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剣士ユーサクのダンジョン戦記  作者: 椎木唯
1章 王女様じゃねぇか編
12/24

落ち込みng

 このまま逃げても良いがいかんせん一階層は千葉県ほどある。アスリートでも一周はキツいだろ? そんな感じだ。つか。千葉県の汎用性高すぎて軽く泣けるまである。まぁ、違うことで軽く泣いているが気にしたら敗けだ。

「ギャアアアアァァァアアアァァア!」

「お、おいツキヤノさん?」

「脳ォオオオオオオオオォオ左脳オオォオオ!」

「ぜってぇ聞こえてるだろ!」


 気を引かせて止まらせる大役を任せてやろうとチラッと見たのだが発狂していた。よくあるホラー映画並みに叫んでいるツキヤノは女どころか男すら捨ててあった。

 しょうがない、ここは男を見せてやるか。そう、震える手を力でねじ伏せながら迫ってくる鬼を見る。何度見てもバッファローだ。この時の震えは怯えではない、生物的な本能の怯えだ。いや、怯えてんじゃん。

「いち……にぃ……あああ! 逆から数えれば良かったわ!」


 自分を罵倒しながら転げないように態勢を変え、突進する鬼と対面する形になった。ズゾオオォオオオオオォオオオオと、鼻水を啜る音を数百倍おぞましくした音は肩で壁を削る音だ。そんな線路の上に立ち、列車を迎え撃つ感覚になりながら剣を握り……しゃがんだ。いや、だって列車とか頭おかしいじゃん? 人間が相手するもんじゃないじゃん?

 そんな訳でしゃがんだユーサクだったが運が良いことに車は急に止まれないを体現するかのように止まれなかった鬼の股を通って避けることに成功した。完全な運ゲーでした。

「キャアアアァァ……ち、ちょっとユーサクが消えやがった薄情者めっ! 地獄に落ちて永遠と石を積み重ねる作業をしていろやッ!」

「勝手に人を地獄に落としてんじゃねぇ! 生きてるわッ!」

「こ、この声はユーサク……? いや、俺は惑わされたりしないぞ! なぁ……そうだよなナナ……」

「惑わされてんじゃねぇか……いや、だから生きてるって! さっさとまた潜り抜けろって! つか、何故会話成立してんだよ気持ちわりぃな!」


 ズモモモモと、うどんを啜る音を数百倍おぞましくした音に変わった鬼の姿を見ながら……あ、足を取られて転けたわ。

 躓いて転けた鬼は速度を落とさず前転から側転にフォームチェンジしながら豪快に壁に突撃をした。建物を取り壊すかのような豪快な音がダンジョンに響き渡る。ユーサクが「ダンジョンって壊れないよな……? 崩れたら生き埋めコースなんだけど……」と、心配するユーサクを感じたのかダンジョンを響かせる轟音の後に転げ、ぶつかり呻いている鬼の隣で踞っていた状態から立ち上がったツキヤノが勝利の咆哮をあげながら走ってきた。

「ジャアアアアァアア……イアントキリングッ! 流石に危なかったけど転ばせることに成功したぜ叩こうぜ!」

「お、おう……」


 野球しようぜ並みにハイなテンションのツキヤノに軽く引きながら呻いている鬼に近付く。遠目から見たら外傷は一切なかったが内蔵がやられていることを信じて突き進む。

「……これが罠で近付いた奴から食われるとかあるんじゃん?」

「すっごいフラグ臭いけど……つか、元に戻すんのなテンション」

「……お、おう」

「何故お前が引くんだよ……」


 テンションの上げ下げが激しいツキヤノの無情さを実感しながら後、五メートル程まで近付く。もし起きてしまっても武器は落ちてしまっているし大丈夫だろう。

 取り敢えず首に剣ぶっさせば死ぬよね? と考え剣を逆手に持ち、勢いをつけてぶっ刺そうとしたとき、

「ユーサクッ! しゃがんで!」

「はっ?……ってぇおおおぅおい!」


 突然叫んだらツキヤノに驚きながらしゃがむと背後から物凄い速度で迫ってくる大太刀の姿があった。流れるように頭上を過ぎ去った大太刀はいつの間にか立ち上がった鬼の手にすっぽりと収まり、しゃがんでいるユーサクに向け剣で凪ぎ払った。

「ちょ、突然すぎなんだけどッ」


 逆手に持った状態で剣の刀身にあわせるようにして受け流す。追撃をするための一歩はせず、思いっきり後ろに飛んだ。

「完璧なフラグ回収だったよお兄ちゃん!」

「こんなときに女を出すなキモいうざい兄じゃない。つか、お兄ちゃんはお前だろ……」

「滅茶クソ言われた上に貶された俺の立場……てか、忘れかけていたそれを思い出させるのは止めてくれよ……」


 何年ぶりかの落ち込んだツキヤノの姿を見たユーサクは意外と気分が良さげだった。

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