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ネカマの恋はどっちつかずでした ~自分に負けてしまった少年A君の恋物語~

作者: なぁな

優恋編の連載を始めました。

それほど長くはならないと思いますが、期待していただけたら幸いです。

優恋編は作品内下方から、どうぞ!


 なぜ俺なのか、最初は分からなかった。

 このMMORPGの世界でプレイヤーは五万といるのだ。わざわざ毎日俺とパーティーを組む必要はないだろう。強くも無く、弱くも無い。現在では”ヤサレン”などと呼ばれ良いように扱われているだけだ。


 ヤサレンと呼ばれる所以は「やらされてる感」や「弱そう」とか、そんな意味合いから呼ばれた名。決していいものではない。本当のネームは優恋(ゆうこ)なのに……


 優恋、というのはクラスメートの好きな女子から拝借したネーム……とはいえ、フラられてしまったのだから今では只々悲しいだけの名。俺は俗にいう()()()というやつ。男性でありながら女性アバターを使用している。


 これがまた結構使えて、可愛く振る舞いさえすれば男性プレイヤーがわんさか寄ってくるものだから、無理せずクエストをクリアできたりと。そんなこともあり、俺自身は強くなくていいわけだ。逆に強くなってはいけない。そう思っている。


 回復魔法しかできない。いや、使えないと言ったほうがいいだろう。ほかにも攻撃魔法はあるのだが、弱すぎて使えん。つまるところ金魚の糞のように強いプレイヤーへ寄生する弱者。


 いつだったか。そう、あれは俺が優恋にフラれる一年前のこと。

 今から数えると、一年と半年くらいだったかと思う。

 突然「ささやき」というダイレクトメールみたいなものが送れてきた。


 《――優恋さん。僕とパーティーを組んでもらえませんか? 回復役が欲しくて》


 また男か、などと思いながらも断ることができない弱い俺は。


 《――もちろん、いいですよ。こちらからも、是非お願いします》


 と、心にもないことを送信して彼とパーティータイム。

 彼の名は……というかネームはヴェリテ(vérité)。最初は何名かメンバーがいると思ったら、これまたヴェリテ一人だけだった。

 そんなヴェリテは、最強クラスの戦士。とにかく強い。

 俺がいる意味があるのか疑いたくなるほどに。

 その日のログアウト時に、ヴェリテは爽やかチャットで御礼をしてきた。


「ありがとう。ゆうこさん」


 ん? 平仮名? 

 べつに読めない漢名ではないが、平仮名で送ってきたのプレイヤーは初めてだった。まあ、この時は少しだけ喉元へ詰まった感じで、気にも留めずにスル―。


「はい、ヴェリテさん。こちらこそ、ありがとうございました」


 同じく御礼をしてこの日はログアウトした。

 フレンド登録などはしていない。つまり、これでヴェリテとは二度と会わないということ。



 ――と、思ったら次の日も囁かれる。もちろんヴェリテ。

 また二人だけのパーティーだった。いったい何が目的でパーティーを組もうとするのだろう。強いからいいけど。


 更に次の日も……

 また次の日も、

 これで五日間連続だ。

 ヴェリテは、良くありがちな『出会い厨』などかと初めは思っていたが、とくにリアルのことを聞いてくるとか、寒気がするチャットトークをするとか……至って普通。どちらかと言えば紳士的。同じ男でありながらも良い奴だな、と思えるほどに。


 俺が男だと言ったらヴェリテはどうなってしまうのだろう、などと考えつつも、それを言葉にすることが出来ず五日目も終わった。

 その日のログアウト時、ヴェリテはフレンド申請を申し出てきた。当然だがこれを受け入れ、互いの奇妙な友情を深めたわけだ。


 その後も、ほぼ毎日のようにヴェリテからの誘いが。俺もなんだかヴェリテとのパーティーが楽しくなってきて、脇目も振らずヴェリテのみとゲームを楽しみ続ける。二人の仲はどんどんと加速して、俺曰く同性愛に近しい。毎日何時間もゲームを共にするのだ、少しくらい愛着が沸いてもいいだろう?


