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続・生徒が教師に勝てないのは道理

 前回までのあらすじ

 なんやかんやあってルリアーノアカデミーSSUに所属することとなったメリッサ、ユースケ、アリスの3人。

 教師カイトから通達された日にSSU作戦室までやってきた3人だったが、中からは人の気配がない。おそるおそる入ってみるとそこには・・・・赤い液体を流して倒れている男子生徒の体があった。


 「「ギャアァァァァァァァァァ!」」

 「2人とも落ち着いて」

 突然の事態に悲鳴を上げてしまったメリッサとユースケに対して、アリスは冷静だった。

 「おおおお落ち着けって言ったってむむむ無理よ!」

 「そそそそうですよ!何でそんな冷静なんですか!?」

 シューバタン

 文字で表現すればこんな感じになるような音が聞こえたのが後ろから聞こえてきたのは、ちょうどそのときだった。

 そして、それは間違いなく・・・・

 「「え」」

 入り口の扉が閉まる音であった。

 「ふふふふふ」

 そして、どこからともなく一人の眼鏡を掛けた女性が不気味な笑い声を上げながら3人へ近づいてきた。

 手には包丁、そして服にはよく見ると地面に流れているのと同じ赤色の液体が付着していた。

 「ふふふふふふふ」

 徐々に徐々に、こちらへと近づいてくる。扉は固く閉まって、開かない。

 「えちょっとなんで扉開かなの!?」

 「はやっ、早くあけなさいよユースケ」

 「分かってますよー!」

 だが、いくらやっても扉は開かない。そうしているうちに女性はどんどんこちらへとやってくる。

 「ふふふふふふふふ」

 もはやこれまでか、とユースケとメリッサが覚悟したそのときだった。

 パンッ!

 「「え」」

 たとえるならそう・・・・クラッカーがなるような音がした、そして、それと同時に今まで消えていた照明も点灯していた。

 「「「「「「ドッキリ!だ~いせ~いこ~う!」」」」」」

 先ほどまでは暗くて見えなかったが、よく見ると壁に「新入隊員歓迎!!」の垂れ幕や、「Welcome to SSU」といった文字が印刷された紙などがところどころに貼ってあった。

 「やあ1年生諸君、驚かせてすまなかったね」

 そう言ったのは先ほど赤い液体を流していた男子生徒だった。服にはまだ赤い液体(後で聞いたらどうやら正体はトマトケチャップらしい)がついていた。

 「ふふふ、ごめんなさいね~。でもこれ、SSUの伝統なの~」

 別の声の主は、包丁を持って追いかけてきた女子生徒。その手に持っていた包丁は良く見たらプラスチックに銀紙を巻いただけのものだった。

 「まあとりあえず座ってくれ」

 3人は言われるがまま用意された席へと座った。

 「さてと。まずは自己紹介から行こうか。僕は3年の高澤栄太郎だ。一応、SSUのリーダーをやらせてもらっている。気軽にエイタロー先輩と呼んでくれ」

 よく見ると、エイタローは先ほどまで掛けてなかった黒縁のメガネをかけていた。

 「うふふ、私は~安ノ原紗代っていうのよ~。よろしくね~」

 こちらの女性、紗代は、だいぶゆっくりとした喋り方をしている。

 「安ノ原センパイは普段あんなんだけど、戦闘のときはすごいわよ。あ、あたしは2年の小美玉恵おみたま けいよ。気軽にケイ先輩って呼んで頂戴。で、こっちのムスッとしたのが・・・」

 「悪かったな、この顔は生まれつきだ。2年の太田陽一だ。よろしくな」

 今のところこの場にいる2年生以上のメンバーの自己紹介が終わったところで、3人もそれぞれ自己紹介をした。ところで・・・・

 「そういえば、カイト先生はどこですか?アタシ達、先生に呼ばれてきたんですけど・・・」

 「俺は!ここに!いるぞ!」

 「えっどこ!?」

 声はすれども姿は見えぬ。いったいどこにいるというのだろうか。

 「具体的に言うとアリス、お前から見て右に153度回転した後に46度ほど上を向いた辺りにいる」

 「153度回転して・・・・・46度上・・・・・・あ」

 アリスが右に153度回転して46度上を向くと、そこにはちょうど天井と壁の角になっているところに霊長類最強の人物がとある警備会社のCMでしていたこととと同様のことをしているカイトの姿があった。

