黒い翼をもつ少女
「退屈だ……」
翌日、龍二は永遠亭の病室にいた。
永遠亭は、診療所でもあるが迷いの竹林の中にある為、行くには永琳亭の者か、案内人に頼んで案内してもらうしかない。
横を見ると模様のある紙に包まれた箱があった。
「ん?なんだこれ…?」
「それは先程来ましたお見舞いの方が置いていったものですよ。」
「見舞い?っと、あんた確かあの女の人の…」
「鈴仙・優曇華院・イナバです。よくうどんげって呼ばれますが本名は『鈴仙』ですからね。」
「そうか。で、結局なんて呼べば良い?」
「うどんげで大丈夫です。」
「そうか……で、見舞いの客ってどんな人だった?」
龍二は鈴仙に聞く。
「東風谷さんです。そこまで長居はしてませんでしたが……知り合いのなんですね。」
「まあ…今は居候させてもらってるからな。」
「居候ですか……」
成る程…と、鈴仙は呟く。
その時、外から誰かが近づく音がして鈴仙のすぐ後ろの襖が開いた。
来た客は霊夢だ。左手に紙袋を持って堂々と入ってきた。
「噂を聞いてやって来てみたら……随分と情けない姿ね。」
龍二の姿を見てはそう言ってため息をつく。
「なかなか酷く言ってくれるな……」
「そう?………いつも通りよ。そうそう、これお見舞いに持ってきたわ。」
そう言って、紙袋から取り出したのは龍二の横にある箱と同じ模様の紙に包まれたものだ。
「椛饅頭よ。食べたことないでしょ?って、同じ物があるわね…」
「さっき東風谷さんが持ってきたんです。」
苦笑いで鈴仙は言う。そのあと龍二がため息をついて言った。
「持ってきてくれるのは嬉しいけどさ………普通さ、果物とか持ってくるんじゃないか?」
「貰う側なのに贅沢言わない!第一これが一番安いのよ。」
(だから早苗もか………)
「では、私はこれで………」
鈴仙が部屋から出たあと少し間があったが霊夢は龍二に聞いた。
「ひとつ、気になることがあるんだけど……」
「ん?」
「あんた、前に私に博麗霊夢だよな?って聞いたよね?」
「あ~確か、俺がここに来た日の翌日か。」
確認すると霊夢は頷きそして質問を続ける。
「あれの意味がわからないんだけど……あれは私を知っていたからかしら?」
「いや、俺はあんたのことを知らなかった。」
龍二はそう言うとふっとついて説明し始めた。
「俺の幼なじみに神野靈奈ってやつがいて、そいつがあんたによく似てるんだ。同一人物って思ってしまうくらないな。まあよく見てみたら髪の色が違うし、世界には似ている人物が2、3人いてもおかしくないってよく言うしな。」
「成る程ね……」
「まあ、見間違えたのは来る前にあんたと同じ服をしていたからな。」
(多分、私のコスプレね……)
霊夢はそう思う。
その時だ、ドタドタと急に走る音がしてその音は霊夢が入って来た襖で止まる。
その直後、襖はスパンっと高い音をたてて開いた。
「どうもー!!文々。新聞をさせて貰っています射命丸文でーす!!今日は貴方に取材を………」
その少女は何処かで見たことのある……いや、確実に会ったことのある人物だと龍二は思い、その少女に聞いた。
「お前……黒羽文だろ?」
「あややや…まさか龍二さんだったとは……」
「知り合いなの?」
二人の間にいる霊夢はそう聞いた。答えたのは龍二だ。
「中学生の時、こいつが黒羽文っていう名前で俺の学校に入学して来たんだ。」
「まあ…そういうことです。にしても龍二さん変わりましたねぇ。髪がますます青くなってますよ。」
「流石にこれ以上は青くならないだろ。」
「その髪元からじゃないの?」
さっきから質問ばかりの霊夢に龍二は答えた。
「最初は真っ黒だったんだが…丁度中学に入り始めたころからか?青くなりだしたんだ。文が来たときは紺色だったな…」
「卒業する時は青に近い…だいたい藍色か群青色辺りでしたね。」
「へぇ…ところでさあ。中学って何?」
「そこからか……」
「私が霊夢さんにもわかるよう教えましょう。」
【少女説明中…】
「へぇ…そんな物が外の世界にあるの……面倒臭そうね。」
「でも、結構楽しい所でしたよ?ね、龍二さん。」
「俺に振らないでくれ。元々いたやつは楽しいなんて普通考えないからな。」
文が同意を求めたが龍二はさらりとそう言った。
「さて、そろそろ本題に入りたいんですが…」
「勇樹についてか?」
薄々感づいてはいたようだ。龍二がそう聞くと文は頷く。
龍二は起き上がり、話しはじめた。
「勇樹は………あいつは小学生の頃俺とよく遊んでいた。近所も一緒で俺とあいつと靈奈は幼なじみだった。」
神崎勇樹……茶髪で黒いシャツを着ていた彼は小学生の頃は普通の少年だった。
