらゆりの話を聞き、今日あったことを少しだけ話した。


「自己主張の強い人間は苦手だな。」


英次は珍しくぼやいた。


「私も自己主張強いよ。きっとその人も傷つきたくないだけなんだよ。エージだってそうでしょう。」


ゆりはまっすぐな眼で英次を見た。


「そうだね。」


英次はそういって目をそらした。


「じゃあ、そろそろ私帰るね。ご馳走様。」


ゆりは少し意地悪く言って席を立った。


「送るよ。」


と英次も立った。


「いいよ。また呼んで、美味しいものがあればいつでも駆けつけるから。」


とゆりはいって英次の手を握った。


「また、電話するよ。」


英次はゆりの手のぬくもりを感じながら今日の出来事が昇華されるのを感じていた。

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