 「いよっと」

 軽くそういうと、カイトは軽やかに地面に降り立った。着地の音もきれいにシュタッという感じである。

 「まさか、俺たちが入る前から今の今までずっとそこにああしてたんですか?」

 「そのまさかだ。今のはやろうと思えば意外と簡単にできるぞ」

 別にそういうことが聞きたかったわけでは・・・とユースケとメリッサは思ったのだが、ここは心の中にそっとしまっておくことにした。

 「ってあれ?これで全員ですか?随分少ないように感じるんですけど・・・・」

 メリッサの疑問ももっともである。現在この場にいるのは4人だけで、2個小隊にも満たない(通常は3機で1小隊が基本で、小隊3つで1中隊になる)。

 「ああそのことか。それなら心配要らんぞ」

 「「「え?」」」

 カイトはくいくいっと首を動かしてエイタローへと何らかのサインを送った。

 一方で、そのサインを受け取ったエイタローは「あー・・・・」という表情とともに軽く手を上げた。

 「そのことについては僕から話そう。実は1人は他校への短期留学へ行っていてね。7月に入る前には帰ってくる予定なんだが・・・・」

 「残り1人を入れてもひいふうみい・・・って2個小隊も組めないじゃないですか!」

 「6月の先生たちとのエキシビションマッチには、足りない」

 「あら~よ~く知ってるのね~アリスちゃ~ん」

 「そうそう、それなのよね~」

 「人数がどう考えても足りないからな」

 アリスの言う先生たちとのエキシビションマッチとは、ルリアーノアカデミーの数ある伝統行事の一つで、その名のとおりSSUメンバーと選抜された教員によるエキシビションマッチである。

 毎年両者互角の熱いバトルが繰り広げられ、また1年生の大半がはじめて見る機龍の戦闘とあって、学園の行事の中でもなかなかに高い人気を誇る。

 この戦いのルールはDSC戦闘部興行課が受け持っている「バトルオブ機龍」(機龍同士のバトルマッチで、各都市を回ってのリーグ戦を行っている。チケットの売り上げやネット配信による配信料は、DSCの主な収入源の1つである)と呼ばれる競技のレギュラーリーグと同じルールが採用されており、こちらのルールは中隊同士の殲滅戦である。

 「まあ、とりあえず小隊丸々1個分は君たち1年生に任せようと思ってるんだ。先生からも了承はいただいてるしね」

 「そういうわけだお前ら、覚悟しろよ?」

 ぺきぺきと指を鳴らすカイトの姿はどことなく鬼教官を連想させた。

 「うへえ・・・・・でも、そうだとしてもやっぱり2人足りませんよね?」

 ユースケが当然の疑問を出す。確かに、どうあっても現状人数が足りない状態なのだ。

 「実を言うとだね・・・・・一応、1人は当てがあるんだが・・・・」

 エイタローが口を開いた瞬間、2年と3年は表情が変わった。

 「まあ一応・・・・・」

 「あいつもたいインダカラナァ・・・・・」

 陽一にいたっては言葉遣いまで怪しくなっていた。

 「ちょ~っとクセがあるけど、いい人よ~」

 「「アレをちょっとクセがあるで済ませられるのはセンパイだけです!」」

 陽一とケイの声がそろった。そのもう1人というのはいったいどんな人物なんだろうか。

 「まあまあ、とりあえず1人はあいつに任せれば大丈夫だろう。で、肝心の残り1人なんだが・・・・」

 そう、まだどうしても1人足りないのだ。人数がそろわねばイベントもくそもないのだ。

 「ああ、それについてだが、こんなこともあろうかと―――」

 その声は、どことなく青○武、ある或いは大塚○忠のように聞こえたが誰も指摘はしなかった。

 「学園長にちょっっっっっっっっと交渉しておいたんだよ。そしたら2つ返事で、俺のSSU側での参加の許可がもらえた」

 「あの学園長を!?よく説得できましたね」

 カイトの吐いたセリフに、SSUの2、3年生は驚きを隠せなかった。それだけルリアーノアカデミーの学園長相手に交渉し、あまつさえ説得してみせるということは、彼らにとっては驚くべきことだった。

 「あのー、学園長ってどんな人なんでしょうか?」

 「まー真面目って言葉を体現した人ね~」

 「質実剛健って言葉も似合うと思うがな~」

 「そのうち~会うことも~あると思うわよ~」

 そんなこんなで、後は1年生が気になったことについて、上級生が受け答えすると言う時間がしばらく続いた。

 