ただ、周りに虐められてたこと以外は……
「勇樹にとって俺は唯一の友人だったらしい。けど、ある日俺とあいつは喧嘩してしまった。いじめっ子だった連中はそのことを上手く利用して俺とあいつを引き離し、勇樹は学校に居場所をなくして来なくなった。」
いや、おそらくこの時から―
龍二はそう思ったがまだ仮定の考えな為口には出さなかった。
龍二がそこまで言うと真っ先に文が反論した。
「それ全然龍二さん無関係じゃないですか!なんで龍二さんが恨まれなければいけないんですか!?」
「俺に聞かれてもな…でも、やられた奴っていうのはだいたいが黒幕と言われた奴を恨むんじゃないのか?そして、黒幕と言われたのが俺ってわけだ。」
「でも………」
「仕方ないことだ。俺が悪いことなんだし…それに俺自身、自分の無力さに腹がたっている。今も……俺はあいつに何も出来なかった。」
すると、先程まで黙って聞いていた霊夢が話しはじめる。
「別に、気にすることはないと思うわ。問題は、その先なんじゃないかしら?」
「その先………?」
霊夢は頷き、話を続ける。
「失敗しても次に活かせるような何かが必ずその失敗の中にある。まあ、見つからないなら少しぐらいなら手伝ってあげるわ。」
龍二はふっと笑って、
「有難う。」
そう言った。
「さ、そんなことより私お土産持って来たんです!!」
文が持っていた袋から取り出したのは…
「じゃじゃーん!!椛饅頭です!!」
「お前もか。」
思わずそう言う龍二。
文も龍二の近くにある自分と同じ箱を見て気付いた。
「安売りで売ってたの買ったからですかね…」
「お前もか。どんだけ安売りされてんだよ椛饅頭。」
「そう言わずに食べなさいよ。あ、私も食べて良い?貰える物は貰っておくわ。」
「良いけど……紅葉饅頭ってこんなんだっけか?」
「多分漢字間違ってますよ。」
早速食べながら文は言う。
「これまた可愛い顔がプリントされてるな…」
「あんたでも可愛いって思うことあるんだ。」
さりげなく酷いことを言った霊夢。
「え?酷くない?」
と、龍二は言ったが、
「さあどうかしらね?」
と、謎に包まれたかのように返されてしまった。
その後は、何気ないことや幻想郷について話をした。
「それじゃあそろそろ帰ろうかしら……」
「あ、私も帰るとします。」
いつの間にか夕方になっていたので、二人はそう言い立ち上がる。
「まあ、早く治すのよ。」
「龍二さん、お元気で。」
「ああ、またな。」
「―で、あんたはいつまでいるつもりなんだ?」
誰もいないはずの部屋で龍二はそう言う。
しかし、それはあくまでも見てみた場合のことであり、確かにそこには誰かがいる。
すると龍二の横に細い線が現れてその線はくぱあとスキマを開けた。
「あら?貴方厨二病なの?」
スキマからひょこっと出てきたのは紫だった。
龍二はため息をついて答える。
「言っただろ?妖気を感じることが出来るって。」
「そんなこと言ってたかしら?」
「言ってなかったか?まあ俺以外にも多分霊夢は気づいてただろうけど。あいつ妖怪退治が趣味みたいなもんだって言ってたし。」
「じゃああれは気づかなかったふり?」
「おそらく。」
「酷いわね……」
紫は口を3にする。苦笑いしながら龍二は言った。
「まあ…どうでも良かったんじゃないのか?」
「貴方も随分と毒舌を吐くわね。」
紫が扇子を龍二の頭上に向けるとそこにスキマが開いてコントでよく使われるタライが落ちてきた。
「いった!!」
「レディに酷いことを言った罰よ。」
「そ、そんなことより………なにか用があって来たんじゃないのか?」
「ちょっとね………東條雪菜について……」
紫が名前を言うと龍二の顔が一気に青ざめる。
その様子に紫はやはりと思い、それでも話を続けた。
「ちょっと前にこの場から外の世界へ逃げ出したの。東京に行っていたみたいだからもしかしたら何か知って―」
「それは……それは、俺があいつと関わったことがあるのを知っていて聞いてるのか?」
話の途中で龍二は紫に言う。自分を睨んでいるその目を紫は驚いた表情を作って見た。
「いいえ…知らなかったわ。」
「なら、言っておく………あいつの話はしないでくれ。特に今はな……傷口が開く。」
「でも、彼女はこの世界に…」
「あいつが幻想郷にいるのは知っている!!あいつの話はしないでくれ!!」
怒鳴るように龍二は言う。顔色が悪く汗が流れていた。
息を整えているときに紫は告げた。
「彼女は今再び復活しようとしている。必ず貴方は狙われるわよ。」
「構わない………今度こそ、あいつを殺してやる……」
紫は龍二が言ったその言葉が重く感じた。