不吉な予感
「神奈子、頼みがある。」
退院してすぐに龍二は守矢神社に戻り、神奈子にそう言う。
「なんだい?急に…」
「弾幕の修行に付き合ってくれ。」
神奈子は考えたが頷かなかった。
「…鍛えてくれるんじゃなかったのか?」
「確かに言ったわね。だけど退院してすぐにやらせる程私は馬鹿じゃない。」
「今すぐに始めないと、間に合わないかもしれない。」
「………仕方ないわね。」
神奈子はそう言い立ち上がる。
「やってあげるわよ。表でな。」
神社の外に出ると神奈子は宙に浮く。
すると、まるで戦隊物の合体シーンのようにオンバシラが4本飛んできて神奈子と合体する。
「こっちの準備は出来たわ。いつでも来なさい。」
龍二は青龍剣を持って宙に浮く。
「なら、お言葉に甘えて……ハアッ!!」
青龍剣を大きく振り、せこから弾幕を放つ。神奈子も彼の弾幕を避けながら弾幕を撃ち始めた。龍二はスペルカードを取り出す。
「【色彩:百華繚乱】……」
龍二はそう言い、青龍剣を大きく振り上げようとしたその時―
「ぐっ…!?」
体が言うことを聞かない。神奈子はすぐに気づく。
「龍二!?」
「!?」
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「くっ……」
弾幕は避けたが、身体がなかなか言うことを聞かない。
一先ず龍二は地面に着地した。
「やっぱりやめた方が良いんじゃない?」
龍二に近づいて神奈子はそう言った。
「大丈夫だ…問題ない。」
龍二がそう言うと、神奈子は横を向いてため息をついた。
「あのねぇ―――」
「早くしないと…間に合わないかもしれない……」
「………早苗から話は聞いてるよ。」
「なら、わかるだろ?」
「ああ、わかるよ。だから今日はやめる。」
「…何故だ?」
龍二は立ち上がり、神奈子に聞く。
「アンタが急かす気持ちもわからなくもない。けど、焦ったところでなにかが変わるわけじゃない。むしろそういうのは後で大変なことになる。だから―――」
「今から力をつけとかないといけないんだ!」
「最後まで聞きなさい。いい?いくら妖力を持っているとはいえ、結局はアンタは人間なの。人間一人じゃああいつに勝てない。それは力をつけても。闘うときは私達も一緒に闘う。だから………無理はするな。」
「…………。」
「とりあえず、今日はやめるわよ。」
そう言うと、神社に戻って行く神奈子。龍二もしばらくしてから戻った。
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「…………」
「そんなにぶすくれなくても良いんじゃない?」
夜、自室で仰向けで天井を見ていると早苗が入ってきた。
「別に、ぶすくれてるつもりじゃない。ただ、いつになったら始まるのか、それが間に合うのか、気になってるだけだ。」
「そっか……あの人、龍二の昔の友達なんだっけ?」
早苗の質問に龍二は頷く。
「そっか……龍二でも歯がたたないなんて…」
「早苗は俺の何を知ってる?」
「え?」
「あ、いや……俺の外の世界の活動について、だ。」
「龍二の……そうだなあ東京タワーについてかな?」
(東京タワーか…よりによって何故……いや、1番有名らしいのはあれか。)
龍二はそう思った。
龍二が中学生の頃、黒羽…つまり射命丸文の同僚の天狗達が東京で異変を起こしたことがある。
その天狗達をまとめていたのが東條雪菜だった。
その異変の決着は東京タワーで行われた。
「俺はその時、文達のサポートとして行ったが、結局何の役にも立たなく、それどころか迷惑をかけたんだ。アンタが思ってるほど、俺は強くない………」
そこまで言うと龍二は冷や汗をかいていた。
「大丈夫?すっごい疲れてるみたいだけど…」
早苗は心配そうに聞くが龍二は首を横に振る。
「いや、大丈夫だ……」
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「そっか……でも、無理はしないでね?」
