ヒール
「それでやれそうか?」
「いや、何度も言いますけど無理ですって。願望が入りすぎて私の言葉聞こえてないじゃないですか……」
「……そうか」
白で統一された闘技場のような会議室に呼ばれたミフユは正面に座っている男性と会話をしていた。
そもそも、ファイブが使える能力者を放置するほど政府はガバガバではない。出生登録の時点で血液などを採取され、能力者だと把握した後に十才の時に適性検査を受けさせられる。そこで人格的に問題なしと判断された者は政府がつくった特殊な機関“特殊能力係”に配属される。その特殊能力係の中でもミフユはエリート中のエリートだ。恐らく家具屋もその仕事の中のアレだと思うが真相は分からない。
正面の一つ高い段に座っている男性は深いため息を吐き、ミフユが言っていた事を思い出す。
「“私じゃリスクは高過ぎます。私を失う、と考えた上での行動は流石に年齢のせいでしょうか?”……そもそも私はまだ四十代だ。年齢を引き合いに出される程ではないと思うが」
「問題はそこじゃないです……」
「ああ、ユーサクの件だろ? 今日も何時も通り監視で良いよ。始末できれば楽だったんだけどな」
「確か王女様は救出されたんでしたっけ? 近隣住民の通報とか小耳に挟んだんですけど」
「君の情報網はどうなって……あー、ツキヤノ君と知り合いだっけ? 現役の時に会いたかったけど今は喫茶店の店員だからな……私の立場的に入りにくい」
「フェンディさんのそのツキヤノさん情報も結構エグいですけどね。で、それでユーサクの人格を計れたんじゃないんですか? 正直何も行動がない相手の監視より退屈なものはないですよ」
フェンディの逸れた話を軽く軌道修正しながら本題に移す。言ってしまえば始末云々も重要ちゃ重要だが一番の問題は監視の有無の事だ。流石に過去に色々あったのは最初興味が出たのだが蓋を開けてしまえば少し強いだけの剣士だったのだ。それじゃあ楽しくないし、でも行動に移せと言われれば確実に共倒れコースになってしまうので避けたいのだ。言ってしまえば保身的なのだが好奇心旺盛で保身的とか矛盾で矛盾が矛盾しそうな性格なのである。矛盾がゲシュタルト崩壊しそうでやばい。
その後は“監視は続ける。はい、終わり!”と言う意味の繰り返しだったため、軽く聞き流して終わった。話すのは勝手だがこちらは立っているのだ、そこんところは把握してほしい所存なのだが解放されたので許す。
「と言うかユーサクさんがあの剣持ち出さなければこんな事にはならなかった気もしますが……まぁ、言っても何にもなんないですけどね」
一人寂しく誰もない通路に声が響く。聞こえるのはコツコツコツ、と普段の姿からは想像もつかない正装でヒールの音を響かせるミフユの姿だけだった。
その頃ユーサク達はと言うと家に帰宅していた。
ダンジョンボックスに荷物は入れれたものの取り出すのに悪戦苦闘しながら数時間ほどで家具を設置し終わりのんびりしていた。そんな中、緑茶を啜りながらまったりしているとふと、思い出したようにツキヤノが呟いた。
「あ、そう言えば王女様戻ったらしい」
「……それを俺に言ってどうしろと? 今の状況では傷害罪で起訴されないかって要らない心配で思考が止まったんだけど」
「それにしてはゲームのキャラの操作スピードは変わって……てか、上がってるよね?」
「結局のところは無視で良いだろ。なんかあるならミフユ辺りが飛んで来そうだしな」
「それな」
ピシッと指を立てたのだがその瞬間に画面一杯に写し出されるKOの文字。ここでツキヤノが勝っていれば……いや、負けていても変わりないのだが。大掃除の際に見つけ出した格闘ゲームなのだがそう言えば借りていたものだと思い出し、何の気紛れかゲームスタートをしたユーサクだった。そもそもの問題ゲームがそんなに得意ではない二人だった。




