疑似太陽(照明)
書けん
木製の古びた扉に手をかけ開ける。チリン、と入店を知らせる鈴が鳴るのだがすぐに女性の声によってかき消される。
「いらっしゃいませー……て、ユーサクですか」
「ですか、じゃねぇよ。一応今日は客として来てんだからな?」
「えっと、」
「ツキヤノはいないぞ」
「マジですか……取り敢えず新作見てみますー?」
明らかに落ち込んだ表情を見せる女性ーー見た目は薄汚れたメイド服モドキを来ているのだがメイドではない。従業員と言えば従業員なのだが店長であり、社長なのだ。ミフユ、十七才。茶髪の長い髪を留めている星形の髪飾りがトレンドマークだ。
肩を落とし、長いため息を吐きながら手招きをする。内装は完全に雑貨屋なのだが選ばれし者にしか入れない秘密の扉を抜けるとお手頃価格の家具が手に入る形になっている。この場合の選ばれし者とは有料会員登録しているもの、という括りなので夢も希望もないのである。ついでに禁断の武器とか防具とか中二心を擽られるものは当然存在していない。あるのは格安の家具のみである。
カウンターを通り、扉を抜けると疑似太陽によって照らされた下へと続く階段が見えてくる。
「お前この証明って一つ百kk(百万円)やろ……?」
「そーですね。今は少し値段下がって八十kk位ですけどねーちなみに全部一括ですぜ? と、言うよりそれって……」
「ひーふーみーよー……おいまて軽く十個はあるんだが……」
数えたことに後悔を覚えながら絶句しているとなんやかんやあって一番下まで下りきった。ミフユの言いかけた言葉はユーサクの声によってかき消されたのだが軽く察したのか勝手に納得がいった表情をした。この階段のを計算すると四十は疑似太陽の個数いってるんだけど、と記憶と思考が混じりあい認識するのを否定しそうになるが現実に引き戻される。
「お前の稼ぎじゃ絶対一括じゃ買えないだろ……どうした、窃盗か? 盗んだのか? 援交か?」
「ラインナップがくそ過ぎるんですけど……つか、援交とか普通はしないですからー。疑似太陽は普通に知人から安く買い取ったんですよ。その人もうちの有料会員ですしね。本来ならここに額縁でツキヤノさんを飾りたいとこですが何故か猛反対を食らってですねー」
「場所によるだろ……せめて自室にしろよ。飾るの自体が既にヤバイけど」
「っと、着いたんで開けますねー。手前の四つが新商品ですよ」
虚空に手を突っ込み鍵を引き出す。ミフユはこの時代に珍しいファイブの能力者なのだ。なのでダンジョンに入りたい放題。ダンジョンボックスを使いたい放題なのだ。分かりやすく言うと一兆の中の千の割合なのだ。選ばれた千人の一人なのだが本人の意識はノミすらない。鍵を引っ張り出し、扉を開ける。その先にも疑似太陽ーーランタンの火付けが要らないバージョンが沢山設置されているのだが既に慣れてしまった。そんな疑似太陽の柔らかい仄かな光に包まれながら大掃除して無くなった家具を買い続ける。一度見てすぐ買いか決める感じでやっているので一時間もしないうちに終了した。
担いだ袋をまるごとミフユに渡し「あとはツキヤノにまかせるからよろしくな」と言って店を出ていく。
「寝泊まりどうすっかな……」