「ああ。大丈夫……」
早苗が部屋に戻ったあと、再びねっころがり考え始める。
(疑問に思うのは、俺が休んでる間勇樹が何故攻撃しに来なかったのか。早苗に聞いたならいつでもこの神社に来てもおかしくない…なら、他に何か考えがあるのか?)「………嫌な予感がする……」
自室で一人、そう呟いた。
「あいつはどうだった?」
居間に戻った早苗に、神奈子はそう聞いた。
「大丈夫です。だいぶ落ち着いてるようでしたよ。」
「そうか…」
「ただ………」
「ん?」
「ただ、外の世界のことを話してるときは、様子が変だったような…」
早苗は心配そうに告げる。神奈子も気にかかったようだ。
「外の世界か…あいつは活躍してたんじゃないか?」
「はい。少なくとも表では。ただ裏では何か真実があるみたいです………」
「そこに実際にいた者にだけわかる真実か………」
神奈子はそう言い小さなため息をつく。
未だ早苗は心配そうな表情で、
「大丈夫かな…」
そう言った。
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数日後、龍二は再び神奈子に頼む。
「十分日にちは経った。もう良いだろ。」
「…………仕方ないねぇ。」
神奈子はそう言う。そして、人差し指だけ立てて龍二に言う。
「ただし、条件が一つある。お前さんの前の出来事、全て教えてくれないかい?」
「…それは出来ない。」
「なら、お前さんを鍛えない。過去の事がわからなければ、理由がないも同然だ。」
「理由なら、勇樹を止めるっていう理由が―」
「本当にそれだけか?」
すぐさま神奈子は龍二に聞き返す。龍二はそれには答えず目を細め神奈子に聞いた。
「…何が言いたい?」
「あんたの目からは誰かを止めるっていう気持ちだけじゃなく誰かを倒すっていう気持ちも伝わる。この際だから全て吐いちまいな。」
「断る、アンタには関係ない話だ。」
龍二がそう言うと神奈子はため息をつく。
「関係なくないんだけどねぇ……そんなに話すのが嫌かい?」
「少なくとも、この世界にいる人にはな。」
「差別かい?それは酷いね。」
「仕方ないだろ。これ以上は知られたくないんだ。いや、俺の口からは知られたくない。」
「?」
すると外から大きな声がする。
「号外だよー!幻想郷一早くて確かな真実の泉『文々。新聞』の号外だよー!」
(やっぱりやりやがったか…)
龍二がそう思ってる間にその声はどこか遠くへ行き、早苗が部屋に入ってきた。
「号外らしいですよ。」
「どれ……『外の世界に逃げた天狗捕まる』だって?」
(いつの話を書いてるんだあいつは……?)
「えっと……それに『氷の妖精溶けかける』、『外来人の人口増える』、『外の世界の異変解決者幻想入り』……この記事はアンタのことだね。写真も似てるし。」
「写真?あいつ、いつの間にこんなもの……」
その写真にはまだ中学生だった龍二がしっかりと写っていた。
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「ホントだ!懐かしい!」
と、何故か早苗は喜んでいる。
「外の異変解決者って……」
「そのままの意味だ。まあ、無理矢理付き合わされただけなんだよな。俺は最初あいつの部下とやってて、本来あいつと部下が合流したら俺はそこで終わるはずだったんだが………」
「合流しても、付き合わされたってことね。」
「まあ……そういうことだ。」
龍二はそう言いため息をつく。
「まあそれは後にして、早くやりたいんだが……」
「まだ理由を聞いてない。」
「だからそれは……」
その時、再び神社の外から大きな音がする。
三人一斉に神社の外へ出た。
「何、今の!?」
と、すぐに諏訪子も外に出てくる。
外には勇樹が一人だけいた。彼は龍二を見るとにぃと笑みを浮かべて
「遊びに来たぜ藤崎ぃぃぃぃぃぃ!!!」
と叫びながら剣を構え突っ込んでくる。
龍二も青龍剣を持ち向かってくる勇樹の剣を押さえた。
「どうだ?少しは強くなったか?」
