腰にゲッチュ少女
誰が原因かといわれると十中八九、百人中百人が口を揃えて「ノアリのせい」だと言うだろう。半分忘れかけていたが王家の人間、しかも世界で分類すると日本地区と呼ばれる場所を治める人間の子供なので正義と言う名の拳が飛んでくるだろう。パーではない、グーである。人畜無害、むしろ社会のために利益を出している一個人に対して生命の危機に出会わせた存在かつ、不法侵入は許させることはないだろうが権力の力は偉大だ。まぁ、この場合何時世間にバレるかわからない状況なので殺人現場を見られてしまった犯人状態になっている感じだな。言わない代わりに多額の金を請求され、耐えきれずに見てしまったソイツを殺してしまうアレな。もう見られた瞬間殺してしまえば良いのにって思うが今の状況に当て嵌めてしまうとスキャンダルを知っている俺はぶち殺されるか家出の事実ーー家出か知らないがーーをねじ曲げ誘拐犯に仕立てあげられてしまうのだろう。被害妄想っぽいが想像するのは最大限最悪な方がいい。ほら、良いことと悪いことどっちから聞く? みたいなノリで最悪と仮定して勝手に落ち込んどいた方がいいのだ。
そんな半ば放心状態なユーサクだったが今は知らない天井の下のベットにいるわけではない。あのクソアマ……おっと、ノアリのヒステリック攻撃の直前に言われた「私の……き、騎士になってくださいぃぃいい!」が耳に残ってしまってダンジョンから出て、固く冷たい地面に横たわっていいる状態なのだ。もしくはノアリが引っ付いて動けない感じ。むしろこっちが本題だな。
全身を熱く熱せられた鉄が流れる尋常じゃない、今すぐに発狂して死んじまった方が楽な痛みが現在進行形で起こっているユーサクは思考を巡らせる。正直頭に巡る前に血が流れ出ている感じなのだがぼんやりとした頭でふらふらと立ち上がりながら家の中に入る。冷蔵庫の中には冷やしておいた回復剤があるはずだ。まぁ、別段冷やしておいて効果が高まるとかはないのだが喉越しがよくなる。冷えた生ビールとぬるい生ビールの違いみたいなもんだ。味事態は旨味も深みもない、ただ単純に草を煮詰めて作ったポーションみたくなっているが効果は抜群だ。
よくわからん場所で栽培され、厳選された、濃縮された回復剤の中の回復剤。リカバーイズリカバーな存在であるポイズン社から製造された逸品をユーサクは所有していた。社名が物騒だが毒は薬にもなる、そんなことを言いたいのだろう。そう、ふとわいた考えを左へ受け流しながらキンキンに冷えた回復剤を飲む。剤っていうよりは完全に小瓶小瓶しているので回復液の方が正しいような気がする。
体を巡る仄かに温かいなにかを感じ、直後に成長痛のような寒いんだがどうだか言葉に言い表せないむず痒さを痛みに変え、傷口に塩を通り越して岩塩を擦り付けてくる痛みに襲われ意識を失った。ノアリのことは既にツキヤノにメールで『お前好みの女が俺の家の近くで倒れてるぞ』と、送っておいたので心配はない。その後、ユーサクが倒れてから間もなく『俺はノーマルだよっ!』等と言ったメールが送られてくるのは今のユーサクには知るよしもなかった。
深い眠りの中から酷い空腹感を覚え浮上してくる。その光景が視認できるのならば海底探査機が引き揚げられてくるかのような豪快さと気品が溢れていた。寝起きにも引き揚げにも豪快さはあっても気品はないのだが。
「知らない天井だ……」
「それならお前はどこで寝てるんだよ」
元ネタがなんなのかも知らないが指名感を覚え呟くと枕元で額にのせてある濡れタオルを変えようとしていたユキヤノに冷たい目を向けられた。その変態装備よりはまだましだと思ったが口には出さなかった。今の状態で起こらせると死に直結すると直感的に悟ったからだ。野生の勘とも呼べる。やはり、男は皆獣なんだなと再確認しながら回りを見渡し気になったことを質問する。
「看病ありがとな。んで、あの俺を死の瀬戸際に追いやったクソミソ野郎はどうしたんだ?」
おっと、つい本音が出てしまったようだ。
野郎って……あの子は男じゃないだろ? と、冷静な指摘を受けながら説明を始めるツキヤノ。
「ああ、気にすんな。取り敢えずあの子は二階で寝ているが生きてるぜ? ただ気絶しただけって感じだが……何があったんだ?」
普段そんな罵倒は口にださないだろ? と、何故か口には出さないが心には思っている的なことをいっているが気のせいだ。俺、大人、良い人間。
