起点
ツキヤノには新たな力が手には入り、ユーサクは不機嫌になる要素の一端が潰れ家具も新調し心機一転。物語ならここで最大の敵が現れそうなのだが残念、現実は無情なのだ。そんなイベントは起こる筈もないのだ。
家具を新調したのだがその家具のなかには冷蔵庫も含まれている。家具と言うよりか電化製品なのだが何でも売っている家具店に製品の壁はないようでついでに冷蔵庫も買っていた。率直に言うが問題は今日食べる飯がないと言うことだ。カップ麺はあるにはある。だが、普段はツキヤノが飯を作ったりしてくれるのでやっとの思いで探し当てたカップ麺は賞味期限を過ぎていた。
使う宛もなく貯めていた貯金も少なくなり、明日からはエンドレスで潜んないと、と考え少し不機嫌になりながら帰っている途中のユーサクであった。
買い物袋を手に下げ帰っていると不気味な鳴き声が聞こえた。
「腹の底から響かせているようなこの声は……ゴブリンだっけ? つか、この近くにダンジョンってあったのかよ」
だが、こんなに間近に聞こえることは早々ない。この場合は管理者がいないか野良で誕生した管理待ちのダンジョンの二択になるのだが。
「……ちょっと、冷やかしにいってみるか」
腰にある布に巻かれた剣を手でポンポン触りながら声が聞こえた方向に道を逸れる。七時を少し過ぎた辺りで薄暗くなっているのだがポツポツとある電灯の光が朧気な様子で辺りを照らす。もっと増やせや。
「ギャアギャア! ギャアア!」
「ギャアキャアアギィイイ!」
「……ギィイイィイイ」
建物と建物の間を進んでいくと三匹のゴブリンの姿が見えた。この時点で帰るなり、斬り込んだりすればよかったのだがユーサクは慎重派なのである。小心者とも言うが。
普通、ダンジョンからモンスターは出れない構造になっているのだ。一階層は必ず安全地帯になっておりモンスターがでない。でない、筈なのだが今見える限りでは一階層どころか地上に出てしまっているし楽しく談笑しているように見える。武器を持たず炎を囲んで楽しく談笑……この時点で全身に寒気を感じた。
そもそも、武器を持たずに生まれてくるモンスターは見たことがなかった。生まれてくる背景も何もかも謎に包まれているのだがこんな能天気に天敵である“光”を囲んで談笑しているモンスターは見たとこはない。つまり……
「クソッ! 罠かよ!」
荷物をすべて捨て、何年ぶりかの愛剣を引き抜く。赤く錆びた刀身が目立ち、炎の光に照らされている姿は妖刀かのように思える。だが、今の状態では何も斬れず、ただの打撃武器だ。
剣を構え、正面に見えるゴブリンから排除しようと駆け出すが既に遅かった。頭をトンカチで殴られたような衝撃が走り崩れ落ちるように倒れ込む。微睡む意識の中で見えたのは止めなく流れる血とあの時に見たツキヤノの鬼とは一回りほど小さい、だがそれでも人間よか数倍大きい大鬼ーーオーガの姿が見えた。
扉を激しく叩く音が静まり返った早朝に響き渡る。
「お、おい! ユーサク! 起きろって!」
激しく叩いたツキヤノだったが鍵を持っていることを思い出しポケットを探る。普段は空気の入れ替え的にオープンになっているせいで忘れかけていたのだが普通は家の扉には鍵を掛けるのだ。
急いで鍵をぶちこみ扉を激しくぶち開ける。
「王様、王家が皆殺しされてるって! 王女も、王様も! 多分このままだとダンジョンのモンスターが流れ出すように出てくるぞ! おい、ユーサク!?」
ーー幾ら叫んでも扉を開けてもどんなに探してもユーサクの姿は見当たらなかった。
取り敢えずこれで第一章完です。
リアルが忙しいのでもう一つの作品も区切りが良いところで一旦やめにしますね