 ところ変わって(加えてちょっと時も戻って)、ここはルリアーノアカデミー学園長室。

 ただいまこの場所には2人の女性が対面していた(付け加えて言えば、一方の女性は眉間にしわが寄っていた)。

 「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 「そんなに深いため息をつかないでよ、母さん」

 「まだ勤務時間だから、母さんじゃなくて、学園長と呼びなさい、生徒会長」

 彼女らの正体は、片やルリアーノアカデミー理事長南條カレン、片やルリアーノアカデミーの生徒会長南條リリアであった。そしてこれは学園の生徒なら大半が知っていることだが、2人は親子の関係でもあった。

 「はいはい分かりました。でもさっきのため息はいったいなんですか?もしかして、さっき入れ違いに出てった新しい先生のことですか?」

 「ええ、そうよ・・・・」

 娘から見た母の顔は、疲れきったというよりかは半ばあきらめたような顔をしていた。

 「あの先生・・・・・確か、カイト・アルデールって名前でしたよね?母さ・・学園長とは、どういう関係なんですか?」

 「古い知り合いよ。知り合いっていっても、どちらかといえば恩師に近いかもしれないわね。初めて会ったのって、私がここの学生だったときだもの」

 ルリアーノアカデミー理事長南條カレンの年齢は、生徒たちの間では学園七不思議(七つあるとは誰も言っていない)の1つとして有名だ。

 娘のリリアが今年で18ということから、若くても30代後半ということだけは知られているが、本当の年齢を知っている娘から見ても、とても若いのだ。

 「実際、ここ3年くらいは初対面の人には姉妹とよく間違われたわ」

とは、ほかならぬ娘リリアの弁である。

 「ちょっと待って。ええと、母さんの年齢がゴニョゴニョで学生のときだから・・・・・・」

 新任教師カイト・アルデールが母が学生のころに会った人物(しかも恩師)ということは・・・・・

 「あの先生、今いくつなの!?」

 「さあ、そればっかりは私にも分からないわ。なんせ、あの人初めて会ったときから容姿が一切変わってないんですもの」

 

 場所は再び、SSU作戦室。

 正確には、その作戦室の奥の、とある一室に全員が集まっていた。

 「「「こ、これは・・・・・・!」」」

 メリッサたち1年生が見たものはというと・・・・・・

 「ネ、ネ○ジ○ング!!」

 しかもきっちりケースに入れられて飾ってあるのである。

 「こっちの棚はマンガがギッシリ・・・」

 ちなみにマンガだけでなくライトのベルも完備されている。

 「テレビにデッキ、DVD・BDも」

 もちろん初回生産限定版である。

 「この部屋はいったい・・・・・!?」

 「ここは、わが校のSSU専用魔術訓練兼戦術研究室さ」

 「別名娯楽ルームともいいますけどね」

 「ま~ま~太田君~」

 「細かいことは気にしないのよ!」

 入った瞬間にメリッサ、ユースケ、アリスの脳裏をよぎった娯楽ルームというワードはどうやら的を得ていたらしい。

 「にしてもまあ、こんな量、どうやったんですか?俺も多少そういう系の心得がありますけど・・・」

 ユースケのいいたいことは全員が分かっていた。これだけの量のモノをどうやって、というよりかはモノがどうしてここにあるのかということであった。

 「ああ、それは簡単さ。SSU予算で買ったんだよ」

 「よく許されましたね」

 メリッサのいうことももっともだ。

 「ファーストゼータダブルゼータ逆シャアF91Vオリジン・・・・・・・」

 先ほどからおいてあるDVD及びBDを注視していたアリスがそこにおいてあったタイトルを読み上げていた。ちなみにそのほか初代愛おぼⅡプラス7ゼロFΔなども備えてある。

 「よく見たらこのマンガコーナーも・・・・・・」

 DVD・BDの各種コミカライズ、ノベライズ作品からバトルモノは一通り取り揃えてあった。

 「さっき僕は言っただろう?ここはSSU専用の魔術訓練兼戦術研究室ってね」

 「つまりそういうこと・・・・?」

 「ま、そういうことだな!」

 ようやく会話に入ってきたカイトは今まで何をしていたかというとあの短い時間でMGのジェ○ンを完成させていた。

 「さすが見事なお手前で」

 「いやあそれほどでもあるがな」

 いったいあの短時間でどうやったらMGを組み立てられるのか、メリッサたちには不思議でならなかった。

 「いったいどうやったんですか?」

 「説明するよりも、見せてもらったほうが早いぞ」

 「あれは私も驚いわね~」

 いったい何が始まるというのか。

 「アリス、これでやってみろ。何回か教えたはずだからできるはずだ」

 そういってカイトがセレクトしたのは、おそらく日本人なら国民のほぼ全員、海外でもその筋の人なら知らない人はいないといわれるほどの有名な機体。白地に胴体部分が青色の、V字アンテナにツインアンテナが特徴のあの機体であった。