片言で呟きながら軽く先程までの現状をパッと話す。ユーサクの衣服が変わっているのは触れてはいけない。人命救助と言う名目ならばブスでも絶世の美女やイケメンにだってキスをする権利はあるのだ。人工呼吸は覆い被さるって感じなのだが。
「ほーん、結構強かったみたいだなその鬼。って、まぁ、上位種だし当然と言えば当然なのか」
「そんな相手に単独で致命傷を与えた俺を誉めてほしいな! ハッハッハ、よきにはからえ! まぁ、倒すまでには至ってないけどな」
「致命傷云々じゃなくてそんな戦いは俺を誘えって前言ったよな? あ、もしかしてこの年で認知症か? メーン?」
しおらしい、細々としたか弱いイメージだったツキヤノが一転。高圧的な態度に変わった。どうやら“単独で”の部分がお気に召されなかったようだ。
「べ、別に無傷とまではいかないが無事に帰ってきたんだし良いじゃねぇか……お前は俺のお袋かっ!」
「その年で言われると世間一般では俺達がその親になる年齢に達してるんだよな……。つか、親じゃなく友人な? 倒せる倒せないにしろあぶねぇんだから」
「ド正論で何も言えねぇ……。まぁ、次はお前を誘ってから殺るから大丈夫だ」
「……守らなかった場合はリトルボーイと永遠のオサラバな。じゃ、俺は様子見に行ってくるから安静にしてろよー」
軽く手を振りながら二階へと通じる階段を上っていく。去り際の発言が一番ヤベェよ。
ユーサクは自信のリトルボーイーー心の中ではビックだがーーを押さえもう一度次は意識的に瞼を閉じる。そう言えばツキヤノにノアリの素性とか言ってないような気もするが……まぁ、起きたら吊し上げて説明すれば良いだろう。そう考えながら眠りにつく。意外にも戦いの疲れは一度寝ただけじゃ取れなかったようだ。
「もう一度、次はゆっくりと聞く。何故、ユーサクは、あの状態なんだ?」
お昼前のお日様が絶好調だった時間よりも過ぎ、既に辺りは暗くなり始めていた。そんな中ユーサク家でもオレンジ色の暖かみを放つ豆電球はついていたのだが二階の部屋だけは仄かに差し込む夕日の光だけが部屋を照らしていた。その部屋には壁際に追いやられ、赤く染まった服が所々裂け、首元に黒塗りの剣が押さえつけられているノアリの姿が見えた。そして押さえつけているのが無機質な光を放つ、先程まで仲良くユーサクと会話をしていたのが嘘みたいに冷めきった目を向けているツキヤノがいる。
低く、ゆっくりといった言葉はノアリの体を静かに蝕み半泣きの状態のノアリは絞り出すような状態で口を開いた。
「上位種の鬼の攻撃が……」
「それは聞いた」
ノアリの言葉を遮り、代わりに皮膚に刃が当り薄くツゥーと、血が流れ刃に伝う。その血は重力にしたがってゆっくりと地面に落ちる。
「お前の個人の情報は大体知っている。ーーなぁ、王殺しの反逆者さん?」
そんな言葉を浴びせられ、完全に血の気がなくなった様子だったがすぐに立ち直し「な、なんのことかさっぱり」とそっぽを向き、だらんと下げた手は今は強くスカートを握っていた。
「内容については興味がないし調べるつもりもないが……今はユーサクが何故あの状態なのかを聞いている。次は首が飛ぶぞ?」
「……ッ」
唇を強く噛み、考えていた様子だったがその考えがまとまったのか口を開く。
「純粋に逃亡する目的だったんですよ。その為に故意に操作してモンスターを排除したつもりだったんですがいかんせんあんな化け物が出るなんて……そんなわけでユーサクさんをあの状態にしたのわざとではありません、これで大丈夫ですか?」
もう用は済んだでしょ? そう言わんばかりにキッと睨み返し剣を手で払う。
「ああ、用は済んだ。まぁ、今日は泊まっていけ。陽も落ちてきてる」
「好意はありがたいんですけど……自分の身が心配なんでご遠慮させてもらいます。正直言って私、可愛いですし」
首から血を滴し、手で髪を払い払う姿はとても妖艶としていた。そんなノアリの姿を見て溜め息を吐く。
「良いから泊まっておけ。補導されても知らねぇぞ。あと、ユーサクはそんなに簡単な男じゃない」
ツキヤノの言葉にビックリしたのか驚いた表情で数秒止まる。そして数秒後に時間が戻ったのだがハハッと、バカにするような笑いをし、急に真面目になった表情になった。
「私は王族とかそれ以前に女の子ですよ? あなたみたいな不純品みたいなものではなく立派な完成品。どうせ、変わりませんよ」
そう言ってツキヤノから背を向けベットに入る。ツキヤノは既に扉を閉めて出ていっていた。
「ーーどうせお父さんみたいに」
くれぇ