 互いが学生であることや、年齢も同じ一六歳だった。

 その趣味なんかも結構似て、気が合って心の許せる存在となってゆく。


 知り合ってから一年が経とうとする時、ヴェリテは珍しい質問をしてきた。


「ゆうこは、好きなひとがいるの? えと、リアルでさ」


 え? 唐突に聞いてくるものだな。

 ほんと、コイツの考えていることは分からん。

 今、そういう流れじゃなかったんだけど……

 しかし、珍しい質問をしてきたなあ。

 いわゆる、ボーイズトークというやつか。

 いや、言わんなコレ。

 

 ん~。なんて答えたらいいのか……


 正直なところ、これは結構な難問だ。

 ハードルが高すぎる。今まで女性として接してきたこともあり、今さら男だったなどと言うのも酷。もしかしたら女性アバターの俺に惚れたかもしれない。

 ヴェリテは好きだが、それは男としての感情であり、俺はノーマル。あっち系の趣味は無いはずだ。たぶん。


 ……とはいえ、俺が女か、男か、などヴェリテが聞いてきたこともなかった。


 それならば、一層のこと男だと告げるという手もあるが、せっかく仲良くなったのに急な別れを告げるみたいで。

 だからこそ、言葉を選んでチャットを送信。


「うん、いるよ。片思いだけど……もう二年くらいかなあ」

「そうなんだ。その好きなひとには恋人がいるの?」

「いない――、みたいけど。わたしじゃダメだと思う」

「なんで? ゆうこ性格が良いし、きっと告白したらOKもらえるよ」

 

 好きな人はいるか、と聞かれたら愛しの優恋がいる。中学生の時から一途に想いを寄せ、もう二年が経つ。お前が聞いてきたんだぞ、ヴェリテ。リアルでガックリ肩を落としてチャットしてても、もう言ってしまったのだ。


 ――残念だが、ここは諦めてくれ。


 それでも、自分を男性を明かすよりは救いがあると思った。


「そうかなあ?」

「うんうん。僕ならゆうこみたいな人に告白されたら付き合うと思うからね」


 な、ん、だ、よっ! 

 コイツ超良い奴じゃねえか!

 カッコイイぜ、コンチクショウ!

 なんで女じゃねえんだよぉおおっ!


 ヴェリテの一言で勇気がわいてくる。

 今なら告白できる、とまで思えた。

 

 ヴェリテが、唐突に聞いてきた質問の真意は分からなかったが、俺に告白する勇気を与えてくれたことは確か。

 

「でも、やっぱり止めておく」

「そっか……」


 実のところ告白する気は満々だったのだが、告白した結果を聞かれるのも嫌だったし、なによりも今のままの仲を壊したくなかったから。こう言ったほうが無難だと。


 

 ――翌日の放課後。

 俺は、人生初めての告白を優恋に。

 その結果は……


「ごめんなさい。わたし好きなひとがいるの」


 俺、撃沈。

 さすがに、しばらくの間ゲームへのログインはできなかった。


 フラれてから一ヶ月後、気を紛らわせるためとか、ヴェリテどうしてるかなとか、そんな理由からログインすると。


 《九九件のメッセージが届いてます》


 ……多ッ!

 マックス。これはつまり、九九件以上のメッセージが送信された、ということ。送り主は全てヴェリテだった。


 その内容は、


 どうしたの?

 学校で何かあった?

 体調が悪いの?

 ゆうこがいないとつまらないな。

 もしかして、僕が変な話をしたからかな?

 ごめんね……

 ――――――――――

 ――――――――

 ――――――

 最後の九九件目……


 【僕、ゆうこのことが好きだった】


 と、記されていた。

 ヴェリテの告白は何となくだが予想はついていた。でも少なからず安心してしまった自分もいる。結局最後まで男性を明かさなかった俺は酷いやつだろう。

 それから六ヶ月、未だヴェリテからの連絡はなく、ログインもしていないようだ。

 ここ六ヶ月は、その『ヤサレン』というあだ名を付けられて、再びゲームをする毎日。


 俺は、リアルが男であることを隠さないようになった。

 これはヴェリテがいたから変われたといえよう。

 だからこそ、女性のようなネームで呼ぶことを拒まれて、付けられた名だと思う。もう、ヴェリテのように女性と勘違いされ続けるのは二度とごめんだ。それゆえにパーティーに誘われる数が激減したが、仕方のないこと。