 「わかった。やってみる!」

 口調はいつもと変わらないが、普段よりも気合が入っていることはメリッサとユースケに分かった。

 この世界の魔術の基礎である、物体浮遊術。それにより、箱のふたが開けられる。

 そこからの応用で、まるでCMでも見ているかのように各袋やパーツが切り取られていく。

 そしてそこから、機体のフレームが構成され、一応は人の形になってきた

 「ここからが見ものだぞ」 「

 ところで皆さんは、ガ○プラのCMを見たことがあるだろうか。

 ファーストの白いやつがどんどん組みあがっていくアレである。

 今まさに!!それがリアルに目の前で起こっているのだ!!!!!!!!            」

 「感動してるところなんですけど地の文のふりをわざわざしないでください」

 「あ、ほんとだ!」

 「正しい原稿用紙の使い方を無視していたから騙されるところだった!」

 カイトの変な茶々が入りつつも、その場には、見事に完成された連邦の白いヤツがそびえたっていた。

 「すごいっすねぇ」

 「ええほんと・・・・」

 「まあこのように、SSUのメンバーであれば、基本的に校舎の開いている時間であればいつでもこの場所を利用できる!」

 「「おお!」」

 「ただし!」

 ずびしっ!というマンガ表現が聞こえてくるくらい、エイタローは強く人差し指を立てた。

 そしてその指は、部屋の中の、とある張り紙へと向けられていった。

 その張り紙には、こう書いてあった。

 「作品は手を触れずに読むこと」

 「What's?」

 「どういうことですか?」

 首をかしげるメリッサとユースケ。これはあれか、とんち的な何かなのだろうか。

 「おいおい、さっきエイタローが言っただろ?ここは、SSU専用()()()()兼戦術研究室ってな」

 「つまりこういうこと」

 アリスが、先ほどガン○ラを組み立てたのと同じ要領で、器用に本棚から一冊を取る(ちなみに取り出したのは鉄のライ○バレル第1巻である)。そして、これまた器用に魔術によってページをめくって見せるのであった。その様子はどこか魔女が開く魔道書っぽく見えた。

