完全変態(メタモルフォーゼ的な)
一歩一歩慎重に、だが速く進む。慎重に速くとか綺麗に速く並みの難問なのだがそれが大人、それが世間である。世間というなの荒波に揉まれて軽く遭難した結果が冒険者ってね。遭難を冒険と言い張る暴論を軽く俺は見た。
慎重に進んでいくのだが結局は穴を覗かないといけないことには変わりがなく、どちらが見るかで揉めた結果「レディーファーストって知ってる?」とのツキヤノの一言で行かざる終えなくなった俺だった。お前って女辞めてるようなもんじゃん……こんなときに性別の話を持ってくるのは卑怯だと思います! まぁ、借りを作れたって意味で捉えたら良い感じだが。
そう、気合いを入れそこら中に落ちている石に躓かないように神経を尖らせながら進んでいく。穴、というより洞穴と言った方が正しい大きさなのだが……俺自身洞穴が大きい穴を指す言葉なのかはわからない。断言できるが絶対に違うと思う。穴も洞穴も夢ある希望の花園か、絶望と死が待つ洞穴。……結局は熊がいるかいないかの問題って感じだな。この場合待っているのは熊ではなく鬼な訳だが些細な問題だろう。どっちも出会ったら命を狙われるし。
「……いや、まだ熊の方が優しいのかも知れないけど」
鬼が出るか蛇が出るか。あわよくば寝ているってシチュエーションもあるかもしれないけど……あまり期待しないで覗くか。
初めて女風呂を覗く男子高校生っぽい苦悩がでてくるがそんなものを振り払って穴を覗くべく顔をにゅっ、と出す。
「……グッ……グオオオオオオオオオオオッ!」
「め、目と目があっちゃったんですけどぉぉぉおぉおおおお!」
丁度相手も様子を見るべく顔を出してきたのと目が丁度合ってしまい、一瞬躊躇った様子を見せた鬼ーーのようなモノが声を上げながら壁を破壊しながら向かってくる。先日会った時よりも肥大したその腕は完全に地面に着いており、額から伸びた角も数倍ほど大きくなっていた。完全に鬼の殻を被ったバッファロー見たいになってしまった元鬼は左胸に負わされた傷の仇を討つべつ駆け出した。四足歩行と言うよりは完全にゴリラのそれなのだが今のユーサク達に気にする余裕はなかった。
「ち、ちょっと! ユーサク、お前相手は負傷した鬼っつってなかった!? 見間違いじゃなかったからアレはバッファローを擬人化したナニかなんだけど!」
「知らん! そんな進化を重ねたら自分の限界を越えて進化する謎の生物の事なんて知らねぇよッ!」
「いや、知ってんじゃん!」
「……いや、嘘だけどッ! ってか別に俺は負傷したとか断言してないけど!? 何かってに解釈してんだよ腐れマ○コがッ!」
「はっ、ちょっ、それは今関係ないだろ! つか、二十歳で腐ってるとかお前はゆとりかっ!? ゆとりなのかっ!?」
「……フッ」
二人とも同い年である。
こんなふうにはしゃいでいるがすぐ真後ろには壁や床をゴリゴリ削りながら迫ってくるバッファローみたいな鬼の姿がある。既にカオスである。