 お蔭様で、リアルでも学校のあだ名はヤサレンとなってしまった。

 自業自得、今の俺にはこんな言葉がお似合いかもしれない。

 優恋にフラれてからで良かったが、ゲーム内キャラに好きな子の名前をつけるとか、リアル優恋はどう思っただろう。完全に軽蔑されたに違いない。

 しばらくの間、顔から血が噴き出る思いで学校に通った。


 そして……

 本日も懲りずにログイン。


 

 《――一件のメッセージが届いてます》



 最近にしては珍しい。

 ネカマとバレてから、メッセージのくるときは本当にメンバーがいないときだけ。つまるところのヤサレンキャラなのだが。


 きっと呼ばれて一時間と経たずに本命のプレイヤーがくるのだろう、などと考えてメッセージを開く。

 

 メッセージの相手はヴェリテだ。


 《――今、会えるかな?》


 ついにこの日がきたか。

 結局のところこれを半年間待っていた、と思う。

 心の奥底で、ずっと本当の事を言って謝りたいと。

 返事は当然『OK』と送信する。

 

 ちょっと緊張しながらも、待ち合わせの場所へ向かった。


 ……ヴェリテがいる。

 久しぶりだ。あれから半年も経ってしまった。

 高まる緊張感から、リアルでの指が震えたりとかして、自分が小さい男だと改めて実感。


 先にチャットを送ってきたのはヴェリテだった。


「ゆうこ、久しぶりだね。こんにちは」

「うん。久しぶり、ヴェリテ」


 暫し、ゲームのBGMを堪能するかのように時が流れる。

 このまま黙っていても拉致が明かない、とチャットを送信しようとしたときだった。


「ごめん。突然いなくなって」

「こちらこそ、ごめん。心配してくれてたんだね。なんかクエストでもやる?」

「今日はいいよ。一つだけ直接会って聞きたいことがあっただけだから」

「聞きたいこと?」


 もしかして、もう俺が男かって聞きたいのかな?

 御名答。

 まあ、自分から言うよりは聞かれた方が話しやすいけど……


 リアルでこんな独り言をいいながら、ヴェリテからの質問を待つ。


「ゆうこのネームなんだけど、それって本名?」


 ああ、やっぱりかと。

 俺を男と疑って聞いてきたのだろう。

 いい機会だ、今こそ打ち明けよう。


「違うよ。これは前に言った、好きなひとの名前なんだ」

「そうなんだ。その人とはどうなったの?」

「フラれたよ。あの半年前の時にね」


 この後五分ほど、的の外れたチャットで二、三度会話を交わすと。

 ヴェリテはログアウトしていった。


 あ、ひとつだけ最後に。


「じゃあ、またね」


 と、社交辞令だと思う。

 まさか、男と分かったからもう会わないなどと言えるはずもない。

 やはりヴェリテは良い奴だった。

 しかし、嘘をついていたのは俺のほうであり、呼び止めることすらできない。


 ヴェリテは二度とログインすることはないだろう、と……



 ――それから三日経った放課後。

 俺は今、なぜか、学校の屋上にいる。

 嫌な思い出しかない暗黒地帯である屋上。

 半年前、優恋にフラれた場所こそ、この屋上である。


 そして、俺を呼び出したのは優恋、だ!


 まさか、ゲームでネームを使ったことに腹を立ててボコボコにされるとか、キモイからゲームリセットしてくれないとか、ここから飛び降りてとか……


 嫌な予感しかしない俺。

 確かにフラれたのだ、それを女々しくゲームで”優恋”を使い続けたのだから、当然の報いだろう。だがしかし、生命にかかわることは勘弁してほしいところ。


 優恋が屋上へ姿を現す。


 良かった、ひとりだ。

 とりあえず、ボコられる心配はなさそう。


 ほっと一息胸を撫で下ろした。

 目の前まで歩み寄った優恋が口を開く。


「あの……あのね」


 先に話されてはまずい、そんな気持ちから先に謝罪しておくべきだと。


「優恋さん、ごめん! 勝手にきみの名をゲームに使ったりして!」

「え? あ……」


 もう恥じなんか、どれだけかいてもいいと思った。


「聞いてると思うけど、始めは好きだから使った。けど、フラれたときにリセットしようか、とも思ったんだ。……それでも優恋さんの名前でゲームを続けなきゃいけない理由があったんだよ!」