 「「なるほど」」

 「ま、こんな日常レベルで魔術を使いこなせるようになれば、いざ戦闘って時にも自然と魔術が使えるんだよ。意外と多いんだぜ?初陣で何もできなかったやつは」

 教師であるカイトが言うからには事実なのだろう。実際、後にメリッサたちが現役の魔術師に聞いたところ、大半が初陣は何もできなかったと語っていた。

 「まあSSUの施設はこんなところだ。ほかに何か聞きたいことはあるか?」

 「あ、じゃあ1つ」

 そういって手を挙げたのはユースケだった。

 「普段の訓練ってどんな感じなんですか?」

 「あんたそういうところマメよねえ」

 ユースケのいったことはもっともなことであり、事実今まで誰も訓練の話に触れていなかった。

 「あー、そのことなんだが・・・・・」

 割と物事をはっきりいうタイプのカイトが口を濁した。同様に上級生もやや微妙な反応をしている。

 「そこだけなのよねえ・・・・・」

 「そこだけなんだなあ・・・・・」

 「なのよね~」

 「どうゆうこと?」

 アリスが首をかしげる。もっとも、そのセリフはメリッサ、ユースケにとっても同じものだが。

 「つまりだな、・・・・・・・・・・・・・・・というわけだ」

 「はあなるほど・・・」

 「つまり・・・」

 「訓練内容だけ意見が対立してる」

 というわけらしい。どうやら、かれこれ1週間はこれだけ意見が対立しているらしい。

 もちろん、かといって仲が悪いということでは決してないのは、一連とやり取りを見続けている3人にも分かることであった。

 「まあ1年坊の俺たちがこれからの訓練の内容に口を出すのは道理が通らないですからねえ」

 「そうね。ここは先輩方と先生の判断に任せます」

 ユースケとメリッサは判断をゆだねた一方で、アリスが何やら本を物色して一冊取り出していた、

 「ならこれで決めればいい」

 アリスが取り出したのは食○のソーマ。研究用といいつつ料理マンガが棚にあったことには誰も一切追及しなかったが、この作品の特徴といえば・・・・・

 「まさか・・・・・」

 食○のソーマといえばアレである。

 「「まさか・・・・・・」」

 口には出さず、ほんわかな雰囲気を崩してはいないが安ノ原紗代も内心ではまさかと思っていた。

 「なるほどなあ。アリス、確かにこれはいい考えかもしれん」

 愛しの保護者にほめられたからか、ちょっとだけアリスは頬が緩んだ。

 「4対1でも俺はかまわんが、お前らはどうだ?」

 カイトが不敵に笑いながらそう告げる。

 上級生にはその自信の根拠が分からなかったが先日のアレを経験していた1年生はそのことを思い出して苦笑していた(アリスは表情を変えなかったが)。

 「私は~別にいいわよ~」

 「1対4ってあたしたちのことなめすぎなんじゃないですか?」

 「俺は構いませんよ」

 上級生の相談はパッパと決まる。物事の即断即決は戦場においても重要なもので、これらは日ごろの訓練によるものだ。

 「じゃそういうことでお受けしましょう」

 「よし決まりだな!早速アリーナに移動するぞ!」

 「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

 「え、使用許可は?」

 エイタローのツッコミはむなしく散った。

 ちなみに使用許可はあらかじめ取ってあったようだ。


 場所は変わってここはルリアーノアカデミー大アリーナ。

 校舎のすぐそばにあり、天井は開けていて機龍同士のドッグファイトを行っても余裕があるほどの広さを誇り、また備え付けの観客席は超強化ガラスで覆われており激しい戦闘であってもしっかりと観客を保護することができる。

 普段は使用許可を取れば学園関係者であれば誰でも使用可能であるほか、隣の小アリーナでは手狭な実戦訓練や、毎年開催される学園祭でのエキシビショントーナメントなどの各種イベントの会場として使用される。

 メリッサ、ユースケ、アリスの1年生3人はそんな施設の観客席に座っていた。

 「いやあ最初の施設見学のときも思いましたけど、やっぱ広いですね~」

 「そうねぇ、東京ドーム何個分くらいの面積かしら」

 なぜ日本人は(メリッサはほぼ純粋なイギリス人の血を引くが)面積の広い建造物を東京ドーム何個分でカウントしたがるのか。

 そのまましばらくしていると、格納庫につながる通路へと行くことができるエレベーターが起動し、メリッサたちから見て右側から4機の「ADW-103 ジークフリート」が出てきた

 4機のジークフリートはそれぞれデフォルトカラーのグレーに鉢巻のように頭部にそれぞれ青、黄、オレンジ、黒のラインが入っていた。

 誰がどの色なのかというと・・・・・

 「えっと確か青がエイタロー先輩で・・・・」

 「黄色が安ノ原先輩のはずよ」

 「オレンジが恵先輩で黒が太田先輩」

 とのことである。

 また、よく見てみると武装もそれぞれ違っており、エイタロー機はほぼデフォルトのまんまでランスを、恵機も同様に武装はほぼデフォルトでこちらはハンマーを装備している。

 また、太田機は両肩に六連装ミサイルポッドが増設され、代わりに本来の装備であるランスorハンマーが装備されていない。紗代機にいたっては、近接武器の一切を装備しておらず(といっても脚部ナイフぐらいは装備しているだろうが)、通常のアサルトライフルの代わりに対ドラゴン用特殊弾装備専用スナイパーライフルを装備(もちろん頭部にセンサーを増設)している。

 「あれ?確か基本装備以外の装備を使うのって・・・・・」

 メリッサが疑問を口にする。

 実は、手持ち武器であるランスorハンマー、アサルトライフル以外を主装備にする場合は、本社のテストに合格しなければいけないのである(太田機のミサイルポッドは基本仕様のひとつであるのでテストの必要は無い)。

 「そういえば、恵センパイが言ってましたね。安ノ原先輩は戦闘のときはすごいって」

 「ライバル・・・・・」

 ボソッとアリスが呟いた。そういえば先日の授業でシミュレーターで同じ装備を使用していた。

 よく行動を共にするメリッサとユースケから見てもあまり表情が変化しない(もっとも初めてカイトと出会ったときのあのデレ顔ははっきりと覚えている)が、同じ戦闘スタイルの紗代には何かしら思うところがあったようだった。