「生憎、アンタのせいで入院してたんでね…………全くなってねえよ!」
そう言い押しだす龍二から勇樹は少しだけ退いて、刀を地面に刺す。
勇樹の周りに炎がまかれた。
「チッ……まあいいや。お前はその程度の人間だったってことか…そろそろ待つのも飽きたし。」
そう言い龍二の方へ火柱を走らせる。
近くにいた三人は避けて、龍二はその火柱の弾幕に対抗するように弾幕を飛ばした。
「めんどくさい。」
「なら、帰れ。無理にアンタと戦いたくない。」
弾幕が相殺したあと、龍二がそう言うと勇樹は呆れた。
「あのさあ……お前はいつからそんな甘いやつになった?」
「昔から俺は無駄な戦いは避けるタイプだ。」
「ハッ、そんなこと思っていたなら……」
その刹那、目の前に勇樹の姿は消え、早苗の方から声がした。
「ちょっと借りる。」
「え!?」
向くとそこには勇樹と何故かお姫様抱っこされている早苗がいた。勇樹は龍二の方を向いて告げる。
「なら、こいつは人質だ。明日の早朝にでも来い。」
「来いって……」
「無名の丘、いわゆる【獄蝶の崖】だ。」
それだけ言うと勇樹は飛んで行った。
「待て!」
龍二が追おうとすると、後ろから止められる。
「とりあえず作戦会議よ。」
神奈子がそう言った。
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「獄蝶の崖ね……確か、あそこで繰り広げられた弾幕ごっこを見た妖怪が名付けたとか、誰かが言ってたわね……」
早苗が連れ去られ、少し経ったとき、しばらく黙っていた三人だが諏訪子がここでようやく話す。
「勇樹って人の狙いって――」
「きっと俺だ。」
諏訪子の話に真っ先に突っ込んだのは龍二だった。
「恨みがあるから俺を狙った。けど、俺が闘いを拒んだ。だから早苗が連れ去られた………すまない。」
今日の出来事を簡潔に話し、二人に謝った。
神奈子の手は震えており、とうとうためていたものが抑えきれなくなった。
「いい加減にしな!」
机をどんっ!と拳で叩き、龍二の服の襟を掴む。
「早苗はなぁ、外の世界でアンタを見て、アンタに憧れてたんだ!ヒーローのような存在のアンタが、そんな弱腰で良いのかい!?早苗が憧れていたのは、ただの幻だったっていうのか!?」
「俺はヒーローなんかじゃない……ただの落ちこぼれだ。」
それを聞くと神奈子は大きくため息をつき、龍二をどんっと倒す。
「確かに、そんなんじゃただの落ちこぼれね。良いわ、アンタがそんな弱腰なやつだったなんて………がっかりした。」
そう言い外に出ようとする神奈子を、諏訪子は聞く。
「どこに行くの?」
「決まってるでしょ。…………早苗を取り返す。」
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神奈子が出てから少し経つ。
ふと、諏訪子が龍二に話しかけてきた。
「そういえば……早苗が幻想入りしたときは、もっと龍二のことを尊敬してたなあ……」
「………」
「私達は、幻想入りして信仰を集める為に博麗神社を奪おうとしたの。その時早苗は博麗の巫女にやられて、私達のその計画も失敗。けど、早苗はめげなかった。その理由も龍二にあるんだよ。」
「俺に……?」
今まで別の方向を向いてた視線を諏訪子へと変える。
「龍二って負けても諦めずに再挑戦したことあるらしいね。」
「………一度だけな。」
「その場面を早苗は見たことがあるの。だから、藤崎龍二みたいに仲間の為に諦めない、頑張り続けるって。」
しばらくして、龍二は諏訪子に聞く。
「…………なあ、諏訪子。」
「んー?」
「俺は闘うたび、何かを傷つけていた…………そんな俺に、何かを守ることは出来ていたのかな………」
「さあね。けど、守るっていうのは一人が一方的にするんじゃなくて、互いにするものだと思う。大丈夫だよ、私達も協力する。だからさ…行こ?」
立ち上がり、最後にそう言う諏訪子をじっと見て、龍二も立ち上がった。
「…ああ。」