「理由? それって……」


 フラれても同じネームでいつづけた理由、それは――


「ゲーム内で、好きなやつがいてさ。あ、男なんだけど……親友みたいな感じ? そいつと仲良くなりながらも、俺は女性のフリをして騙し続けていたんだ。優恋さんへ告白したときに、俺結構ショック受けてしばらくの間ゲームから離れてたんだけど――」


 優恋は黙って俺の話を聞いている。

 いや、優恋の話す暇を与えずにマシンガントークを敢えてしているのだ。


「それが原因で会わなくなったんだ。だから、そいつがゲームへ戻ってくるまでは、同じアバターを使ってないと、謝ることもできないし……本当にごめん。もう用は済んだからゲームはやめるよ」


 言い切った。

 ゲームで真実を告げ、優恋にも伝えた。

 悔いはない。

 しかし、優恋からの言葉は俺に誤って欲しくて屋上へ呼び出した、というものでは無かった。


「そう、あなたがそう言うのなら……もうヴェリテとは、会わないってことなのね」




 ――――えっ!?

 なんで、あいつネームを知ってるの?



 俺は一言もあいつのネームなんて言ってない。

 なぜ、その名がでるのかも不明だ。

 学校の友達だって、あいつの存在など知りもしない。


 ……答えはひとつしかなかった。


「も、もしかして優恋さんが、ヴェリテなの?」


 優恋が頬を赤らめた。恥ずかしそうに。


「うん。あなたが、ゆうこって分かったのは三日前なんだけどね」

「あ、だから名前のことだけ聞いたんだ?」


 ヴェリテしか知らないことを話しているのだ。

 これは偽りなく優恋はヴェリテ。


 そこまでは良く分かった――、しかし。


「つい三日前に分かったってことは、半年前のメッセージは何だったのかな? えっと……何だか聞きにくい話なんだけどさ」

「あ、あの告白……だよね」

「う、うん。俺、ゲームだと女で通してたつもりなんだけど」


 もしかしてアッチ系?

 などと、疑うのは我慢してほしい。

 ただ、はっきりさせたかったからなのだが。


「え? 初めて会ったときから男のひとって分かってたよ?」

「そ、そうなの?」

「うん。いろいろあるけれど、チャットの感じから既に女の子じゃないもん」

「わかっちゃうんだ……男にはバレなかったのに」


 優恋はクスリと笑った。

 初めから男と知っていたから、性別を聞いてこなかったのだと。


「じゃ、じゃあ、告白して俺がフラれたのは……」

「あの時はごめんね。知らなかったんだ」


 もしかして、とは思ったがそれが確信へと変わる。

 

 【俺は、俺がいたからフラれてたんだ】


 ゲーム内の俺を優恋が好きになったのが、リアルの俺をフッた原因。

 なんだか複雑な気持ち。


 優恋が初めてメッセージを送ってきたのは、ネームに興味がわいたからとのこと。自分の本名と同じ名前を使っているひとが、どんな人物なのか知りたかったようだ。それがたまたま趣味や年齢が近いなど、様々な面で共感してゆくうちに好きになってしまった。


 だからこそ俺に「好きなひとがいるのか」聞いた。


 結果は「好きなひとがいる」だが、その翌日からログインしない俺が告白して付き合い始めたのではないかと。ふたりが上手くいったのならそれでいい。そんな気持ちから、最後に気持ちの整理をつけるためメッセージにて告白。


 その後、俺がゲームで”優恋”というネームをつけていることを知り、もしかしたらと確かめにきた……という経緯。


 とにもかくにも、複雑な気持ちではあるが一度は無くした優恋とヴェリテを、今日取り戻したことに変わりはないだろう。


 優恋が俺だけへ微笑み言った。


「ゆうこ、今日帰ったら即ログインしてね」

「お、おう」


 そこはかとなく悲しい、俺の本名は明かさずに終わってしまったようだ。

 

しがない短編ですが、評価をいただき感謝しております。

もしかしたらリアル優恋編や、後のふたりなども評価によっては執筆するかもしれません。

ご興味が御座いましたら……ですけど(笑

もし執筆するときは、何かしらの方法で告知させていただきますm(__)m


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