 少し遅れて、メリッサたちから見て左側から1機の「ADW-101 TAWARA」が出てきた。

 「あれ、先生の機体ってあんな色でしたっけ?」

 ユースケが発した疑問のとおり、以前見たときとはややカラーリングが異なっていた。

 具体的に言うなら

 「サ○ビー的赤色からアイ○ンマン的赤色になった」

 「解説ありがとうアリス」

 ということらしい。

 後から聞いた話によれば、曰く

 「さすがにあの色は派手すぎるからアウトだとよ。だから譲歩してあの色にしてもらったんだ」

 とのことである。なお、所持している武器は前回同様ソード1本のみであった。

 ともあれ、これで舞台が整ったところでアリスから2人にあるものが手渡された。

 「あとこれ」

 「「これは?」」

 なんだかどこかで見たことがあるようなデザインの物体だがこれはもしや・・・・

 「小型の通信機。これであっちの通信が聞こえる」

 本来機龍同士の通信にこのような機材は必要ないが、3人のためにカイトが用意したものだった。あらかじめ、周波数は機龍のそれに合わせてある。

 装着してみると早速音声が聞こえてきた。

 「よーし準備できたな?んじゃ、改めてルールの確認といこうか」

 「4対1で、どちらかが全滅したら決着ってことでしたよね?」

 エイタローが言ったルールからは相変わらず誰がどう聞いてもカイト不利にしか聞こえない。

 「しかも、基本致命的なダメージを与えない限りは何でもアリってことでしたよね」

 さらに恵が言ったルールからはよりカイトが不利に聞こえる。

 ユースケとメリッサもそうだが対峙する4人にもカイトの自信の根拠が分からなかった。

 「そうだ。あ、空中戦はこのアリーナの屋根部分までな」

 一個のアリーナは客席の部分までは屋根がついており、フィールドの部分は開けている。

 そこから先はドーム状に学園を覆っている透明な天井があるが、さすがにアリーナの上空に出ての戦闘はイベントなどの開催がない限りは許可されない。

 「よーし、じゃあ1年、開始の合図をしろ」

 「ええっ!そう言われても・・・・」

 「どうする?」

 「こうしよう」

 いきなり指名されて困り果てたメリッサとユースケに対してアリスは言うと、ポケットから日本の5円硬貨を取り出していた。

 「「ああ、なるほど」」

 硬貨が出てきたところで2人にもアリスの意図が伝わり、ユースケがコインを投げることとなった。

 「それじゃいきますよー!」

 下手投げでユースケが勢いよく硬貨を上へ放り投げた。

 フィールドの2,3年生とカイトからはだいぶ距離があったが、機龍のカメラは優秀でその場からでも問題なく効果を捉えることができた。

 高々と上がった硬貨は最高点に到達したところで徐々に落下を始める。

 落下まで、3・・・・2・・・・1・・・・

 「全機、行動開始!」

 「「「了解!」」」

 「さあかかって来い!」

 

 ここは、ルリアーノアカデミー教室棟屋上。

 ここは基本開放されており、昼休みともなれば屋上で昼食を、という学生であふれたりするのだが、今この時間は一人の男(だが制服を着ているので学生である)しかいなかった。

 「風が吹いている・・・・・・戦いの、風が・・・・・・・・フッ」

 男は右手を額に当ててそう言うとそのままその場所から立ち去った。

 ちなみにその男、指先にまで包帯をぐるぐる巻きにして、さらにカイトのものとはまた違った理由だろうが眼帯を右目に装着していた。

 たまたま姿を見かけた女子生徒たちから、「ええ・・・・」「あれ何?」という声が聞こえてきたのも気のせいではない。


 キーンと音がして硬貨が地面に落ちるのとほぼ同時に、先に動いたのはエイタローら2,3年生のほうだった。

 開始と同時に太田機がミサイルを全弾発射、カイト機の前に弾幕を張る。

 カイトは機体が旧式ゆえか、はたまたわざとなのかは分からないが、12発のうち11発を回避し、残り一発をナイフ1本をファングのごとく飛ばして迎撃した。

 「あれを回避するんですか!?」

 「ほんと先生には驚かされるわねぇ」

 ユースケとメリッサはミサイルの全弾回避に驚いていたが、2,3年生とアリスにとっては想定の範囲内である。

 もちろんエイタローたちがこれを見逃すはずもなく、その隙を突いてエイタロー機と恵機が接近、ひとつ間違えば互いが衝突してはじけてしまうところを絶妙なコンビネーションでカイトに反撃の糸口を見出させない。

 ならば上空はとも考えるも、そこには紗代機の狙撃の可能性があり断念。

 結果として開始数分間の間は、カイトは防戦に徹さざるを得なかった。

 「さすが教師ってことか。うまいな」

 エイタローと恵の支援をしている陽一がぼそっと呟いた。

 カイトもただ防戦しているのではなく、エイタロー機と恵機の2機を自身をけん制してくる太田機、紗代機の間に置くことで彼らの射線をさえぎりながら戦っているのであった。

 「やっぱ1年とは同じようにはいかないか」

 そう呟くとカイトは絶妙な連携で突き、振り回されるエイタロー機のランスと恵機のハンマーのうち、恵機のハンマーを振り下ろされる直前の、自機の全高よりもやや高い位置にあるところでそれをつかんだ。

 「あ、あれ!?」

 「恵ちゃん、気をつけて!」

 一連の動きに戸惑って重心が高くなっていることを間髪入れて足をはらい、そのまま勢いよく反時計回りに回転させた。

 そしてちょうど回転が90度になったところで、一直線上にいたエイタロー機めがけて蹴り飛ばしたのであった。

 「な、なんという・・・・・」

 「え、えげつない・・・・・」

 2.3年生は先ほどの動きに驚きの色を隠せなかったが、一方で1年生はというと・・・・・

 「え、今のが紗代先輩の声なんすか!?」

 「部屋のときとぜんぜん違う!」

 といった具合に紗代のことでもりあがっていた。

 それはさておき、4人の連携を防ぐどころか反撃までしてきたカイトの技量はさすがの2,3年生でも予想の範疇を超えており、大幅な作戦変更が求められた。

 「どうします?エイタローセンパイ。俺正直勝てる気がしないです」

 「男のアンタがそんな弱音はいてどうすんのよ!」

 「そういう君は攻撃を受けたはずなのに元気だよね?」

 小美玉恵は、実はルリアーノアカデミーはおろかその他の学園の生徒全員を合わせた中でも1,2を争うほどなぜか体が頑丈である。

 「さーてこれで終わりか?ならこっちからいくぞ」

 そう言った後、カイトは観客席で観戦しているメリッサ、ユースケ、アリスのほうを指差した。

 「特に1年、今から面白いものを見せてやるからよ~く見とけよ!」

 「「は、はい!」」

 「わかった」

そう言うと、カイトは2,3年生の前へと歩き、ガイナ立ちを決めた。

 「さあよ~く見てろよ!ハイさ~んにーいーち!」 

 「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 その瞬間、カイトの駆る機龍の姿が、消えた。

 比喩でもなんでもなく、本当に消えたのである。

 「これは一体どういうことなんだ・・・・うわっ!」

 驚くまもなく、まずエイタロー機が撃破判定を受ける。

 「ちょっとセンパ―――」

 声を掛けようとした隙に恵機も攻撃を受け、そのまま撃破された。

 「動いて太田君!動かなきゃやられるわよ!」

 「りょ、了解!」

 さすがに2機も同時にやられれば、その間には冷静さは取り戻す。冷静さを取り戻した紗代の指示によって太田機はとにかく動き回ることにした。

 当然ではあるが、この時点ですでに紗代機も動き回っていた。

 (姿が見えないということは、光学迷彩?いえ、機龍の、ましてや初期型のTAWARAなら、そんなものは積めないはず・・・・・・・)

 これはあくまで噂だが、現在開発中とされている新型「ADW-104」は、光学迷彩がオプションで装備可能だという。

 もっとも、今現在カイトが行っているのは光学迷彩とかそんなレベルではない。文字通り「見えない」のだ(この世界の科学水準では光学迷彩といってもある程度近づけば分かる)。

 「太田君、そっちから先生の位置は確認できる?」

 「無理ですね。あの教師、旧式の機体のくせしてステルス搭載してますよ」

 つまりレーダーではほぼ探知不可能ということだ。これでは打つ手がない。

 「はっはっはっ!どうだこのパーフェクトステルスは!」

 そしてどこからともなく声が聞こえてくる。もちろん音源は確かめようもない。

 こうして、わけが分からないまま2,3年生は全員撃破されてしまった。

 

 場所は再びSSU作戦室。

 そこでは、いつ撮ったのか分からないが先ほどの戦闘の映像がモニターに映っており、その前でカイトが教師らしく全員に教鞭をとっていた。

 「さてさて、先ほどの結果はみなも知るところだが、ではなぜこうなってしまったのか答えてみましょう。ハイ、エイタロー君!」

 突然の指名ながらも、立場もあってかエイタローは落ち着いて答えた。

 「ええと、まず第一に、僕たちが先生の実力を完全に見誤っていたということが原因ですね」 

 「うん、そうだな。授業でやった1年10人相手にするよりは俺もさすがにてこずったが」

 メリッサ、ユースケ、アリスの脳裏にあのときの出来事がよみがえる。

 現状戦闘力はあのときの1年生10人<SSUの2,3年生4人ということである。

 「そういや思ったんですけど・・・・」

 そうおそるおそる手を挙げながら発言したのはユースケだった。

 「先生途中で姿が完全に見えなくなったじゃないですか。あれ、何やったんですか?」

 この場にいる生徒全員が「それは確かに」というような表情だった。

 比較的実戦経験をつんでいるエイタローと紗代でも、あんなことは見たことも聞いたこともなかった。

 「ああ、あれか。あれはだな・・・・・」

 そういって、カイトはそばにあったホワイトボードになにやら図を描き始めた。

 「まず、人がなぜ物体を見ることができるか、というところから話さにゃならん。何でだか分かるか、小美玉?」

 「ええと・・・・・・アハハハハ・・・・」

 恵の頭は大分弱いほうと見えた。

 「はぁ、じゃあ太田、分かるか?」

 「確か、光が反射するからですよね」

 一方、陽一のほうはそこそこいいらしい。

 「そうだ。基本空気中では、光が物体に当たって反射し、反射した光がこの眼に一直線に入ってくることでものが見えているんだ」

 カイトが指で自分の目を指す。つられて何人かも指で自分の目を指していた。

 「じゃあ俺が見えなくなるようにするにはどうするか。簡単な話だ。光が俺に当たらないよう曲げてやればいい」

 「「「「「光を曲げるぅ!?」」」」」

 紗代とアリス以外の、全員の声が作戦室にこだました。どうやら2人には技の正体の見当ある程度ついているらしい

 「何も~難しいことじゃ~ないわよ~」

 「日本であれば中学校で習う」

 ・・・・・・・・・・・・・・!

 「「「「あっ!」」」」

 「えっ?」

 「そうか!確かにそうだ!」

 「確かにやりましたね!」

 「危うく忘れてるところだったわ・・・・」

 「えっ?何のこと?」

 「お前なぁ、中学校のとき習っただろうが」

 メンバーのほとんどが気づいた一方で、恵だけはそれが分からなかった。

 が、後でちゃんと陽一に解説しなおしてもらったとのことである。

 「そういうことだ。中学校では、空気中から水を通るときや、レンズで曲げてたが、俺は周囲の空気の密度変えることでこれをやっている。そうだなぁ、お前らに分かりやすく言うなら・・・・・」

 「インビジブル・エア」

 アリスの分かりやすい例に、なるほど、という言葉が全員から聞こえた。

 「いやあでもすごいですよね。姿が見えないんですもん。無敵じゃないすか」

 「んなわけあるか」

 ユースケに対して、カイトは言う。

 だがユースケの言うとおり、姿が見えないことはかなりのアドバンテージに見えるのだが・・・・・

 「さっき言っただろ?人が物体を見ることができるのは光が一直線に反射するからだって。だが、この技は相手から姿が見えなくなる、ということはだ。」

 「ということは?」

 ちょっと間をおいたらごくりという音が聞こえてきそうだったが続ける。

 「俺からもあの時、お前たちの姿が見えなかったんだよ」

 「「「「「「ええぇ~~~~!」」」」」」

 「まあ当然」

 相変わらず、アリスだけはカイトが何を言っても驚かない。

 それはさておき、では見えないというのなら、あの時一体どのようにして接近、攻撃をしたというのか。

 「一体どうやってこちらを察知したんですか?」

 当然、誰だって尋ねる。ここで尋ねたのはエイタローだった。

 「そりゃあれだ、気配」

 それに対してのカイトの返答は、あっさりとしていた。

 「そりゃないですよ~」

 「しょうがねえだろ、そうとしか言いようがねえんだから」

 つまるところ、この技もカイト以外には使えなさそうなのである。

 「あとあれだな。お前ら、空戦苦手だろ?」

 ドキッ!

 という声だか音だかが聞こえた気がしないでもないが、カイトの発言はどうやら図星だったらしい。

 「いやあ、それは・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「ア、アハハハハハハハ・・・・」

 「そんなこと~ないですよよよよよよよ」

 全員、露骨に目を逸らしたり、明らかに動揺したりしている。

 「はあ、まったく・・・・・。これからは、2,3年はそこらへんを重点的にビシバシやってやる。いいな!?」

 「「「「・・・・・・・・・・・はい」」」」

 最後のカイトのセリフは、文句は言わせんとばかりの迫力に満ちていた、とその場にいた1年生ズは後に語っている。

 だが、彼らが受けたカイトの指導が実を結ぶのは、思ったよりも遠くはなかったのであった。


                                                                                        つづく


申し訳ありません。ボーダーをブレイクしたりエースになってコンバットしてたら遅くなりました。

次回もあげる予定です。

ぜひともよろしくお願いします。

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